表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サムライドレスは異世界を駆ける  作者: 改樹考果
ファイル1『落ちた地球の刃』
6/56

ログ6 『ウリス』

 俺の前に現れた女性は、物語で描かれているようなエルフまんまな姿をしていた。

 周りが燃え上がっている木々の中で、無事な大樹の枝に立っているというのも重なってか妙に幻想的に見える。

 その金色の髪とそこから突き出る上に鋭く尖った耳は勿論、その容姿に語られるような美しさを感じられなくもないからな。

 透き通るような白い肌に、芸術品という言葉が過言ではないほど整った顔立ちとエメラルドのような緑の瞳。

 スレンダーな身体付きは……ふと思い出したが、無理やりやらされたゲームとかではグラマラスな身体付きをしていたような気がするな? いや、だからなんだといえばそうなんだが……別に俺自身はどっち派とかそういうのないし。だから毎度好みを聞くのを止めてくれ雷火。お前がそういう話をするたびに、周りの女性陣の目が怖くなるんだからな。

 とりあえず後で確認されるだろうから文句を自動記録に残すようにしつつ、彼女をもう少し探る。

 容姿に幼さが混じっているようにも感じられるので、俺と同じぐらいの十八歳か十六ぐらいぽいか? とはいえ、整形手術、いや、この場合は人体改造か? だった場合、その方法での予測はあんまりあてになんないか。特殊メイクという可能性もあるかもしれないが、少なくとも強化服はそれを探知していない。

 なんにせよ人類統治機構の庇護下にある人間という感じではない。

 そもそも、彼女が着ている服は禁則事項の塊だ。

 使える資源に限りがあることと、再生中の自然環境を守るために天然の素材を使った服は作られていない。

 仮にそんな物を作ったとしたら、処罰対象になる。

 だから、一般人は勿論、それなりに優遇されているアースブレイドでも持っているのはまずいない。

 あったとしてもそれは文化保護施設かデータベースの中だけだろう。

 なのに彼女の服は植物繊維で出来ていた。

 勝手に解析している強化服からの情報なので、こういうことに関しては信頼できる。

 しかし……生きているって表示されているのはどういうことだ?

 一見するとシャツやショートパンツのようなへそ出しルックだ。が、それらをよくよく見ると、ボタンが花になっていたり、柄がつたや葉になっている。

 つまり、そう育つように遺伝子改造をした植物ということになるが、ブレインリーパーではあるまいにそんなことをする理由がわからん。

 ナノマシンで構築されたボディスーツの方が効率的だし、常に清潔だ。

 各種機能で身体を守ってくれるおまけ付きだというのになんでわざわざ?

 そんな疑問に眉を顰めていると彼女はなにごとかを俺に言おうとし、急にふらりと身体を揺らした。

 こんなところで!?

 慌てて飛び出し、木の上から落ちている彼女をキャッチ。

 なるべく衝撃が伝わらないように着地。

 バックパックから緊急追加用治療用ナノマシンを取り出し、彼女の容態を確認する。

 足には矢が一本突き刺さっており、その部分が異様に腫れていた。

 顔色も急速に悪くなっており、辛そうな表情と共に息も荒くなる。

 矢に毒でも塗られていたのかもしれない。

 となるとアースブレイドではないよな。なのにサイパワーを使っていた?

 ……なんであれ、あのゴブリン弓兵の一撃を受け、逃げることが出来ずに応戦していたのは間違いないか。

 腰には植物性の弓があるしな。ん? ……矢筒がないな……

 矢が上から落ちてきても困るので上を確認しつつ、矢じりが刺さっている近くに筒を押し当てる。

 ナノマシンが異物を部分的に分解し、無理なく足から押し出し矢が地面に落ちた。

 ゴブリン達に喰われていた人と違って怪我はそこだけなので早いな。毒の分解もあるだろうからもうしばらく安静にする必要があるが……あれか?

 この子がいた木に矢が生えていた。

 数十本はあり、矢じりまであるのもあれば、矢羽までしかないのもある。

 サイ現象の中には物体を変化させるのもあった。

 廃ビルを弾丸に変化させ、地面を瞬く間に防壁と変化させたりなどなど。

 そういうありえない現象を色々と目撃したことがあるので、気を矢に変化させるなど別段驚くことではないが……

 「============================」 

 俺の腕の中でエルフぽい子が何事かをつぶやく。

 すると彼女の身体から緑色のサイオーラが淡く漏れ出し、直ぐに消えた。

 なんとなくそうじゃないかと思っていたが……やっぱりこの子もか。

 悪くなっていた顔色と息が瞬く間に良くなった。

 矢の強化系と創造系に、治癒系ときた。

 彼女も杖ゴブリンと同じように三つのサイ現象を操った。

 「ええっ!? はわわわ!?」

 毒の影響で意識がもうろうしていたのか、俺がお姫様抱っこしていることに今気付いたらしい。

 なにやら赤面して妙な悲鳴を上げ始めて、ちょっと暴れ始めた。

 強化服も来てない子が多少暴れようと落としはしないが……こうしてみると耳が長い以外は普通の女の子なんだがな。

 「=、=====! =、====~!」 

 下ろしてなのか、大丈夫ですから、なのか、それとも別の意味なのかさっぱりなに言っているかわからない。

 強化服のシステムが未知の言語であることを示している。

 ゴブリン達と違って言語としてしっかり聞こえるので、ある程度のデータを集めれば翻訳システムが働くようになりそうだが……人類統治機構外の人間、百年前に防衛組織が取りこぼした少数民族の生き残りか?

 百年前の初襲撃後。核兵器の影響から人類を守るために、結成したばかりのアースブレイドは世界中を駆けずり回った。

 これによって多くの生き残りを各地にある大規模シェルターへ避難させることができた。

 のだが、その際に文明の機器を持っていない少数民族が取り残され、今なお外で生きている。

 なんて話を聞いたことを思い出した。

 まあ、あくまで噂程度の信ぴょう性がない奴なんだがな。

 最も放射能の影響が強かった時代に仮に取り残されていたとしたら、まず生き残っていられるような環境ではなかったはずだ。

 なにより、その後も定期的にブレインリーパーが襲撃してきているからな。

 そのたびに小規模・個人シェルターで生き残っていた人達は刈られていたという話だ。

 なのであくまで噂は噂だと思っていたが……放射能の影響で奇形化したのだろうか? 耳がピンポイントで? よくわからないな……

 強化服のセンサーはこの子を人間だと認識していた。

 であるのなら、少なくとも防衛組織の一員として彼女を保護する義務が生じる。

 のだが、言葉で意思疎通ができないのは困ったな……

 俺が降ろすつもりがないことがわかったのか、暴れるのを止め恥ずかしそうに黙ってしまってるエルフぽい子。

 この反応はそれはそれで、どうしようか迷うしかない。

 俺の周りにこんな子はいなかったからな。全員戦士だから仕方がないが、強過ぎるんだよな。色んな意味で。いや、だから別にそれでどうこうとかないからなホント。

 ……まあ、とにかく、なんであってもやるべきことは変わらない。

 「移動する」

 伝わらないと分かってはいても、とりあえず一言断ってから木の上へとジャンプした。

 「==!? ==========!?」 

 なんか妙に驚いているが、木の上に着地したこと自体に驚いている感じじゃないな?

 信じられないものを見ているような目で俺を見ているし、やや混乱している感もある。

 木の上にいたのだから、これぐらい彼女も普通に出来るはず。

 よくわからない反応に困惑しつつ、別の木から別の木へと飛んでいく。

 「はわっ!? はわわわ!?」

 道具かなんか使って木の上に上がったのだろうか? なんか危ないって感じている時の反応に似ているような?

 強化系のサイ現象が使えるのに、この程度の飛び跳ねで怖がるね……というか、黙って欲しいな。新たな敵に見付からないように移動しているってのがわからないのだろうか? ん~言葉が通じないというのがこれほどもどかしいとは……

 普段自動翻訳に頼りっきりになっているから特に言語で困ったことはない。早くシステムが使えるようにならないものか。

 思わずため息が出そうになったが、この状況だとどう解釈されるかわからないのでぐっと堪えつつ救助者を隠している場所へ向かった。




 「ウルグ!?」

 大樹に到着すると同時に、救助者を見たエルフぽい娘がそう叫んだ。

 知り合い……か? まだ顔面が再生し切ってないのによくわかるな。

 そう思いつつ彼女を下すと、彼のところに駆け寄り同じ叫びを連呼した。

 どうやら救助者の名前らしい。

 俺はその様子を眺めならアシストドローン達からアサルトライフルを回収し、彼らを偵察任務に戻しておく。

 保護対象が二人になったことで今後はより周囲への警戒が必要になったからな。

 索敵範囲も広げる必要があるだろうし、なによりこれから完全に日が落ちてしまう。

 ここは森の中であるため既に肉眼で周囲を認識するには難しいぐらいになっている。

 俺は肉体を遺伝子改造やナノマシン補助などで強化しているので、ヘルメットをしていなくてもしっかり二人の姿を見ることができるのだが……彼女はどうやって認識しているんだろうな?

 今だって別になにかしらの光源があるわけでもない。

 空には星空が広がっているが、大樹の葉っぱでその僅かな光源すら防がれている。

 それなのに個人の特定か……

 なんとなく彼女の隣に立ちながらその横顔を見てみると、瞳に僅かなサイオーラが宿っていた。

 なるほどっと思いつつ、安易にサイ現象を使っている様子に違和感を覚える。

 この程度のサイパワーであればブレインリーパーに探知される可能性は低いが、不用意なおびき寄せを避けるために平時は極力使わないことが人類共通のルールになっている。

 そのためにアースブレイドでは、肉体改造や戦闘用強化服などの科学的な補助が充実しているわけだしな。

 それらがない彼女がサイ現象に頼るのは自然ちゃ自然だが……噂は真実だった?

 どうにも人類統治機構の保護下外で人が生き残っていたというのがしっくりこない。

 そんなことを思いながら、俺は彼女の手を掴む。

 「流石にそれは止めてくれ」

 何度も名を呼んでも起きない彼に業を煮やしたのか、体を揺すろうとしたからだ。

 目の前のことに必死だったからか、それとも俺の言葉がわからないからか、妙に驚いて固まっている彼女にちと迷う。

 治療中は安静にしていないと、変なエラーが出かねない。

 特に彼に使っているのは俺用だからな。外部的影響は極力抑えるべきだ。

 とはいえ、それをどう伝えたものか……ジェスチャーか?

 身振り手振りは文化ごとによって異なるため、防衛組織ではあまり多用しないようにしているんだがな。

 まあ、物は試しに、首を横に振って彼女の行為を否定してみる。

 意味が通じたのか、俺とウルグという人、そして自分の足を見た彼女は、頷いてくれた。

 どうやら首振りの意味は同じらしい。これで幾分か楽になったが……ん?

 「なにしてんだ?」

 俺がほっとして手を離すと、彼女はなにごとかをつぶやきウルグに手をかざし始める。

 すると緑色のサイオーラが彼に降り注ぎ、その体から黒い輝きが現れ吹き飛ばした。

 なんだ? なにかしらのサイ現象が掛っていたのか? だが、問題が起きていたようには感じられなかったが?

 困惑していると、彼女は俺にも手をかざしてきた。

 反射的に身構えそうになったが、逃げないでとでもいうような感じで首を横に振ったので堪える。

 本当に危害を加えようとしているのならわかるからな。

 少なくとも敵意は感じない。

 まあ、中にはそういうのを感じさせずに攻撃してくる奴はいるが、そういうのそういうのでどこかおかしいものだ。

 見た目以外は普通の少女? な子だし、過剰な警戒は保護対象に不安を与える。

 なんてことを考えながらなにをするか見守っていると、ウルグの時と同じように緑のサイオーラが注がれた。

 若干びっくりしたのは、俺の身体からも一瞬だけ黒い輝きが現れて消えたことだ。

 それと同時に僅かにあった違和感が一切なくなり、なんだか身体が軽くなったような気がした。

 ふと思い出すのは、ゴブリン達を殺す際に感じていた異変。

 あの時になにかを貰っていたってことか。

 消し飛ばされた黒い輝きはサイオーラだったようだから、未知のサイ現象ってところだろうが……なんの意図があるのか、なにが起きていたのかよくわからない。確かに意識を一瞬飛ばされたのは脅威ではあったが、戦闘中には起きなかったからな。

 ウルグも俺も特に致命的ななにかがあったというわけではない。

 身体機能も若干の違和感はあっても、気のせいかというレベルだ。

 少なくとも脳内ディスプレイにはなにかしらの異変が起きているとは表示されていなかったからな。

 とはいえ、それをわざわざサイパワーで除去したということは、なにかしらの危険があったということだろうか?

 それすら直接確認できないのはどうにも困った。

 俺がもうちょっと頭よかったり、知識を積んでいたらなんかしらの手段を思い付いたかもしれない。

 あ~少なくとも今はぱっと思い付く物はないな。

 そんなことを考えながら調子を確認するために身体を軽く動かしていると、エルフぽい彼女が自分を指差した。

 「ウリス」

 「ん?」

 次に倒れているウルグを指差す。

 「ウルグ」

 そして、俺を指差す。

 なるほど、彼女の名前は『ウリス』というのか……苗字をあえて言わないのは言葉が通じないことの配慮だろうか? それともない? ん~だとすると、俺も名前だけでいいか。正式な名乗りは長いし、人類統治機構の保護下にない人間には意味がないだろう。

 「ハヤテ」

 俺自身を指差しながら、名を名乗るとウリスは満面の笑みを浮かべた。

 「ウリス。ハヤテ。ウリス。ハヤテ――」

 なにが嬉しいのか俺と自分を交互に指差して名前を連呼し始める。

 さっきからちょっと思っていたが……見た目の割には幼い人だな……てっきり同じぐらいだと思っていたが、実は結構な年下なのだろうか?

 そんなことを思いながらニコニコと名前を繰り返すウリスを見る俺だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ