ログ21『封印の森外区画魔物駆逐作戦開始と終了』
数えるのも面倒で、正確な数を雷火に聞くのも大して意味ないので省くが、勇者個体を絶滅させるまで翌日の昼まで掛かってしまった。
まあ、俺達がサムライドレスの調子を確かめながらとか余計なことをしなければもっと早かったんだろうが、森を大きく傷付けないように対ブレインリーパー用の兵装を使うのは難しい。
そもそもにおいて、向こうの地球は核荒廃で自然豊かな場所など残されていないんだ。
加えてなにかしらの手加減ができる相手でもない。
結果として攻撃力優先な武器兵器が開発されているとなれば、周囲に気を使うというのがそもそも無理ってことなんだろう。
(だからといって不可能というわけではないですけどね)
そうだな。少なくとも近接はいける。中距離遠距離はアルテミスか雷火のサポートがあればなんとかってところか?
(火力の調整もすればもっと安定するでしょう。あと、この後の化学兵器がしっかり効果を現すのであればもっと効率がよくなるでしょうね)
だな……さて、森の様子はどうだ?
俺達は今、森の上空で待機中だ。
ただし、今回は反重力スラスターを使ってない。
封印の森の結界に乗っかってるのだ。
物理的に反発するのなら、ただ乗るぐらいならいけるかと思ったらいけてしまった。
(魔物の出入りを防ぐためのものですからね。多少の重さなら支えるぐらいわけないということなのでしょう)
その割には汚れとかなにもないよな?
周囲を見回しても特になにかがあるようには見えない。
(ある程度の小さい物体であれば素通りするみたいですね。試しに葉っぱを落としてみましたけど、特に止まることなく下に落ちましたよ)
いつ実験したのか俺の脳内ディスプレイに葉を持ったサポートドローンが映る。
上空から落とされた数枚が回転しながら下へと落ち、推定結界範囲を示す薄い仮想壁へと到達。そのまま素通りする様子を見せると、場面が切り替わり今度は枝、次に小石といくつかのパターンを見せた。
(どれもが結界に防がれることはありませんでしたが、唯一の例外としてサムライドレスと同等の体積を持った岩は防がれました)
雷火がそう言うと共に、かなりの大きさの岩を三体のサポートドローンが運んで落とす映像が流れた。
確かに仮想壁の場所で止まりそのままそれにそって転がって行った。
なるほど、だから乗ることを進めたのか。
(反重力スラスターだけでは射撃の際に微妙なずれが生じますからね。今回使うのはガスグレネードですからそこまで正確性は必要ありませんが、使える土台があるのに無駄にエネルギーを使うのは効率がよくありませんし)
封印を土台ね……ファンタジー好きな癖して、結構無下にしてないか?
(ファンタジーが好きなわけじゃなく、人類の創造物が好きなだけですよ。なので、実際のファンタジーは直接的にはそれほどでも。あ、でも、冒険者になるのは楽しみにしていますよ)
さいで。
(……疾風は本当に興味がないのですね?)
冒険とか称して外宇宙に飛び出そうとしてブレインリーパーに襲われた馬鹿共とかを知ってるからな。
(まあ、向こうではそういうのしかいませんでしたからね)
別に冒険のなにがしを否定するわけじゃないが、わざわざなる必要があるのか? って気がどうしてもするな。ならないといけない場所や入れない遺跡でもあるってのなら別だが。
(どうなのでしょうね? 作品によってはそういうのもありますけど)
危険地帯を管理することなんてできるのか? そんなことできるのならさっさと潰してしまった方がいいだろうに。
(それが収入源や生活の基盤になっている場合もありますし。なによりそれができるほどの力がないこともありますし)
物語の話だろう?
(ですね。ですが、その中でも多くの思考を得て作り出された話もありますし、あながち全てを否定することにはならないのでは?)
まあ、そうかもしれないが……しかしまあ、いつまで待っていればいいんだろうな?
(頑張っているみたいですよ?)
脳内ディスプレイに複数の画面が立ち上げられ、各森で動いている霊獣と動物達の様子が映し出されていた。
額に突起物が生えた狼達がゴブリン達を追い立てている。
勇者個体を失っているせいか、立ち向かうのはあまりいない。
いたとしても狼達の中でひと際大きなのがあっさり撃退しているのだが。
(これが霊獣なのでしょうかね? 突起物がちょっとした小刀ぐらいありますよ)
倒されたゴブリンが浄化の時みたいに消滅している様子からして、そうなんだろうな。
このようにゴブリン対狼? のようなことが森の各地で起きている。
たれ耳の兎達がオークに追われるように誘導していれば、その中で妙に耳が大きい個体がその耳を刃のように鋭くさせ一部を切り裂いていた。
身体の各所に岩のような出来物がある猪がコボルトに突撃して弾き飛ばしていれば、反撃せんと射られた矢を硬質イボが全身にまで及んでる個体が防ぐ。
……少なくとも地球の生態系には過去を紐解いてもいないであろう動物達だよな。
(そうですね。霊獣が群れのボスになっているせいか、記録されている野生動物では見られない連携とかもしてますし)
精霊の指示もあるんじゃないか?
(かもしれませんが、サポートドローンの目を通すとそこまでは確認できませんからね)
俺の目でも似たようなものだと思うがな。
作戦開始前にちょっとだけウリスの下に立ち寄った時に、中精霊と契約したと紹介してくれた。
だが、緑のオーラ塊はなんとなく見えたが、それ以上は目を凝らしてもその姿は見えもしなかった。
とはいえ、あまり必要性も感じないので別にいいっちゃいいのだが。
(また大精霊が泣くのでは?)
どうでもいいな。
(現在の協力行為でも、準敵性存在からまだ脱するほどではない?)
ああ、油断はしないように。特にウリスの周辺の警戒は念入りにな。
(了解)
大精霊達は俺に対しては妙に下手に出ているが、ウリスに対してはどうでもいいという感じが常にあるからな。
路傍の小石的にうっかり蹴り飛ばすなんてこともやりかねない危うさを感じる。
例え奴らに味方する意思があったとしても、どこまでも自分本位であるのなら敵とさして変わらない。場合によっては敵より深刻な事態を引き起こすからな。
(とはいえ、今のところは問題ないわよ。ちょっと効率がよくなくってやきもきするけど)
そうだな……
森全体の地図を確認すると、指定した個所に魔物を現す赤い光点が集まりつつはある。
だが、そのスピードは各所によって大きく違い、場所によっては始まる前よりバラバラになっているところもあった。
この感じだと普通に霊獣対魔物をやってるところがないか?
(そうですね。血みどろな死闘を演じているところが何か所か)
ウリスは?
(グレネード弾をせっせと加工していますよ)
念のためというか森を出てからも使う場面があるだろうからってつもりで作って貰っているのにな。
(この分だと使う羽目になるかもしれませんね)
俺と雷火はため息を合わせて吐き、ウリスに通信を繋げた。
「ウリス今いいか?」
「疾風? なに? なにか問題でも起きた?」
「思ったより魔物の誘導が上手くいってない」
「え? そうなの? ……あ、目をそらされた」
「大精霊にか?」
ウリスのところに行った際には、既に植物女の姿はなくなり元の大樹に戻っていた。
なんでも顕現している間も力を使う上に、そこに縛られている分だけ霊獣への指示が難しくなるんだとか。
とはいえ、ウリスの目にはその姿が映ってるらしいんだが……
「任せておくのじゃとか言ってたんだよな?」
「ん~多分だけど、疾風が暴れすぎたんじゃないかな? 一部の魔物が恐慌状態になってて上手く誘導できないみたいだよ?」
確かに最初に勇者個体を殺した場所は上手くいっているが、後半の場所になればなるほど集まりが悪くなってるな。
(ブレインリーパーではこんなことはないのですけどね)
奴らのほとんどは生体兵器だったからな。ついいつもの感じでやってしまったが……なるほど、今後はここら辺をしっかり考えてやらないとな。まあ、とにかく。
「すまないが、今作って分も合わせて使用する前提で撃つ」
「え? これって旅用の予備じゃなかったの?」
「この分だと下手に長引かせると先に集まった方が瓦解しかねないからな。ある程度の誘導ができた時点でやらないとそれ以上の弾が必要になりかねない」
「ん~……頑張る」
「次はこうならないようにするさ」
「次あるの!?」
「そりゃ魔物は世にあふれているのだろ?」
「切りがないよ?」
「普通に繁殖しているのならいずれは絶滅するさ」
「人が入れないような場所にだって住んでるんだよ?」
「サムライドレスならいけると思うが?」
「それは確かにそんな風に飛べるんだったらいけるかもしれないけど……ええ?」
「ともかく……そろそろ始める」
既に両手に持っているレールガンライフル・ブレイクバーストを構える。
二つの銃口は既にグレネード弾用に拡張しており、上部下部にはグレネード弾が装填されているベルト式弾倉も装着済み。
「じゃあ、こっちも浄化加工を急ぐね」
「予定と違って、いっぺんに撃つわけじゃないからそんなに急がなくてもいいぞ」
そう言いながら、第一掃射。
見えない足場を使って一回転しながら上下並ぶように付いている二つのトリガーを交互に引く。
バシュポンバシュポンとリズミカルに撃ち出されるグレネード弾。
銃口から射出されると共に、弾頭に描かれているオーラの文字が現れる。
なんて書いてあるかわからない未知の文字だが、雷火が直接確認できないので霊法であることは間違いないのだろう。
今回は狙った場所に上から落とすようにするため、弾速は可能な限り落としてある。
放射線状に落ちていく弾丸は狙い違わずゴブリンの群れへと着弾した。
「ハッ! ジャックポット!」
強引に誘導されたため、なにやら揉めているような様子の奴らは地面当たると同時に弾けた弾丸に動きを止める。
僅かに遅れて逃げ出そうと四方に散り始めるが、着弾と同時に弾けた弾頭から吹き出したガスは一瞬で群れを覆い尽くす。
一歩二歩足を動かす度に、その体は力を失っていき、喉を抑えもがき苦しみながら前のめりに次々と倒れていく。
グレネード弾に使われているガスは、遺伝子反応型ナノマシンガスだ。
触れた個所から細胞に侵入し、特定の遺伝子パターンに反応してその活動を停止させていく。
だから最もガスが入り込みやすい身体から症状が出始め、空気と一緒に吸い込む喉、肺に到達し、窒息死させたというわけだ。
もっともそれだけでは蘇生する死なない奴もブレインリーパーにはいるので、身体の全細胞を徹底的に停止させるまでナノマシンは止まらないのだが……過剰だったか?
ゴブリンの群れが絶滅すると同時に、土にほとんど埋まっている弾頭を中心に死体が消失していく。
脳内ディスプレイに映るナノマシンの活動を見ると、全身に回り切る前に対象が消失していることを知らせている。
(ターゲットをブレインリーパーと同一視し過ぎましたね。この分なら入り込むナノマシンの数と種類を限定して効果範囲を更に広げることも可能かもしれません)
そうだな。今から調整可能なのは試してみよう。上手くすれば今手元にある分だけで終わらせられるかもしれない。
(了解。次の掃射までには)
こうして再調整を繰り返しながら俺は次々とグレネード弾を森へと撃ち込んでいった。
結果として日が暮れる頃には手持ちの分と僅かにウリスが新たに作った分を使うだけ全ての魔物を森から消滅させることができた。
急いで加工したウリスが若干不満そうだったが、まあ、何事も初めては予定通りにいかないものさ。




