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第十一話 勉強より大切なこと

 

 いつの間にか、勇斗と咲良ちゃんが僕のベッドで寝てしまった。勇斗の背中に咲良ちゃんがぴったりとくっ付いて寝ている。体を冷やすと良くないから、僕が布団を掛けてあげないといけない。


「二人とも、寝ちゃったね……。武虎くんは眠くないの?」


 僕が二人に布団を掛けると七海ちゃんが僕に聞いた。


「うん。僕は夜更かしは得意だから、寝なくても平気な方なんだ」


「ねえ、武虎くん。指輪、ありがとうね。私、これ大切にするから。学校以外では、着けててもいいかな?」


「うん。着けてくれていると、なんか、僕、嬉しいな。取った甲斐があったなって思うし、それに、僕は七海ちゃんだから嬉しいんだ」


「武虎くんて結婚したら、絶対素敵な旦那さんになると思うよ」


「ありがとう七海ちゃん。でも僕は七海ちゃんの方こそ、いいお嫁さんなると思うよ」

 

「ありがとう武虎くん。うふふ。武虎くんは女の子の扱いが上手なんだね。ねえ、武虎くん。男の子ってエッチな物、いっぱい持ってるんでしょ? 私にも、ちょっと見せてほしいな」


 七海ちゃんは少し笑い切り出した。


「ええ!? もしかして……咲良ちゃん、喋っちゃったの?」


「え、ま、まあ、ちょっとね……」


「見せてもいいけど……。七海ちゃん……僕のこと嫌いにならないでね……」


「うん。大丈夫だよ。むしろ私、借りてもいいかな?」


 どうやら、咲良ちゃんが七海ちゃんに例のバッグの存在を喋ってしまったらしい。僕は咲良ちゃんだったら秘密にしておいてくれると思っていたのに、やはり女の友情というものだろうか。これだから女の子は怖い。陰で何を言われてるか分からない。まあ、中学時代から色んなあだ名を付けられていた僕にとっては、それくらい慣れっこだが。


 父さんと母さんがぐっすり寝ている。勇斗は父さんと母さんの寝室のクローゼットの中に、例のバッグを隠したと言っていた。父さんと母さんを起こさないように慎重に取ろう。電気を点けず、スマートフォンの液晶の光を使って探すしかない。


「七海ちゃん、バッグの中を見ても引かないでね……。僕は買ったんじゃなくて、貰っただけなんだから……」


 例のバッグを持ち出し、部屋に戻った僕は七海ちゃんに言った。

 

 七海ちゃんは興味津々にバッグの中を見る。


「武虎くん。これ、借りていいかな?」


「あ、あ、はい。どうぞ……ご自由に……」

 

 今、七海ちゃんが手に持っているエロDVDは、女子高生の電車痴漢物だ……。

 

(七海ちゃん……。きっと、電車の痴漢対策なんだよね……)

 

 痴漢対策なのか痴漢されたい願望なのかは、僕はちょっと聞けない……。


 気が付くとすでに朝。外からは鳥の鳴き声が聞こえる。そう言えばあの後、七海ちゃんは僕の部屋のソファーで寝てしまった。それを見て、僕は七海ちゃんに布団を掛けてあげたんだ。その後、僕も結局は部屋の電気を豆電球に切り替えて床で布団を掛けて寝てしまった。そうは言っても数時間しか寝ていないが。

 

 部屋中を見渡すと七海ちゃんと咲良ちゃんがいない。勇斗だけが僕のベッドで横向きに寝ている。下の階から少し賑やかな声がする。僕は部屋を出て階段を降りていく。聞こえる賑やかな声の元はキッチン部屋らしい。

 

 一階のキッチン部屋へ行って、僕は入り口から様子を見てみた。どうやら、母さんと七海ちゃんと咲良ちゃんがキッチンで一緒に朝ごはんを作ってくれているようだ。七海ちゃんも咲良ちゃんも母さんのお手伝いをしてくれているらしい。

 

 換気扇の音が聞こえてくる。換気扇は回っているようだ。テーブルにはそれぞれお皿に乗った卵焼きやウインナーがたくさん置かれている。キッチンではこちらに背を向けて、七海ちゃんと咲良ちゃんがおにぎりを握っているようだ。なんとも言えない、お腹が減ってしまうような匂いが漂ってくる。ガスコンロの上には大きめの鍋がある。漂ってくる匂いからすると味噌汁だろう。いつもの鍋ではなく今日は大きめの鍋を使ったらしい。

 

 今、僕の目には七海ちゃんの後ろ姿が映っている。料理のためだろうか? 後ろで髪を束ねている。ポニーテール姿が眩しい。咲良ちゃんもお揃いでポニーテール姿だ。二人とも可愛い。なんで僕のような豚男の家で朝ごはんを作っているのだろう? こんなことがクラスの男子に知れたら大変だと思う。間違いなく僕は嫉妬されるに決まっている。

 

 母さんが入り口で見ている僕に気付いたようだ。

 

「武虎。母さんはあんたみたいなのが、あんなに可愛い女の子達をうちに連れてくるなんて、夢にも思わなかったわ。本当にびっくりしたわ。あんたも意外と隅に置けない男ね」


 母さんが僕にそう話し掛けてきた。


「うん。まあ、たまたまこんなことになっちゃったんだよ」


「あの子達、あんたと同じクラスの、絹井さんと若森さんていうんだってね。母さんはね、もう七海ちゃんと咲良ちゃんて、下の名前で呼ばせてもらってるわ」


「へえー……もう仲良くなったんだ……」


「何事もコミュニケーションが大切でしょ。ふふふ。で、どっちの子があんたの彼女なの? どっちも勇斗くんの彼女だったりして。ふふふ。そう言えばあっちの咲良ちゃんて、もしかしてあんたにチョコをくれた子じゃない? 母さん、若森さんってどっかで聞いたことあるなと思ってたのよ」


「あ、うん。咲良ちゃんは去年も今年も僕にチョコをくれた子で、勇斗の彼女なんだ。それで……七海ちゃんは……えっと……まだ……うちの高校に転校してきたばっかりなんだ……。二人とも……凄く優しくていい子なんだよ……」

 

「あら、あんた分かりやすいのね。あっちの七海ちゃんが好きなんでしょ」


 母さんは嬉しそうに言った。


「ひー!」


「七海ちゃんて凄く可愛いわよね。まるでモデルさんみたいで、本物のアイドルとか芸能人みたいで。母さん、あんまりに垢抜けてて可愛いから、腰が抜けそうになったわ。あんた、しっかり守ってやるのよ。男の子なんだから」


「う……うん……」


「とにかく、母さん嬉しいわ。武虎が学校で友達と仲良くしてくれてるのが一番だからね。そういうのって勉強なんかより、うーんと大切なことなんだから」


「もちろん分かってるよ。それにしても、母さんにはほんとにすぐ僕のこと分かっちゃうんだな……。まったく……僕はほんとに母さんには参っちゃうよ……。ははは……。それに七海ちゃんは、実際、本物のモデルさんなんだよ」

 

「あら、そうなの。武虎、あんたと釣り合いが取れるかしらね?」


 母さんが僕をからかうように聞いた。


「母さん、もう余計なお世話だよ」


「ふふふ。何はともあれ、友達は大切にするんだよ」


 第二章 受け継がれる夢 へ続く……

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