第七話 二度目の略奪愛
「ねえみんな、僕、花火やりたいな。この五人で土手の中で、花火がやりたいよ。ほんとは、武虎兄ちゃんと勇斗さんともやりたいんだけど、みんなが来てくれて、僕、凄く嬉しいんだ。梅宮さんと咲良さんと七海さんのおかげだよ。ほんとにありがとう」
遊んでいると竜二がそう切り出した。
「竜二くん、私も同じだよ。私もなんだか昔に戻った気がして、懐かしくて凄く嬉しい」
「本当に不思議。勇斗も武虎くんもこの部屋にいないのに、凄く懐かしく感じるね」
七海ちゃんが懐かしそうにそう言うと、同じく咲良ちゃんも懐かしそうに言った。
「私ね、梅宮さん見てると、武虎お兄ちゃんのこと思い出すの。なんとなく雰囲気が似てるから……。武虎お兄ちゃんとは格好が丸っきり違うから、そんなこと無いはずなのに……」
「んー……びみょー……」
姫華がそう言うと竜二は僕を見て言った。
姫華がなんとなく感じている通り、僕が武虎だが……。やっぱり正体はばれていない……。
「竜二くん、今日は少し騒がしくしてもいいのかな?」
「うん。お父さんもお母さんも、梅宮さんにいっぱい遊んでもらえって言ってたし大丈夫だよ」
僕がそう聞くと竜二は言った。
「それなら良かった」
「それからお菓子もあるし、冷蔵庫にお酒もジュースもアイスも冷えてるから、みんなで好きに飲み食いしていいって。僕と姫華はジュースだけど、梅宮さんと咲良さんと七海さんは、お酒飲みなよ」
「うん。後で飲ませてもらうよ。ありがとう。お父さんとお母さんにも、後でお礼を言っておくよ。じゃあとりあえず、コンビニまで僕が花火買って来るよ。家の自転車借りてもいいかな? なんだか気分転換に、どうせなら自転車で行きたいんだ」
「うん。武虎兄ちゃんの自転車があるから、それ使っていいよ」
「七海さん、一緒に行きませんか? 良かったら、後ろに乗せていきますよ」
「あ……いいんですか……? 迷惑でなければ……」
僕がそう聞くと七海ちゃんは照れながら聞き返した。
「いえ。迷惑どころか、是非一緒に乗っていってください」
僕と七海ちゃんはコンビニで花火を買う。僕達はコンビニを出て、セミが鳴く夏の夜道の中、自転車で家に帰る。自転車の籠には買った花火が入れてある。
僕は自転車を漕ぐ。高校時代と同じだ。七海ちゃんは僕のお腹に手をしがみつかせて、後ろの荷物乗せに横向きに座っている。
夏の生温い湿った空気が僕達二人の肌を通り過ぎていく。たまに道路を走る車がライトで僕達を照らして通り過ぎていく。街灯のついたたくさんの電柱の横を、僕達はゆっくりと通過していく。
「梅宮さん、後ろに乗せてもらってありがとうございます」
七海ちゃんが後ろから話し掛けてきた。
「あ、いえいえ」
「こうやって誰かの自転車に乗せてもらうの、何年ぶりだろう? 少し温かいけど、風が気持ちいい。でも、思い出すなー、高校時代の苦い思い出」
「どんな思い出ですか?」
「私、こっちの高校に転校してきたばっかりの時、勇斗くんのことが好きだったんです。でも、勇斗くんにはその時もう咲良がいて……。私、泡良くば咲良から、勇斗くんを奪おうなんて考えていたんです……。それである日、帰りに武虎くんと一緒に二人を追い掛けたんです。そしたら、二人がキスしてるところ見ちゃって。私、凄いショックで泣いちゃって……。失恋しちゃったんです……」
「こんな美女を泣かせるなんて、勇斗は本当に罪深い男です」
「今も私がしようとしていることは、高校時代と同じです……。私は梅宮さんが好きです……。今度は雪音さんから、梅宮さんを奪おうとしています……。私はハイエナと同じです……」
僕の背中に顔をくっ付けて七海ちゃんが言った。
「僕も七海さんが好きです。例え、七海さんがハイエナだとしても構いません。僕の恋が雪音を傷付けるかも知れません。それでも、僕は七海さんが好きです」
「梅宮さん……。好きです……。大好きです……」
僕の背中に顔をくっ付けたまま七海ちゃんが言った。
(もう、七海ちゃんをこれ以上待たせるわけにはいかない。例え、雪音を傷付けることになったとしても……)
僕と七海ちゃんが帰宅した後、僕達五人は家の近くの土手の中で花火をする。ロケット花火、打ち上げ花火、手持ち花火、線香花火などで本当に楽しく遊ぶ。花火なんて久しぶりだ。僕は竜二にロケット花火を着火した後にタイミング良く手で投げるのを、兄として男として伝授した。最後にはみんなで残った手持ち花火と線香花火の先っぽを当て、お互いに着火させて大いに楽しむ。僕の目には暗闇の中に光る花火の残像が。耳には手持ち花火が吹き出す音とロケット花火の爆音が残っている。
「あーあ。終わっちゃった。なんか寂しいな」
「寂しいね。でも、楽しかったよね」
花火が終わり姫華がしんみりとそう言うと、咲良ちゃんは満足気に言った。
「うん。凄く楽しかった」
七海ちゃんも満足気だ。
「特にロケット花火さいこーだったよー。梅宮さん、ありがとー」
「あ、まあ、本当は投げるもんじゃないけどね……。でも、投げてこそ男だよ。竜二くん」
竜二が満足気にそう言うと僕は言った。
「はあー、花火終わったら、僕、夏休みの宿題思い出しちゃったよ。自由研究、まだ終わってないんだ……。あれ、苦手なんだ……。どうしよう……」
「じゃあ、明日は竜二くんの自由研究のために、僕の車でみんな水族館にでも行こう」
「わーい。やったー。水族館だー」
僕の提案に姫華は喜んだ。
「うふふ。竜二くん、手伝うよ。お姉ちゃん達に任せて」
「そうだよー。任せてね。今だから言うけど、私達も昔は大人にやってもらってたんだよー。私はパパにやってもらってたなー。うふふ」
咲良ちゃんが笑ってそう言うと、七海ちゃんは明るく明かした。
「竜二お兄ちゃんずるーい」
「姫華だって人のこと言えないだろ。ほとんど資料丸写ししただけじゃん」
姫華がそう不満を漏らすと竜二は言った。
「あはは……」
「うふふ。くすくすくす」
僕が苦笑いすると、七海ちゃんと咲良ちゃんも笑った。
僕達は部屋に戻った。竜二はキッチン部屋の冷蔵庫からお盆に乗せてお菓子とアイスと缶の飲み物を持ってくると、僕と七海ちゃんと咲良ちゃんに缶チューハイを渡す。姫華には缶ジュースを渡す。そして、みんなに渡した後の残り一本の缶ジュースを持つ。
「ねえみんな。僕、大人みたいに、かんぱーい!ってやりたいな」
「よーし。じゃあみんな、とりあえず缶を開けようか?」
竜二がそう提案すると僕は言った。
僕達は一斉に缶の蓋を開ける。
「せーので乾杯するよー」
「うん。分かった」
続けて僕が確認すると竜二は元気良く返事をした。
「わー、私こういうの初めてー」
「あーあ。私達も、もうこういう年になったんだねー」
七海ちゃんがうきうきとそう言うと、咲良ちゃんは感慨深そうに言った。
「準備オッケーだよー」
「せーの」
姫華が合図を出すと僕は掛け声を掛けた。
「かんぱーい!」
みんなで一斉に元気良く乾杯した。
翌日、僕達五人は僕の車で袋池サンシャインシティに行った。僕達は水族館だけでなく、展望台からの東京の景色やプラネタリウムなども楽しんだ。水族館では咲良ちゃんと七海ちゃんが親身になって竜二の自由研究を手伝ってくれた。とにかく、みんな一日を通して本当に楽しそうだった。僕にとっても大いに充実した一日になったのだ。
第八話 五年の歳月 へ続く……




