表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サムライドレスは異世界を駆ける  作者: 改樹考果
ファイル1『落ちた地球の刃』
9/56

ログ9 『おにぎりとお茶』

 現在の人類の食料事情は、合成食品がメインだ。

 植物や動物から食事を作る術は知識としては教えられているが、実際に食べたことがあるのは極僅かだろう。

 俺のようにシェルターに籠るようになってから生まれた者達であれば、絶対と断言しても過言じゃない。

 聞くところによると、作戦前に振舞われたのが久し振りの合成食品以外の食べ物だったって話だからな。

 なので、俺はそれについて知ってはいるし、人類の中で数少ない経験者と言えるのだが……

 「=====」 

 にっこりと笑ってウリスから渡されたそれは、なぜか出来立てのように温かった。

 次いで渡された木のカップに入っているお茶も同様。

 サイ現象の中には、対象の時を止めたり遅くしたり速めたりできるのもあったとは思うが……そもそも、これって本物か?

 なんだか両方から複雑な匂いがするな。

 白い米が三角に固められ、焼き海苔が巻かれているからか? 甘いようなしょっぱいような、海の香りも感じる。

 お茶もお茶で、普段から飲んでいる物とは違うように見えた。

 なんせ、薄い緑色が付いているからな。

 遺伝子改造と目を保護しているナノマシンのおかげで、星の明かり程度でも色を識別できるから気付いたが……色付きね。それが当たり前だと知ってはいても、慣れない彩色には戸惑いを覚える。

 合成食品は効率的な栄養摂取を目的としているため、色素を入れるより栄養素を組み込むことを優先としている。だから固形物は色が黒で、飲み物は透明であることが普通だった。

 勿論、知識として百年前の文明の記録は叩き込まれているので、これが食べ物であるということはちゃんと認識できる。

 が、渡した物を凝視して固まっていることになんであるか理解できていない。

 とでも勘違いしたのか、ウリスはなにごとかを言っておにぎりを一口食べ、咀嚼し、お茶を飲んだ。

 で、大丈夫だよとでも言いたげな感じで微笑んでくる。

 これって後で自動記録を確認されて、罪に問われるんだろうか? まあ、既に加工してある天然物であるのなら腐敗が起きるはずだ。であるのなら、どちらであっても既に罪か。まあ、そもそも彼女が採ったということになるのだろうから、人類統治機構の法は適応されない。

 などと色々と言い訳を考えながら、視線はどうにも手元から離すことができなかった。

 自然と喉が鳴り、今まで感じたことがない欲求に襲われる。

 食べてみたい。

 今まで食事はただの栄養補給であり、正直、美味かろうと不味かろうとパパっと済ませていた。

 サポートナビ達からの注意されなければ食べないことだってあるぐらいだ。

 食への興味が薄いのだろうと勝手に思っていたが……単純に食欲を刺激されていなかったってだけなのかもしれない。

 ただただ生きるために、体調を整えるために、物を口に運び、咀嚼する。

 思い起こせばそんな食事が多かったような? 勿論、それはそれで美味しいと思ってはいたが……

 「=====? ======?」 

 なんかウリスから言われた。

 多分、食べないの? 冷めちゃうよ? って感じか?

 ……まあ、そもそも、民間人から好意で差し出された物を拒否するのはアースブレイドの一振りとして良くない行動だろう。

 というか、レーションを奪われちゃってるからな。食べなければ明日に響く。

 などと思ってゆっくり握り飯を顔に近付ける。

 嗅ぎなれない匂いが強くなり、開きかけた口が止まった。

 これがご飯の匂いということなのだろう。

 合成食品は過去に作られていた料理をテーマにして作られている。ウリスに奪われたレーションは牛丼だったからな。

 記憶が確かだったらそれもご飯が使われていたはずだ。

 が、同じような匂いを感じたことがない。

 まあ、色素と同様に匂い成分も入れられていないはずだから、当然といえば当然か。

 若干、緊張しているのだろうか?

 思わず苦笑してしまいながら、海苔が巻いてない頭頂部に少しだけ噛り付いてみる。

 …………柔らかいな。口の下で白米がばらけ、噛むたびに塩味だけじゃなく、甘みも出てきた。

 ただ、薄い。

 強化された身体だから感じられるほどのほんのりとした味だった。

 多分、強化手術も体内ナノマシンも入れてない一般人が食べたらなんも感じないじゃないだろうか?

 なるほど、これを普段から食べているから合成食品は受け付けられなかったのか。

 これに比べれば、シンプルな五味だけが固められた物のように感じられたかもしれない。

 ゆっくり食べ進めながら海苔まで到達すると、パリパリとした触感の変化と共に味が変化する。

 塩味がやや強くなり、鼻の奥から磯の香りがし始め、旨味も増す。

 匂い、見た目、色、食感、どれもが合成食品に比べて複雑だ。

 だからなのか、圧倒的に薄味に感じるのに、噛み締める度に味が変化し、匂いも変わり、唾液が妙に出る。

 思わず米の形がなくなるまで口を動かしてしまい、生理的反応で飲み込んでしまう。

 それがもったいなく感じられ、また味わいたいという欲求に駆られる。

 …………ああ、なるほど、これが美味しいという感覚なんだろう。

 そう思いながら、半分ぐらいまで食べ進めると、少し喉に詰まったような感覚に襲われた。

 粘度があるから唾液だけではするりと入ってこないということなのだろうか? 噛むたびに余計にまとわりつく力が増しているようにも感じるのは、少々不思議な感覚だ。合成食品では固形物だけ食べてもそんなことにはならないからな。

 ふとウリスを見ると、彼女はニ三口おにぎりを食べては、お茶を飲んでいるようだった。

 つまり、胃に落とし込むために飲料を使うわけか。

 なんとなくそう納得して、木のカップにも口を付けてみる。

 不快にならない緑の香りと共に流し込まれる液体が口の中にあるおにぎりの存在を消していく。

 しかし、それだけではなく、僅かな苦み・渋み・甘みが舌を襲い、なくなる共に口、喉、鼻孔を吹き抜ける爽やかさに驚きを感じた。

 合成飲料だと飲んだ後にまるでコーティングされているかのように味が残ることが多かったが、このお茶はそんなことがない。むしろ、飲み終わると僅かな間で存在が去っていく。

 まるで口の中がリセットされたかのような感覚を覚えながら、再びおにぎりを口にし、少し固まる。

 何故か先程より味を僅かに強く感じたからだ。

 米の甘味、まぶされている塩味、海苔の旨味、それらの存在感が増しているのは、お茶が持っていた相反する味のせいだろうか?

 なるほど、だとすると、この組み合わせはかなり計算された物なのかもしれない。

 これに比べると、それぞれの主張が強い合成食品は食べ合わせというのに向かないのかもしれないな。

 ふと思い出すのは、古参の戦士達が時々、「たまには普通の食事が食べたいな~」とかつぶやいていたことだ。

 技術の向上やサイテクノロジーを手に入れたことによって、百年以上現役で活躍している人達はいた。

 そんな人達が合成食品に対して文句を言っていたのを不思議に思っていたものだが…………今なら多少はわからなくもないな。ただ……

 脳内ディスプレイに映る今飲食した物の栄養価を確認してみる。

 一食あたりに必要な基準値をはるかに下回っていた。

 大量に食べれば補えなくはないだろうが、基本的に三食一本である今の地球人には無理な話だ。

 食べ終わった俺にウリスは気を利かしてかもう一個おにぎりを差し出してくれたが、既に俺のお腹は満腹なので首を横に振っておく。

 正直、既に身体は食べ過ぎを訴えている。

 俺が断ったことに彼女は不思議そうな顔をして、そのまま渡そうとしたおにぎりを食べ始めた。

 二個目を瞬く間に食べ、三個目まで食べ始める様子を見ながら、ちょいと引いてしまうことを避けられない。

 栄養価的に考えると、それぐらい食べないといけないのはわかるが……よくまあ入るな……これが彼女達にとって普通なのか? これはちょっと困ったことになったな。一食ぐらい不足しても問題ないだろうが、やっぱり合成食品を食べないといずれ体調を崩しかねない。

 ……後でこっそり食べるか。

 そう思いながら、若干無理矢理ながらお茶をすするのだった。

 美味いは美味いんだけどな……

なろうを読んでいると異世界物でよくグルメ展開を見掛けるのでちょいとチャレンジしていました。

個人的に食べ物なら食べ物をテーマにした作品の方が好みなので、さてうまく行くか? って感じでしたが、どうだったでしょうか?

所詮はおにぎりとお茶ですけど……自己評価だといまいち上手くいっているような感じはしないので、多分これ以降は書かないような気がしないでもないですかね? 一応、副次目的は達していますし。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ