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サムライドレスは異世界を駆ける  作者: 改樹考果
ファイル3『異世界の旅路はエルフと共に』
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ログ8『異世界の遺伝子事情』

 「ちょ、ちょと雷火ちゃん!? 早過ぎ、作り過ぎだよ!」

 「この森の規模ならこれでも遅いぐらいですし、少な過ぎます」

 「で、でも、というか、どこからこんなに出しているの? 空間拡張とかしてないでしょ!?」

 「素材は可能な限り圧縮して保有していますから。とはいえ、私自身の修復でかなり消費しているので普段より作れないのが困るところですが」

 「よかった。流石にこれ以上は――」

 「精々百発ぐらいでしょうか?」

 「百発!?」

 「現状では」

 「現状では!?」

 「疾風がいないと使えない機能もありますからね。それを使えば十倍は軽いでしょう」

 「ん~……これはちょっといつものと違ったやり方じゃないと無理かな? 一つ一つ書いてたらいつまで経っても森から出られないよ」

 「それは困ります」

 「うん。早く冒険者になりたいし」

 「全くですね。では急ぎましょう」

 「止めるって選択肢はないの!?」

 「私は疾風の鞘ですから」

 「意味わかんない!」

 「とにかく、書く以外の手段があるのならそれを試しましょう」

 「ん~大変なのは私なんだからね!」

 「疲れた時用の栄養補助食品は用意して上げますから」

 「い、いらないから!」

 「まあまあ、そう言わず。向こうでは私が作る食料は好評なのですよ? 勿論、疾風も好んで食べてくれます」

 「た、助けて疾風~!」

 など言う会話が量子通信で届いてくるが、こっちはこっちで取り込み中なのでいかんともしがたい。

 とりあえず頑張れとでも思っておく。

 俺の下には犬の顔を持った、こちらの背丈の半分以下ぐらいの茶色い魔物がいた。

 サポートドローンから送られてくる情報で最も近い奴らの進行方向上に移動し、木の上で待機していたわけだ。

 が、なんというか……見た限り資料映像で見たシベリアンハスキーから愛嬌を抜き取って、凶悪さと醜悪さをプラスした感じだろうか? 少なくともVR空間ですら飼おうとは思わんレベルだ。

 そういえば仲間の中でわざわざ自分の脳内ディスプレイを使ってVR犬を飼ってるのがいたな……生身の犬はどっかのシェルターでコールドスリープさせられているとか、核自爆直後の食料不足で喰われたとか都市伝説的な話をなんとなく思い出す。

 とりあえず、こいつらの名称を確認だな。

 ウリス。ちょっといいか?

 「ん~なに? 今、疾風のせいで物凄く忙しいんだけど~」

 雷火空間ディスプレイにこいつらの映像を。

 「了解」

 「ん~……コボルトだね」

 「コボルト! 犬の頭部を持つ魔物ですね!」

 「集団行動が得意な種族だから、魔王がいなくても常に十数から数十、時には百単位の群れで行動することがあるから注意だよ」

 なるほど、だとすると俺が遭遇したのはその中でも小規模なのか? 十体ほどしかいないが。

 「ん~狩りのために別行動をしているかもよ?」

 なるほど。ありがとうウリス。作業に戻ってくれ。

 「んー! それに関してはちょっと抗――」

 通信カット。さてと……

 周辺をサポートドローンに探らせてみた感じだと、こいつらはオスで獲物を求めて移動をし始めたばかりといった感じだろうか?

 その証拠に、近くの木々に巣があった。

 根の下に掘られた穴にはメスと子供らしき個体がいるのが確認できる。

 さて、殺さずに遺伝子解析が終わるまで拘束し続けるとなると、こういう集団行動を取る相手は難敵だな。

 一匹だけ捕まえれば直ぐに異変を察知して他が襲い掛かってくる。

 かといって他を殺すのは考え物だ。

 俺自身は瘴気に対する抵抗力はある程度あるようだが、ゴブリンを倒した時にはもろに蓄積していた気配がある。

 実際、大怪我を負っていたウルグの浄化をする時に、ついでのように俺も霊術をウリスに掛けられていた。

 死んだ魔王の末期の呪いみたいなのよりは軽いだろうが、これから確認できる魔物のサンプルが必要にあると考えるといちいちウリスの下に戻るのは考え物だ。効率が悪過ぎて、戻る度に恨みがましい目線を送られる気がしないでもない。

 なのでここは素早く制圧する方が無難か。

 そう思った俺は、アシストドローンをコボルト達が向かっている先に移動させて茂みに忍ばせる。

 ステルス機能で消えている俺はゆっくりと木から降り、気配を殺しながら最後尾に付く。

 スキャン開始。

 元々人だったからか、ゴブリン同様こいつらも役割ごとに武装をしている。

 先頭二体が木盾と木槍。続く二体が弓矢。真ん中の二体が杖持ち。その後ろに弓使い二体。最後尾に槍盾持ち。

 服装自体はなにかしらの動物の皮を腰に巻いた程度だが、武器を自作している時点でそれなりの知能があるのは十分にわかる。

 特に杖持ちがいるということは、ゴブリン同様に魔法を使ってくるということだろう。

 つまり、魔物には魔物の脈々と続く文明文化があるということなんだろうが……一万年も時が経ってるのにこの程度というのは不自然だよな?

 無へと導く祝福とかいうものの影響なんだろうか? 世界だけでなくそれが宿るものにまで影響が出ているのであれば発展なんて起こらないってことだろうか? それともその程度の知能しかない?

 知能レベルの高さは戦闘力にも影響がある。それで先入観を持つのは良くないが、一つの指針として戦う上では役に立つこともあるが……まあ、流石にそこまで調べる余裕はないな。

 強化服のスキャンシステムを利用してコボルトの身体調査を終える。

 ゴブリンもだったが、身体構造は人とそう変わらないな。

 よし。やれ!

 俺の指示に応えたペン型のドローンが自身を飛ばしている反重力制御の影響力を少し拡張する。

 それによって揺れる茂みにコボルト達が一斉に反応。

 ただし、ドローンの方へ視線を向けたのは前衛のみで、後衛はしっかり背後を警戒している。

 杖持ちも二人で前後へ分かれて向いているので、それなりに連携はできているようだ。

 とはいえ、互いの武器がぶつからないように立ち回ったので、俺が奴らの中にするりと入る隙ができたのでまだまだだといえる。

 杖持ち達の横に付いた俺は、コボルト達が次のリアクションを取るより先に首元へ手を伸ばす。

 小柄な体なので片手でも頸動脈を押さえられ、瞬時に気を失う杖持ち達。

 倒れる二体から手を離し、後衛と接近し、弓二体、槍盾持ち二体を同様の方法で意識を奪う。

 その時点でようやく杖持ちが倒れ、それによって前衛が異変に気付く。

 いつの間にか後ろの仲間が倒れ、しかも、倒れている最中のもまで目撃した弓持ち達は唖然となる。

 そいつらがはっとなる前に接近し、きゅっと絞め、その流れでまだ茂みへ視線を向けていた先頭二体を無力化した。

 ふむ……人型である分、色んな個体がいたブレインリーパーよりやりやすいな。

 などと思いながら、注射器を取り出し一番手近なコボルトの背中に押し当てる。

 本来ならジェット噴射によって治療用ナノマシンが体内に送られ損傷個所の修復などが行われるが、今回はその過程で行う遺伝子解析がメインでそれに特化するように雷火によって調整されていた。

 人であれば個体差があっても基礎遺伝子データがあるので解析は直ぐに済むが、これは全く別種と化している元人だ。

 どれぐらいの時間が掛かるか見当がつ――

 (終わりました)

 早!?

 (私も予想外です……)

 なんだ? 妙にテンションが低いな?

 (ええ、まあ……あまり気分の良いものではないですからね。改めてサイ現象。いえ、三元力の理不尽さを感じましたので)

 どういうことだ?

 (遺伝子的には確かに人とは異なっています。ですが、その違いはさして大きくありません)

 だから早かったのか。で、具体的には?

 (遺伝子データをそのままシミュレートすると、コボルトの姿にはならず、より人に近い形になります)

 エルフ達の体が魂に大きく依存しているのと似たようなものなのか?

 (どうなのでしょう? ナノマシンで治療できたということはエルフの方はまだ人であることは間違いないでしょうし)

 どういう意味だ?

 (あくまでシミュレートしたからできた人の姿ってことです)

 実際はまずそこまで成長はしないってことか?

 (ええ。そもそも子供が生まれることすらおかしいレベルで遺伝子欠損がありますし)

 生命としておかしいってことか?

 (先程疾風が行ったスキャン結果を改めて確認してみましたが、身体構造は確かに人と同じように見えますがいくつかの内臓器官がおかしく、生きているのが不思議な状態です)

 ということは中には人に通じる技が効かない個体もいそうだな。

 (そういう感想になりますか……まあ、私としても異種間でのほにゃららが起きないようなので安心したような残念なような)

 お前はまたそういうことを考える……が、さして違いがないのにそれが起きないというのはどういう根拠だ?

 (あくまで遺伝子解析の結果のみで言った場合、人とさして違いがないからですね。推測ですが、欠損部分は魔法によって補われているのではないでしょうか?)

 ああ、だから欠損として解析してしまうと。

 (ええ。システムログを調べてみると、本来ではありえない欠損部分をデータ習得ミスとして判断して勝手に人遺伝子データで補完したようなんです。だから、それほど違いがないという印象になると言ったところでしょうか? なので、その部分を改めて人とは異なる。確認された容姿から逆算して考えた場合、少なくとも人と魔物の間に子供は宿らず、ウリスちゃんも言っていましたが欲情もしないでしょう。あくまで生物的にはですが)

 なにごとも例外はあるからな。しかし、そうなるとエルフの方はどうなんだろうな?

 (ええ。私も不思議に思って、今ウリスちゃんに頼んでいます)

 お前な……まあ、今後ナノマシン治療が必要になる可能性があるから、先に調べておくことは無駄にはならないだろうが。

 (そういう意図もあります……ん~……やっぱり三元現象はおかしいですよね)

 結果は?

 (地球人類と変わりません)

 まあ、治療がそのままできたのだからそりゃそうだろう。

 (そうではなくって、遺伝子的には全く人間なのですよ。シミュレートしても耳が長く尖ることもないです)

 なるほど、姿まで魂に引っ張られているってことか。

 (そうなりますね。ちなみにウリスちゃんの話だと、妖精族と人間の間でも子供は産まれるそうですよ。遺伝子がまったく同じという証拠ですね)

 ……さらっとそういうこと聞くよなお前。

 (恥ずかしがってくれることを期待したのですけど、なにやら忙しそうにしていたのでおざなりに応えられましたよ。もうちょっと年相応の反応が欲しいです)

 見た目が俺と同じでも百歳だしな。

 (疾風もですよ!)

 はいはい。

 (またおざなる! これだからサムライは!)

 これはサムライ関係ないと思うが……まあ、なんにせよ。対魔物用化学兵器は作れるのか?

 (それに関しては問題ありません)

 なら次だ。ちゃっちゃと終わらせて次の工程に進むぞ!

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