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第一話 真実

 

 僕は新しい住居のマンションの六○三号室に着く。これからはこの1LDKの空間が僕の新しい家。早速ソファーに腰掛けてくつろぐ。

 

(これから僕は、大学で経営学を学ぶんだ。しっかりと勉強しないとな。七海ちゃん……。僕が君と同じ大学に編入したのは、勇斗の夢を叶えるために、経営学を学ばなければならないという理由もあるが、一番の本音は君が好きだからだ……。七海ちゃん……君に会いたい……。君が大好きだ……。今、君も僕と同じ気持ちで、いてくれているだろうか……?)

 

 そんなことを考えていると急にインターホンが鳴る。七海ちゃん……? いや、僕はまだ七海ちゃんには、僕が大学に編入することもこのマンションのことも教えていない……。誰だろう……? 

 

 少し緊張しながらも僕はドアを開けてみる。ドアを開けてそこにいるのはなんと、山岸さんと西田さんと横光会長の三人だ。

 

「山岸さん! 西田さん! 横光会長! どうしてここに!?」

 

「どうしてって、俺達三人もこっちに越してきたんだよ」


 僕が驚いてそう聞くと山岸さんは答えた。

 

「ちなみに俺は隣の六○四号室だからよ。よろしくな、一成」

 

「私はお前と山岸のトレーナーだ。私の生き甲斐は今や、お前達の勝利のために全力を尽くすことだ。トレーナーとして、当然の選択をしたまでだ」


 西田さんがそう言うと横光会長は言った。

 

「え、えっとー、とりあえず、どうぞ中に上がってください……」

 

「おい、一成。お前、こっちで道場見付けてあるのか?」


 僕が三人を家にそう招き入れると、山岸さんはソファーに腰掛けて僕に聞いた。

 

「いえ、まだです……。まだ、横光道場を辞めたばかりで、しかも、大学のことで頭がいっぱいで……」

 

「そのことなんだがな……。私はこの区内に、横光道場の東京支部を作る予定でな……。もう物件は見付かって、あと三週間ほどでオープンすることになっているんだ。勝と徳義は、横光道場の東京支部に所属することになっている。勝はファイターとして所属するが、徳義の方は現役を引退し、トレーナーとして副会長に就任する」


 僕がそう答えると横光会長は計画を明かした。

 

「一成。横光道場東京支部には、あとお前が必要だ。お前も、横光道場東京支部に来るんだ」


 続けて僕を強く誘った。

 

「うっうっう……。横光会長……僕の方こそ……よろしくお願いします……。うっうっうっ……」

 

「おいおい一成。お前、ほんとすぐ泣く奴だな。そんなに泣くなって。俺達まで泣きそうになってくるだろ」


 嬉しさの余り僕が泣きながらそう言うと、山岸さんは困ったように言った。

 

「うっうっうっ……。すいません……。この前、僕のために送別会までしてくれたから、もう皆さんとは、離ればなれになるって思ってたから……僕……なんだか嬉しくて……。うっうっうっ……」

 

「この話はな、ほんとつい最近持ち上がった話なんだ。一成が都内に行くなら、俺達も行かないかって、やまさんと俺で会長に話してみたら、会長が乗ってくれてよ」


 僕がまた泣きながらそう胸の内を明かすと、西田さんは言った。

 

「一成。まあ、そういうことだ。これからは、佐野本市の横光道場の会長は凱に任せ、私は横光道場東京支部の会長になる。これからもよろしく頼んだぞ」

 

「……。はい。横光会長。こちらこそ、これからもよろしくお願いします」


 横光会長がそう言うと僕は涙を拭き元気良く返事をした。

 

「ちなみにオープンまでだが、会長は俺の部屋にいるから、困ったことがあったらいつでも来い。会長だけじゃなくって、俺だって何か相談に乗ることくらいはできる。例えば、そうだな。恋愛相談だってな、俺に掛かれば一発解決だぜ」

 

「おい、この前好きな子に振られたばっかりの奴が、何言ってんだよ」


 西田さんが男らしくそう言うと山岸さんは茶化した。

 

「ちょっとー、やまさん。その話は無しっすよー」

 

「わーはっはっはっはっは」


 僕と山岸さんと横光会長は大笑いした。

 

「一成、俺はここの向かい側のマンションの、五○五号室に家族ごと越して来た。暇があったら来い。息子の凌馬にも会わせてやるし、かみさんの作った飯も、ご馳走してやるからよ」


「あ、はい。そのうち是非、お訪ねします」


 帰り際にドアの向こうで山岸さんがそう言うと、僕は言った。

 

 山岸さんは背中を向け手を振る。手を振ると、エレベーターに乗り込み行ってしまう。すると突如、横光会長のスマートフォンに電話が掛かってきた。横光会長は離れて僕の家の部屋に入り、誰かと電話で会話をする。

 

「すまない。ちょっと例の東京支部のことでな。リフォーム業者から電話があった。私はちょっと現場へ行ってくる。とりあえず、お前達はゆっくりとしていればいい。それじゃ、私は行ってくるぞ」


 通話を終えると玄関で横光会長が言った。

 

 そして、横光会長はエレベーターへ乗り込み行ってしまう。


 その後、僕と西田さんは二人っきりで過ごす。西田さんはベランダに出て晴天の中、外の景色を眺めている。外にはビルやマンションが建ち並ぶ。


 僕は冷蔵庫から缶コーヒーを一本取り出す。


「どうぞ。西田さん」

 

「お、悪いな。一成」

 

 僕がベランダに出て缶コーヒーを渡すと、西田さんは言った。


「なあ、一成。お前、雪音ゆきねちゃんと別れたんだろ?」

 

「え……? なぜ……それを……知ってるんですか……?」


 続けて西田さんが缶コーヒーを飲みながらそう聞くと、僕は少し驚いて聞き返した。

 

「やまさんがな、雪音ちゃんが一成を諦めるように、雪音ちゃんの気持ちを動かしたんだよ。雪音ちゃんが一成と一緒にいたいのは分かるけど、それが一成にとって、ほんとに後悔しない選択になるのか、一成のために考えてみてくれって、やまさんが雪音ちゃんに頼んだんだ。それで雪音ちゃんは、お前のことを諦める決断をしたんだ」


 西田さんが真実を明かした。

 

「……。山岸さんが……。そんな……」

 

「お前、ななみーのこと好きなんだろ? で、ななみーもお前のことが好きってわけだ。ななみーのあの感じは、完全にお前にガチ惚れって感じだ。去年の大晦日の打ち上げのとき、あれは正直見てらんなかったぜー。お前と雪音ちゃんが話してると、すげー悲しそうな顔しててな。んで、お前もななみーと話してるとき、なんかぎこちなかったしな。やまさんも俺も、こいつら完全に両思いだって分かっちまってよー。やまさんはよー、本命の女と別々になっちまった苦しみ知ってるから、多分お前には、同じ道を行ってほしくなかったんだろーな」

 

「そうですか……。山岸さんは……戦いだけじゃなく……僕の人生の師匠ですね……」

 

「まっ、やまさんらしいっちゃ、やまさんらしいけどな」


 第二話 奇跡と必然 へ続く……

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