ログ9『単細胞魔物』
ちゃっちゃと終わらせる。
などといき込んだのはいいんだが……これはどうすればいいんだろうな?
木の後ろから出している指先副眼カメラの先にいるのは、木の根に張り付いているゼリー状の物体だった。
肉眼では見てないが、しっかり瘴気を発しているので間違いなく魔物だろう。
(アメーバタイプのスライムですね)
などと雷火が言うが……なるほど、確かに記録映像で見たアメーバが子供ぐらいの大きさになったぽい姿をしている。
一つ大きな違いがあるとすれば、真ん中あたりに緑色の球体があるぐらいだろうか?
どうやらこいつは木々を捕食しているらしく、透明度の高い緑色のゲルから薄っすら見える根が溶けているように見える。
つまり、植物を喰ってるからこの色なんだろうか?
いや、ゴブリンやオークの色が緑だったことを考えると保護色という可能性もあるか? コボルトは茶色だったが、あれもあれで保護色といえば保護色か。
しかしまあ、これどうしたらいいんだろうな?
(定番なのは核を破壊することでしょうか?)
それもどうせ架空の話だろ?
(それはそうですけど、向こうのそれらがこちらに影響を与えた可能性は高いわけですから、あながち馬鹿にできないのでは?)
確かにそれを考えるとな……とはいえ、倒すのは簡単にできそうでも遺伝子サンプルはどうするよ?
(木の根を溶かして捕食していることを考えると、下手に注射器を突き刺すのは危険かもしれませんね)
そもそもどうやって無力化するんだ?
(入れ物に閉じ込めるとか?)
どうやって入れるんだよ?
(罠を使って?)
生態もよくわからないのにそんなの用意できるか。
(反重力装置を使って強引に)
魔物であるのならなにかしらの反撃をしてくるんじゃないか?
(そうですね。定番なら溶解液を吹き出すとか?)
なにかしらの魔法を使ってくる可能性だってあるだろう。
(そうなると意識を奪ってからの方が確実ですが……)
あれ、気絶するのか?
(どうなんでしょう? 試してみます?)
衝撃弾は持ってきてないんだがな?
(寸勁を使うとかでしょうか?)
出来なくはないが、下手すれば一撃で粉砕というか飛び散らないか? 流石にああいうのはブレインリーパーにもいなかったから加減がわからん。今は下手な瘴気を抱え込みたくないんだが……ウリスはどうしてる?
(木や空中に向かってぶつぶつ独り言をしていますね)
精霊と交渉しているのか?
(浄化の一部を精霊に肩代わりして貰うそうですよ)
そんなこともできるのか?
(難しそうな顔をしているから結構大変なのかもしれません)
下手すれば百発では済まないからな。とはいえ、それ以上の数はできれば使いたくないな。
(でしたら、誘導するってことですよね?)
そうだな。
(ドローンを増産しますか?)
あまり作ってもな。その分だけ色々遅れる。
(現在孤立無援な状況を考えるなら多い分は越したことはないと思いますが? グレネード弾を作りましたから材料を集める必要はありますが)
機体の修復率は?
(八十%を超しましたよ。既に必要分を投入済みですから、今のままでも明日には完全修復します)
思ったより早いな?
(毎晩着ていますから)
里から出てここ数日、ウリスの就寝時はサムライドレスの中にいた。
俺の改造された身体は長時間の睡眠は必要ないので、武装者がいることで初めて使える機能を使っての修復だった。
向こうであれば専用の設備でちゃっちゃと直せるが、今のように孤立無援になった時に備えてどんな環境であっても完全に修復可能になるように設計されていた。
サムライドレスの機体は、金属疑似細胞とナノマシンブラッドというので出来ている。
金属疑似細胞は名の通り金属を細胞のように作っているもの。
ナノマシンブラッドは機体中に血のように流れているのが極小機械群。
これら二つにより生物の自然治癒のように、いや、それ以上に修復できた。
そして、それらに必要な素材は、『物質分解再結合システム・ヘパイストス』というシステムによってどこでも調達できる。
ヘパイストスは機体に取り込んだ物体をナノマシンなどで分解し、再結合することで望む物へと変換するというものだ。
ただし、あまりにも元からかけ離れたのを作る場合、量子レベルまで分解する必要性があり現行のナノマシンでは難しい。
そのため、ヘパイストスをフルに使うためにはサイパワーが不可欠ってわけだ。
人がいないと使えない未完の技術。それ故に、資源不足の解消までには役立っていないんだよな。
基本、ヘパイストスが使えるまでのサイパワー持ちはアースブレイドの戦士となってブレインリーパーと戦うことを優先させられる。
まあ、敵の星系を吹き飛ばしたのだから、そのうち戦闘以外にも活用されることになるだろうが。
なんにせよ。普段から使っている俺の感覚からすると、いつもより若干早いような気がするんだがな?
(確かに……僅かではありますが修復速度が上がっているようです)
だろ?
(疾風の気装術が強まった影響では)
俺のサイ現象だと思っていた現象強弱化は、しっかりサムライドレスのあらゆる機能にも影響を及ぼしている。
なのでそういうことが起きるのは不思議ではないんだが、なんで強まったんだろうな?
(死線を越える度に似たようなことは起きていましたから、今回もそれでは?)
いや、それとは感覚が違うんだよな……
(私には探知できない領域ですね)
とりあえず、この件はまた同じようなことが起きたら考えよう。とにかく今はこのスライムだ。
(そうですね……流石にこれは元人間ってことはないでしょうし、遺伝子解析もそれなりに時間が掛かりそうですね)
そうなると、ここは現地に詳しいのに聞くのが一番だよな。タイミングを見てウリスに聞いてみてくれないか?
(わかりました……ああ、今なら良さそうですね)
そういうと雷火は脳内ディスプレイにサムライドレスの視覚を映し出す。
映ったウリスは気のせいか、若干げんなりしている。
「ん~……ここの精霊達なんかめんどくさいよ。やる気あるんだかないんだか。あきらめてるんだか」
ため息交じりにそんなことを口にするが、精霊が見えない俺達からするとなんと言っていいかわからない。
そもそも俺の方はさっきカットしたままにしているので、相互通信は開いてないしな。
なので会話の方は雷火に任せる。
「大丈夫なんですかウリスちゃん」
「大丈夫だよ雷火ちゃん。とりあえず、協力してくれる子達はいるにはいたから、後はその子達が他の精霊達に呼び掛けてくれるって」
「それはよかった」
「それで、なにか疾風にあったの?」
「ええ。スライムに遭遇しまして、どうやって気絶させるかわからないのです」
「気絶? なんで?」
「魔物の遺伝子解析をするためには、瘴気の影響を抑えつつ疾風自身が器具を押し続ける必要があるので」
「ん~……それって魔物だけを殺すためだけだよね?」
「そうです」
「スライムは除外してもいいんじゃないかな? 滅多に強力な個体が生まれない魔物だから、その土地から他の魔物が消えれば自然と消えるし」
「そうなのですか?」
「うん。スライムは他の魔物の排泄物や死体から出る瘴気を食べて生きてるの。だから魔物が多いところにはいっぱいいるけど、魔物がいないところでは生きていけないの」
「強力な個体が生まれないというのは?」
「大きくなったら強くはなるけど。すごく強くなるってわけでもないし。他の魔物達からしてみれば良い餌だから、大きくなった分、食べられる確率が高くなっちゃうみたいだよ」
「なるほど。この世界のスライムは最弱の魔物なのですね」
「うん。だから気にしなくていいよ疾風」
などと朗らかに言われたが……
無為な思考と時間をしていたことに若干ショックを受けるな……
いまいちシステムを理解してなかったので、どうどこでお礼を言うべきか迷い遅れましたが、誤字報告をしてくれた方にこの場でお礼を申し上げます。
ありがとうございます。とても助かりました。




