ログ24『接触へ』
翌日。
後もう少しで森から出られるというところまで辿り着いた。
が、その先にある砦の周りがなかなか壮観なことになっているので、のこのこと出て行っていいものかと躊躇ってしまう。
なので俺はステルス迷彩機能を起動して木の上から偵察。
ウリスと雷火は下で待機しながら、先行しているサポートドローンからの映像を見つつ会話していた。
「アースゴーレムだね」
「どう見ても人型な土の塊ですね」
「そうだね。あんまり凝った姿にするより、作り易くして消費を抑えているのかな?」
「動いているのにどこにも駆動部位がないのが不思議です。真実って文字はどこかに書いてないのでしょか?」
「真実? なにそれ?」
「古代ヘブライ語で……ああ、世界が違いますものね。そもそも実在していたかどうかもわかりませんし」
「んん?」
「こちらの話です」
「よくわからないけど、コアのことかな? これだとどの三元力が使われているかよくわからないけど、多分、あれは杖が核になってるんじゃないかな?」
「ウリスが持つ容量拡張ポーチのような三元力道具みたいなものってことですか?」
「そうだね。ああいう戦力を増強するための道具って昔からあるから。術式そのものを知らない人や三元法を扱う才能がない人でも、正しい力を込めて発動キーワードを唱えれば誰でも使える兵器って感じかな?」
「兵器ですか……人型にする意味がよくわかりませんね」
「人の形だと三元術で作り易いかららしいけど、雷火ちゃんのところは違うの?」
「人型というのは安定させるためになにかと面倒ですからね。動作プログラムは勿論、機体バランスなど。そもそも、人型の戦闘力は低いですからね」
「ん~?」
「まあ、人型がサイパワーもとい三元力と相性がいいのはこちらでもわかっていますよ。サムライドレスが人型なのもそれが理由ですから」
「人が生み出す三元力は、人の形に通しやすく影響を与えやすいからね」
「やはり人からというのが?」
「みたいだよ」
「だとすれば、人型以外からの三元力は、その形のではないといけないということなのでしょうか?」
「うん。動物とかだとそうなるみたい」
「だとすると、人用動物用と作る必要があると?」
「全部が全部、そうってわけでもないけどね」
などと下の方で空間ディスプレイを見ながら会話しているウリスと雷火を他所に、俺は砦の方に目を凝らす。
まあ、雷火達が見ている通りにサポートドローンを向かう先の上空に待機させているので、そんなことをしなくてもいいのだが、直接見ることによって俺でしか見えないものも見ることができるからな。
特に三元力に関しては現状区別がつかないが、己の視覚情報でしか得られない以上はどうしてもこうする必要がある。
ウリスに見て貰えばいいかもしれないが、強化されたこっちの視力よりは高くないみたいだからな。
「エルフより凄い視力って……」
と引きつった顔でさっき言われたのは記憶に新しい。
というかエルフって目がいいのか? イメージ的には草原に住んでる連中の方がよいイメージだが。
(生まれながらの狩人って設定が多い種族ですからね)
そういうのも影響を受けているってことか?
(どうなのでしょう? どこまでどう影響を受けているかというのも、流石によくわかりませんし。それに妖精族の身体は魂に大きく依存しているわけなのですから、そういう魂だってことかもしれませんし)
魂ね……魂とはなんだろうな?
(さあ? 向こうではサイ現象で実在は実証されてはいても、科学的な立証は出来ていませんでしたからね)
雷火の話で脳裏に浮かぶのは同じ七振りの一人。
グングニルか。
(ええ。あの人は百年の間に何度も生まれ変わっていますからね)
話しぶりだとそれ以前からって感じでもあるからな。
(本人談では昔はどこかの国の女王様だったとか)
流転女王とか二つ名持っていたものな。なんにせよ。本当にサイ現象はなんでもありだよな……
(そうですね。ところでどんな感じですか?)
一人一人は大したサイパワーを感じないが、ぽつりぽつりと俺ぐらいのが混じってるな。
(素の?)
ああ、勇者個体とかいうぐらいのは今のところいないようだ。だが、力が弱いからといってそれが強さには直結しないからな。
(そうですね。集団であるのなら特に油断はしてはいけませんね)
俺達アースブレイドでもブレインイーターでもそうだったが、サイ能力は使い方によって他者との連携が可能になる。
相性の問題もあるが、それを駆使すれば俺の二つ名である星切りすらできた。
(組織だっての行動ができるのであれば、あの騎士達もそれが可能と考えるべきですよね)
(私達封印の森のエルフも合同霊術とか共鳴霊術とかできるよ)
雷火との会話に飽きたのか、思考通信に混ざってくるウリス。
ということは、彼らもか?
(昔っからある技術だからね。国同士の戦いでは欠かせなかったりするらしいし。勿論、魔物の大群相手にもね)
なんだやっぱりこっちは人同士の戦いをやってるのか。
(こちらとは状況が違いますし)
だが、どう考えても魔物はブレインイーターと同等の脅威だろ?
(結界で量子通信が防がれていたことを考えるに、世界を一つにするほどのネットワークも機構もなさそうですからね)
(疾風の世界って統一されているの?)
別に統一されているわけじゃないが、一つにはなってるな。
(ん~?)
(通信網が出来上がっていて、国や違う地域にいても世界中で繋がっているのですよ。そのための機構もシステムもありますね。もっとも国や地域という概念は形骸化していますけど)
(ん? どういうこと? なんで?)
(説明してもいいですけど、長いですよ? それにこちらには関係ないことですし、興味あります?)
(そのうち行く場所だし、興味はあるよ)
(でしたら、もう少し落ち着ける場所で話した方がいいでしょう。最低でも彼らとの接触が終わってからでもよいでしょうし)
(ん~そうだね……あ、そうだ。すっかり忘れた)
(はい?)
(あのね。ウルグから外の人と接触したら、渡せって言われている手紙を預かってたんだ)
(親書ですか? ああ、考えてみればウリスしか外に出てないのですから、自ずと使者になりますものね。あまりそういう感じじゃないからすっかり失念していましたよ)
(ん~……なんか失礼なことを言ってない?)
とりあえず、あいつらにそれを渡せばいいのか?
(伝わればいいからね)
(国家元首に渡さなくてもいいのですか?)
(そこまでじゃなくてもいいって。国の上の人達とかって、特に人間の国は、色々とめんどくさいからできることなら会わなくていいらしいよ?)
なるほど、それはこっちでも変わらないわけか。所詮人は人の統治に向かんってことだろうな。
(またそういうことを言う……)
(ん~?)
ともかく、あの程度ならサムライドレスを着ていればなんとでもなる。
(そうですね。使者であるウリスを先頭に、彼女が操るゴーレム的な感じで付いてくことにしましょうか。それでいいですかウリス)
(うん。それでいいよ)
まあ、こっちが攻撃態勢入っていなければいきなり攻撃してくるということはないだろう。同じ人であるのなら。
(少なくとも千年前はそういう国じゃなかったはずだよ)
(その間に変わってなければいいのですけどね)
その時はその時さ。さして問題ない。
(早く冒険者になりたいから私としては大問題かな?)
(ウリスちゃんに同意です)
……ならちゃっちゃと接触するか。
(は~い)
(了解です)
こうして俺はサムライドレスを着こみ、ウリスを先頭に森の縁から出た。
向かうは防衛体制を築いている砦っと。




