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サムライドレスは異世界を駆ける  作者: 改樹考果
ファイル2『封印の森のエルフ』
24/56

ログ5 『飛矢折流』

 ウリスは弓を使った射撃タイプだったので一緒に行動していた人物が同じであるかどうか少し疑問だった。

 雷火的にはエルフなのだから弓でしょう。って感じなんだろうが、その割には筋肉の付きが明らかに違っていたからな。

 で、案の定、ウルグは俺に殴りかかってきた。

 しっかりと体重を乗せて。

 やはり接近タイプの戦い方をするようだな。

 この世界の格闘技術を確認するのに丁度いい。

 まあ、襲い掛かってくる理由が理由だが、これからのことを考えるならなるべく知れる時に知っとくべきだろう。

 魔物以外と事を構えないなんてことはないだろうしな。

 多くを管理されていた向こうであっても、なにかしらの衝突はあったからな。

 アースブレイド内でも時々一振り同士での私闘が起きたりもしていた。

 それを認める組織の性質というのもあるが、個が強いのが多かったからな。

 なので、不意に殴り掛かられるというのはそれなりの頻度で経験積みだ。

 今の立場になってからはとんとなくなっていたので、ウルグの暴走はなんだか懐かしさを感じないでもない。

 (あのね疾風。そんな遠い目するほど昔の話ではないと思うけど?)

 それだけ濃い人生を歩んでるってことだろ?

 (それはそうなのでしょけど……大丈夫? なんかウルグさんが凄いことになってるけど)

 身体操作系のサイ現象は向こうでも見たことがあるが、これも個人の能力じゃなく技術なんだろうか?

 ウルグから放たれた右拳を左手で受け止めると、直ぐに左拳が放たれたのでこれも右手で受け止めている。

 そのため押し合いをしている最中なのだが、そうしていると見る見るうちに彼の細い身体が膨張し始めた。

 筋肉のきの文字すらないような細身で、俺と同じぐらいの身長だったのが今では着ていた服が音を立てて端々が裂け始めるほどになっている。

 (マッチョエルフなんて認めません! エルフ指数が激減です!)

 はいはい。

 (くぅ~ここまで高い数値を示していたのに!)

 妙なところで残念がっている雷火は無視しつつ。

 色々なサイ現象持ちがいたアースブレイドで、この手のはいないわけではなかったし、戦ったこともあるので別段驚きはしないが……これを技術でか。

 なんにせよ。これを素の筋力で受け続けるのは辛いな。

 サムライスーツ戦闘モード起動!

 「え? 三元力感じないのに疾風の身体が大きくなってる?」

 俺が戦闘状態に入ったことで下手に介入できなくなったウリスをはじめとするエルフ達が、何故かこっちの方を見て驚きの表情をしている。

 言葉の内容からして、人工筋肉が出力を上げているからか? 低出力状態の時はただの布に見えるからな。

 そのせいで身体のラインがストレートに出るので作られた当初は不満があったらしい。が、資材を無駄に出来ないが故にそういうのばかりになった俺達世代からするとよくわからない感覚だったりする。

 ともかく、そんな服を高出力で使うと、今のウルグほどではないにしろ身体が一回り膨張したように見えるのだろう。

 その状態になればサイパワーを使わなくても最下位種ぐらいならひねり殺せ、戦士によっては下位種、中位種すらいけなくもない。

 のだが……押し負けはしないが、押し切れもしないな。

 科学的な強化を生身で拮抗するか。

 あ、いや、徐々に押され始めた!?

 単純なパワー勝負だとこのままでは駄目か。なら、こっちも技術で対抗だ。

 俺は足や腕、重心などを微妙に調節し、最も力を受け止めやすい状態にする。

 それによって再び拮抗、いや、静止したといってもいいほどになりウルグが目を見開いた。

 関節などの動きやすい場所を極力動きにくい形にし、筋肉の力を入れるべきところには入れ、弱めるところは弱め、全身でテコの原理を再現して大地に足を固定している。

 勿論、俺用に調整されている強化服もそれに合わせて動くので、同じか多少上ぐらいの力程度で動かすことはまずできないだろう。

 俺が持っている戦闘技術はなにもアースブレイドに入ってから習得したものばかりではない。

 飛矢折流武術。

 うちの家で代々受け継がれてきた戦闘術だ。

 なんでも家名の飛矢折に由来する、飛んできた矢を主君から守るために折ったとかいう武術が元であり、その後の継承者が様々な武術を雑多に吸収してきた代物なのだとか。

 そんな武術であるため、色々とそれだけでも状況によっては強力になる技が存在していて、その一つが今使っている飛矢折流不動術『壁』。というわけだ。

 これを使うと身体をその場に固定することができ、強烈な衝撃や継続的な力を受けても留まり続けることができる。

 が、それが故に受け流すことができなくなるので、場合によっては普通よりダメージを受ける欠点がある技で使いどころが難しいんだよな……こういう時や、カウンターとかに使うと強力っちゃ強力だが。

 ちなみにゴブリン幼王の正体がわかる前に使った瞬間連続切りは飛矢折流身体操術『瞬』という技で、自身の身体能力を瞬間的に加速する一種の奥義にして基礎だったりする。

 ご先祖様はそれを使って飛んでくる矢を折ったって話だ。

 一時的に脳や身体のリミッターを外す技なので、未熟だったリ多用したりすると自滅するリスクがあったりする。

 まあ、そもそもあの時は本来の瞬以上の効果を発揮するために強化服の機能やサイ現象などを併用していたが……改めて考えてみるとそうまでしなくてはいけない上に、それでもサムライドレスなしでは勝てなかった相手というのだから、小だが中だか知らんが魔王とは恐ろしい存在なのかもしれないな。

 (呑気に考えるのはいいけど、なにしているの? というか、サイパワーは使わないの?)

 ん~サイパワーを使ってもいいんだが、それでは肉体操作系の霊術を詳細まで感じるのが難しくなるからな。

 (目的から考えると確かに使えないわね。私は疾風を介してしかサイを感知できないし)

 将来的には機械的にも感知できるようにしたいと開発部は言っていたが、流石にこれは文句を言うわけにもいかないよな。

 こういう霊術とかいうのを見ると、結局俺達が理解していたのは一端でしかなかったってわけだし。

 (そうね。そういう意味ではここで出来る限り理解を深めるのは有益なことかも)

 ああ、そうなると俺のサイ現象は不向きだからな。

 俺が使う現象強弱化は、自他に影響を強く与えるためか僅かにサイ感知を阻害することがあった。

 勿論、戦闘に支障が出るレベルではないが、こうして相手のサイを隅々まで捉えたい時にはどうしても邪魔になってしまう。

 しかし……なんて繊細なサイパワー、いや、霊力か? の流れなんだろう。

 (そうなの? 私からすると随分と強引な現象って見えるけど)

 確かに見た目はゴリゴリのマッチョになる強引かつ大胆なサイ現象だが、身体の隅々までよどみなく力が流れているんだよ。

 身体操作系は身体変化系より本来の身体から逸脱した状態にしないとはいえ、変化の度合いが大きければ大きいほど少しのミスでダメージが生じることがあった。

 戦闘後に全身の筋肉が断裂して動けなくなった仲間を見たことがあり、そういう奴に限ってサイパワーの流れが良くないことが多い。

 そして、それは大なり小なりアースブレイドの戦士達に付き纏っている問題だった。

 (疾風も昔はそれでよく自傷を起こしていたものね)

 今考えてみると、俺達が使うサイ現象は生来の物を本能的に使っているだけであり、個々人でそれを扱う技術が出来てはいても他人に全てを伝授できるものではなかった。

 だからこそ、よっぽどの熟練者でない限り、ここまで完璧なサイパワーの運用を出来る者に覚えはない。

 俄然欲しくなってくるな。

 (ええ。今も地球で戦い続けている一振り達のために)

 そう思って更にウルグの力を引き出させようと動こうとした時、それまで憤怒の表情を向けていた彼が笑みを浮かべた。

 「ああ、これは勿体ないですね」

 闘気の質が変わった。ん? そういえば、これも三元力なのだろうか?

 「聞く限りだとあなたは向こうの気装術を身に付けておられるようですし、それを引き出させないというのは武人としての恥でしょう……全力で行かせていただく」

 明らかに正気を取り戻したウルグは、次の瞬間その体を元の姿に戻した。

 押し合っていた力の片方が失われたことによって前に行こうとする俺の身体。

 反射的に制動を掛けようとするが、ウルグはそれを許さず自ら倒れる。

 彼の拳を握っていた手を離して巻き込まれるのを防ぐが、代わりに下から襲い掛かる蹴りをもろに顎に喰らってしまった。

 『壁』その技の性質上、使用解除に僅かな隙が生じる。

 そのためいつもの俺な避けられる攻撃をもろに、それどころか固まっていたが故に受け流せないダメージで一瞬意識が飛びかけた。

 「その技は使いどころが難しそうですね」

 後方回転で距離を置いたウルグの言葉に、俺は苦笑するしかない。

 「まだまだ未熟者なので」

 「ご謙遜を。それだけのことを出来る者は我ら一族の中でもいるかどうか……我らエルフは霊術に頼り過ぎる傾向がありますからな」

 「そもそもウルグみたいな殴ったり蹴ったりするのを好きなエルフっていないと思うけど?」

 なんて外野のウリスが言うが、しっかりと孫の言葉を無視する祖父はゆっくりと構える。

 (ウルグだけなのね! だったらエルフ指数をそんなに変動させなくても!)

 俺は俺で雷火を無視しつつ、ウルグを観察。

 空手の構えに似ているが、下半身はボクシングに近いな。

 森で過ごしてきたということを考えれば、深く腰を下ろす形は向かないのだろう。

 「フルギオル流封滅拳がウルグ」

 「飛矢折流武術継承者が飛矢折疾風」

 「「推して参る!」」

 とりあえず、満足するまで殴り合いました。

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