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サムライドレスは異世界を駆ける  作者: 改樹考果
ファイル2『封印の森のエルフ』
27/56

ログ8 『ウリスVS雷火(料理対決)前』

 翌日。ウリスに呼ばれて居間に来た俺は意気消沈しているウルグの前に座らされた。

 「…………疾風様の案内役はウリスと決まりました」

 ちなみに、俺が寝ている間にどういう経緯があったのか詳しく確認する気はないんだが、雷火が脳内ディスプレイに事の顛末を簡潔に表示していた。

 それによるとウルグと他エルフ何名かとウリスが決闘していたようだ。

 どうやらウリスは百歳という若さ? で族長達を圧倒する実力があるらしく、弓矢やなんかよくわからない攻撃で次々と行動不能にしていた。

 しかしまあ、自分の望みを叶えるために行うのが実力行使ってのはどうなんだろうな?

 (肉体言語の方が分かりやすいってことなのでは?)

 ウリスはともかく……ともかくか? まあ、とにかく、ウルグは二千年も生きているわけだろ? そんな奴が考えることかね? まあ、比較的脳筋ぽい人だが。見た目に反して。

 (ウリスもしっかりその人の孫ってことなのでしょうね)

 しかし、こうなってくるとウリスの両親はどうしたんだろうな?

 (そういえば祖父しかいないですよね?)

 名乗らないということは、そもそもいない?

 (千年もここで魔物と死闘を演じているのです。死傷者の数はそれなりにいるでしょうからね)

 確かに昨日も何人か確認しているしな……ここは聞かない方が無難か。

 などと思考通信で会話していために無反応になっていた俺に、ウルグが戸惑った表情を向けてくる。

 思考通信ができない相手だとどうにも面倒だな。

 (異世界ですからね!)

 なんでそこで嬉しそうに……

 「疾風様?」

 「すいません。てっきり別の人になるのかと思っていたので少し戸惑いました」

 「疾風様がどうしてもとおっしゃ――」

 おおう!? 見事な殺気。

 ニコニコしながら圧迫感を出しているウリスに、ウルグは冷や汗を流しながら口を閉じるしかないようだった。

 (まあ、あんな目に遭えばそうなりますよ)

 などと雷火が脳内ディスプレイに動画を添付する。

 祖父と孫の関係だというのに容赦なくボコボコにしている姿が映っていた。

 孫にそんなことをやられるとは思っても見なかったのか、結構なトラウマにでもなっているぽい気配を感じなくもない。

 が、不意にウルグがキリっとした。

 「た、ただし条件があります!」

 ん? なんか押し負けそうになりながら予定にはないことを口にしたぽいな。

 ウリスのプレッシャーが強まってて面白い。

 とはいえ、やっぱり怖いのかこっちを見て言ってるのがな……ん? もしかして、こっちになのか?

 「それは私達にでしょうか?」

 「いえ、ウリスにです」

 じゃあ、俺を見て言うなよな。

 若干呆れの視線を向けてしまうが、ウルグは気にせず言葉を続ける。

 「この子は旅の間、疾風様の食事のお世話もしようと考えています。ですが、それは雷火様が望むことではありませんよね?」

 ニヤリと笑って俺の右隣上で今日もホログラフィを展開している相棒を見た。

 「そうですね。食事などの管理は鞘たる私の役目ですから」

 「ん~でも、あんな食事」

 「……そういえば、これに関して決着を付けていませんでしたね」

 「ん~そうだね」

 なんだかバチバチとし始めるウリスと雷火に、してやったりと笑みを深めるウルグ。

 「でしたら、料理対決をするのはどうでしょうか? 審査員は私と疾風様、それと料理上手な者達を何人かで」

 「んー! 乗った!」「かまいませんよ」

 え? 俺の意見は?




 結局あれよあれよという間にウルグの家の前に特設会場が作られてしまった。

 種を巻き、何事か唱えて、サイオーラを込めるだけで流し台やテーブルなどが構築されるのは、何度見ても少し驚く。

 そんな風にして作られた会場は、昔見せられた料理対決番組みたいな感じに仕上がっている。

 周りにはエルフ達がわらわらと集まり、木々の枝にも腰掛けたりしているのだから何気にウルグと俺が戦った時より観客が多い。

 族長としてどうなんだろうか? とかちょっと思わんでもないが、当の本人は思惑通りことが運んでにんまりしている。

 「ルールとしては我らの里で採れる食材を両者が選び調理すること以外は特に指定はしません。ただし、何を作るのかは地元の有利を帳消しにするために雷火様に選んでいただきます」

 俺から見て右側のキッチンで浮いている雷火はそのウルグの説明に首を傾げた。

 「それは私しか知らない料理であっても構わないということですか?」

 「勿論です」

 「それで作れなかった場合は?」

 「勿論、作れなかった者は失格となります」

 「なるほど……」

 ウルグが悪い顔をしているな……どうするつもりだ雷火?

 (そんなの決まっているじゃないですか)

 雷火は俺の問いに笑みを浮かべる。

 「では、豚汁を指定します」

 「そ、それは!」

 「ああ、そういえばエルフは菜食主義でしたっけ? でしたら、味噌汁でもいいですよ」

 「あ、いえ。普通に肉も食べられますので大丈夫です」

 「エルフ指数マイナス十です!」

 「え? いや、え?」

 俺に困ったような視線を向けられてもな。正直、指数うんぬんは雷火が勝手に言ってることだから、知らん。

 「ウリスの方は良いのか?」

 俺から見て左側のキッチンにいるウリスの方を見てみると、生きた花で出来たエプロンを着けて気合十分な感じだった。

 「ん~私、豚汁得意だよ?」

 「それは私もです」

 「えっ!?」

 雷火が自信満々に同調したことに驚きの視線を俺に向けてくるウリス。

 いや、だから、俺を見られてもな……まあ、彼女がなにを想像したのかはわからんでもない。

 俺達とこっちの人達の味覚の隔たりがかなりあるのは既に分かっているからな。

 ウルグもそこら辺の話をした時に居たはずなんだが、聞いてなかったんだろうか?

 (先入観でしょうね)

 どういうことだ?

 (どうやら千年前に召喚されたという勇者は、召喚物よろしくメシウマもやっていたようですからね)

 日本の食文化も伝わっているのはウリス達を見ればわかるが、メシウマ?

 (召喚者や転移者って大体食文化で無双するのですよ)

 無双? 食事で?

 (大体の異世界は食文化が最低レベルですからね。発酵とか蒸すとかない調理法を披露すると大体驚かれて喜ばれるのですよ)

 それ全部、架空の話だよな? 文化によっては慣れない味に戸惑ったり、不味いと感じることもあるって聞いたことがあるが?

 (そうですね。そういうこともあるでしょう。でも、ありえないことではないと思いますし、実際に似たようなことが起きていた可能性はありますよ?)

 まあ、豚汁も得意だと言うぐらいに浸透しているっぽいしな。

 (味覚が合っていたのでしょう。召喚勇者が作り出す料理と)

 つまり、雷火が異世界人? だからウリスよりおいしい料理を作れると?

 (そういうことですね)

 ……まあ、俺は雷火が作る食事は好きだが。

 (当然です。今の人類に最適かつ最も効率の良い食事を作れるのは私達サポートナビだけなのですから!)

 脳内ディスプレイの方にわざわざ人格安定仮想ボディを表示して鼻息荒く主張されてもな。

 ホログラフィの方は涼し気な顔で余裕しゃくしゃくって感じにしている芸の細かい雷火。

 「ん~……まあ、いいか」

 あ、ウリスが少し悪い顔をしたな。

 見ているのは、明らかに先入観から雷火の勝利を確信しているっぽいウルグ達審査員。

 あの感じだと、俺以外はウリスを里から出したくない派なんだろう。

 つまり、例え雷火の料理が良くなくても孫を勝たせる気はないと。

 (む? それはまるで私が負けるみたいな感じじゃないですが!)

 いや~だってよ。お前だって自動記録で確認しているだろ? ウリスの反応。

 (ふっわかっていませんね。ウリスの舌には合わなかったかもしれませんが、現代日本より更に進んだ地球最先端の味は最強なのです!)

 そりゃ確かにサンプルが今のところ一人だけだからな。たまたま合わなかったって可能性もあるが……

 (そうです! 人類統治機構下全ての人類を満足させている食事がまずいことなんてありえないのです!)

 まあ……がんばれ。

 (はい! 頑張ります!)

 気合が入り過ぎている雷火に若干引きつつ。

 (酷い!)

 ウルグの方に視線を向けた。

 「二人共問題なさそうですし、豚汁で始めていいのでは?」

 「そ、そうですね。では、テーマは豚汁! 両者とも始め!」

 周りにいるエルフが合図っぽく木で出来た笛を吹く。

 と言っても、食材が用意されているわけでもないので、まずは採りに行くところから始めなくちゃいけないんだが……今更だが、雷火はどうするつもりなんだ?

 ウリスに案内されて、昨日確認した食料生産工場地帯へその後に着いてフワフワと向かう雷火。

 あの身体はアシストドローンが作ってるホログラフィなので、調理とかできないと思うんだがな?

 まさか俺がやるのか?

 (そんなわけないじゃないですか。アシストでも私のところに持って行くぐらいはできますよ)

 サムライドレスの修復が遅れるのはあんまり歓迎したくないんだが。

 (最終的に食料の補充もしなくてはいけませんから、料理勝負は一石二鳥なのですよ)

 そうか……まあ、ついでだし、俺も直接里を見て回るか。ドローンだとサイ関連は直接確認できないからな。

 「一緒に食材を見に行っても?」

 「ええ、かまいませんよ」

 ウルグからの許可を貰い、俺はゆっくりと二人の後を追うことにした。

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