ログ23『集まる騎士達』
のんびり行きたいというウリスと雷火の望み通りに森の縁に向けて移動している間、砦の方は更に慌ただしくなっていた。
森の周りは草原が広がっており、特に整備されている様子はない。
ただ砦の周りと森とは別方向にある道は石畳で覆われている。
石の産出量が多い地域ってことか? いや、三元法でって可能性もあるか……なんにせよ。その道を通って続々と騎士らしき者達が集まっている。
みな馬らしき動物に乗っているが、どの馬も長毛な上にその下からチラチラと鱗らしき物が見えたりしているな。
(こちらの動物は基本的に攻撃か防御に特化している感じですよね。姿形は向こうの動植物とさしてかわりませんけど、一部の変化が顕著ですよ)
やっぱり三元力の影響か?
(だと思います。通常の自然環境で進化したとしたら不自然ですからね。もっとも、魔物ほどわかりづらくないですが)
検知はできるってことか?
(ええ。しっかり物体として存在していますね。遺伝子もそうなるようになっているようですし。ただ、霊獣とされる個体までになると魔物と同じ感じになっていましたが)
霊獣も探知できないところがあったのか?
(ええ。遺伝子的にはそこまで大きくなるはずのない個体が大きくなっていましたし、物理的にはそこまでの攻撃力や防御力があるはずもない、そもそもどうやって動いているのかよくわからないのまでいましたからね。周囲を破壊しないだけで、それ以外は魔物と違いがあまりないように私的には見えますよ)
なるほど。それで、彼らが乗っている馬はどうなんだ?
(少なくとも霊獣までに至っている個体はないようですね)
正直、鱗が生えている馬なんて俺の感覚からすると霊獣って言ってもいい気がするんだがな?
(そうですか? 私からすると普通の動物範囲から離れているようには感じられませんよ)
見た目だけでは判断し辛いのは俺だけか?
(多分ですけど、直接見るのでしたら疾風の方がわかりやすいと思いますよ)
まあ、雷火の場合は間接的に三元力を計測しているだけだからな。
形状を見る限り霊獣は動植物からなっているようだが、どういう条件でなっているんだろうな?
(妖怪などは長い年月を生きるとなるみたいな話はありますよね。その種のボス的な振る舞いをしている様子も確認できていますし、要は動植物の上位種って考えるとその仮説は正しいように感じられますが……そこのところどうなのですかウリスちゃん?)
「そうだね。長生きした動物が霊獣化する場合もあるみたいだよ」
いつの間にか冒険者話を止めてこっちの思考会話を聞いていたらしいウリス。
「後は素質ある個体が大精霊から直接力を与えられた場合とか、私達エルフみたいに古代魔法文明の崩壊時に生まれた精霊の影響を受けてなったって個体もいるみたいかな?」
「なんで疑問形なんだ?」
「そこまで長生きしている個体って大体千年前の戦いで死んじゃってるって話だから」
「そういえば植物女がそんなことを言っていたな……人が意図的に霊獣を作り出すこととかはできないのか?」
「高度な霊術を使えばできるかもしれないけど、そういうことを試した人は聞いたことがないかな?」
「魔物と戦う戦力として考えた場合、霊獣は有益なんじゃないのか?」
「ん~そうでもないと思うよ。霊獣はその成り立ちから限りなく精霊に近いからね。思考も精霊寄りだし、精霊の言うことは聞きやすいけど、人の言うことはあんまり聞かないって話だよ。それに力が強くなればなるほど、精霊と同じで自我を持ち始めるから」
「なるほど。だとしたら動物のままでいてくれた方がなにかと都合がいいわけか」
「あ、でも、霊獣と心を通わせやすい人はいるらしいから、味方にできないってわけではないみたいだよ」
「霊獣使い! ロマンですね!」
雷火が興奮し始めるが、これにはウリスは乗らずに苦笑していた。
趣向が近いようで遠いところは遠いってところか?
しかしまあ、こうして会話している間も騎士が集まること集まること。
鱗が生えた馬に乗ったのが九百人。
元々砦にいたのが百人。
計千人が砦の周りに整列し、なにやら準備を始める。
砦の中から杖のような物を運び出し、舗装されていない突き刺し始める者達。
その杖に向かって手をかざし、動かない者達。
仮設テントを立てる者達。
あの一連の行動はなんなんだろうか? どう見ても雑用に見えるのだが、……戦でも始める感じだな。というか、騎士なのに従者とかいないのか? ああいう雑用ぽいことを甲冑姿でやるのは大変に見えるんだか。
(確かに騎士だけしかいませんね?)
普通、こういうのって従者は勿論、一般兵的なのもいるんじゃないか? こっちの世界の戦争形式がどうだかわからんが、今やってることは工兵の仕事だろ? それとも全員に装備を支給できるだけの力があるとか? だとしても、戦闘以外には向かない恰好だよな?
(どうなのでしょう? ちょっとウリスちゃんに見せますね)
「ん~? どうしたの?」
「いえ、これを見てくれますか?」
雷火は自身のホログラフィを解除して、代わりに砦の上空からの様子を空間ディスプレイで映し出した。
「見た目的に騎士だけしかいないように思えるのですけど、これってこの世界では一般的な光景なのでしょうか?」
「ん~……聞いていた話と違うかな?」
「ああいう装備って簡単に作れる物なのでしょうか?」
「形を真似するだけならできるだろうけど、それだけだとなにも意味ないからね。なにかしらの三元法を込めるのが普通だけど……千年も経ってるから色々と変わったとか?」
「だとすると、この手のはあまりウリスには頼れないな」
「うん。ごめんね」
「いや、いいさ……ところで、これってなにをしていると思う?」
「え? そりゃ、だって、疾風があんなに元気に暴れるから……」
「……まあ、そりゃそうだよな」
「色々とドカーンバカーンっとやりましたからね」
「うん。外の人達だって封印の森は警戒しているだろうし、あの砦だって監視のためにあるんじゃないかな? それにいきなり魔物が絶滅したら鋭い人なら結構離れていてもわかるものだよ」
確かに強い力の変化や放出は向こうでもかなり離れていても感じたことがあるな。
「まあ、別に隠す気もなかったからな。こうなっても仕方がないが……あそこの砦だけ準備が始まっているというのも気になるな」
実は何機かサポートドローンを森の周囲にある別の砦の近くにも飛ばしているのだが、そちらは特に人が集まっている様子はない。
見張り台の監視が増えているぐらいの変化はあるが。
「ん~精霊達が噂してそうだからね」
「また精霊か……」
「精霊術が使える人がいれば、小精霊から情報を集めるぐらいは簡単にできると思うよ。ただ、あの子達は幼い子供みたいだから、直接見た子じゃない限り正確な情報は伝わってないと思うな。ほら、今も、とっても強い人が、魔物を全部倒しちゃった人が森を出ようとしているよ~とか言ってるでしょ?」
「いや、聞こえないが」
「精霊は噂好きでもあるから、耳を傾けるといろんな話を聞けるの。まあ、属性によってはイタズラ好きなのもいるから、直接契約した個体以外の話は基本的に信用しない方がいいんだけどね。でも、森の魔物を殲滅したとかそういう大きな話とかは、色んな精霊が同じことを言うから、それでも信ぴょう性は上がっちゃうじゃないかな?」
「小精霊から正確な情報を期待できないのなら、上の精霊に聞いているんじゃないか?」
「できることはできるかもしれないけど、中精霊以上ってなるとあんまり数がいないからね。特に人の世界には滅多に現れないって話だよ。私みたいに契約していれば別だけど、あの場にいた中精霊以上が他の子に疾風の話をするかな?」
「どういことだ?」
「今、精霊達はどうやったら疾風にいい印象を持ってもらうかって必死だから」
「……そうか」
「あ、小精霊のことは責めないでね。さっきも言ったけど、幼い子供みたいなものだし、言って聞くような子達でもないから
」
「大精霊からでもか?」
「うん。下手したら吹き飛んじゃうし。流石に大精霊でもそんなことはできないよ」
「仲間には優しいわけか。まあ、正確な情報が伝わらないのなら別にいいが……そういえば、連絡手段とかないのか?」
「あることはあるけど、向こうがなにを使っているかわからないと無理かな?」
「千年前にそういう準備をしなかったのか?」
「急いで封印しなくちゃいけなかったらしいから、そこまでの準備はできてなかったみたい。浄化を失敗するかもしれないし、終わったら直接伝えに行けばいいだろうって」
「そりゃその方が確実だろうが……」
「だから、向こうから来てくれるのなら話が早くて助かるよ。面倒なことはちゃっちゃと済ませよ」
……千年の宿願がその程度の認識なのか? 外にとってもかなりの大ごとだよな?
(これ、ウリスだからなのでしょうか? それともエルフ全体の?)
わかんないが……そういえば特に遺骸の浄化が終わったことを伝えるようにウルグが言っているのを見てないな。
(私達の知らないところでウリスに頼んでいるのでは?)
だとしても、一緒に行動する俺にそのことを一言も言わないのはおかしくないか?
(……思ったより適当というか感覚・考え方の違いがあるのかもしれませんね)
そういう文化って可能性もあるが……若干、先行きが心配になってきたな。
向かう先の以外の心配ができたことにちょっとだけため息を吐く俺と雷火だった。




