ログ6 『地球と異世界のサイ』
「これだからサムライは……」
いつものセリフを雷火が口にしているのを聞きながら、俺は椅子に座らされてウリスの回復霊術を受けていた。
ちなみにこの家の主であるはずのウルグは外で放置されている。
霊術を組み込んだ武術はなかなかの脅威だったが、正直技の洗練度やバリエーションからすると地球の方が優れていた。
なので見切ってカウンターをぶち込んで気絶させたというわけだ。
まあ、適応するまでに若干の時間が掛かったのでいいのを顎以外にも喰らってしまったけどな。
おかげで顔が結構腫れたりしていたが、ウリスのおかげでほぼ治っている。
サイ能力で同じことをできなくもないが、その手のが苦手な戦士は結構いたからな。やはり欲しい技術だ。
「はい。終わり」
そう言って微笑んだウリスは、何故か俺の対面に座った。
ウルグの治療には行かないのか? 他のエルフも放置しているし……本当に族長なのかあの人。
(普段の扱いがああなんじゃないの? 日頃の行いが悪いのでしょう)
う~む。正直、実りの大きい闘いをさせてくれた相手なので無下にされているのは忍びないんだが……
(得られるものはあったの?)
ああ、また一つ強くなれたよ。ついでにある可能性が出てきたな。
(可能性?)
ああ、多分だが、俺のサイ現象は――
「疾風嬉しそうね」
感情が表情に出ていたのかウリスにそんなことを言われてしまった。
「あ~そのなんだ。悪いな祖父をぶん殴ってしまって」
「あれはウルグが悪いから気にしなくていいわ。そんなことより」
そんなこと扱いされる祖父って……
「疾風の気装術って凄いね」
「ん? いや、使ってないが?」
ウルグは引き出そうとしていたみたいだが、そこまで使う必要性は感じなかったので始終使うことはなかった。
プライドを傷付けるかと思ったが、どちらかというと感心・驚嘆されている感じだったな。
なので、なんでそこで気装術が凄いという言葉が出てきたのかがよくわからない。
「普通、あれだけ戦ってたら無意識に使っちゃうよ? それができる人って千年前も見たことがないってみんな言っていたよ」
「気力って、いや、三元力ってそういうのなのか?」
「うん。誰だって大きい小さいはあるし、普段から無意識に使ってるものだから」
「それって俺の世界でもそうなんだろうか?」
「この世界に来れてなんともないってことは、世界の理はほとんど同じってことだから、多分そうだと思うよ」
なるほど……となると、やっぱりそういうことなんだろうか?
(そういうことって、いったい何に気付いたの?)
まあ、待てって、もうちょっと確認したいことがある。
「ウリス」
「なに?」
「確認なんだが、俺が使っていた気装術って技術なんだよな?」
俺のその問いにウリスは首を傾げた。
「違うの?」
「向こうでは違うって言われていたな。俺固有のサイ能力だと」
「他の人は使ってなかったの?」
「似たようなのはいたが、全く同じというのはいなかったな」
「それはそうでしょう。だって、三元力は人によって性質が違うもの。起こしやすい現象は人それぞれ違うよ? あ、でも、似たようなってことは共通するところが結構あったんでしょ?」
「ああ、身体能力増強とか感覚増幅などな」
「気装術特有の息吹とか、制御とかも?」
「……ああ」
「じゃあ、向こうにも気装術はあったんだね」
「……やっぱりそういうことなのか?」
「え? どういうこと疾風?」
俺の方は確信を得たが、サイ感知が出来ない雷火は戸惑うしかないみたいだった。
「正直、俺のサイ現象だと言われている現象強弱化ってのは他の奴らに比べると個が薄かったんだよ」
「ええ!? なにを言っているのですか! 星切りなんてできる人なんて他にいませんでしたよね?」
「単に出力の違いってだけなんじゃないか? 程度の違いはあれ、同じことを出来る奴は結構いたはずだ」
「それはそうかもしれませんけど……あれが技術? どうしてそう思ったのですか?」
「プロメテウスやサイパワー増強手術のおかげで得たサイ現象だが、その起点となってるのは飛矢折流武術なんだよ」
「確かに発動の起点は息吹でしたけど……制御も?」
「ああ」
「でも、武術であるのなら他の一振り達も習得していたはずですよね? 技術であるのならみんな現象の強弱化が出来ていないとおかしくないですか?」
「多分それは三元力の性質を正しく理解していなかったからじゃないか? ウリス。三元力の保有量や感応度は個人差があるんじゃないか?」
「うん。私達エルフみたいに霊力に秀でているのもいれば、疾風みたいに気力に秀でている人もいるわよ」
「しかも、その霊力気力、あと魔力か? ごとに性質がある」
「そうだよ。火を起こしやすいのもあれば、水を作り出しやすいのもあったり」
「俺のは?」
「ちゃんと調べてないし、気力はあんまり得意じゃないからわからないけど、万物じゃないかな?」
「万物?」
「この世の全てに干渉しやすい性質。黄金の気力だったし、間違いないと思うよ」
「干渉しやすいが、ないものを新たに作り出すことはし難い?」
「うん。滅多にいない属性だよ。普通、なにかしらに偏っていたりするから」
それは良い性質なんだか悪い性質なんだが……火を生み出したり、仕組みもないのに無機物を操ったりするサイ現象があればとか思わんでもなかったから複雑な気持ちになるな。
とにかく最後の確認だ。
「仮にだが、俺の飛矢折流をウリスに教えた場合、ウリスは気装術を使えるか?」
「使えなくもないだろうけど、ううん。私実は気装術使えるの」
「……使ってたのか?」
「ううん。気力の量が少ないし、感応力も低いから、使えはしても霊装術の方が強いから滅多に使わないわ」
「つまり、使っても弱い、それほど大きく影響が出ないってことだよな?」
「うん。気装術を身に付けているのは、補助的な意味が強いかな?」
「霊力に秀でているのなら霊術に集中した方がいいんじゃないか?」
「苦手でも身に付けておかないと、かえって他の力を邪魔しちゃう時があるからね」
「なるほど。無意識に使っているって言っていたものな。だとすると、その三つごとにそれぞれになにかしらの影響があるってことだよな?」
「そうだよ」
「つまり、俺達は結構ロスして使っていたってわけか?」
「どうだろう? ちゃんと制御できれば疾風みたいに爆発的に威力を上げられもするし」
「んん? 俺がなんだって」
「勇者個体や魔王と戦っていた時に三元力を全部使っていたでしょ? よくできるよね。普通、あんな事したら制御できなくって最悪は身体が爆発しちゃうよ?」
「なんだそれ? どういうことだ?」
「え? 知らないの?」
ウリスが首をかしげると同時に、雷火がなにかを思い出したのポンと手を叩く。
「そういえば、プロメテウス開発当初は謎の爆発死亡事故が多発したって話がありましたよ」
「ちょっと待て。それは改めて確認しよう。結論を言う前に思いっきり話がそれる」
「そうですね。私達にとって全く未知の話ですし」
「とにかくだ。向こうで気装術が技術として認識されず、サイ現象として扱われていたのは、それぞれが得意とする三元力の違いと、三元力そのものの性質の違いによって、万人に適応できず、習得しても現象として認識レベルまでにはならなかったためってことなんだと思う」
「つまり、地球には元々気装術があり、武術の中に組み込まれて脈々と受け継がれていたってわけ?」
「そういうことだろうな。効果として現れる者と現れない者がいれば、それがそうだと確証を持って伝えられるってことだってないだろうしな」
「そう考えると、他にもあるのでしょうか?」
「可能性はあるが……正直、どれがそうでどれがそうじゃなかったかとかよくわからないな。そもそも固有サイ現象ってのはあったんだろうか?」
答えを求めての疑問ではなかったが、ウリスは目を瞬かせた。
「固有サイ現象ってスキルのことかな?」
「わお! またファンタジーが来ましたよ!」
なんでか妙に喜ぶ雷火に俺の方が目を瞬かせるしかない。
「いや、技能や資格がなんでファンタジーになるんだよ?」
「意味合いが違うのですよ意味合いが」
「はあ?」
「細かく言えばそれぞれの世界観ごとによって違いがあるから大雑把に言いますけど、魔法や特殊能力のことを指すことが多いですね。ね、ウリス」
「うん。私達の世界では固有の三元力能力のことを言うわ。技術を使わずに三元力現象を起こせるのがスキルって感じかな?」
「具体例をくださいな」
「異空間収納を自前で持っていたり、思うだけで生物を殺せたり、本来なら知るはずもないことをなにも教えられず見るだけ触れるだけで知ることが出来たりとか?」
「アイテムボックス! 即死スキル! 鑑定スキル! もしかして、才能スキルみたいなのありますか? 剣の扱いが異常に上手くなるとか」
「あるって聞いたことがあるよ」
頷くウリスに雷火が興奮したようにあれこれを聞き始めるのを見ながら、俺は仲間のことを思い出していた。
特に最近よく一緒に戦うにようになり、レジェンドウエポンズと呼ばれていた者達のことを。




