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第二話 勇斗と咲良との出会い


 続けて、僕は勇斗と友達になった時のことも思い出す。今はもう日が沈み、僕の部屋の中も薄暗い。カラスの鳴き声も止み、外からは微かに車の走る音が聞こえる。

 

 僕と勇斗が仲良くなったのは、中学三年生の夏休みの時。それは僕がコンビニでグラビアが載った雑誌を、白昼堂々買おうとした時のこと。雑誌のグラビアは人気グラビアアイドル、桃山里英ももやまりえ

 

 僕がその雑誌に手を伸ばした時、一人の少年と手がぶつかった。僕は気が付いた。三年A組で、僕と同じクラスの郷間勇斗だと。


(こいつは女子にモテモテの郷間だ。まさか、僕と同じくこのグラビアが目的か?)

 

「冴島、お前もこれが狙いか?」


「そうだ。何か文句でもあるか?」


 勇斗がそう聞くと僕はこう聞き返した。

 

 僕は風の噂で知っていた。勇斗が喧嘩最強の男だということを。長年、総合格闘技の道場に通っていて、凄腕のバーリトゥーダーであることも。それでも僕は引かなかった。なぜなら桃山里英は僕の命だったから。しかもその雑誌は一冊しか置いてなかったからだ。

 

 顔もスタイルも抜群のスーパーグラビアアイドル、桃山里英。「ももりえ」というニックネームで親しまれている。某巨大動画サイトの動画配信者でもある。僕はチャンネル登録者でもあった。もちろん今でもチャンネル登録者だ。例えぶん殴られたとしても、その雑誌は絶対に譲れなかった。

 

「これが欲しければ、僕を殴って失神させてみろ」


 僕は勇斗に対し強気に出た。


「俺はお前を殴れない。でもこれは俺のもんだ」


 ここから、壮絶な雑誌の引っ張り合いが始まった。

 

「このももりえのグラビアは僕の物だ!」


「いや、これは俺のもんだって言ってるだろ!」


 僕は雑誌を引っ張り、勇斗もやり返した。

 

 しかし壮絶な引っ張り合いの末に、なんと雑誌は破れてしまったのだ。

 

「うわーっ! やっちまったー!」


「ああ……」


 勇斗は叫び、僕は声が出なかった。

 

 当然、結果は弁償。僕と勇斗は二人で割り勘でお金を払って、店長さんになんとか許してもらえた。


「なあ、冴島。お前はももりえに何を求めている?」


 コンビニの外に出ると、自転車置き場で勇斗がそう話し掛けてきた。


「ももりえと結婚できたら死んでもいい」


「なにっ!? お前もか!? 俺も同じだぜ!」


「郷間もか?」


「あったりめーだろ! ももりえと結婚、いや、ももりえの母体に子供を宿せたら、俺も死んでもいいぜ! 日本全国の男の夢は、ももりえと結婚し、子供を宿すことだー!」

 

「僕も同じだよ……。郷間……お前……うっうっうっ……」


 僕は勇斗のようなイケメンと同じ意見だったことに、嬉しさを感じ半べそをかいた。


「はっはっは。なんだ。お前、分かる奴じゃねーか」


「僕は郷間が女子にモテるから、ああいうの見ないと思ってたよ。郷間でもああいうの見るのか……」


「見るに決まってんじゃねーかよ。はっはっは」


「郷間。お前、良かったらうちに来るか?」


 僕は勇斗を家へ誘った。


「いいのか?」


「ああ。来いよ。僕の部屋、ああいうの結構あるし、ゲームもいっぱいあるぞ」


「マジかよ。行く行く。行くに決まってんじゃん」


 僕と勇斗は自転車で僕の家へ向かった。僕は勇斗を自分の部屋に上げて、リモコンで部屋のエアコンの冷房をつけた。そして色々な物を見せた。ゲーム機、ゲームソフト、グラビア雑誌。エロDVD、パソコンの中身なども。

 

 普段の僕はグラビア雑誌を机の引き出しの中に、きちんと鍵を掛けてしまっている。大きくて高い本棚の上の、見えにくい位置にバッグを置いていて、そのバッグの中にエロDVDを収納している。僕には年の離れた小学二年生の弟と幼稚園年長の妹がいて、エロDVDは子供の手では届かない位置に置かないといけないのだ。

 

 バッグの中でばらばらだったエロDVDが、綺麗に揃えてあったこともあった。エロDVDは多分、母さんにだけはばれているのだろう。ある程度背のある大人には、なんとか届いてしまう高さではある。そもそも、机の椅子を使えば取るのは難しくない。どのみち自分の母親にばれるのは、男にとっては通過点に過ぎない。あえて僕は開き直っている。

 

 ちなみに、どうやってエロDVDを入手しているかと言うと、近くの公園で近所の大学生のお兄さんに貰っている。たまたま近くの公園で仲良くなって、僕はその大学生のお兄さんのお古を貰っているのだ。


「なあ、この二つ、貸してくれないか?」


 バッグの中の二本のエロDVDを持って、勇斗は僕に聞いた。


 その二つはナンパ物と、なぜか人妻物。


「郷間、お前そういうの趣味なのか?」


「ん? なんだ? 冴島、何か変か……?」


「いいよ。それあげるよ。どうせ貰いもんだから」


「マジでか? くれんのか? サンキュー。冴島」

 

 それからというもの、僕と勇斗はしょっちゅうお互いの家へ行くようになった。勇斗の部屋では、DVDやタブレットのインターネット動画で、総合格闘技の試合を大きなテレビの画面で見せてもらった。勇斗の憧れの選手、的場和輝選手のたくさんの試合も。観客を魅了し、グルベール一族をなぎ倒していく若き頃の試合や、年齢を重ね負けていく近年の試合まで。年齢を重ね近年は負けているが、それでも勇斗は的場和輝選手が大好きだという。そんな勇斗の影響を受け、僕も的場和輝選手のファンになり憧れを持つようになった。

 

 夏休みが明けてからも、僕と勇斗は毎日教室で話すようになった。今では下の名前で呼び捨てで呼び会うほどの、大親友になっている。高校に入学してからクラスは別々になった。だがしょっちょう一緒に登下校していて、今でもとても親しい関係が続いている。


 中学時代、勇斗は女子からたくさんラブレターを貰ったり、たくさん告白されてきた。電話やメールやLINEでもたくさん。だがどの女子とも付き合わず、とにかく女子を振りまくってきた。

 

 勇斗の女子を振る常套手段じょうとうしゅだんは、「ごめん……。道場の練習で忙しいんだ……」と言って振る方法。もちろん、電話やメールやLINEでも同じやり方だった。自分を真面目に見せることもでき、なるべく相手を傷付けないという、巧妙な振り方だ。高校に入学してからも、咲良ちゃんと付き合うまでは、同じ方法でたくさんの女子を振ってきた。


 女子を振る本当の理由は何かというと、女はいちいち面倒臭いという理由だ。でももちろん僕は知っている。単に勇斗が女性にシャイなだけだということを。クールでさりげない態度を取るのも、女子を振るのも、単に勇斗が女性にシャイなだけだということを。

 

 そんな勇斗はバレンタインデーも毎年のように、大量のバレンタインチョコを貰っていた。持ち帰り不可能なくらいの数だったのを、よく覚えている。そう言えば、僕が生まれて初めて母親と妹以外でバレンタインチョコを貰った相手は、咲良ちゃんだった。今まで生きてきて、母親と妹以外で僕にバレンタインチョコをくれたのは、咲良ちゃんだけだ。


 声がする。下の階から母さんが僕を呼んでいる。どうやら晩ごはんの時間のようだ。

 

 晩ごはんを食べ終えると、僕は部屋に戻りリモコンで部屋の電気をつける。そして、またベッドの上で仰向あおむけになる。今度は咲良ちゃんにバレンタインチョコを貰った時のことを思い出す。

 

 これは中学三年生の時の冬、バレンタインデーのこと。当時、僕と勇斗と咲良ちゃんは同じ三年A組だった。放課後、三年A組の教室の中、僕は一人だけで残っていた。この日は日直で一人で学級日誌を書いていた。相方の女子は昼休み中に体調不良で早退してしまったのだ。

 

「冴島くん。これ、バレンタインチョコ。良かったら受け取って」


 そんな中、咲良ちゃんは教室の外から入ってきて、僕にバレンタインチョコを渡した。


「え!? 若森さん!? 僕なんかにチョコをくれるの!?」


「うん。郷間くんの友達でしょ。冴島くんて。私はね、郷間くんには毎年、下駄箱に入れて渡してるの……。郷間くんには、直接渡すの恥ずかしくって……。郷間くんに会うと緊張しちゃうから、直接渡せないの……。直接男の子に渡したのは、冴島くんが初めてだよ」

 

「あ、ありがとう……。うっうっうっ……。若森さん……」


 僕は嬉しさのあまり半べそをかいた。


「一応手作りだから、後で感想教えてね。それから、郷間くんの感想も聞きたいし……。美味しくなかったら、美味しくなかったって言っていいからね。郷間くんも冴島くんも、高校は野名北部に行くんでしょ。私も同じ野名北部だから。よろしくね。美味しくなかったら、その時はチョコ作りの修行して、来年またチョコ渡すから」


「ありがとう、若森さん。僕、この恩は一生忘れないよ。僕の方こそよろしくね。高校へ行っても一緒に頑張ろう」


「高校でも私と郷間くんと冴島くんで、今みたいに、三人で同じクラスになれるといいな」


「そうだね。今みたいに三人で同じクラスだったら嬉しいよね。他の中学から知らない人がいっぱい入学してくるだろうし、知ってる人がいるって心強いから」


 よく思い出すと、他にも咲良ちゃんにはお世話になった。席が隣の時、教科書を忘れてしまった僕に優しく教科書を見せてくれた。シャーペンの芯が無くなった時も、笑顔で僕にシャーペンの芯をくれた。給食の盛り付けの時も、僕がたくさん食べることを知っているせいか、ご飯を大盛りにしてくれたのもよく覚えている。僕がホワイトデーにクッキーのお返しをすると、感激した様子で笑顔で「冴島くん、ありがとう」と言ってくれたのも記憶に新しい。

 

 咲良ちゃんは中学時代から思いやりがあって、優しい女の子だった。そして間違いなく、他の誰よりも勇斗のことが好きだった。勇斗のことをいつもずっと、陰ながら見ていた女の子だった。


 第三話 縁結び へ続く……

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