ログ12『大精霊の下へ』
ウリス曰く。精霊にも大中小の区分があるらしい。
小精霊だと、明確な意思は存在せず、元となった現象や法則に寄り添って存在しているだけ。
精霊術は基本的にその小精霊に霊力を分け与えて霊法を起こすのだとか。
次に中精霊は確固たる意思を持ち、コミュニケーションも可能で、ある程度は元となった現象や法則から離れても行動できるらしい。
精霊術を使える者の中にはそれら中精霊と契約し、常に一緒に行動をするのもいるとか。
そうすることで、小精霊だけでは起こせないより強力な霊法を起こせるとのこと。
ちなみにウリスはまだ中精霊とは契約していないらしい。
封印の森内は、大魔王の遺骸から発せられる瘴気によって精霊達にとっては生き辛い環境であるため、里のエルフ達の一部が契約している中精霊とその庇護下にある小精霊達しかいなかったそうだ。
そして、彼女が協力を仰ぐと言った大精霊。
世界の裏側に存在し、現象や法則ではなくその概念によって生まれた世界のそれそのものと同意義な存在らしい。
火であれば火の大精霊が存在し、顕現すればその一帯が火へと変わってしまうほどの影響力がある。
それ故に普段は世界の裏側に存在し、常に世界の動向を見守りバランスが崩れないように中小の精霊達に働きかけているんだとか。
そんな彼ら彼女らが姿を現すのは、魔物などにより大規模な破壊が起き、世界が崩壊しないようにする時ぐらいらしく。普通は接触すらできないんだとか。
で、ウリスは自慢げに私なら呼び出すことができるよとのこと。
なんでもウルグ達からそれぐらいの霊術を身に付けているとお墨付きを貰っているらしいんだが……聞く限りだと実戦で試してないようなので大丈夫なのかと心配になる。
当の本人は呑気に鼻歌を歌いながらどこぞへと向かっているので、俺と雷火は大人しく付いていくしかない。
どこに向かっているのか、そもそも呼び出すのだからどこでもいいんじゃないかと最初は思ったが……
(疾風気付いています? 向かっている先に魔物の反応がどんどん減っていることに)
ああ。それにサイパワーがどんどん強まっているのを感じるよ。
(魔物が嫌っているってことは霊力なのでしょうか?)
じゃないか? まあ、相変わらず俺には区別が付かんが……少なくとも瘴気よりは嫌な感じはしないな。もっとも、歓迎されているって感じもしないが。
(そうなのですか? 別段、私には普通の森に見えますが)
見た目的にはさして変わってないからな。ウリスがあの調子だから、これは俺だけか?
魔物の影響がないが故か、今まで通ってきたところより枝葉の密度も増えているようだ。
そのせいで既に日の落ちた今だと、星明りすら通さず真っ暗だった。
これに加えて、明らかに感じるなにかによるプレッシャー。
普通だったら相乗効果で恐慌状態になるかもしれないが、生憎と俺の視界は光源が無くても問題ない。
ウリスもきっと霊術で暗闇の中を支障なく動けるようにしているのだろう。
彼女のあの様子からして、やはり俺だけに対して向けられている圧力っぽいな。
しかし、敵意までは感じない……どちらかというと、試すようなからかうような圧の掛け方という感じがする。
思い出すのはアースブレイドでも時々仲間から向けられたものだ。
俺は一振りの中でも急激に頭角を現した口なので、なにかと危うげに見えるらしい。
そのため本当に大丈夫なのか、あるいは警告のためにわざわざ殺意なり、敵意なりをぶつけてくれる先輩とかが結構いた。
実際、危うい戦い方をする口なので、それ自体はありがたく、甘んじで受け入れ、実際に手まで出してくれた人には丁重に叩きのめし返したが。
(そういうことやるからチームができなかったのでしょうね)
直ぐにレジェンドウエポンズに入ったから別にいいんじゃないか?
(まあ、数え一振り達は単独行動が基本ですからね)
戦力に余裕があったわけじゃないからな。力あるものは分散して動かないとやられる一方だった。
まあ、とにかく、そんな経験を結構しているので、こういうのには敏感なのだが……人が発するものと違う感じもするので、正しい印象なのかどうかあまり自信はない。
(少なくとも完全な味方と考えない方がいいってことですか?)
まだ俺自身が精霊を視認できるようになっていないからな。判断基準がウリス経由のみというのも危うさを感じる。
(彼女自身の価値観とこちらの価値観が必ずしも合っているとは限りませんからね)
俺達自身のことも精霊側はよくわかってないだろうしな。
(敵か味方か、どちらか判断付かないから試していると?)
そう解釈してもいいんじゃないか?
(あまり好ましくありませんね)
この手のは大体脳筋だからな。あるいは力を振るってもいい相手だと侮っているか嘲っているか。なんにせよ。これからわかるだろう。
雷火と思考通信で会話している間に、ウリスが目的の場所に辿り着いたのか立ち止まる。
そこには一本の大樹があった。
周りに特になにがあるというわけでもないのに、不自然に他の木々がない空間にぽつんと立っている。
樹自体はさして周囲と変わりないなんの変哲もないものに見える。
特殊性という点で言えば、エルフの里に在った木の方が大きかった。
だが、一つ確かな違いがある。
それはサイ感覚を押さえないとまぶしさを感じるほどのオーラを纏っていることだ。
自然物でここまでになっているのを初めてみたな……
そんなことを思っていると、周囲の気配が不意に変わった。
(疾風。目の前の大樹がありえない動きをし始めました)
雷火の言葉通り見た目だけはなんの変哲もなかった大樹が音を立てて変形し始める。
ちょっと前にいるウリスを見るが、彼女からオーラが出ている様子はない。
ただ気配からして驚いている様子はある。
そもそも彼女の霊力と、目の前とでは濃淡が違う。
より濃いオーラによって大樹は瞬く間に姿を変え、幹のドレスを着た巨大な女性になった。
「ほう? こんなところに人の子が来るとは珍しいのう」




