ログ20『耳掛け型通信機01の自動記録一』
「え? 別にいいけど」
着用者の許可を得ましたので自動音声記録を開始します。
「雷火ちゃん……じゃないよね?」
はい。私はあなたの耳に掛けてある通信機01の汎用AIです。
「汎用えーあい? 雷火ちゃんみたいなもの? 魂を感じないし」
肯定します。ただし、こうしてあなたに声を掛けているのは簡易仮想人格であるため、あまり高度な返答はできませんので悪しからず。
「そうなんだ? よくわからないけど……」
あくまで機能の一つなので私のことはお気になさらず。ただ、自動的に記録する許可を得るために起動しただけなので。
「ん~?」
アースブレイドの行動全ては受け継がれなくてはいけないものなのです。例えそれが民間協力者であっても。
「別に恥ずかしいことを記録するってわけじゃないんだよね?」
肯定します。先程も言いましたが、これはあくまで自動記録であり、これの賢覧はあなたが許可した対象以外は見ることができません。またサポートナビが自動記録を行っている間は起動せず、あなたのプライベートに関することを記録することはありません。また必要であれば削除も可能ですのでご安心ください。
「うん。わかったよ」
「お主。先程からなにを一人で喋っておる?」
民間協力者ウリスに準敵性存在が話し掛けました。
「あのですね。この通信機ちゃんが話し掛けてきたんです。雷火ちゃんがここにいなくなったから自動記録を初めてもいいかって」
「記録とな? いや、それよりそのちっこいのが喋りおるのか? わらわにはなんも聞こえんぞ?」
「ん~っと確か、骨伝導とかいうので私だけにしか聞こえないようにしてるんですって」
「こつでんどう? なんぞそれは」
「さあ? 疾風の世界は勇者様の世界より大分未来の世界らしいですし、よくわからないことが多いんです」
「勇者の世界もよくわからんものがあったようじゃが、それより更にか? ……見当もつかんな。あの奇妙な鎧も魂を持っとらんのに喋っとるようじゃったし」
「雷火ちゃんですね」
「誰ぞそれは?」
「サムライドレスっていう鎧に宿ってる子です」
「わらわ達と同じようなものか?」
「らしいですよ」
「なんぞ向こうは精霊さえ作れるかえ? あな恐ろしや。しかし、愛し子は愛し子じゃし……もしや、それがいるからわらわはいらんのかえ?」
「単に敵だと思ってるだけじゃないですかね?」
「なんでそうなるのじゃ!」
「さっき疾風の口からそうなる理由が語られていたじゃないですか」
「納得できぬ。ただの戯れでわないか」
「ん~疾風は人を守ること使命にしている人達の一人みたいなんですよね。だから、いたずらに人の命を奪いかねない人以外の存在には厳しいじゃないですかね?」
「人など……」
「私達エルフはそういう精霊さん達の考え方に慣れてますけど、疾風は異世界の人ですからね」
「勇者はこんなことはなかったぞえ?」
「勇者様は物語とかで慣れていたみたいですからね。疾風はそういうのに慣れ親しんでない人ぽいですし。雷火ちゃんなら理解はあるかもしれませんけど、基本的に疾風に従うみたいですし」
「愛し子以外興味ないのう」
「そういうことを言ってるから嫌われるんですよ」
「わらわは嫌われとるのか!?」
「敵として認識されてるですから、嫌われてるより酷いかも?」
「なんと……なんと……」
「え? ……ん~他の精霊さん達も同じ印象かもしれませんね。氷の大精霊は特に攻撃しちゃってますし……ええ、止めるためというのは理解しているでしょうけど、それで守った相手が相手ですからね」
「な、なんじゃ! 全部わらわのせいだというのかえ!?」
「……」
「なんぞお前! 何故目をそらして黙る!?」
「……とりあえず、今みたいに少しずつ挽回していくしかないんじゃないですかね?」
「そう言われてもの。ここ以外に行かれると依り代になるものがないしの……そうじゃお前! わらわがお前と契約してやろう」
「え? 嫌ですけど?」
「なんじゃと!? わらわは大精霊じゃぞ!?」
「みんなに言われてるんです。お願いによる一時的な契約はいいけど、大精霊との本契約は向こうから持ち掛けられても断れって」
「なぜじゃ!?」
「ん~中精霊や小精霊と違って自我が強過ぎる上に、人よりバランスを重視することがあるから場合によっては一方的に反故されることがあるって聞きましたよ?」
「わらわ達は世界の礎ぞ? 人なんぞの契約よりバランスを優先するのは当然ぞ」
「力関係もよっぽど相性が良いかこっちが一方的に関与できない限り覆ることはないみたいですし。そういう意味では疾風の属性はうらやましいのかな?」
「大精霊じゃぞ? わらわにお願いすれば大抵のことはできるんじゃぞ?」
「森関係でですよね? それだったら自分でなんとかできますし」
「また同じようなことを愛し子がしようとしてもか?」
「今回は急だったからどうしようもなかったですけど、次は契約精霊を増やして対応するから大丈夫ですよ。疾風だって時間を掛ければなんとかなるみたいですし」
「確かにこうまであっさり勇者個体共を倒されておればの。種も次々ともがれていくし」
「さっきからとっかえひっかえサポートドローンってのが来てますものね。遠くから聞こえる音も途切れなくなってきましたし……無茶してないといいんだけど」
「しかし、明日わらわの有用性をしっかり証明すればあるいは?」
「……本当に自分勝手というか自己中心なんだな~」
「そうじゃ。わらわはわらわじゃぞ? 実に恐ろしき愛し子といえどきっと欲しがるはずじゃ。ん? なんじゃお前ら? ここはわらわの領域ぞ。勝手をしようとするでない。頼られておるのはわらわなのだからな」
「ん~……失敗だったかな。でも、一度は大精霊に会っておきたかったし」
溜め息を吐いた民間協力者ウリスは、明後日の方向に対して一人で言い争っている準敵性存在から離れて行きました。
「とりあえずこれからさっき協力してくれた中精霊さん達と契約できないか交渉するから、あんまり記録してても意味ないかもよ?」
自動記録なのでお気になさらず。こちらは勝手に記録するのみですので。
「ん~……うん。まあ、わかったよ」
その後、グレネード弾の加工を行った場所に戻った民間協力者ウリスは、木々に暫く話し掛けていました。
中精霊と呼ぶ存在は確認できませんでしたが、話し掛けた樹木が不自然な揺れ方をするのを確認。
サイ現象と認識し、より詳細を記録しています。それら情報は別途ファイルにて保存していますので、必要であれば賢覧してください。




