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第十一話 墓場まで

 

 僕は琴音ちゃんをみんなのいる所へ運ぶ。それから寝かせて毛布を掛けてあげる。まだみんな酒を飲んでどんちゃん騒ぎをしている。僕と七海ちゃんには気付いていないようだ……。

 

 僕と七海ちゃんは水清公園の前の道路に出た。夜の桜のアーケードの中、二人でその歩道を歩く。街灯の光と桜のライトアップの光によって、夜だというのに桜のアーケードの中は明るい空間だ。たまに通る車が、僕達二人をライトで照らしてすっと通り過ぎていく。


「梅宮さん、もしかしたらもう、この世にいないかも知れないのに、大好きなその人をいつまでも待ってるって、可笑しいことだと思いますか? 私は武虎くんをずっと待っています……」


 七海ちゃんは立ち止まって僕にそう聞いた。

 

「いえ、可笑しくないと思いますよ。その武虎くんという人も、本当は七海さんのことが好きで会いたいのだけど、何か理由があって、姿を現さないんではないでしょうか? 会う前に、何か大切なことを果たさないといけないんだと思います。僕にはそんな気がします」

 

 本当は今、七海ちゃんのすぐそばにいるのだが……。

 

「……梅宮さん……。世界チャンピオンの梅宮さんが言うなら、私は信じ続けます。いつか武虎くんに会えるって」


「武虎くんは私のヒーローだから……」


 七海ちゃんは続けてそう言って、夜の桜のアーケードの中で左手をかざし指輪を見つめた。


(こんな僕を信じ続けてくれて、本当にありがとう七海ちゃん……。七海ちゃんは僕のヒロインだよ……)


 夜の桜のアーケードの中、左手を翳し指輪を見つめる七海ちゃんの姿。その姿は本当にとても綺麗だ。明るいさらさらのストレートのロングヘアが微風に揺らされている。両耳のピンクゴールドのロングピアスが髪の隙間から時折輝きを放つ。

 

 今、僕の目に映るのは間違いなく世界一綺麗な情景だ。僕は思わずスマートフォンで写真を撮ってしまう。


「梅宮さん? もしかして私、顔に何か変な物でも付いてますか?」

 

 七海ちゃんが恥ずかしそうに僕にそう聞いた。


「あ……いえ……。七海さんがあまりに綺麗だったもので……つい……。七海さんは世界一綺麗です」


「え……あ……ありがとうございます……。梅宮さん……。あの……私も……梅宮さんと一緒に、写真を撮らせてもらってもいいですか……?」

 

「あ、はい。じゃあ、お互いに二人で一緒に撮りましょう」

 

 こうして、僕と七海ちゃんはお互いに自分のスマートフォンで一緒に二人だけのツーショット写真を撮った。

 

「世界チャンピオンとの写真……大切にしますね……」


 そう言って七海ちゃんはまた恥ずかしそうに僕の目を見た。

 

 なんて美しくて可愛いんだろう……。側にいるだけで、目を合わせるだけで凄くドキドキする……。側にいるだけで、目を合わせるだけでこんなに凄くドキドキするのは、僕が七海ちゃんのことを本当に好きだからだ……。高校の時から元々綺麗だった七海ちゃんが女子大生になり、大人の女性としてさらに綺麗になっているためだろうか……? この感覚は高校の時よりも強い感覚だ……。

 

 しかも好きな理由なんて無いんだ……。なぜなら七海ちゃんの全部が好きだから……。本当に大好きだ……。嫌いなところなんて何一つ無い……。

 

「僕も七海さんとの写真、大切にします」


 ドキドキしながらも僕は七海ちゃんの目をしっかり見て言った。

 

 絶対に消さない。世界一綺麗な情景の写真も。ツーショット写真も。万が一写真が消えたとしても、さっきの世界一綺麗な情景だけは僕の脳裏に焼き付けて絶対に墓場まで持っていく。

 

 時は流れ今は夏休み。僕は連日、夜は道場で練習をしている。その後はいつもの公園でのトレーニング。今は夏休みで日中も時間があるのだ。日中も公園へ行きトレーニングをしている。とにかく体を強化しているところだ。

 

 なぜここまで体を強化しているかと言うと、実は僕にもついに山岸さんと同じくシンガポールのザ・ファーストからの出場オファーがやって来たからだ。僕に来た出場オファーは、M-0グローバルのときと同じ今年のグランプリのチャンピオンを決めるトーナメント戦。体重七○・三キロリミットの、世界のライト級の猛者八人による金網の中の過酷なワンデイトーナメントだ。

 

 今回のザ・ファーストはオフィシャルルールとは違うトーナメント用の特別ルール。肘打ち無し。サッカーボールキックあり。準決勝までは五分二ラウンド。決勝戦のみ五分三ラウンド。ラウンドインターバルは一分。判定にもつれ込んだ場合はドロー裁定無し。ジャッジ五人が必ず優劣を付けるマストシステム。

 

 開催日は現地時間で八月十八日。会場はシンガポール・ナショナルスタジアム。大会開始時間は現地時間で午後六時半。シンガポールでは今の時期、日没時間が午後七時過ぎ。日没時間の少し前に大会開始ということ。

 

 スタジアムの観客収容人数は九万人以上を予定しているらしい。超大規模な総合格闘技の夜の祭典。リザーブマッチも一試合組まれることになっている。合計十人でグランプリのベルトを争うということ。

 

 なんと言っても破格なのはその優勝賞金。八百万シンガポールドル。つまり日本円換算で約十億円。ファイトマネーだけでも一試合一億円以上。今回のグランプリは、世界中のファンや富豪が優勝者を的中させる賭博解禁の総合格闘技のグランプリだということ。だから会場も大規模で賞金も破格なものらしい。賭博の認められている国では現在とても注目されている。優勝者予想の投票方法は基本的にはインターネット。だが、日本国内では全国のコンビニでも受け付けているという。もちろん、日本国内では十九歳以下の未成年はお金を賭けてはいけない。金を賭けても良いのは二十歳以上の成人だけ。

 

 現在、僕のオッズは十人中、一○・八倍の四番人気。僕はキャリアこそまだ四戦と少ない。それでも、昨年夏のM-0グローバルのグランプリ優勝と、昨年大晦日に豊川仁選手に勝利したことが評価されているようだ。まだ無敗であるところも評価されているのだろう。今回のチャンピオンベルトを獲れば、僕はM-0グローバルに続き二つのグランプリチャンピオンということになる。僕は勇斗のために必ず今回もチャンピオンベルトを持ち帰ることを、とても強く決意している。


 そして、ついにそのグランプリが始まった。僕は初戦で元ボクサーでサウスポーのメキシコ人選手、オラシオ・トリスタン選手に一ラウンド中に腕ひしぎ十字固めで勝利した。準決勝に駒を進めることに成功したのだ。トリスタン選手はサウスポーで少し違和感を感じた。そんな中、僕はタックルでテイクダウンしグラウンド勝負に持ち込んだ。グラウンド勝負に持ち込めばサウスポーでも関係は無かった。

 

 僕は試合後のドクターチェックを受けた。それから、控え室の鏡で怪我が無いか確認する。もう一度入念に自分の体をチェックする。運良く怪我も無い。次の試合にも万全の状態で挑めるだろう。

 

 しかし、初戦を突破して感じたのは、今までに経験したことのない大舞台と大歓声だったということ。スタジアムにいたのは九万人以上のお客さん。そのため、スタジアムの中は少しのアクションが起こるだけで騒然としていた。空いている天井の先には薄暗い空が見えていた。オープニングも入場も、たくさんのカラフルな色の一直線の光があちこちに飛び交っていた。カラフルな色彩が僕の目に焼き付いている。入場ゲートの近くからは炎が吹き出す演出も。


 こんな大きなスタジアムの大会に出られるなんて……。本当に夢のようだ……。あとはこの大会のチャンピオンベルトを取ることさえできれば……。

  

 第四章 乾杯 へ続く……

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