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サムライドレスは異世界を駆ける  作者: 改樹考果
ファイル1『落ちた地球の刃』
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ログ7 『ゴブリンの巣』

 これは……なるほど夜行性なわけか。

 それを確認したのは、ウリスと名乗り合って直ぐだった。

 遠方への偵察を命じたアシストドローンの一機が、俺の進行予定上に更なるゴブリン達を確認した。

 それもこれまでとは比べ物にならないほどの数でだ。

 夜になって活発になったってことなんだろう。

 先へ先へと進むたびにその数は千、二千と増えていく。

 五十匹単位で徒党を組んでいたことから近くに巣でもあれば、即殲滅に行こうと思っていたが……これは流石に一人で正面からは無理だな。

 こうしている間も、ドローン達が確認したゴブリンが秒単位で増えていく。

 最終的にどれだけになるかって感じなのでため息を吐きたくなる。

 とはいえ、このまま放置するというわけにもいかない。

 この場には人類統治機構の保護下にいないエルフぽい二人がいる。

 男女二人いて片方が幼さを持っているわけだから、どっかに彼らのシェルターがあるのだろう。

 どれだけの規模あるのかわからないが、少なくとも大規模なのは全て機構の管理下に置かれている。

 何千何万と人が住めるようなのは既に消失している国家が事業として作った物だ。

 それらはしっかりと記録が残っているので、取り逃しということはまずない。

 となると百人以下か、個人か……ともかく、その程度であるのなら……

 チラッとウリスとウルグを見る。

 奴らが捜していたのは彼女達だった。

 そして、広範囲にばらけてまだ探しているということは、まだ他の仲間は見付かっていないってことだろう。

 まだ大丈夫。だが、時間の問題だろう。

 ウリスが見せた戦闘能力からしてそう簡単にやられはしないだろうが、ウルグの方は捕まって食われていたからな。

 数で押し切られたら小規模シェルター程度で、果たしてどれぐらいもつのやら。

 なにより、どう考えてもこの数は中位種がいる。

 ブレインリーパーが地球に送り込んでくる生物兵器達には基本的に繁殖能力はない。

 だが、俺達が中位種としている個体だけは別だった。

 近いところでいえば、蟻のような生態ってところか?

 つまり、女王である中位種が下位種・最下位種を生み出す。

 だから、奴を放置しておけば無尽蔵に生体兵器が増えていき、下手すれば防衛組織でも生存率十パーを切る場所になりかねない。

 ここが自然環境を再生し終わっている場所であり、また破壊されている痕跡が少ないことを加味すると……そんなところにシェルターね……いやいや、そこはまあ、とりあえず放置だ。結局、そこら辺はよく知らないからな。相棒ならわかんだろう。うん。まあ、ともかく、まだ中位種を倒せばなんとかなるぐらいの数だろう。

 せいぜい万単位か?

 そんなことを思いながらアシストドローンの視界を確認していると、植物が生い茂る光景に変化が現れた。

 段々と木々の間に隙間ができ始め、ほどなくして草すら残っていない土がむき出しの地面となる。

 奴らは生物兵器なのでなんでも食って己の糧とするが、特に好むのは有機物だ。

 だから、この光景は予想通りなのだが……なんでゴブリンしかいないんだろうな?

 アシストドローンの視界は、星の僅かな光でもよく見ることができる。

 わらわらといるのは目立つが、武器や防具の違いがあれど緑小人達しかいない。

 何度かブレインリーパーから人類の生存域を取り戻すために戦ったことがあるが、どれも遭遇した個体は多種多様だった。

 地域性や戦歴によって中位種から生み出される下位種・最下位種は大きく変わっていた。

 核攻撃の爪痕が強く残る北アメリカなら放射能をまき散らし、核攻撃すら行う個体がいた。

 ブリザードの吹き荒れる北極圏では、羽毛が生え冷気を攻撃手段とする個体もいた。

 灼熱の地獄と化していた中東では、熱を喰らい放出する個体もいた。

 見た目も能力も、昆虫的であること以外の共通点ぐらいしか違いがない物ばかりであり、同じ地域であってもそれはあった。

 そもそも、兵器として断じるに足りる特徴が存在しているのだ。

 生体弾を撃ち出す狙撃個体がいれば、刃を無数に生やした近接個体もいる。

 軍隊的で機能的であるが故に生体兵器として誰もが疑問もなく受け入れていたが……もし、仮に最初に見たのがこいつらだったのなら、果たしてそう思えたのだろうか?

 武器や格好が異なっていても人型で、外見的な特徴の違いはほぼない。

 そもそも昆虫的でもないんだよな……素直に考えるのなら、違うってことになるんだが……

 もう一度ちらっとウリスを見る。

 昏睡状態のウルグに心配そうに寄り添っていた。

 彼女も含め複数のサイ現象を操っていた様子は、あまりにも俺が知っているものと違う。

 ウリスも強化服は人と判断するが、容姿的に人類とはやや異なる。

 再生中のウルグの耳も上向きに尖り始めているので、これは腫瘍ではなく元々そういう形だった考えるべきだな。

 だとすると、いったい地球になにが起きているんだろうか?

 脳内ディスプレイで時間を確認してみる。

 あの作戦からまだ一日も経っていない。が、それはあくまで俺の時間だ。

 もしかしたら……

 ふと思い出すのはサポートナビ達に見せられた映画。

 宇宙飛行士がタイムスリップに巻き込まれて人類以外の生物が高度な社会を築いた未来の地球に降り立つ奴。

 転移ゲートは次元の壁を越えて何光年も離れた場所へ移動できる代物だから、それの暴走に巻き込まれたのなら時間移動もありえる気がする。そもそも俺がいたのは太陽系ではなく、敵星系だったからな。

 ただ、なにがどうなってこうなっているのかって感じもするしな……ん~

 情報が少な過ぎて思い付くのはどれも荒唐無稽って感じしかしない。やっぱり頭脳労働はむかんな。

 思わずため息を吐こうとした時、アシストドローンの前に巨大な岩山が現れた。

 あちらこちらに穴があり、そこからゴブリン達が活発に出入りしている。

 つまり、これが奴らの巣ってことか……大きいな。加えて、なかなかの数だ。

 これまで確認できた個体数は、八千百一体。

 まだまだ増えるだろうが、これなら中位種が投下されたばかりって感じか? 一チームいれば十分なんだが……

 アースブレイド的に大したことがないというのは、現状では喜ばしいんだか喜ばしくないんだか。

 どうしたって脅威の優先度がある。この程度なら気付いていても放って置かれる可能性がある。

 なによりあの作戦で、今地球には残されている戦力はほとんどない。

 脅威度がどれぐらいと捉えられているかで、救出に来る時間が変わるのはしょうがないよな。

 そう自分を納得させつつ、俺は眉間にしわを寄せた。

 思考を低い可能性に向けるより、現状でどの程度できるか・するべきかに向けようと思ったからだ。

 そのためにはよく観察しなくては……

 わらわらと地上で動き回っているゴブリン達。

 切り倒したであろう木々と集めたであろう石や岩などを使って斧のようなものを作ったり、草や動物を生のまま食べていたり、寝っ転がっている奴もいた。

 その集団の外側では、引っ切り無しに森へと出たり入ったりして猪やら兎やら木々やらを運び込んでいる様子も確認できる。

 装備は裸ゴブリンよりマシな草や皮を腰に巻いた程度で、それぞれの役割に必要な斧や弓矢などを持っているぐらいだが……というか、動物いたんだな……なるほど、こいつらに狩られているから見付からないわけか。

 この光景、地球環境再生計画に関わっている奴が見たら発狂しそうだ。

 そんなことを思いながら、アシストドローンを岩山の穴へと向けさせる。

 入る前から確認はしていたが、そこでは外にいる奴らより生体反応が小さい個体が無数にうごめいていた。

 ……ん? んん? これはまた……あ~……なるほど……だとすると、こいつらブレインリーパーじゃないな。

 アシストドローンからそう確信させる光景が送られてきた。

 明らかにメスなゴブリンがいて子供に乳をやったり腹を大きくしていたりしたのだ。

 ブレインリーパーの下位種・最下位種は、中位種からしか生まれない。

 同個体が存在しても、それ同士で繁殖することはなかった。そもそもオスメスなんてものもなかったしな。

 新種という可能性は完全に捨ててはいけないとは思うが、戦争が末期となっている段階で戦力として非効率な変更をするとは思えない。あいつらはとことんなまでに戦闘的だから。

 だとすると、核荒廃を生き残った野生動物?

 ……サポートナビ達に色々見させられたのに毒され過ぎたかな?

 わからんが、とりあえず、人類統治機構の管理外の生物であることも確定だ。

 ある意味では気が楽になった部分があるが、これはこれでちょっと困る。

 自然動物を殺すことはアースブレイドでも禁止されているからな。

 まあ、既に散々やっているのでもはや手遅れという感もあるし、なにより……

 岩穴の一番奥にいた外にいる個体より一際大きい二メートル大のゴブリンがいた。

 俺が倒した大型ゴブリンより一回り大きいそいつは、何故かなにも身に付けてはいなかった。

 一見すると裸ゴブリンの上位個体のような感じだが……そいつの近くには三人分の人骨が無造作に捨てられており、現在進行形で肉の付いた腕をしゃぶっているおまけ付きだ。

 他の個体は人肉を喰ってはいない。こいつだけがこの場ではそれを許されているという感じなのだろう。

 つまり、こいつがゴブリン達のトップ。

 ゴブリン王というべきだろうか?

 なんにせよ。人を喰らう存在は例え自然動物であっても駆除の対象だろう。

 アースブレイドの戦士として、見過ごせる存在ではない。

 ブレインリーパーの生体兵器ではなく、中位種もいないというのが確定したのは朗報だが……さて、どうするか……

 今なお発見した個体数が上がり続けているのを確認しつつ、俺はゴブリン殲滅のための思考にふけるのだった。

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