表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/51

第五話 カウントダウン

 

 僕はセミが鳴く夏の夜道を歩く。歩いて、いつもトレーニングしている公園へ向かう。


 それにしても体中のあちこちが痛い……。走りたいが走れない……。


 公園へ着くと、二台あるブランコのうち僕から見て手前側のブランコに一人の女の子が俯いて座っている。琴音ちゃんだ。多分この公園にいるだろうと思っていた僕の勘は当たっていた。

 

 僕は公園の中を見渡す。他には誰もいないようだ。ブランコ以外の、シーソー、滑り台、砂場、鉄棒といった他の遊具を見ても人影は無い。夜なので心配した。でも、とにかく何事も無く無事で良かった。


「琴音ちゃん。みんな心配してるよ。雪音もさっきは言い過ぎたって反省してるから、許してあげてもらえないかな?」

 

「ぐすん……。一成さん……。ウチも一成さんのこと大好きなのに……。お姉ちゃんやななみーさんが羨ましいよ……。ウチももっと早く生まれてれば、こんな思いしなくて済んだのに……。ウチももっと大人だったら……ちゃんと女として一成さんに見てもらえるのに……」


 僕がそう優しく話し掛けると、琴音ちゃんはブランコから立ち上がり泣きながら僕に抱き付き言った。

 

「琴音ちゃんは十分可愛いよ。将来はもっと美人になる。それに琴音ちゃんには、将来僕なんか霞んじゃうくらいの、凄い男が現れる。だから僕なんかのことで泣かないで。僕は泣いている琴音ちゃんより、元気に笑っている琴音ちゃんの方が好きだよ。分かったかい? 琴音ちゃん」


 僕は琴音ちゃんの頭を撫でて優しく言った。

 

「……。うん……。分かった……」

 

「さあ、じゃあ、気分転換に一緒にブランコで遊ぼう」

 

 僕と琴音ちゃんは、さっき琴音ちゃんが座っていたブランコに二人乗りして遊ぶ。琴音ちゃんは座り、一方僕は立って。僕は体中の痛みも忘れてブランコを勢い良くこぐ。ついつい僕は楽しくなってしまう。

 

「ほらー! 楽しいだろー! 琴音ちゃーん! こうやってー! 頂点に達したときはー! 凄く爽快そうかいなんだー! 琴音ちゃんがー! 元気出すまでー! 僕はこうやってー! 何回もこぐぞー! やっほー! 楽しー!」


 ブランコが後方から前方に向かう動きに合わせて、僕は大声で言った。

 

「一成さーん! そんなに強くこいだらー! 一回転しちゃうよー! でもー! ウチも楽しー! わーい! やっほー! ねーねー!? 一成さーん!?」


 琴音ちゃんも楽しそうだ。

 

「なんだーい!? 琴音ちゃーん!?」

 

「ななみーさんがねー! ウチにLINEでねー! 一成さんのことー! 大好きだってー! 教えてくれたよー! 褒め上手でー! 強くて優しくてー! 凄くかっこ良くてー! 大好きだってー! テレビでー! 試合見てるときにー! 完全に一成さんにー! 惚れちゃったんだってー! ミラクルパンチでー! 泣いちゃったんだってー! ウチもねー! 一成さんのことー! 大好きだよー! 一成さーん! モテモテだよー! どうすんのー!? ウチとー! お姉ちゃんとー! ななみーさーん! 誰が一番好きかー! 言ってー! お姉ちゃんとー! ななみーさんにはー! 内緒にしておくよー! 一成さんとー! ウチだけのー! 二人だけのー! 秘密~! 今からー! 十数えるからー! それ以内にー! 言わないとー! 今日はウチー! 一成さんと一緒にー! お風呂入るからねー! 一番好きなー! 人の名前をー! 呼び捨てで言ってー! 世界一好きだー!ってー! 言ってー!」


「カウントダウーン!」 


「開始~!」


「じゅーうー!」 


「きゅーうー!」 


「はーちー!」 


「なーなー!」 


「ろーくー!」


「ごーおー!」 


「よーんー!」


「さーんー!」


「にーいー!」


「いーちー!」 


「ぜー!」

 

「七海~! 世界一好きだー!」


 僕は叫んだ。

 

「一成さんのバカー! そこは琴音ってー! 言うところだよー! でもやっぱり―! そうだと思ったー! ななみーさんはー! 強敵だよー!」

 

 僕はさすがに疲れてしまう。ブランコをこぐのを止めて降りる。

 

「琴音ちゃん……。さっきのお風呂の話は、無しだからね……。僕、逮捕されちゃうから……。あと、今のは本当に二人だけの秘密だよ……。琴音ちゃんは、世界で五番目に好きな女性だよ……」

 

 僕は手でブランコの揺れを止めて言った。


「五番目じゃ嫌だー。なんでウチは銅メダルにも届いてないのー? お姉ちゃんが二番目として、三番目と四番目は誰なのー?」

 

「琴音ちゃんのご想像にお任せするよ……」

 

「分かったー。三番目は咲良さんで、四番目は一成さんのお母さんだー」

 

「あ……まあ、そんなとこだね……」

 

 琴音ちゃんは小学生なのに勘が鋭い……。まあ、四番目は実の妹の姫華だが、三番目に好きなのが咲良ちゃんてのは大当たりだ……。

 

「やっぱりそうなんだ……。咲良さんも凄く可愛いもんね。なんとなく分かる……。ウチは五番目か……。でも、一成さんが世界で好きな五番目の女だから、十分凄いよね……。ありがとう……。一成さん……」


 琴音ちゃんが言った。


 第六話 懐かしい部屋 へ続く……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ