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第三話 チャンピオン対決


 僕は今、冷房が効いた夜の暗い部屋の中、部屋のベッドの上で眠れずに考え事をしている。もうすぐ僕と山岸さんはザ・ファーストで試合を行うことになっている。

 

 山岸さんはザ・ファーストのウェルター級チャンピオンに輝いてから、二度タイトルを防衛している。一度目は昨年の十一月。二度目は今年の五月に。今ではザ・ファーストのウェルター級絶対王者。

 

 その山岸さんがあの的場和輝選手と戦う。だが今回はタイトルを懸けない五分三ラウンドのただのワンマッチ。契約体重は七七・一キロリミット。

 

 一方、僕も実は世界中の団体からライト級タイトルマッチの要望があった。だが、タイトルマッチは全て断っている。それはなぜかと言うと、タイトル保持者になってその団体に拘束されることが僕の肌に合わないと思ったからだ。その分、ただのワンマッチや年度ごとのグランプリのチャンピオンを決める試合や大会であれば、僕は喜んで出場オファーを受けるつもりだ。タイトルを保持せずグランプリのチャンピオンに二度輝いた僕に付いた異名は、「グランプリキング」や「真のライト級チャンピオン」といったもの。

 

 今回の大会はザ・ファースト初の日本開催。会場は格闘技の聖地、さいたまハイパーアリーナ。会場の規模は大晦日の鉄神と同じくアリーナモードの予定。最大収用人数は約二万三千人。よって今大会は大規模な大会と言えるだろう。大会開始時間は午後三時半。

 

 最終試合のメインイベントは「山岸さん」対「的場選手」の試合。今大会は的場選手が約三年ぶりに総合格闘技の舞台へ戻ってくる。そのため、今大会はとても注目を浴びている。肩や膝の怪我で戦線を離脱していた的場選手が、ついにファンの前に帰ってくるのだ。

 

 一方、僕の対戦相手はザ・ファーストの現ライト級チャンピオン、ブラジル人選手のセルジオ・ゴームズ選手。契約体重は七○・三キロリミット。ゴームズ選手は身長一七三センチ。カポエイラの使い手でありながら柔術の黒帯を持っている選手。正に立って良し寝て良しのトータルファイター。もちろん今回はタイトルは懸かっていない。だが、「グランプリチャンピオン」対「現タイトル保持者」ということで僕の試合も大きく注目を集めているのだ。

 

 今日は試合当日。もうすぐ僕の試合が始まる。今、僕は控え室で西田さんを相手にグラウンドでのサブミッション対策を行っている。

 

「よし、いいぞ。一成。その調子で、グラウンドでも積極的に行けよ」


 それらを一旦終えると西田さんが言った。

 

「はい。一本取りに行くつもりで行きます」

 

「スタンドでは相手に惑わされるな。カポエイラの蹴りはトリッキーで厄介だが、お前はあのカッファンに勝ってるんだ。カッファンの足技に比べれば、怖れるほどでもねー」

 

「今日も一成くんと勝くんとで、二人一緒に揃って勝とう」


 凱さんが笑顔で言った。


 僕は山岸さんを見る。だが、どうやら山岸さんはまだ床で布団を掛けて寝ているようだ……。声は掛けずゆっくり休ませておこう……。

 

「……。はい。まずは、僕が勝たないといけませんね」

 

「一成、いつも通り戦うんだ。そうすれば結果は付いてくる」


 僕がそう言うと横光会長が言った。

 

「はい。応援に来てくれたみんなのために、今日も絶対に勝ちます」

 

 今日は七海ちゃんと横光道場の仲間が僕と山岸さんの応援に来てくれている。特に七海ちゃんは前列のVIP席で見てくれているからいいところを見せないと……。咲良ちゃんは勇斗がまだ不自由な身のため、勇斗の部屋で勇斗と竜二と姫華と一緒にテレビで見てくれるらしい。


 先に青コーナーの僕が入場を。次に赤コーナーのゴームズ選手が入場を終えた。入場ゲートから出た時には会場内を飛び交うカラフルな色の一直線の光が。それから、あちらこちらに設置されたカラフルなライトや電飾の光が見えた。入場曲と大歓声が入り交じり僕の鼓膜に振動を起こした。

 

 レフェリーによるボディーチェックを済ませ、僕は金網の中に入る。

 

 僕とゴームズ選手は金網の中で遠くからお互いに姿を確認する。ゴームズ選手は白を貴重としたハーフパンツサイズのファイトショーツを穿いている。右側には金色の王冠が。左側にはライオンの顔のような絵が黒くプリントされてある

 

 一方、僕はデビュー戦からずっとモスクワで買ったこのファイトショーツだ。黒を貴重としたハーフパンツサイズのファイトショーツ。右側には赤い稲妻が。左側には騎士の上半身姿が赤くプリントされてある。


 僕とゴームズ選手は中央で向かい合う。レフェリーは英語でルール確認をし、シェイクハンドの合図を出す。ゴームズ選手は僕の目を見て、胸の辺りの位置で僕に軽く右拳を向けている。僕も目を合わせて軽く右拳を合わせる。


 試合開始のゴングが鳴り響く。ついに「グランプリチャンピオン」対「現タイトル保持者」の試合が始まる。

 

 まずはお互いに距離を探り合う。僕は左ジャブを軽く出す。ゴームズ選手はカポエイラ独特のトリッキーで踊るような動きをしながら左ジャブを軽く出す。

 

「冷静にー! ロー蹴ってこー!」


 金網の外から凱さんの声が聞こえた。

 

 僕は右ローキックをゴームズ選手の左脚に放つ。ゴームズ選手はこれを受けると、マットに尻餅を付いた状態になりながら僕の脚に右のローキックを返す。

 

「いっせー! 容赦するなー! がんがん蹴っていけー!」


 金網の外から西田さんの声が聞こえた。

 

 僕はゴームズ選手の脚に次々とローキックを放つ。僕がローキックを当てると、ゴームズ選手は尻餅を付いた状態で負けじとローキックを蹴り返してくる。

 

 しばらく続いている……この状態が……。


 尻餅を付いた状態で戦うなんて……。やりにくい選手だ……。僕はしばらく様子を窺う。すると、ゴームズ選手はマットに手を付けた状態からサイドキックやミドルキックやハイキックを放つ。僕はこれらをガードする。今度はゴームズ選手の顔面目掛けてサッカーボールキックを連打する。

 

 だが、ことごとく交わされてしまう。逆に後ろからタックルで両脚を掴まれてしまう。僕はテイクダウンされないように足腰に重心を落とす。金網に体重を預けたいが、両脚にしがみつかれていて金網に向かわせてもらえない。

 

 しばらく続いている……この状態が……。


 ずっと後ろから、両脚にしがみつかれている……。

 

 頓着とんちゃく状態だ……。

 

「一成くーん! 顔面にパンチ打ってこー!」


 金網の外から凱さんの声が聞こえた。

 

 僕は両脚に後ろからしがみついているゴームズ選手の顔面に右のハンマーパンチを連打した。ゴームズ選手はこのハンマーパンチを嫌がり、一瞬腕の力が抜ける。僕はその隙を逃さず、体を正面に向けることに成功する。まだ両脚は掴まれたままだが、さっきよりはましな体勢だ。両脚にしがみついているゴームズ選手の顔面に僕はこつこつと左右のパンチを浴びせる。

 

 それでもゴームズ選手は僕の両脚を放さず前に突進してくる。あまりの突進の強さに僕はテイクダウンを許してしまう。しかし、倒されると同時に僕は咄嗟にゴームズ選手の腹部へ両脚を巻き付けた。テイクダウンこそされたがガードポジション。

 

「残り一分だー! 下からでも攻めていけー!」


 金網の外から西田さんの声が聞こえた。

 

 僕は下からこつこつとゴームズ選手の顔面にパンチを打っていく。ゴームズ選手もこつこつと僕の顔面にパンチを打ってくる。

 

 ここだ。僕はゴームズ選手のパンチを打つその右腕を掴む。直後とっさに下から丸め込む腕ひしぎ十字固め、通称ソ連十字を仕掛ける。だが、ゴームズ選手はすぐに反応し右腕を引き抜きこれを外す。この直後、第一ラウンド終了のゴングが鳴り響く。


 第四話 スーパースター へ続く……

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