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サムライドレスは異世界を駆ける  作者: 改樹考果
ファイル3『異世界の旅路はエルフと共に』
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ログ4『封印の森の結界』

 実りのない三元力認識訓練をしながら三日。

 朝昼晩の休憩中にちょろっとやっているだけなせいか、未だによくわからない。

 「ん~普通は子供の頃にやる訓練だからね。人や環境によってはやらなくてもいいって聞いたことがあるかな?」

 と言うのはウリスの弁。

 元々三元力という知識が存在しない文化圏にいたからとか、そういう素質がなかったからってのもあるのだろうか?

 とはいえ、

 「勇者様や他の転移者さん達もできるようになったって話を聞くから、続けていけばそのうち分かるようになるよ」

 などと言われたら無駄と口にするのもはばかられる。

 ちなみにこの訓練中、雷火は妙に興奮していた。

 「ロマンス? ロマンス始まっちゃう!?」

 とかのたまわるっていたが、俺とウリスはなに言ってんだコイツと表情に出すぐらいだった。

 サポートナビ達は妙に人間の色恋に興味というかお節介を焼きたがるんだよな。

 物語じゃあるまいし、出会ったばかりの異性を、しかも小魔王の瘴気のことを考えれば命の恩人相手にどうのこうのなろうと考えるかね?

 容姿的に考えると確かに綺麗な子であり、幼さが混じった性格に加えて、整った顔立ちというのも好感は持てるが……恋愛というのはそれだけで始まるものなのだろうか?

 サポートナビ達に見させられた恋愛映画やらアニメやらだと、出会った瞬間に稲妻が走ってとか、なにかしらの切っ掛けで意識するようになったとかあった。

 が、少なくとも今の俺にその兆候はなく、ウリスも同様って感じだ。

 むしろ俺への関心は若干薄れているような感じがする。

 「外にはね。冒険者って制度があるんだって」

 「冒険者!? おお! まさか実在している異世界だとは!」

 「雷火ちゃん知ってるの?」

 「ええ、ええ! 人類が描いてきた架空の物語の中でそれが登場する物語は多くありますからね。もしや冒険者ギルドとかあったりします?」

 「うん。勇者様が世界中に作ったんだって」

 「それはまた! 私達の世界に連なるパラレルワールドから召喚されたのであれば、私が保有する知識と近い物を持っていた可能性がありますね。その前には冒険者はいなかったのですか?」

 「遺跡は危険な場所だからね。古代文明崩壊時に発生した魔物がそのままそこに住み着いていたり、防衛機構が生き残っていたら今の人間すら敵として認識したりするって話だから、勇者様が入ろうとするまで近付くことすら禁忌だったって話だよ」

 「それなのに入ったのですか?」

 「遺跡から魔王に対抗するための遺産が必要だったからね」

 「それでしたら勇者が始める前に他の人がやっていそうですが?」

 「うん。個人で遺跡を荒らしていた人はいたみたいだよ。でも、その人達だけじゃ時間も人手も足りなかったんだって」

 「その話からすると勇者は遺跡でなにかを探していたのですか? 送還装置でしょうか?」

 「それもだよ。でも、一番探していたのは勇者様の力を制御するための魔道具だったみたい。勇者様のスキルは補助なしに使うととっても危険な物だったんだって」

 「それはまたテンプレートな話ですね」

 「そうなの?」

 「強大な力を手に入れたけど、暴走する危険性がある。それを抑えて完全に使うためには伝説の武器防具が必要。物語としてはよくある部類なのではないでしょうか?」

 「でも、勇者様の話は本当の話だよ?」

 「ええ。そのおかげで冒険者システムが作られたのですものね。実に素晴らしいことです」

 「雷火ちゃんもわかる?」

 「ええ。富や名声を求めて危険な遺跡へと潜り、立ちふさがる罠や魔物と戦い、固いパンや干し肉を生ぬるいエールで無理矢理流し込みながら奥へ奥へと突き進む。まさに危険と隣り合わせの命懸けの冒険! 目的のためなら命さえ惜しまぬその姿は人の姿の一つとして確かに存在している証拠と言って過言ではない職業。ああ、冒険者! 人類が思い描き夢見た架空を、実際に見ることが出来るだなんて!」

 「見るだけじゃなくて、私達もなろうよ冒険者!」

 「それは素晴らしい!」

 「私ね。ウルグ達から冒険の話を聞いて、ずっと冒険者になって色んなところに行ってみたいと思っていたんだ。冒険者になったらね。どんな人でも身分を保証されて、自由にいろんな国へ行くことが出来るんだって。凄いよね」

 「そうですね。これから多くの遺跡を巡る必要があるのですから、これは是非冒険者になるしかありませんね。ね、疾風!」

 「疾風もそう思うよね?」

 二人が興奮して話しているのを若干引きながら見ていた俺に唐突に話を振られてもな……

 「まあ、いいんじゃないか?」

 「やった! 冒険者! 冒険者だよ雷火ちゃん!」

 「ええ! ええ! 冒険者、冒険者ですよウリスちゃん!」

 なんか今のでぐっと距離でも縮まったのか雷火もちゃん呼びし始めてるよ。

 冒険者冒険者言いながら先を歩く一人とホログラフィを見ながら俺はそっとため息を吐く。

 それも千年前の話だろ? 果たしてそんな不自然な職業が残っているかね?




 三日目の昼ちょっと過ぎ。

 ようやく結界の縁に来られた。

 といっても、目の前にはなんの変哲のない、今まで歩いてきた森が続いているだけ。

 一見するとなにもないように見える場所だが、サイ感知を意識すると目の前に横と上に延々と続く緑色のサイオーラが壁となって存在していた。

 先行していたアシストドローンがこれにぶつかってそれ以上先に進めないことは確認済み。

 「なにもないのに、防がれますね」

 「雷火ちゃんにはそう見えるの?」

 不思議そうに雷火ホログラフィを見るウリスだが、どちらかというと今のはサムライドレスの感想だろうな。

 俺の脳内ディスプレイにも色々とエラーの表示が出ているし。

 「ええ。しかも、光や大気などの自然は通しているようですが、それ以外のとなると拒絶されるようですね」

 「例えば?」

 「電波などの私達が探知などに使っている波長などでしょうか?」

 つまり、ここから先の情報は現時点ではかなり制限されているわけか。

 「それってなにか問題あるの?」

 「出た直後になにかいてもわからないのは不安ですからね」

 「見えるのに?」

 「私達は人の五感以上の探知領域を持っていますから」

 「でも、三元力に簡単に防がれちゃうんだね」

 「予測ですが、量子通信が使えないのはこの結界も関与しているかもしれませんね」

 「量子通信?」

 「簡単に言えばどんなに離れていてもタイムラグなしで会話などの情報交換ができる装置です」

 「念話みたいな感じだね」

 「テレパシーも量子通信の一種だと考えられていましたけど、そのテレパシーとウリスちゃんが言う念話は別種なのかもしれませんね」

 「よくわからないけど、その通信が使えないとなにかまずいの?」

 「一つ。この森の中に私のこの姿を映し出している機体を置いておけない。という問題がありますね」

 「それのなにが問題なの?」

 「この森の異変を即座に感知できませんし、定期報告をウルグさん達に伝えられません」

 「そんなことできるの? すごい!」

 「いえ、ですから結界があると無理なようでして。一種の空間断裂なんでしょうかね? 続いているように見えても、別世界になっているのでしょうか?」

 「ん~封印結界は結界術の中でも強力なものだからね」

 そういえばここまでじゃなくても似たようなことは向こうでもあったな?

 「そうですね。観測されたサイ現象の中には対象を隔離するものなどもありましたから。その中ではあらゆる通信が遮断されていました」

 「ん~?」

 となると、三元力そのものが空間への干渉を行っている可能性もなくないか? 確かサイ現象が入り乱れた戦場で謎の不調がとかたまに言ってなかったか?

 「ええ。作戦行動に影響が出るレベルではなかったので無視されていました。原因究明も機械的な観測が出来ないことから研究班による解明も進んでいなかったようですね」

 「んん~?」

 そうなるとこれをどうにかすると向こうへの通信手段を確保できる可能性がないか?

 「そうですね。もしかしたらもう一つの問題として言おうとしていた、他にもこちらに来ているかもしれない一振り達と連絡を取れるかもしれません」

 「疾風みたいな人達が他にも来てるの!?」

 「あくまで可能性です。あの戦場には億単位のサムライドレスがいましたから。ただ私達と同条件下の者達は死亡が確認されているので、仮に転移が起きたとしても果たして同じ世界同じ時間にいるかどうか」

 「そっか……」

 「とりあえずは、結界の外に出ませんか? ウリスちゃんならできるのでしょ?」

 「うん。直ぐに出よっか! そうすればもしかしたら疾風の仲間と……って! その前に! また念話で会話してたでしょ!?」

 あ、そういえばついやっちゃってたな。

 「向こうでは私達が即座に同調させていましたからね」

 そうだな。誰かが声が聞こえないなんてことはなかった。ある意味では新鮮だな。

 「もう! 別に内緒話しなくてもいい話なら口に出してよ! 雷火ちゃんは普通に喋ってくれているのに!」

 「ああ、悪かった。次は気を付け……それか通信機を渡してもいいか?」

 「通信機? ……流石に改造手術とかは怖いんだけど」

 「いや、別にそんなことしなくても量子通信ぐらいなら端末があればできるからな。ただ、作らなくちゃいけないから後でもいいか? サムライドレスの修復はまだ完全に終わってないからな」

 「それは別に構わないけど……雷火ちゃんの鎧って勝手に直るの?」

 「勝手にってわけじゃないが、コアが無事なら時間と素材があれば直せるな」

 「三元法も使ってないのに?」

 「向こうじゃそれに頼る技術の方が特殊だったからな。で、その応用というか同じ技術で外付けの通信機も作れる。そうだな……髪飾りのような形の方がいいか? デザインは後で雷火と相談して決めてくれ」

 「えっと……危なくない?」

 「ないない」

 「ん~……いまいちよくわからないんだけど、便利そうだから欲しいかも」

 「わかった。その代わりと言っちゃなんだが、念話を教えてくれると助かる」

 「それはいいけど、まだ無理だよ?」

 「それもわかってる。まあ、そっちは気長に付き合ってくれると助かるな」

 「うん。まだ旅は始まったばかりだからね。ゆっくりやろうよ」

 「ああ。そういうわけだから雷火頼む」

 「了解。色々とサンプルデータを用意しておくわ。次の休憩の時にでも選んでねウリスちゃん」

 「うん?」

 いまいちよくわからないところがあるのか笑顔で疑問符を浮かべているウリスだったが、とりあえずわからないことは後回しにしたのか結界の前へ進み出る。

 「私の後に続いてね。直ぐには消えないだろうけど、そう長くは維持できないと思うから」

 「わかった。雷火。ドローンの回収は?」

 「もう全機集まっているわ」

 「よし。なら行こうかウリス」

 「んー! いざ外の世界へ!」

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