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サムライドレスは異世界を駆ける  作者: 改樹考果
ファイル3『異世界の旅路はエルフと共に』
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ログ17『世界を渡るということ』

 「一つ問題があるのじゃ」

 霊力問題も解決し、それでは実行は魔物達の活動が最も低くなる日中に行うことが決まった。

 が、そこに植物女が待ったをかけてきた。

 「内容いかんによっては聞く」

 「べ、別に生贄をよこせとかそいうことではないのじゃ。主達の願い通り、魔物達を指定した場所に誘導する。それはわかったのじゃ。わらわ達と配下にいる霊獣達でなんとかしよう。じゃが、難しい個体がいるのはわかって欲しいのじゃ」

 「難しい個体?」

 「多分、勇者個体だよ疾風」

 「勇者はわかるとして、個体?」

 ウリスの補足に俺は目を瞬かせる。

 「転移者や召喚者が勇者と呼ばれるってわけじゃないのか?」

 「違うよ。勇者っていうのは、その種族や国の中で特に優れた力を持った個体のことを差すの。だから、人でも、魔物でも、飛び抜けた力を持っていると勇者って呼ばれるの」

 「それはまた勇者の安売りにならないか?」

 「所詮は言葉だし。わかりやすくていいと思うけど?」

 「それはそうだが……こっちの世界の区別って大雑把だよな。魔王や精霊に小中大と付けているとか」

 「疾風の世界は違うの?」

 「俺の世界は、大体細かいな。敵であるブレインリーパーに対してだけでも、大区分として五つ。『最上位種』『上位種』『中位種』『下位種』『最下位種』。その中で小区分として十九に分けている。最上位種を『大元帥』『元帥』『大将』『中将』『少将』。上位種を『大佐』『中佐』『少佐』。中位種を『大尉』『中尉』『少尉』『准尉』。下位種を『曹長』『軍曹』『伍長』『兵長』。最下位種を『上等兵』『一等兵』『二等兵』。って感じにな。その基準で当てはめるのなら、サイパじゃなくって三元力……魔力を使ってないゴブリンは、最下位種の一等兵ぐらい。使っているのは下位種の兵長か伍長、下手をすれば軍曹・曹長ぐらいはいってもおかしくはなかったかな?」

 「ログで確認しましたが、確かにそれぐらいでしたね。ちなみにゴブリン幼王は大体中位種大尉か下手をすれば上位種少佐ぐらいには入ってそうでしたね」

 「だろ?」

 いつの間にか人格安定仮想ボディを俺達の近くに出していた雷火に頷いておくと、ウリスは若干目を白黒させ始める。

 「……えっと、多分だけど、その疾風が言っている魔力を使ってるゴブリンの何体かが勇者個体じゃないかな?」

 「杖持ちとかじゃなくてか?」

 「魔法使いは違うよ。あ、一体だけ魔法使いの勇者はいたかな?」

 「ああ、ウリスがゴブリンアサシンと戦っていた時に俺が相手をしていたシャーマンか。となるとナイトもそうか?」

 「うん。暗殺者も騎士も勇者個体だったと思う」

 「なるほど……確かにあいつらなら多少の誘導では引っかからなさそうだな。いや、それどころかガス効くか?」

 ふと思い出したのはゴブリン幼王がリーパーダイ1064で充満した中から出てきたことを考えれば、いくら特化させた化学兵器だとはいえ怪しくなる。

 「そもそもブレインリーパーにもサイ能力持ちにはただの化学兵器は効き目が薄かったですからね。全く無効されるなんてことは珍しくありませんでした。疾風だって無効化しようと思えばできますよね?」

 「そりゃやろうと思えばできるが……ホント、サイ現象ってのは厄介だな」

 チラッと植物女を見ると、申し訳なさそうな顔をされた。

 「愛し子たる主から力を貰えるというのにこの低落なのは許して欲しいのじゃ。わらわ達が力を振るえば倒せはするじゃろうが、ここら一帯の激変は避けられん」

 「さっき、神獣によって滅んでもいいと言ってなかったか?」

 「それは神獣の力による崩壊が世界の法則の延長線上にあるからじゃ。わらわ達が起こせる天変地異はそれそのものから生まれたが故に外れた力となりかねん」

 「……要は自分達で手を汚すのを本能的に嫌ってるってことか」

 「うっ! し、しかし、請われればせんというわけではないぞ? 愛し子が望むのであればこの地を自らの手で滅ぼさんことをいとわん」

 「別にそこまでやって欲しいとは思ってないんだがな……要は加減が利き難いわけか」

 「精霊の力って自然だからね。力が強ければ強いほど、一度変化が起き出すと止まらないし、影響が大きいんだよ」

 ウリスの補足に俺はため息を吐くしかない。

 「で、配下だという霊獣達の方はどうなんだ?」

 「負けはせんさ。じゃが、誘導に終始するとなれば勝てもせんじゃろう」

 などと言う植物女からウリスの方へ視線を向ける。

 「ん~封印の森の中には霊獣っていなかったんだよね。だから聞く話だと、自我が芽生えるほど長い時間生きた個体なら勇者個体並みかそれ以上になることもあるらしいけど。そういう霊獣って大精霊の言うことを聞かない場合があるって言ってたかな?」

 「そもそもこの森にはそこまで生きた霊獣はおらんのじゃ。そういう個体は千年前の戦いで皆死んどるからの」

 「そこから千年も経ってるのに新たな個体が生まれてないってことか?」

 「……その、ここは封印の森の影響で魔物が多いからの」

 「なるほど。激戦区だってわけか……ついでに、あんたらは放置していたと」

 「ち、違うのじゃ! これでもここはバランスが取れてるのじゃ」

 「まあ、あんたら基準じゃそれでいいんだろうが……」

 こうなってくるとこの森の近隣が心配になってくるな。

 (その点は大丈夫ですよ。森を抜けた先に砦らしき物が適度な間隔で建てられているのを確認しましたから)

 ん? アシストドローンからの情報か?

 (ええ。どこまで魔物が生息しているか確認も兼ねて)

 なるほど。一応、ここを警戒できるぐらいの数は住んでるわけか。

 (見張り台に人の姿も確認できましたから、それは間違いないですよ。いかにも西洋の騎士って感じでした!)

 はいはい。よかったね。

 (ぞんざい! もうこれだからサムライは)

 いや、お前の趣味に関してはとやかく言う気はないが、それで一緒に喜べってのは違うだろ? 大体、騎士のなにが嬉しいんだ? 向こうにもいただろうが騎士が。

 (疾風の地球にも騎士がいるの!? どんなの!?)

 ほら、ウリスが参戦してきたじゃないか。

 俺が黙ったことで気付いたのか、ウリスが耳飾りに手を当てて思考通信に入ってきた。まあ、前にいるので通信というより傍受って感じかもしれんが。

 (ウリスちゃん。アースブレイドの騎士はね。騎士であって、騎士じゃないのですよ)

 (どういうこと?)

 (私の機体であるサムライドレスを参考にして作られた亜種機といえるナイトドレスを着ているだけって感じですから)

 いや、騎士を自称している奴もいたし、それを言うのなら俺をお前がサムライと評するのも似たようなものだろう?

 (疾風はサムライですよ)

 (うん。疾風はサムライだね)

 なにそのシンクロ……まあ、雷火が言いたいのは、要するに映画とかで出てくるような格好のってことだろ?

 (そういうことです)

 千年も経って科学技術が発展してないのか?

 (さあ? 魔物探知を優先してよく調べていませんからね。流石に森全域の索敵となると、砦の詳細を調べる余裕はありませんよ。もっとも、そうは言っても少なくとも外見上は、目立った形で科学的な痕跡はありませんでしたが)

 (ウルグから聞いたことがあるけど、科学とかとはこの世界は相性が悪いみたいだよ。それがなくても、三元技術が発展してるし、火を起こすだけでも同じことをするのに科学だととても手間が掛かるんでしょ?)

 いや、そんなことは……あるのか雷火?

 (そうですね。なにもないところから一からとなると、便利になるまでかなりの労力が必要だと思います。それも知識がない状態からとなれば余計に)

 だが、召喚者や転移者から知識は手に入ってるんだろウリス?

 (ん~古代魔法文明の時なら頻繁に呼んでいたみたいだけど、重視していたのはその人達が手に入れたスキルだったみたいだし。知識があっても、文明レベル的にそれほどの価値を感じてなかったみたいだよ?)

 なるほど。同等の発展具合かそれより劣る文明の知識なんて、そりゃ必要としないよな。だが、それより以降はどうなんだ?

 (そんなに頻繁に呼ばれたりやってきたりするわけじゃないからね。いたとしてもよっぽどのことじゃないかい限り秘匿するだろうし。知識だけで再現できるほどじゃないでしょ? 科学って)

 どうだろうな? 程度の問題だろうが……

 ふと思うのは、ウリス達エルフの生活環境や戦闘技術だ。

 あれを基準に考えると、俺達の地球レベルならいざ知らず、それより前の時代とかから来た者の知識レベルでは必要とされる物があるように思えない。

 その代わり言語や食などの文化の影響はかなり受けているぽいが。というか、ちと気になったんだがウリス。

 (ん~?)

 古代魔法文明が召喚者や転移者が手に入れたスキルを重視していたとか言っていたが、手に入れたってのはどういうことだ?

 (異世界の人がこの世界というより、世界を渡るとね。スキルが手に入る場合があるの。それもとても強力なスキルがね。ウルグが言うには、この世界のスキル持ちって大半が召喚・転移・転生のどれかの子孫なんだって)

 なんでそんなことが起こるんだ? いや、その前に、その話だと俺もなにかしらのスキルを手に入れてるのか?

 (疾風は多分手に入れてないよ。元々三元力技術かスキルを持ってる人はスキルの素になっている世界の外にある魔力が自分に入ることを防いじゃうからね)

 そういえば魔力は世界の外から来ていると言っていたか。

 (うん。だから、三元法がまったくない世界か、身に付けてない状態で世界渡りをしてしまった人が、世界の外にある無尽蔵の魔力に触れることで、その人の中にある強い願望や欲望とかに魔力が反応してスキルになっちゃうの)

 それはまた……というか、それ危なくないか? 人の中にあるのは良い物ばかりじゃないだろ?

 (そうだね。人によっては生じたスキルに心身を侵されて魔物になっちゃう人もいるって話だよ。召喚者に関してはそれを防ぐ術式が入ってるって話だから、滅多にそういうことは起こらないし。起きたとしてもその場で処分しちゃうとかいう話だったかな)

 召喚兵器って感じだな。

 (実際、戦争とかに利用されていることが多かったみたいだから、そう呼ばれている時期があるって話だったかな。特に末期とかは)

 ろくでもないな……世界中にいる魔物の中には転移者のなれの果てとかもいるわけか。

 (どうだろう? そういう人って早々に魔王化するらしいから、残ってはいないんじゃないかな?)

 だといいんだがな……

 「あの、それでどうするのじゃ?」

 俺達が外見からは黙っていることにしびれを切らしたのか、植物女がおずおずと聞いてきた。

 そんなの答えは決まってる。

 「サムライドレスの完全修理も終わったことだし。俺が全て殺せばいいだけだろ?」

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