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サムライドレスは異世界を駆ける  作者: 改樹考果
ファイル2『封印の森のエルフ』
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ログ3 『魔なる力は世界の毒となる』

 断片的に得られている情報からそうだとは思っていたが……俺が知っている日本とは違う日本から来た勇者ね……

 ウルグの勇者についての言葉は、正直、いまいちピンとくるものがない。

 (私は大いにピンときているのだけど。まさに物語だわ! 人が作って夢想した! とても素晴らしいわ!)

 冷めている俺とは反対に雷火が興奮してきているのはどうにもおかしいが、このタイミングでわざわざ勇者という単語をこちらに向けて放ってくるということはなにかしらの意図があるのは間違いないだろうな。

 (とりあえず話を合わせて先を促しましょう)

 そうだな。

 「先程ウリスからも召喚魔法の話を聞きましたが、それで呼び出した人物と考えても支障はないですか?」

 「ええ。勇者様はここより遠方にあった大陸の召喚魔法によって呼び出された方です」

 「帰還したということは、その魔法によってでしょうか?」

 「いえ。残念ながらその魔法は、正確には魔導装置ですが、それは呼び出し際に壊れてしまいました」

 「修復も、新たに作ることもできないのですか?」

 「何分一万年前の遺跡にあったものですから、直すことも再現することもできません」

 「それなのに帰れたということは、別の遺跡にある装置を使った。ということですか?」

 「はい。私達が今いる島にあった魔導装置を使いました」

 ここ島なのか……

 (監視衛星がないですから地形まではまだわかりませんね。アシストだと流石にそこまで飛ばすのは時間が掛かるでしょうから、修理が終わったら私のドローンを作って飛ばします?)

 いや、先に弾丸や装備の生産を優先してくれ。平和な世界ってわけではないようだからな。

 (了解)

 「……ウリスの口ぶりからするとそれも壊れているんですよね?」

 「ええ、残念ながら千年前に勇者様が使用した際に。ただ、他の遺跡であればまだ使える召喚装置が残されている可能性はあります」

 「なるほど……」

 帰還できる可能性が高まるのはありがたいな。

 (帰りたいのですか?)

 生きているだけでも行幸だが、帰れるなら帰るべきだろう。なんせ今の地球には最低限の戦力しか残されていないからな。

 (私的には疾風はもう十分に戦ったのですから、そう急がなくてもいい気がしますが)

 アースブレイドの鞘とは思えない発言だな。

 (疾風。それは違います。私は疾風の鞘なのですよ?)

 同じことだろ?

 (全然違います)

 なんにせよ。急ぐつもりはないさ。なにもかもが未知である以上、焦りは窮地を呼びかねない。

 (でも帰るのでしょ?)

 俺は地球の刃だからな。ここが異なる世界であるのなら、振るうべき場所が違う。

 (だからこそ休められると思うのですが。ここは私達の次元とは違うのですから、どのタイミングの向こうに戻れるかも、そもそも私達の地球に戻れるかも不確かなのですし)

 ここに骨を埋めろと?

 (そうまでは言いませんけど、せめて向こうで戦い続けた分だけでも休んでほしいのがサポートナビとしての本音です)

 刃が錆びる。

 (……はあ。これだからサムライは)

 諦めたような呆れたようなため息を雷火が付いた時、俺の沈黙を見守っていたウルグがおもむろに声を掛けてきた。

 「もし、帰る意思がお有りでしたら、我らの一族から案内を一人付けましょう」

 ふむ。ありがたい話だが、素直に申し出を受け取るのはなんだな。

 (彼らには彼らの生活がありますしね)

 それもそうだが、帰還の願いは俺達の問題だからな。他人を巻き込むのはどうなんだろうな?

 (どれくらいの時間が掛かるのかもわかりませんし)

 「……そこまでしていただかなくても、情報をくれただけでも十分です」

 「いえ。我らが千年の宿願を叶えてくれた方へのお返しとしては、むしろ不足過ぎるぐらいなのです。できれば一族総出でお返しを致したいのですが……全ての魔物が森から消えても、まだ残滓が残っておりますので余力があまりないのです」

 「でしたら余計にお手を煩わせるわけには」

 「いいえ。どちらにせよ一人は浄化が完了したことを外の世界に知らせなくてはいけませんので」

 「なるほど……その浄化という奴ですか。対象は瘴気でしょうか?」

 「ええ」

 「確認したいのですが、千年の宿願というのは?」

 「千年前にご帰還された我らが主である勇者様が最後に倒した大魔王。その遺骸の浄化です」

 「大魔王? 俺が倒したゴブリンの幼王とは違うのですか?」

 「あれの比ではありません。大魔王は下手をすれば大陸を沈めます」

 ……戦略級兵器かなんかか?

 (沈むというのがどんな状態を指しているかにもよりますが、戦略級兵器でも難しいと思いますよ? それを大量搭載した大型戦艦であればというところでしょうか?)

 「確認なのですが、それは巨大な個体なんでしょうか?」

 「そうですね。山のような大きさでした」

 向こうでも大きさだけはある奴はいたが……そいつは生産特化だったか?

 (少なくとも。私達も奴らもそれだけの破壊力を出せるのは大型戦艦である必要があるでしょうね)

 意図がわからんな。言葉からして、実際に大陸が沈んでいるのだろ?

 (ただ破壊するだけでは意味がありませんからね。行動原理が違うというところでしょうか?)

 少なくともゴブリンは、友好的でもコミュケーションが取れる相手でもなかったな。

 「幼王が小魔王と呼ばれていたことを考えると、ああいうのから進化するということなんでしょうか?」

 「はい。主に魔物がなにかしらの条件でその種の王となるのが小魔王。更に他の種を支配下に置き始めると中魔王と呼ばれます」

 「それは必ずそうなるのですか?」

 「……いいえ。あくまでそうなる例が最も多いというだけです。魔王へ至る個体も魔物だけではありませんし。単独で魔王と呼ばれるまでの個体になった例もあります」

 「それらは全てサイパワー、いえ、三元力を使うわけですか……」

 「いえ。魔王と呼ばれる存在が使うのは魔力のみです」

 「それぞれの力に王がいるということですか?」

 「いえ。単に魔力にはそういう性質があるというだけです。魔力はいわば無色の可能性。それが故に、どんなものにでもなってしまい、時として悪と呼べるものを肥大化させ大きく変化させてしまうのです」

 「具体的には?」

 「信じられないかもしれませんが、ゴブリンは元々人間でした」

 (ファンタジーだわ!)

 どっちかって言うとSFじゃないか?

 (む? 確かにどっちでもできますし、そう言う話はありますよね。でも、ここは異世界なのですよ!?)

 それに、別に向こうでも似たようなことはあったろ? ブレインリーパーがばら撒いたウイルスとかで。

 (疾風はロマンがないわ!)

 実害があることにロマンもなんもないだろうが……とはいえ、こっちのはウイルスが原因というのは考えにくいだろうか? となると、瘴気、いや、

 「魔力によって変化してしまったと?」

 「はい。一万年前の話になりますが、その当時存在していた高度に発展した魔法文明が、世界を変質させるほどの魔力暴走を起こし滅びました」

 「その際に多くの人間が魔物と化したと?」

 「はい」

 「魔力とはそんなに危険な力なのですか?」

 「個人で使う分にはさして問題はありません。無限の可能性に魅力されず、また無の祝福を退けられるのであればですが」

 「無限の可能性というのは、わからないでもないですが……」

 向こうでも個人個人で使えるものは違ってもどれもが物理法則の枠から外れていたからな。だが、

 「無の祝福とは?」

 「世界を崩壊へと導き、全てを元の無へと変えさんとする外世界の流れです」

 「……いまいちよくわからないのですが」

 「世界創世の話にも絡む一種の概念ですから、三元法が発展してない世界の者にはピンとこないかもしれませんね。具体的に無の祝福があると言える物証はありませんから。ですが、魔力が絡むと高確率で破滅的な結末に至るのは事実であり、魔法文明の崩壊という事実が一つの証明となっています」

 「魔力には宿しているあるいは使っている存在は、世界に対する毒へと誘導する性質があるということですか?」

 「そうです。ですので、それに意図して抵抗しなければ、無意識の内に世界の敵となり、ゆだねてしまえばそのありようすら悪意へと変えてしまう。それゆえに心身ともに魔力に侵された魔物は生きとして生きる者へ理由なき悪意を向け、魔王へ至った存在は全てを破壊しようと息を吸うように破滅を撒き散らすのです」

 「魔物との共存はできないと?」

 「少なくともこの世界で魔物と呼ばれている存在はそうです。コミュニケーションはできなくもないようですが、存在への悪意を本能的に持っているが故に、それすら害悪へと繋げます」

 「そのありようそのものが違うからこそ相互理解ができないわけですか」

 それだけ聞くとブレインリーパーと似たような感じがするな。奴らも高度な文明を持ってはいたが、脳を資源とするが故にコミュニケーションすらできなかったからな。なんせしようとした者すら片っ端から資源にしていたわけだし。

 「となると目撃と同時に駆除するべきなんですね?」

 「可能であれば」

 「駆除は向こうでも良くしていたので、それに関しては問題ありません」

 「確かにウリスから聞いたあなたの手際であれば心配することではないかもしれませんが、中には個人ではどうしようもない個体もいますので慎重な行動を」

 「勿論、わかっています。向こうでもそういうのはよくいましたからね。単独である以上は、できる以外の無茶はしませんよ」

 「そうですか……」

 困ったような戸惑ったような表情を俺に向けてくるウルグ。

 心配も混ざっているようにも感じられることから、現状の俺では単独というのはいかに無茶かということを彼は思っているのだろう。

 向こうが想定している危険性と、こちらが想定できる可能性にはどうしたって乖離が生じる。

 そもそもの知識量が違うのだから、いかにサムライドレスが有している科学技術でもサイ関連もとい、三元力に関しては現状ではどうしようもない。

 だとすると、ここが引き際か?

 (そうね。私達にとってこの世界はあまりにも未知が多いわ)

 雷火の同意に俺は心の中で嘆息するしかない。

 アースブレイドの戦士としては民間人を巻き込むのはいただけないが、そもそも俺達の枠組みで彼らのことを考えるのもおかしな話だしな。

 「それに、過度な無茶は案内をしてくる方にも迷惑になるでしょうしね」

 少し間が開いてしまったその言葉に、ウルグは目を瞬かせた。

 きっとどう俺を説得しようか頭を巡らそうとしていた矢先だったのだろう。

 理に適っているのなら意固地になるのも馬鹿らしいからな。戦士は柔軟でなければ生き残れない。

 「それは我々の提案を受け入れてくると?」

 「この世界のことをなにも知りませんからね。瘴気など向こうではありませんでしたし、ウリスがいなければ死んでいたかもしれません。その対策ができる誰かが付いてきてくれることは歓迎すべきことですから。ただ、どれだけの時間が必要かわからないことですから、その点に関しては申し訳ないという気持ちがありますので、情報をくれるだけでも十分というのもまた本心ではあります」

 「いえ、時間に関しては気にしないでください。我々には老いも寿命もありませんので」

 (やっぱりそうなのね! 高エルフ指数確定だわ!)

 いい加減うるさいぞ雷火。

 「不老不死化処理をしているのですか?」

 「処理……ですか? いえ、種族的特徴といったところでしょうか? 我々エルフを始めとする妖精族はそのありようを魂に大きく依存していますので、それが衰えない限り肉体は若いままでいられます。こう見えても私は二千年生きていますし、ウリスも今年で百歳になります」

 百歳って……幼い言動が端々にあるのに俺より圧倒的に年上だったのか。

 (ファンタジーだわ!)

 まあ、サイパワーは物理を超越することが多々あるからな。素で不死な奴も俺達の中にいたっちゃいたし。

 (なんであれあんまり気を使う必要がないのはありがたいですね)

 そうだな。

 (気になるのはここ以外がどんなファンタジーかですね)

 そうだな。

 (……興味ないですよね?)

 そうだな。

 (もう!)

 「とにかく、我々のことはお気になさらず。それにもしこの森の浄化が終わるまでに見つからない場合は、一族総出で探索のお手伝いをしますので」

 「流石にそこまでしていただくわけには」

 「それだけのことを疾風様はしてくれたのです」

 戦士として普通に敵を屠っただけなんだがな……どうにも温度差があって困るしかない。

 「さて、疾風様を案内する者なのですが――」

 「はい! 私が行くわ!」

 それまで所在無さげにしていたウリスが目を輝かせて手を挙げた。

 同時に、

 「やっぱりかああああああ!」

 ウルグが再び発作を起こして慌てて乱入してきた他エルフ達に取り押さえられることになった。

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