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第三話 縁結び

 

 これは高校に入学して一年目、今年の夏休みになる前のこと。僕は昼休みに自分の席で一人で弁当を食べていた。すると、咲良ちゃんは一年D組の教室に入ってきた。


「冴島くん、話があるの……。ちょっといいかな……?」


 弁当を食べている僕に、咲良ちゃんが話し掛けてきた。

 

 僕は感じた……。教室にいる男子達の嫉妬のような目線を……。


「もぐもぐもぐ……。どうしたの若森さん? もしかして勇斗のこと? もぐもぐもぐ……」


「郷間くんに告白したいの……。でも、どうやって伝えればいいか……。どうしたら、郷間くんの目に入ってもらえるか分からないの……」

 

 僕は彼女がずっと勇斗を好きなこと、陰ながらずっと見ていたことも知っていたのだ。それから咲良ちゃんは、太って眼鏡を掛けていてキモい僕にも偏見なく接してくれていた、唯一と言っていいほどの優しい女の子だった。咲良ちゃんは他の女子とは明らかに違った。今まで僕に、眼鏡横綱、デブ島、エロ島などというあだ名を言ったことは一度も無かった。

 

 何より、中学時代から咲良ちゃんに貰った恩がたくさんあった。僕は咲良ちゃんに恩返ししなくちゃいけなかったんだ。


 一旦いったん、弁当を食べるのをめ僕ははしを置いた。

 

「好きだって、ストレートに伝えるのがいいと思う。そして、手を握って、とにかくあいつの目をじっと見続けて」


 ペットボトルの緑茶をごくごくと飲んだ後、僕は咲良ちゃんに真剣にアドバイスを送った。


「うん」


「男は手を握られて目をじっと見つめられると、ぐっと来ちゃうんだ。今までの女子が全部ダメだったのは、あいつの手を握って、目をじっと見つめなかったからだよ」


「うん」 

 

 アドバイスした作戦は釣り作戦。男達が電脳ガールズ49の握手会で経験する、あの釣りだ。僕は何度も屋上や誰もいない教室で、勇斗が女子に告白されているのを目撃していた。それもあり、振られた女子全員のある共通点に気付いていたのだ。ある共通点とは詰めが甘いという点。どの女子も少し離れた距離で告白していた。それももじもじしながら。

 

 僕は自分なりに分析した結果の、真剣なアドバイスを咲良ちゃんに送った。一番の理由はもちろん咲良ちゃんへの恩返しだった。それとともに大好きだったからだ。勇斗も咲良ちゃんも二人とも。だからどうしても、二人がくっ付くのを応援したくてしょうがなかった。当然、僕は今も勇斗と咲良ちゃん、二人とも大好きだ。


 そして、咲良ちゃんが勇斗に告白したいと言った日の後日。休み時間のこと。


「冴島くんのいう通りにやってみるね」


 僕の机のそばにはもじもじした咲良ちゃんではなく、決心を決めた表情の咲良ちゃんがいた。


 僕は勇斗と咲良ちゃんが二人きりになるようにセッティングをした。勇斗を学校の自転車置き場で待っているように仕向けた。僕は勇斗と一緒に帰る約束をし、僕は一向に現れず、人がいなくなったところに咲良ちゃんが現れるという作戦だ。


 僕は学校の昇降口に隠れ、外に出たり中に入ったりを繰り返した。自転車置き場で、勇斗と咲良ちゃんが二人っきりになるのを確認した。この夏の時期は、とても日が長かったのを覚えている。外は帰りの時間だというのに、まだ昼のように明るかった。セミがたくさん鳴いていた。

 

 そんな中、勇斗に歩み寄っていった咲良ちゃん。手を握り勇斗の目を見つめていた。僕のアドバイスを本当に実行しているようだった。それから、二人で一緒に自転車で帰る様子も確認し、多分上手くいったのだろう、と僕は思った。


 その後、学校の自販機でジュースを買おうとした時のこと。僕のスマートフォンがピンポーンと鳴り響いた。勇斗からのLINEだった。内容は「てめーだましやがったな(二つの怒り血管マークの間に怒り顔マーク)」という内容。その後も、食欲の失せるようなゴキブリのむれ、ゾンビの群、巻き糞などのスタンプが送られてきた。どうやら、勇斗はかなり頭に来ているようだった。

 

 でもあいつのことだ。僕は思った。いざ付き合えば多分、咲良ちゃんを泣かすようなことはしない。たくさんの女子を振ってきたあいつも、そろそろ年貢の納め時だ、と。

 

 僕は良いことをしたんだ。女子に対しクールさとさりげなさをよそおっているシャイな勇斗。そんな勇斗に彼女を作ってあげたんだ。大好きな勇斗と咲良ちゃんのことを思ってやったこと。正直言って後悔は無かった。後悔が無いどころか、完全燃焼だったのだ。


 その後、勇斗と咲良ちゃんはカップルらしくなった。お互いに下の名前で、呼び捨てで呼ぶようになったのだ。元々、僕は咲良ちゃんを若森さんと呼んでいた。僕と勇斗と咲良ちゃん。学校内でこの三人で過ごす機会が増えたのだった。そうして、僕も咲良ちゃんと呼ぶようになった。同時に咲良ちゃんも、僕を武虎くんと下の名前で呼んでくれるようになったのだ。

 

 当時、僕とLINEが繋がっている女性は、母さん以外は知らない女性ばかり。勝手にLINEが繋がってしまった、会ったこともない女性ばかりだった。だけど、咲良ちゃんともLINEが繋がった。母さん以外の女性で、初めて知っている女性とLINEが繋がったのだ。


 今、何時だろう? 僕は上体を起こし部屋の時計を見る。九時を過ぎている……。今日は家に帰ってから、勇斗のことと咲良ちゃんのことを考えていた。色々と回想にふけっていた。いつの間にかもうこんな時間になってしまったらしい。

 

 僕は部屋のカーテンを閉める。そろそろお風呂に入ってから寝る準備をしよう。


 翌朝、僕と勇斗は一緒に登校する。そして、僕はいつも通り平穏な高校生活を過ごす。


 時の流れは本当に速い。平穏な日々を過ごしていた僕も、いつの間にか高校二年生への進級だ。

 

 今はその前の春休み。僕はゲームをしたり、パソコンでインターネットをしている。さらに、勇斗と咲良ちゃんとLINEをしている。ここのところ、こんな感じで夜更かしを続けているのだ。深夜、ベッドに入りリモコンで部屋の電気を消す。僕は回想にふける。


 僕は一年生の時の思い出を思い出す。学校帰りや休日に、僕と勇斗の二人でカラオケやボウリングに行ったこと。一年D組のクラスメイトと教室でクリスマスパーティーをしたこと。そして、約束通り咲良ちゃんが勇斗と僕に、手作りバレンタインチョコをくれたことなど。咲良ちゃんの手作りチョコは中学時代に貰った時も美味しかった。だが、また格段に美味しくなっていたのだ。

 

 中学三年生の時、チョコ作りの修行をしてまた僕と勇斗にチョコを渡す、と言っていた咲良ちゃん。本当に有言実行だった。何より、咲良ちゃんが今度こそ勇斗に直接バレンタインチョコを渡せたのだ。僕にとってはそれが何よりも微笑ほほえましい。


 ちなみにホワイトデーには、僕は去年のように咲良ちゃんにお返しをした。今年あげたのはマドレーヌ。咲良ちゃんは去年と同じく、とても感激してくれた。だが、勇斗からのお返しが無い、と少し不満を漏らしていた……。外見も中身も一見完璧に見える勇斗だが、深い付き合いの僕は知っていた……。そういうずぼらな面もあることを……。勇斗らしいと言えば勇斗らしい……。


 第四話 美しい転校生 へ続く……

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