ログ7 『銘』
アースブレイドには特に階級はない。
そもそもが軍ではないのだから当然ちゃ当然だが。
だが、それでは立場や呼び名に困るということでいつの間にか名、というより、銘だな。に対する決まりができていたそうだ。
ちなみに俺の正式な名乗りは、雷火がウリスに名乗った時に使った
『地球防衛組織アースブレイドが七振り・星切りの村正・飛矢折疾風』
だったりする。
俺達は自分達のことを地球の一振りと自称するが故に、自らを刃に例えている。
だから、新人は『銘なし』と呼ばれ。
なにかしらのサイ現象を発現した者に初めて銘が与えられ『銘あり』。
更に功績を上げてそれに由来する『二つ名』を与えられると仲間を率いることが許され。
それ以上の実力が認められると、銘が伝説上の武器に変えられ『伝説銘』。
で、名乗りの内訳は、地球防衛組織アースブレイド(組織名)が七振り(チーム名)星切り(二つ名)の村正(伝説銘)って感じだ。
ちなみに、個人を表す時に一振りと自分達のことを言うが、複数を指す時に振りという言葉は使わない。
複数に対して使う時は『レジェンドウエポンズ』と呼ばれている伝説銘持ち達のことを意味するからだ。
別に禁止されているわけではないらしいが、いつの間にかそうなっていたとのこと。
一種の敬意なんだろうとは同じ七振りにいた仲間の話だ。
なお、俺のチーム名はころころ変わっていた。
まあ、つまり、最終作戦前までにはそれだけしか生き残っていなかったということ。
地球を守り切れたことを見届けることなく散っていた同じ伝説銘達。
誰もが一騎当千の力を持ち、それが故に個が強く、他を率いることを得意とする者が滅多にいないが故に、チーム名はあっても単独で動くことが多かった。
俺もその一人だが、比較的他と組みやすい性格とサイ現象持ちだったのでそれなりの頻度で同じ伝説銘持ちと共闘したことがある。
今思うと、その頻度は最終作戦に近付くほど増えていたな。
そんな彼ら彼女らの中には、ウリスがスキルの例に挙げたものと似たようなものがあった。
才能スキルは知らんが、攻撃を当てると問答無用でそこを起点に細胞が死んでいく『侵食死期』。一定時間相手を捉え続けるとその分だけ情報を得られる『情報知覚眼』。この二人は結構前に死んでたな。
最終作戦で共に戦ったのは、弾丸を無尽蔵に収納して途切れることなく撃ち続けられた『小さい扉の私的部屋』だったか。
あいつも生きていればこちらに来ているんだろうか? それとも別の異世界に飛ばされている?
連想して他の七振りのことも思い浮かぶ。
『炎熱操作』『拡張超速再生』『確定転生』『転写する分身達』『剣の従者達』。
スキルだなんだと聞いていたためか、サイ能力名の方が先に浮かぶのはなんだかな。
(一人は地球に残ってますし、何人かは死亡のログがあるから全員がこちらにっということはないと思いますよ?)
反物質爆弾が起爆する時に生き残っていた人数は?
(聞きたいですか?)
……いや、止しておこう。どうであってもどうしようもないことだ。
俺はため息を吐きながら、生きた植物で作られたベッドに寝転がった。
今いる場所はウルグの家の三階にある一室。
ウリスはいない。パパっとこの部屋を作って下の方で回復したウルグともめている。
俺がいるとまた暴走しないとも限らないからとか言われてたが……まあ、流石にもう一回やり合うのも意味がないしな。
「しかし、文字通りに部屋を作るとは思わなかったな」
この部屋は元々存在していなかった。空洞ですらなかった木の中を変化させて作られた物なのだが、しっかりと窓もあったりするので現場を目撃していなければ即興でなんて気付きもしないだろう。
「科学技術で同じことできるか?」
必要がなくなったというのに未だにホログラフィを解除してない雷火に視線を向けてみると、彼女は首を傾げた。
「どうでしょう? 木に擬態させたナノマシン集合体を使えばできなくはないでしょうけど……ここなんの変哲もない木ですからね」
「ウリスが霊術に感応しやすいように品種改良しているとか言ってなかったか?」
「遺伝子的には地球の樹木と大して違いはありませんよ。流石にまったく同じではありませんが、少なくとも急激に変形できる因子はないですね。そのベッドに使われている寄生植物にも」
「拡張して作った部屋の中に種をばら撒いた時は驚いたな」
「急速成長は向こうに持って行けば食糧事情が一気に改善されるでしょうね。凄いですよここ。下手ならシェルターより食力生産工場が充実していますし」
俺がウリス達とやりとりしている間、雷火はホログラフィに使ってないもう一本のドローンを使って里の全容を確認していた。
そのまとめ情報を脳内ディスプレイに送ってきたので、なんとなく見てみる。
人口は千百七人。男女比は男四対女六でやや女性が多く、みな二十歳ぐらいの容姿でエルフと。
里の形は、大樹の防壁側に寝室や居間などで構成した木の住宅が集まり、更に奥へ行くと周りに炊事場やトイレなどの人が生活する上で必要な施設が分離して配置されてあった。
「防壁近くに住宅地があるのは、内側の魔物に対処しやすいようにってことなんだろうな」
「子供の姿は確認できませんでしたから、全員が戦えるってことなのかもしれませんね」
「子供がいない? 他の場所で育てているのか?」
「少なくともこの里にはいないですよ。よくある不老不死に近いから子供が出来にくいとかでしょうか?」
「……まあ、戦いにおいて子供は足手まといにしかならないからな」
「でも、子供を作らなかったってわけでもないみたいですよ?」
「確認できなかったとか言ってなかったか?」
「子供の姿はですね。見た目的には子供とはいえないってだけですが」
「ああ、ウリスか」
「どうやらここ千年で唯一生まれた子供ですね」
「せっ!? どこからそんな話を聞いた?」
「下で。我らの子供はここ千年でお前ひとりなんだぞ! ってウルグが叫んでいましたよ」
「瘴気の影響か? 身体機能に影響が及ぶのなら子供が出来にくくなるもの頷ける話か?」
「そうなると、完全に浄化し切るまで新たな子供が生まれるのも難しいってことなのでしょうか?」
「そうかもな」
「この世界のエルフも不老長寿のようですから、それはそれで死亡さえしなければ問題ないのかもしれませんが……難儀ですね」
「ゴブリン戦を鑑みるに、死なないということはないだろうからな」
「戦闘に確実というのはありませんからね」
「だとすると、ウリスが案内役として来る可能性は低いかもな。ウルグの個人的な反対は置いとくとしても、一族で唯一の子供である彼女をわけがわからない技術を使う未知の男と一緒に冒険させるだろうか?」
「可愛い子には旅をさせよとか言いませんか?」
「向こうのことわざがこっちに適応されるか?」
「現状で確認できた限りですけど、召喚勇者経由で向こうの文化が結構根付いているようなのでありえると思いますよ?」
「そうかもしれないが……まあ、ことわざうんぬんは置いておいて。実力的には問題ないようには思えるが、他のエルフを見てないからなんとも言えないところだな」
「ロマンスはないのですか?」
「お前な……ちょっと一緒に戦っただけでそういう感情を抱けるほど脳は惚けちゃいないんだがな?」
「戦時じゃないのだからいいと思いますけど?」
「一振りであることには変わらないだろ?」
「もう! またそれ! 本当にこれだからサムライは!」
「はいはい。ん? なるほど、これは確かに凄いな」
雷火と会話をしながら脳内ディスプレイで里の情報を見ていた俺は、炊事場の奥に食料生産工場と言える大樹が立ち並んでいることを確認した。
家に使われている大樹より一回りも二回りも大きい木々。
その一本一本の内部にいくつも空洞と階層が出来ており、そこで動植物が育てられていた。
木の中に植物が育っているというのはなんとも不思議な光景だが、思い出すのは幼少期に社会見学で行ったことがある食料工場だろうか。
もっとも向こうとこちらでは全然光景が違うんだがな。
地球のはシェルター内という限られた空間で作られていたため、可能な限り密集して効率的に作れていた。
いくつものパレットが所狭しと密集して並べられ、積み重なり、人口太陽のライトに照らされているのに対して、こっちはそのパレットを一部屋に拡張している感じだ。
育成用の枠の上に謎の光源が吊るされることなく浮かび、記録映像でしか見たことがないような麦や米が生き生きと育っている。
特殊なコケや培養細胞であるが故に単色だった向こうの工場に比べると随分と色鮮やかな光景だ。
「私としては無駄にスペースがあって効率が非常に悪いって気がしますけどね。育てているのも食料としての質が悪い部分が出るものばかりですし。非常に無駄ですね」
「確か麦や米は茎や葉は食べられないんだったか?」
「そうです。加工すれば食べられるでしょうけど、その手間と消費されるエネルギーを考えるとその分が勿体ないですね。私達が同じ技術を使えば、きっとここだけで一万、いえ十万人の食料を確保できるでしょう」
「そこまで凄いのか?」
別の木の中で育てられているであろう牛や鶏がのんびりとしている光景を見ると、いまいちピンとこない光景だ。
しかし、食べるために生き物を育てていたことがあるというのは知っていたが、なんとも不思議に見える。
雷火じゃないが非常に効率が悪いようにも感じられるしな。
「そうです! 資源は有限なのです。可能な限り効率的に出来る限り無駄なくしなければ!」
「なんか妙な使命感を抱いているが、ここは核汚染やらブレインリーパーの尖兵に地上のほとんどを支配されている地球じゃないからな?」
「わかっています! わかっていますけど……」
サポートナビの性分に悶えている雷火を放って置いて、俺はこれら技術をどうやって習得しようかと考えを巡らせながら就寝するのだった。




