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サムライドレスは異世界を駆ける  作者: 改樹考果
ファイル3『異世界の旅路はエルフと共に』
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ログ15『一振りは愛し子』

 「ゆ、許して欲しいのじゃ~。本当はちょっとからかうだけのつもりだったのじゃ~。じゃが、こう、話していく内に段々とこの娘が妬ましくなってしまっての。ほんのお茶目なのじゃ。許してたもれ」

 などと植物女が言い出した時は雷人丸を抜いたろかと思ったが、目敏くその気配を感じたのかささっとウリスが柄の前に立ったためそれができなかった。

 「……森が無くなっても向こうの技術を使えばなんとかなるだろうがな? なあ雷火」

 「そうですね。疾風の言う通り、向こうは一時期地上から森どころかほとんどの生物が死滅した世界になっていましたが、百年でなんとか生存可能な状態にまで修復できていますよ」

 「酸素を作り出すナノマシンとか散布して森の代わりにするとかな」

 俺と雷火の会話にウリスは目を瞬かせて首を傾げた。

 「ん~よくわかんないけど、それって疾風達だけで出来るの?」

 「まあ、サムライドレス一機でやるとなると、百年では済まないかもしれないな」

 「ますます疾風の最終目的から遠ざかるよね? 本気で帰る気あるの? って思うよ」

 「百年やそこらで死ぬ身体じゃないんでな」

 「それは私も同じだけど……冒険者どころじゃなくなるのはちょっと」

 「ホント好きだな冒険者」

 「うん。夢だもの」

 「私もですよ疾風」

 「……まあ、しなくて済むことなら極力したくないしな。必要なら躊躇わないが」

 未だに土下座状態の植物女をサムライドレス越しに睨み付ける。

 視線や意志というのにはサイパワーがのりやすい。

 そういう経験則があるので、一睨みであろうとそれを感じ取れる奴には効果があるのはこちらでも同じだろう。

 実際、植物女だけじゃなく、周りにある虹色のオーラも震えている様子が見える。

 しかしまあ、なんでまたこうも反応するんだろうな?

 今の俺はサムライドレスを着たままだが、プロメテウスは流石に切っていた。

 三元力を乗せない攻撃は、三元力の前にあっさり防がれる。

 それはこいつらであっても同じであることは、ブレイクバーストで実証済みだ。

 「そう敵意を向けんでおくれ。万物の愛し子たる主にそんなものを向けられてはたまった物ではないのじゃ」

 などと言う植物女だが……さっきも愛し子とか言ってたな?

 「万物って……俺の属性のことだよな?」

 「うん。気力の方はなんとなくだったけど、疾風の霊力も魔力も万物だね」

 「三元力ごとに属性って違うのか?」

 「大体みんなバラバラかな? 魔力は火なのに、霊力は水で、気力は風とか。ほら、言ったよね? 三元力って三すくみだって」

 「なるほど。人でもそれは当てはまるわけか」

 「そ、だから私も、霊力は森で、気力は大地で、魔力は大気なんだよ」

 「つまり、全部同じな俺は珍しい部類なわけか」

 「そういうことだね」

 「で、なんで愛し子なんて言われるんだ?」

 「精霊が物凄く好きな相手に対して使う言葉だね」

 「物凄く好き? こっちは全く見えていないのにか?」

 「ん~相手のことはあんまり関係ないかな? 精霊は基本的に勝手で直情的だから、好意を抱いた相手には例えその人がどう思おうとどうであろうと勝手に自分なりの親切を働いたりするし」

 「……それって場合によってはかなり迷惑にならないか?」

 「うん。存在の仕方が違うから、大体迷惑になるよ」

 「で、俺はその迷惑な好意を向けられているわけか」

 「万物属性の霊力はあらゆる精霊に好かれやすいからね」

 ……嬉しくないな。

 そう思ったとたん、何故か植物女の身体が不自然に揺れ出した。

 「なっ! 止めてたもれ! わらわが悪かったのじゃ! 調子に乗ってしまって悪かったのじゃ! 止めてたもれ!」

 なんか集団リンチでも喰らっているみたいな感じだな。

 「うわ~ここに集まった大精霊達から蹴られたりなじられたりしているよ」

 ああ、やっぱりそうなのか……ん?

 「もしかして、俺が思っていることって割と駄々洩れなのか?」

 「ん~好かれるってことは干渉しやすいってことだからね」

 「そうか……で、大体予想は付くが、なんでリンチされているんだ?」

 「今回のことで疾風の精霊に対する印象が悪くなったことを森の大精霊のせいだ! って怒ってるみたい」

 「まあ、少なくとも必要にならない限り見えなくてもいいな」

 「うわ……すごくショックを受けてるよ」

 植物女の揺れが収まったかと思ったら、心なしか虹色のオーラがどんよりしたように感じられる。

 愛し子ね……ピンとこないが、なんかめそめそと植物女が泣き始めるのはどうなのだろう? まあ、だからといって警戒を緩める気はないが。俺に好意的であっても、他に敵対的ないし危険性があるのなら情にほだされるなんてことはあってはいけない。

そもそも、これが正しく人と同じ情であるかどうかもよくわからんしな。

 「なんにせよ。これに手伝わせるのは賛成しかねる」

 「大精霊にこれって……」

 「信頼がない相手であればこれで十分だよ」

 ますます衝撃を受けた感じの植物女と虹色サイオーラだが、無視。

 「でも、じゃあ、どうするの?」

 「手段を選ぶ必要がなくなったからな。森ごと殲滅する」

 「それって神獣と変わらなくない?」

 「別に大陸ごと滅ぼすってわけでもないし、そこまでする必要もないだろ?」

 「できなくはないんだね」

 「現状の装備と環境では被害のコントロールができない手段だから使わないさ。無差別破壊を望んでいるわけではないしな。それに自然環境の再生技術ならこっちにもある上に、実績もある」

 「だから、それって時間かかるよね?」

 「どこまで回復させるかにもよるが、まあ、数年ぐらい掛ければこの環境であれば放って置いても大丈夫なんじゃないか?」

 「疾風達の再生技術がどれぐらいかわ――」

 不意にウリスが言葉を止めて、植物女。正確にはその上の虹色オーラの方を見た。

 「…………ん~はい。一応聞いてみます。どうすれば許してもらえるのか? だって」

 俺が見えないから通訳をお願いされたわけか。

 「許す許さないの問題ではないな。許して貰う気があろうと、精霊は在り方からして人と共にあるのが危険な存在だと認識しているわけだからな」

 「大精霊はそうかもしれないけど、他の子達はそうでもないよ?」

 「それは精霊に近い位置にウリスがいるからだろ? そういうウリスでさえ、大精霊は生贄だとか言い出す始末だ」

 「こっちの要求がそれだけ大きかったってことだよ」

 「要求している側だからその費用を支払うのはわかるが、大と付くのなら俺達より霊力を持ってるんじゃないのか?」

 「精霊は肉体がないから、その分だけ霊力が失われるのは危険なの。その魂を守るために霊力で身体を作ってると思ってくれればいいかな? だから無尽蔵に使えるってわけでもないんだよ」

 「巨大な雹を落としたのにか?」

 「それぐらいなら……え? あ、はい。あれは別に疾風を狙ったんじゃなくって、森の大精霊を助けようとしたんだって」

 「まあ、落下位置は銃身だったからな。それはわかる」

 だからと言って評価が変わるわけではないんだがな。

 「とにかく、こっちでお願いするわけだから、その対価を用意するのは当然だよね?」

 「対価ね……」

 向こうでは無償の奉仕とかそういうのはなかったが、だからといって対価を要求して動くということは滅多になかった。

 そもそも、そういう仕組みは前時代的、ブレインリーパーが襲来する前の社会で成立していたものだ。

 今の地球人類社会は、義務と意思で成り立っているといっても過言じゃない。

 もっとも全てがそうだというわけでもなく、前時代の文化も残っているので何かを成すのにそれに見合った対価を用意するということ自体に理解がないわけじゃないが……なんにせよ。考えなくてはいけないな。準敵性存在だからと言って、取引をしないというのは違うだろう。

 成すべきことをするためには、例え敵であっても利用しなくてはいけない。

 優先順位は明確な敵性存在の排除だからな。

 「わかった。とにかくその対価を用意すれば、魔物殲滅に協力してくれるわけだな」

 「も、勿論じゃとも!」

 ウリスに聞いたはずが、植物女が返答したが……まあ、いい。

 「ウリス。さっき俺の三元力が増加する時があるって言ったよな? それって気力だけじゃなく、霊力も増えているってことか?」

 「うん。そうだよ」

 「なら、その時の俺の霊力では不足か?」

 「十分過ぎるほどなのじゃ!」

 なんか植物女のテンションが妙に上がってないか?

 「言っておくが、契約するとかそういうわけじゃないからな? あくまで今回の分だけ霊力を提供するってだけの話だ」

 「わ、わかっておる。お主の信頼を得られるようにしっかり働くのじゃ」

 信頼もなにもそもそもにおいて信用できない性質であるのなら、どうしたって俺が精霊に好意を抱くとは思えないんだがな。

 そう思った俺だが、サイパワーが体外に漏れ出さないように意識したおかげか精霊達にそれが伝わっている様子はなかった。

 なんにせよ利用できるのなら利用するだけだ。

 (黒いわね疾風)

 反対か?

 (いいえ。潜在的に人にあだなす可能性がある存在に対して遠慮など無用ですよ)

 だよな。

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