表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サムライドレスは異世界を駆ける  作者: 改樹考果
ファイル2『封印の森のエルフ』
20/56

ログ1 『封印の森にて』

 地球へ襲い掛かってきた異星人ブレインリーパーとの決着のために使った反物質爆弾。

 それによって乗っ取っていた敵ワープゲート戦艦ごと俺は死ぬはずだった。

 だが、気が付けば見知らぬ森にいて、愛機であるパワードスーツ・サムライドレスとそれに宿る相棒サポートナビである雷火と離れ離れになっていた。

 通信も繋がらず、救出も来る様子がないことから俺は単独で完全修復モードに入り動けなくなっている相棒の下に向かい……ゴブリンに出会い、それらに襲われているエルフ・ウリスとウルグを助けた。

 状況からゴブリンをブレインリーパーとは違う新種の脅威と判断した俺は、奴らを殲滅するために動き、ゴブリンの巣を壊滅させることには成功する。

 そこから現れたゴブリン幼王と名付けた個体に相打ちを覚悟するまで追い詰められるが、俺の生命危機に強引に完全修復モードを解除した雷火と共に倒せたんだが……謎のサイパワーによって意識を失ってしまった。

 ウリスによってその力を解除されて目を覚めたのはさっきなのだが、彼女と雷火は言うのだ。

 ここが異世界だと。

 そりゃまあ、核荒廃で自然環境がほとんど残されていない地球にしてはやたらと豊かな森だし。

 通信が繋がらないとか、いつまで経っても敵も味方も来ないのだから、おかしいとは思ってはいたが……異世界転移ね。

 理解はできるが、納得し辛いこっちの心情を他所に、目覚めた俺をウリスは自分達の住処へと案内した。

 まだ入っちゃいないのだが、既に目の前には彼女曰く封印の森の里だという密集した大樹で出来た壁がある。

 (これはまた贅沢といいますか、意味がわからない使い方ですね。エルフ指数は高いですが)

 俺の視界を通して同じ物を見ている雷火からの思考通信に苦笑しそうになりながら、改めてウリスが封印の森の里といった場所を見……いや、その前に、なんだエルフ指数って? さらっと変な単語を入れるな。

 (どれだけテンプレエルフに適合しているかの指数ですよ)

 そうか……

 (ちなみにウリス達は今のところ、八十パー越えをしていて、ゴブリン指数を圧倒していますね)

 そうか……

 (あのゴブリン達は自動記録で確認しても、テンプレ的なゴブリンとは大分外れていますからね。有名どころな雑魚モンスで色々なパターンがありますが、裸個体はかなり近いと認識できますけど、それ以外は駄目ですね。マイナス評価が多いです。特に大型や幼王は――)

 目の前にある長大な物体は、なんど見ても枝葉の生えた木々が壁のように密集して高々と生えそろっている。

 それがどこまで続いているか現状では把握しきれないほど横に広がっているのだから、基本的に再生した自然環境に手を加えることが禁止されている俺達からしたら理解不能な光景だ。

 とはいえ、こうして作っているということは、その必要があるということであり、それができる技術があるということ。

 思い浮かべるのは……

 前の方を見ると、ようこそと行ってから再び歩き出したウリスがいる。

 どうやら里の入り口はもう少し先にあるようだ。

 門でもあるんだろうか? まあ、とにかく。

 雷火……って、いつまで独り言つぶやいてるんだ?

 (――というわけであれらは……独り言!?)

 俺が聞いちゃいなかったんだから独り言だろうが。

 (酷い! 疾風が聞いてきたからわざわざ答えたのに!)

 必要以上に答え過ぎなんだよ。いつもは簡潔な癖して趣味が関わると直ぐこれだ! 何度も直せと言ったよな俺は!

 (疾風にも興味を持ってほしいのです! 過去の人類の叡智ですよ!)

 お前らが叡智と認める範囲が広すぎるんだよ! 娯楽だろそれは!

 (娯楽も立派な叡智です! それがあるからこそ、人類はあそこまで豊にもなれ、私達すら生み出せたのですから)

 はいはい。

 (もう! これだからサムライは!)

 とにかく、ウリスが向かう先に通り抜けられるような場所はあるか?

 (ないですね)

 となると、やっぱりサイパワーか。

 (でしょうね。彼女が使った植物を加工するサイ現象。幹から矢を作り出すものや、枝の位置を変えるものなど。から考えますと、エルフは植物系のサイ現象が得意なのでしょう。ん~作品によっては魔術が得意だったりしますけど、彼女達は違うのかしら? いえ、でも、指数は上昇しますね)

 あ~つまり、こういう方式の方がエルフ達にとってみれば簡単で効率がいいんだろさ。

 (文化の違いですね……私としては耐久力や防壁としての機能に疑問がありますが)

 枝葉もしっかり生えているから登り易そうだしな……いや、薄っすらとサイオーラが出ているから、もしかしたら下手に触るとなにかしらのトラップが発動するんじゃないか?

 (サイ現象だけでトラップって……どうやっているのかしら?)

 俺達にサイパワーを留めておける術はないので、雷火の疑問はもっともだ。

 サムライドレス専用の武器である雷人刀・風人刀のように宿し続けるサイ現象持ちはいる。

 が、その数は多くなく、技術的に再現も出来ていない。

 勿論、そういう人物がいる可能性は考慮できるが、雷火も俺が目撃した複数のサイ現象を扱う記録を見ている。

 加えてウリスが口にした霊術や気装術。

 ことサイ技術に関しては俺達より進んでいるのは間違いないと二人して同じ見解だからこその疑問だ。

 しかし……ここまで進んでいるとなると、彼らの技術を俺達の地球に持ち帰れば一気に環境の再生が進まないか?

 (そうですね。確認出来た限りのサイ現象を考慮すると、うまく取り込めば十倍は軽いかもしれませんね。まあ、あくまでできればですけど……)

 確かに帰る手段は今のところないからな。

 (量子爆弾の爆発に巻き込まれるのと同時にこちらに転送されましたからね)

 転送ゲートは俺達にとっても未知な技術だったかなら、破壊の衝撃で暴走か誤作動でも起きたと考えるべきなんだろうか?

 (地球と敵母星を行き来するだけのものでしたからね。コントロールを奪った武装者とサムライドレスならなにかわかるかもしれませんが、あの場で生き残っていたのは私達のみでしたからね)

 他は?

 (生存は確認できている者達はいますが、全員ゲート戦艦の外ですから)

 近くで巻き込まれば可能性はあるんじゃないか?

 (否定はしません。ただ現状で味方機の反応はありませんし。なにより、転移ゲートは不安定な代物です)

 ああ、仮に異世界に飛ばされたとしても、同じ場所に飛ばされるとは限らないわけか。

 (時間もですね。私達はたまたま同じ時間に飛ばされていますが、それでも数分のずれはありました)

 だが、もしかしたら今後、仲間がこちらに来る可能性は否定しきれないだろう?

 (そうですね。それが数秒後なのか、数百年後なのかはわかりませんが)

 なんにせよ。俺達にそれを知る手段も、どうこうする手段もないわけだ。

 (残念ながら)

 まあ、元々全員死ぬつもりだったのだから、俺達が生きているだけでも十分過ぎるさ。他の誰かが生きている可能性も含めてな。

 (ええ、であるのなら、生き残った先を考えないといけませんよね)

 そういうことだな……そういえば、雷火が知っている物語には帰る話ってのはないのか?

 (ようやく興味を持ちました!?)

 簡潔に。

 (そんな! もし疾風が興味を持ったらって何万も用意しているというのに!)

 ……絶対に興味を持つのを止めよう。

 (ああ、疾風の興味が!)

 安心しろ、元々ない!

 (もう!)

 とにかく、あったのか?

 (あるにはありますけど、こちら側が意図的にやっていない場合はそのまま異世界に定住というパターンが多いですかね?)

 意図的にってのは?

 (召喚魔法というので呼び出した場合ですね)

 なるほど……魔法ね……

 ふと思うのは、ゴブリン達が使っていたサイ現象が俺の中に薄っすらある魔法と似通った感じがあることだ。

 なので目の前に歩くウリスになんとなく聞いてみた。

 「もしかして、魔法とかってあるのか?」

 「ん? あるよ。疾風も見たでしょ? ゴブリン達が使ってたのが魔法だよ」

 あるんかい! ん?

 「霊術に、気装術に、魔法。もしかしてそれに使われているそれぞれの力が三元力か?」

 「厳密にはちょっと違うけど、そうだね。霊力。気力。魔力で三元力だよ」

 「で、俺は気力を持ってると」

 「うん? ううん。普通なら三つとも持ってるから、疾風も持ってるはずだよ? というより、使っていたよね?」

 「そうなのか? よくわからないが……」

 ウリスの言葉がなにに該当しているのか考えようとしたが、雷火の興奮した声が思考通信で入る。

 (疾風これはもしかしたら!)

 人類マニアな彼女に心の中で苦笑しつつ。

 「確認なんだが、召喚魔法とかってあるのか? 異世界の住民を呼び出す」

 「うん。あるよ」

 こともなげに肯定するウリスに思わず笑みを浮かべようとした俺だったが、次の言葉で眉を顰めることになった。

 「でも、今も残ってるかわからないかな……」

 「それは……」

 問い質そうとした時、樹の壁の前に辿り着いてしまう。

 まあ、そのまま聞いてもいいちゃいいのだが、それより気になることが生じてしまい思わず黙ってしまった。

 少し前に確認した通りに、目の前に広がる幹の壁のどこにも門らしき物がないからだ。

 つい物憂げにウリスを見ると、彼女は微笑んで壁に近付く。

 「ちょっと待っててね」

 特に仕掛けらしいものがあるわけでもなく、サイオーラの強い場所もない。

 向こうで見たこの手のサイ現象宿しは、使うあるいは発動する箇所にサイオーラが集中していた。

 宿した物であればそういうことに限らずに使える場合があったが、基本的に他人のサイ現象をどうこうできない。

 はずなのだが、ウリスは木の皮に触れながら単音で歌い出した。

 緑色のサイオーラが彼女の身体から壁へと流れ出し、それと共に密集している幹が動き出す。

 (動く要素がないのに、まるで動物かのように動いていますね)

 まあ、サイ現象ってのは基本的に物理法則を無視するからな

 (わかってはいますけど、こちらの知識ではできないことをされると余計に)

 本格的な研究が始まって実質百年しか経ってないからな。

 (古くから国や個人によって研究はされてはいましたよ。成果は芳しくなかったようですが、今のサイ技術の基礎として多少は役に立った程度でしょうか?)

 結局、ブレインリーパーから技術を盗まなかったら今も使えていなかった可能性はあるよな。

 (現状でも科学技術の方が効率いいですからね)

 だな。

 などと思考会話をしている間に木々の壁に人が通れるぐらいの穴が開く。

 それなりの時間かかったということは結構な厚さがあるぽいな。まあ、それほど素早いといった動きではなかったが……樹齢千年ぐらいなんだろうか?

 (そうですね。ドローンでスキャンした限りだとそれぐらいの年輪はありますね)

 千年ね……それだけでもここが俺達の地球じゃないってのがよくわかるな。

 (勿論、サイ現象で急激に成長させたって可能性はありますけど)

 まあ、そもそもが自然にできる形じゃないからな。

 「行こ疾風。みんなが待ってるよ」

 そう言ってさっさとできたトンネルの中に入っていくウリス。

 俺も後に続くと、それを探知したのか後ろの木々が元の位置に戻っていく。

 年輪が見える中を通っているが、木々を切断した時の匂いは感じられない。

 まあ、それほど経験があるわけではないので、勘違いしている可能性もなくはないが。

 (粒子は確認できないですね)

 つまり、なんも損傷してないってことか。

 サイ現象で強引に動かした場合、よっぽど高度でないと変化させた物質が壊れることがある。

 それがないということは、かなり高レベルなサイパワーだったってことか……幼い言動が端々に見えるが、戦闘などやこういうところを見る限りアースブレイドの歴戦の戦士に近いところを感じるんだよな。

 (そうですね。記録していた彼女の言動だけを見れば外見年齢にそぐわないです)

 そういえば、彼女はなんて言ってたんだ?

 (確認します?)

 まあ、重要なところだけでも一応な。

 (では、表示します)

 雷火の操作で俺の脳内ディスプレイにウリスが喋ったシーンが小分けにして一気に出てきた。


 「だれ?」「人間?」「癒しの精霊よ我が呼び声に応え悪意に侵されし体を癒したまえ」「だ、大丈夫です! お、降ろして~!」「うそ!? 三元力使ってないよね!?」「疾風! ウルグを助けてくれてありがとう」「木」「葉っぱ」「枝」「樹皮」「なにそれ!?」「さっきもだけど、この服なんなの?」「もう一回やって?」「凄い!」「なにこれ!? なんてもの食べてるの!?」「こんなの、食べちゃ、駄目だって! 駄目なの!」「こんなの食べちゃダメ!」「大丈夫だよ」「食べないの? 冷めちゃうよ?」「なに!? なにする気!?」「一人で行くなんて危険だよ!? 私も一緒に行く!」「な、なにそれ!?」「ハヤテ! 任せて! 大丈夫だから!」「気持ち悪い~」「疾風……ここどこ?」「うそでしょ!?」「うん。ありがとう疾風」「みんな~」


 が、覚えのあるウリスが言っていたことの翻訳だった。

 やっぱり不味かったのか……

 (あれ、疾風のために作った物なんですが……)

 なんだか不機嫌そうな雷火に苦笑しつつ、俺が考えるのはウリスが口にしていた三元力という言葉について。

 サイパワーは更に細分化できるってことなのか? 

 (彼女の口ぶりからするとその可能性は高いかと)

 なあ、もしかして、彼女達、ことサイ技術に関してはブレインリーパーより進んでないか?

 (確かに奴らもサイパワーを留めておける技術はありませんでしたからね)

 ああ、だからこそ俺達の脳を刈り、あらゆる文明の機器に組み込んでいたわけだからな……脳を使ってるってことはないよな?

 (少なくとも大樹の壁には組み込まれていませんね)

 そんなことをあれこれとしている間に、結構な長さがあった年輪のトンネルを抜けた。

 俺の前に現れたのは家代わりに使っているのか窓や扉が付いた無数の大樹と大勢のエルフ。

 「みんな~連れてきたよ~!」

 ウリスの呼び掛けに反応したエルフ達が一斉に歓声を上げ、口々に感謝の言葉を俺に言ってきたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ