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サムライドレスは異世界を駆ける  作者: 改樹考果
ファイル3『異世界の旅路はエルフと共に』
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ログ13『森の大精霊』

 葉や枝で頭部や手が、顔やドレスが幹で作れられた巨大な植物女。

 (基本、こういうのは美人ですよね)

 その基本はわからんが、雷火の評価は支持できなくもない。

 ただ、遠目から見れば美女に見えるかもしれないが、細部をよく見れば樹木で出来たその体に人外感を強く感じる。

 (人外萌えってジャンルがありまして)

 雷火。今その話関係あるか?

 暴走しそうな相棒を思考通信で止めている間、植物女はウリスに視線を向けた。

 「おや? 大魔王の遺骸を封じた一族かえ?」

 微笑む植物女に、ウリスは頷いて見せる。

 「はい。フルギオルの森が子ウリスと申します」

 「そうかそうか。そなたがここにおるということは魔王の遺骸は浄化できたのかえ?」

 「遺骸は消滅しました。後は残った瘴気の浄化だけなので数年で終わると思います」

 「そうかえそうかえ。それは良いことを聞いた。どれわらわから皆に伝えておこう。そのつもりで参ったのでおじゃろ?」

 「ええ。本当はもう少し後でと思っていたのですが、しなければならないお願いができまして」

 なんかウリスの口調がいつもと違うな。

 (なにか緊張しているみたいね。生体反応が急激に高まったことからして、今の状況って彼女にとって予想外なんじゃないかしら?)

 確かに植物女が現れた瞬間、ウリスは驚いている気配があった。

 そんなことを思っていると、当の本人がやや躊躇いがちに口を開く。

 「あの、まだ私が呼び掛けていないはずなのですが、なぜお出で頂けたのでしょうか?」

 「ん? それは……ほれ、この木は若いとはいえこの森の主じゃからな。わらわと繋がっとる。そこな男のようなのが近付けば興味を覚えんわけがなかろうに」

 俺へと視線を向け、枝葉の手を口に当てて高らかに笑う植物女。

 「疾風の三元力に惹かれたんですか?」

 「そうじゃ」

 若干驚いたように俺の方へ振り返るウリスだが、そう見られてもこっちとしてはなんのこっちゃかわからない。

 向こうでも同じような体験をしていたのなら別だろうが、生憎とこういう現象と出会ったことはなかった。

 (向こうに残されている自然環境はほぼありませんからね。そもそも精霊がいない可能性もありますし)

 そういうのがいるって話はよくあるよな?

 (伝承や伝説などでは多く語られていますね。私が好む人が作る物語もそれらが大本になっているでしょうし)

 ならいるのか?

 (どうなのでしょう? 私達は確認出来てはいませんが、一振り達の中には精霊がとか主張している人もいたようですよ)

 そうなのか? 会ったことはないな。

 (それほど多くはおりませんでしたから。疾風と並ぶほどの実力者がいなかったというのもありますけど)

 なるほど。実力差が開いていれば一緒に作戦行動はまず取らないからな……しかし、これが森の大精霊ね。

 存在としては確かに普通ではない。

 感じるサイパワーもとい三元力も確かに里で見たエルフ達や、アースブレイドで見てきたどの仲間達より強く感じる。

 が、脅威か? というとそうでもない。

 敵意がないということもあるだろうが、力としては小魔王の方が強かったはずだ。

 なので、若干ウリスが怯えている感じがするのが解せないところか。

 「ふむ。なんぞそこな男は今のわらわをわらわの全てだと思っているのかえ?」

 面白い物を見るかのようにころころと笑う植物女だが……なるほど、精神感応もできる口か。

 「む? そう警戒せんでもなにもせんわ」

 精神感応ができるタイプのサイ能力者は、その者から漏れ出るサイパワーから心を読み取ったり送ったりしているらしい。

 そのため、それを抑えることができればある程度は考えていることを知られるのを防ぐことができる。

 もっとも高位の能力者となるとそれをしてもダメな場合もあるので、精神攻撃とかされん限りは普段はあんまり気にしないようにしていた。

 出ないように抑えるというのは、どうやら自然なことじゃないらしいからな。疲れはしないが、戦闘じゃない時まで気を張り続けるのは周りに対しても良くない。そういうのに聡い仲間しかいなかったし。

 なんにせよ。目の前にいるのまでそういう配慮は必要ないだろう。

 「ん? なんぞお前。けったいな恰好をしておるな? 纏う気配もこの世界の者とは思えん。異世界の住人かえ?」

 「はい。疾風は異世界から落ちてきたみたいです。だから、この世界にはない力を持ってて――」

 俺が無言でいることへのフォローなのか、ウリスが代わりに答える。

 あんまりこっちの情報は出したくないんだけどな。

 素知らぬ顔で恰好など口にしているが、こいつから発せられる気配と森の中で向けられていたプレッシャーは同じだ。

 それがわからないと高を括っているのか、それともわかった上でそうしているのか。

 どちらにせよ良い印象を受けない。

 (レベルは?)

 準警戒。

 (了解)

 俺の後ろにいるサムライドレスがいつでも着込めるように準備を終えている間、ウリスの方は交渉に移っていた。

 「――そんなわけで、疾風はこの森から魔物を一掃したいみたいなのです」

 「ほほう。それは殊勝な心掛けじゃ。今の世、そこまでなそうとする者はまずおらんでな」

 「そうなのですか?」

 「そうじゃ。詳しいことは知らんが、ある時から急に魔物を根絶やしにしなくなったの。まあ、バランスがかえって取れとるゆえにわらわ達からしてみればその方が良いがな。ほっほっほ」

 「魔物は世界の共通の敵ですよね?」

 「それは人の考えじゃろ? わらわは興味ないの。この世は調和が全てじゃ」

 なるほど、これがバランスさえ取れていれば気にしないってスタンスの奴か。それでも呼びかければ応えてくれるとウリスは言っていたが、果たしてこいつはどうなんだろうな?

 「ですので、その調和のために、手伝いのお願いをしたいのです」

 「話を聞いておったかの? わらわはバランスさえ取れておれば魔物であろうと人であろうとどちらであってもかまわんのじゃ。そんなわらわがなぜそんな面倒なことをせねばならん?」

 ウリスに対して嘲るようにクスクスと笑う様子は、とても好感が抱ける感じではないな。映画や漫画で見たことはあるが、この手のは向こうではいなかったタイプだ。

 (少なくともアースブレイド内にはいなかったですね)

 他人を嘲るようなのが一振りになるわけないからな。架空作品での知識しかないが、こういうのは信頼できるか?

 (わざとそういうのを見せて相手を図っているという場合もありますかね?)

 とてもそういう風には見えないんだが。

 (人ではありませんし。同じ尺度で測るのは止した方がいいかもしれません)

 そうだな。警戒で。

 (了解)

 「魔物を放って置く危険性はわかっていますよね?」

 「当たり前じゃ。しかし、今は問題なかろう? 人もそうしとる」

 「今の外の人達がどうしてそうしなくなったのかはわかりませんけど、そんなことをし続ければここに魔王が発生しますよ?」

 「その時には倒せばよかろうに」

 「今の時代に勇者がいるのですか?」

 「知らん」

 「それならどうやって?」

 「神獣共に任せればよかろう」

 「森どころかここが消滅しますよ!?」

 「ほっほっほ。世界が滅びなければいずれ蘇るわ。なによりここはわらわ達の一部にしか過ぎん」

 「精霊はそうかもしれませんけど、森は? ここに住んでいる動物や植物達は?」

 「世界のために滅ぶのじゃ。名誉なことじゃろ?」

 「そんなこと思える子達ではないですよね?」

 「ならば気にせんでよかろう」

 「そ……元に戻るのに、どれだけの年月が必要だと」

 「ふむ。まあ、直ぐには治らんじゃろうな。しかし、支障はなかろう? 世界は残る」

 「世界が残っても人や動植物達がいなければ維持できなくなりますよ!?」

 「ほっほっほ。思い上がるな人間。もはやこの世界は人などいなくても維持できるまでになっておるわ」

 要警戒。

 (了解)

 というか、もはやってあたりの話はなんだ?

 (量子力学の観測的な話じゃないですかね? 具体的な理論語ります?)

 そっちの話は興味ないな。

 (ですよね)

 「私達以外では世界の見方が違い過ぎます。変化は避けられなくなりますよ?」

 「我らによる変化じゃ。より過ごしやすくなるじゃろうよ」

 「大きな変化に耐えられるほどの世界強度が残されていると?」

 「世界強度? 知らんな」

 「ただでさえ壊れ、幹世界から大きく離れてしまっているこの枝世界を更に先細らせるつもりなのですか?」

 「だからなんじゃ?」

 「細くなり、栄養も行き届かなくなって枯れた枝が、少しの風で折れてしまうのは森の大精霊であるあなたが知らないはずはありませんよね?」

 「そうじゃな。だが、それは木の話であろう?」

 「世界も同じです。既に大きな変化を受け入れてしまっている以上、急激な強度変化は危険過ぎます」

 「所詮、人の戯言じゃろうが。それともなにかえ? それをお前は証明できるのかえ?」

 「それは……」

 口をつぐむウリスに、植物女はあざけりの笑みを浮かべる。

 俺の位置からだとウリスの表情は見えないが、困っている気配は感じられた。

 ふむ……つまり、今いる存在が世界を安定させていて、それらのなんかしらが絶滅した場合、バランスが崩れて一気に崩壊するってことか? そんなことありえるのか?

 (どうなのでしょう? 誰も人がいなくなった後の世界など知らないわけですし。それは私達よりサイ技術が進んでいるこの世界でも同様ってことなのでしょうね。ウリスちゃんの様子からすると)

 だが、人がいない時代が存在していたのは証明されているよな?

 (後付けかもしれませんよ? そういう世界であると強度強化のために世界が作り出した)

 なんとまあ、ファンタジーな話だな。

 (科学的な証明であろうと、ある一点からの側面に過ぎませんからね。立証はできても、それを覆す向きがあるのならなにもかもがありえてしまうでしょう)

 科学技術の粋を集めて生まれたサポートナビのお前がそれを言うか。

 (科学とて万能までは程遠いというのを疾風達が証明していますからね)

 まあ、現にサイ現象やら架空だと思われていた異世界も存在しているわけだしな。単にウリス達がそうだと信じているってだけかもしれし。

 (なにを根拠にしているんでしょうね? 宗教なのでしょうか?)

 宗教ね……俺には縁遠い話だ。

 神やらなんやらに祈る暇があるのなら、己の腕を磨き、一体でも敵を倒した方が幾分か――

 「そうじゃ。こうしようではないかその娘子。生贄となれ」

 「え?」

 「さすれば主の魂を使って手伝ってやろう」

 その言葉と共に俺に向けて深い笑みを向け、強い殺意をウリスに――

 敵性存在と認定。

 (了解)

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