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サムライドレスは異世界を駆ける  作者: 改樹考果
ファイル1『落ちた地球の刃』
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ログ2 『未知との遭遇』

 脳裏に浮かぶもう一つの視界である脳内ディスプレイには、アシストドローンから送られてくる映像が流れている。

 そこに映し出されている人型は、システムがアンノウンと示す通りに人類ではなかった。

 大きく尖った耳に、突き出した鼻と鋭い歯が生えた大きな口。

 二足歩行でチンパンジーと同じぐらいの大きさだが、人間の子供では間違いなく違う小柄でありながら成体的な体付き。

 醜く出た腹を持ちながら、むき出しな両手足は筋肉質。ダメ押しに薄汚れた緑色の肌が、あるモンスターの名前を思い起こさせる。

 ゴブリン。

 そういうのが出てくるような娯楽作品にあまり興味がないが、相棒をはじめとしたサポートナビ達がなにかとゲームだの映画だの勧めてくるのでなんとなく覚えていた。

 彼らナビ達はちょっと困ったことに、人類が好きすぎるんだよな。

 特にうちの雷火さんは、文化が好き過ぎる。

 戦闘中に脳内ディスプレイでゲームをしていたり、エロサイトを見ている奴がいるって話したら、即座にお勧めリストを提示してきた時は困った。

 ゲームはまだいいが、こちとら未成年だぞ? 成人指定のエロサイトを勧めるのはどうなんだ!? しかも、しっかりこっちの趣向に沿ったのを並べてるのは恥ずかしいやらなんやら……

 とにかく、ゴブリンとかは大体が物語の敵として描かれているので、アースブレイドの仲間とは実際にいたらどう戦うか? どう対応するべきか? とかそんな話ばかりしてナビ達に呆れられたんだが……まさかこうして実際に相対することになるとはな。

 あの時の話し合いでは現代兵器で殲滅だろうとか笑ってはいたが、実際はどうなることやら。

 そもそも、これが本当にゴブリンであるという証拠はない。

 今の技術であれば、ロボットであろうと、人工生物であろうと物語の中の存在を実際のものとして作り出すことはできるはずだ。

 ブレインリーパーの新兵器という可能性も捨てきれないが、そうであるのなら少なくともそうであると表示される。

 詳しくはよくわからないが、奴らや奴らが使う生体兵器はどれもが独特な反応があるらしい。

 もっとも、奴らは全体的に昆虫ぽいので、見た目的にも全然違うが……ではなんだろうか?

 なにかしらのアミューズメントパークでも作られたとか? だが、その手の話は聞いたことがないな。いや、だとしたらそれはそれでおかしい。

 その手の話は興味ないから知らないだけかもしれないが、少なくとも人工的に生物を作り出すことそのものは禁止されている。下手すれば再生中の自然環境に悪影響を与えかねないからな。

 第一、そんなことが公で行われていたらかなりの騒ぎになっていたはずだ。

 アミューズメントパークなんて作ってる余裕が今の人類にあるはずもないのは当然として、ああいうのそのものに強い拒否感があったはず。

 アースブレイドに所属する戦士には必ず入れられているナノマシンとそれによる遺伝子レベルからの肉体強化とかだって、今は特になにも言われていないが、始まった当初は世界中で賛否の嵐やらなんやらがあったって聞いたことがある。

 そうせざるを得ない状況下でもそんな事態になるのに、それ以外でなんてことになったらどうなることやら。

 となると違法? いや、それもそれで誰がってことになる。出来るとしたらサポートナビ達ぐらいだろうが、エロサイトの好みリストを勝手に作ることはあっても、流石にそこまではやらんと……一週間後に目覚めた相棒に問い詰める必要があるか? いや、別に信用してないってわけではないんだが、ないんだからな!

 頭の中で言い訳をしつつ、もうちょっと考えてみる。

 未だに救援が来ないということは、少なくともここは人類生存圏ではないってことだ。

 奴らから取り戻した地域には、例え人がいなくても厳重なセキュリティが引かれている。

 こうして自然環境を再生した場所なら特にだ。

 なので、なにかしらの異変があったら直ぐに反応があるはずであり、アースブレイドは勿論、人類統治機構があんなのを了承するとは思えない。

 本当になんなんだ? ……こういうことを考えるのは相棒の役目なんだがな。

 いまいち正体がわからない仮定ゴブリンをドローンで追わせながら、俺は深いため息を吐きつつ目的地に向かって進む。

 変な人型生物が見付かったらかといって、こっちの行動が変わるわけではない。

 とりあえず敵性は感じられないのであれば、不用意に関わる必要ないしな。

 とはいえだ。無視し続けるのもまたちょっと難しいか。

 ドローン一機を最初に見付けた個体に貼り付けながら、別機体を俺の周辺へと回らせている。

 そいつが仮定ゴブリンを見付かること見付かること。

 ほとんどが一匹でいるので特に避ける必要もなく通り抜けられるのだが、その行動が少し気になる。

 木に登るって周りを見回すのもいれば、地面に鼻を近付けて嗅ぐ仕草をしているのもいた。

 なんとなく発見した個体達の進行方向をマップに反映してみると、どうやら放射線状に動いているようだった。

 真っ裸の癖して文明的な動きをする。

 なにかを探しているんだろうが……状況的に考えると俺とかか? 

 暴走したワープゲートで飛ばされたとしても、その仕様から出現場所は宇宙になるはずだ。となると、大気圏突入しているのは間違いない。うん。ログにも緊急脱出装置で俺を排出する前に、機体が断熱圧縮にさらされていると表記されている。

 空はかなり派手だったはずだから、落下したところを目撃されていれば探しに来る……だろうか? というか、それが俺だと連想するのはこいつらの恰好からして無理だよな?

 下手に接触すると獲物として襲われ……いや、彼らのことを良く知らないのに下手な推測は厳禁か。

 物語では敵として描かれることが多いからといって、そんな先入観で敵対するのは馬鹿な話だ。

 見た目的にどうにも凶悪であっても。というか、凶悪さは俺も負けてないっちゃ負けてないか?

 ついつい自嘲しつつ最初の個体を追尾させていたドローンを放射線状の中心点へと向けさせる。

 このまま行くとどうにもぶつかりそうだからな。

 なにもいなければそのまま行けるが、調べているのであれば本陣的なのがあってもおかしくない。

 ふと思うのは、ここが地球ではなく異なる惑星である可能性だろうか? 最後の記憶から考えると、その可能性は大いにある。

 そもそも植物が似ているってだけでは根拠としては薄い。かといって、そんな星が見付かったという話も聞かない。

 つまり、もし地球以外の星に落ちてしまった場合、例え通信システムがなんとかなったとしても直ぐに助けは来ないだろう。

 地球産のワープ技術もまだ未完――

 最悪な予想をしている最中に、ドローンが仮定ゴブリン達の集団を見付けた。

 同時に別種類の最悪も脳内ディスプレイに映し出される。

 「人が喰われてるだと!?」

 しかも、生体反応がしっかりある状態で人類と表記されて!? こいつらは……敵だ!

 瞬間、警告表示が現れた。

 ドローンや俺自身が見付かったわけでも、攻撃を受けているわけでもない。

 ただ単に走り出したためだ。

 強化服を構成している人工筋肉による補助も加わっている俺の走りは、森の中であっても自動車並みの速度が出る。

 そこまで激しく動けばどうしたってステルス迷彩は不完全に働き、モザイクのようなずれを作り出してしまう。

 遠目から見ればそんな状態でも気付かれ難いが、近付くと流石にもろばれになるのは看過できないらしい。

 着用者の身を守ることを前提としている戦闘用強化服であれば、当然といえば当然の反応だが今はそれに従う気はなかった。

 生きながら食われている人を目撃して、助けに向かわないなどアースブレイドの一振りはいない!

 一人の人間としての感情は勿論として、人類守護を最上任務とする戦士の責務として、己の生存を優先することなどできるか! この刃、ただ人を守らんがために!

 そう熱くなる心がアースブレイドの決まり文句を描きつつ、頭は冷静に戦士としての思考をし始める。

 相手は全くの未知の存在だ。このまま無鉄砲に突撃して手痛い反撃を受けてしまうのは避けたい。

 今までの経験上、例え己より小さくても人以上の力を持つなんてことはよくあった。

 そもそも、大きさの例として出したチンパンジーなどの野生動物であれば大きさは人より小さくても、一対一の生身で人間が勝てるなんてことはない。

 しかも、ドローンで改めて確認するゴブリン達は、探索をしている奴らと違っていた。

 なにかしらの獣の皮を纏い、こん棒や弓矢を持っている。

 階級制がある社会制度かそういう生態なのか、なんであれ原始的な雰囲気が強いのは変わらないな。

 近代兵装に身を包んだ俺から比べればなんてことはないように思えるが、それだけで油断をしていいということにはならない。

 そもそも、人命が掛っているのだ。

 ここは手持ちの中で手堅くいくべきだろう。

 相手の戦闘力が全くの未知であっても、どうとでも対応できるように。

 背からアサルトライフルを取り、走りながら構えて思考命令。

 『アルテミス』起動!

 強化服に搭載されている射撃アシストシステムがオンになる。

 ドローンと情報をリンクさせての補助であるため、俺の意志に従って正確無比な狙いを付けさせる。

 木々の隙間から僅かに見える遠方の緑頭。

 様々な兵装を提供されている以上、俺はそれらを手動で使いこなす訓練は受けている。

 だが、流石に動きながら森の中で遠い対象を撃ち抜けるほど化け物レベルの腕はない。

 アースブレイドにはそんな連中が結構いたから、正直、俺は射撃がどうにも苦手だ。

 勿論、アシストシステムを使えばそんな連中と肩を並べることはできる。

 だが、これは強化服の人工筋肉と体内ナノマシンによる運動神経介入によって勝手に体を動かされる。という仕様なので、どうにも不安は残る。なんせ使っている間は自分の動きが阻害されるというデメリットがあるからな。

 出来れば使いたくはないが、だからといって未知の相手にわざわざ接近戦を仕掛けるのは愚の骨頂だ。

 なにより、撃つことで駆け付けるよりも早く、奴らを止められる。

 既に喰いやすいところは見るも無残。

 「間に合え。 そして、願わくば今の装備で通用する相手であることを」

 俺は祈るように呟きながらトリガーを引いた。

 一発。

 銃声と共に放たれた弾丸は、狙い違わず咀嚼して顔を上げたゴブリンの頭部を弾け飛ばす。

 「銃弾が普通に通る? 防御力はブレインリーパーの最下位種と同じぐらいか? なら!」

 右に左に動き、木々を通る射線を確保しながら二発、三発、四……は無理か。

 ステルスを駆使しての射撃ではあっても、一定方向から続けて撃たれれば流石にばれる。

 加えて発砲音を消してないからな。

 バックパックにはサイレンサーがあるが、今回に関しては必要ない。

 ばれることも狙いだからだ。

 三体が即死したことでこっちを警戒したゴブリン達は、その場から飛び退き木の陰に隠れる。

 その隙に俺はアサルトライフルを背に戻し、刀の柄に手を置く。

 アルテミス停止!

 身体の動きを阻害するアシストをオフにし、木々の幹を踏み台に一気にゴブリン達の上空へ飛ぶ。

 発砲音がした方向へ間抜けにもギャアギャア叫んでいる奴らを越え、その後ろに音もなく着地。

 俺自身と強化服の性能を組み合わせればこれぐらいの芸当はわけない。

 駄目押しに気配をより断ちやすい小さく長い緩やかな呼吸へと変えつつ、動きも最小限かつ流れるように。

 まったく気付いていないゴブリンに近付きながら、こいつらがどの程度なのか推し量ってみる。

 動きはどうにも素人臭い。一応、武器らしいこん棒や弓矢を構えてはいるが、重心のバランスが悪く、これでは力まかせに振るうことが関の山だろう。

 服装からしても文明レベルが低いのが予想できるから、文化もまたそれ相応ということか。

 そんなことを思いながら一番後ろにいる奴を間合いに捉えた。

 抜刀一閃。

 一匹が音もなく斬り裂き、その首が飛ぶのと同時に近くのゴブリンにスライドしながら接近。振り上げた刀を両手持ちに切り替え振り降ろす。

 隣のゴブリンが上下に分割された段階で、ようやく首が飛んだ奴に気付き周りが驚きの声を上げるが、遅い。

 二体目が倒れた時には、俺は三体目の背後に移動し終えている。

 ステルス迷彩機能がうまく機能しなくなるギリギリの速度で動いているので、斬撃の瞬間さえ見られなければ位置を気取られることはない。

 視線がこちらに向いていない時に、

 別の個体が壁になっている時に、

 隠れている木々が重なっている時に、

 刃を振るう。

 仲間が次から次と斬られ即死させられていくゴブリン達は恐慌状態に陥っていく。

 やたらめったらこん棒を振り回すのもいれば、矢を仲間の死体の周りに撃ちまくるのもいる。

 こうなってしまえば後はただの作業だ。

 科学的に極限まで切れ味を高められた刃は、服と身体の強化も加わって肉を骨ごと容易に断ち切る。

 が、なにか違和感があるな……

 斬る度に返ってくる手応えに眉を顰めながら、計十匹のゴブリンを切り伏せた。

 怪我は完治しているよな? 治療エラーでも起きているのか?

 いまいち自分が感じている僅かな違和の正体がわからないが、そんなことより優先することが今はある。

 俺は急いでパックパックのサイドポーチから細い筒を取り出し、仰向けに倒れている人に近付いた。

 喰いやすいところから喰っていたのか、顔が酷いことになっていてどんな人物かわからないほどだった。

 服は切り裂かれ、血や臓物で汚されているのでどんなのを着ていたかも不明ときた。

 だが、一般人なのは間違いないだろう。

 戦士であれば俺のように治療用を始めとした各種ナノマシンを常駐させているからな。

 少なくともそれらによる止血が始まる様子はない。

 となれば、これを直ぐに撃ち込まないと。

 上空で待機させているドローンを招き寄せ、確認できる身体的特徴のスキャンをさせる。

 正確な心臓の位置を脳内ディスプレイで確認し、胸に筒を叩きつけた。

 それと共にジェット噴射が先端で起こり、緊急追加用の治療用ナノマシンが彼の体に流し込まれる。

 これはもう一本必要か?

 スキャン結果を見る限りだと、内部の損傷も大きく心臓に打ち込んだ量ではそちらが優先されてしまう。

 追加の注射器を取り出し、今度は折る。

 水のように見えるナノマシンを容器から直接損傷が酷い個所にかけた。

 ほどなくして流れ出る血は止まり、膜が形成され外気から傷を隔離する。

 そこまで確認した俺は、彼の体を持ち上げ走り出す。

 森の上空に残しているもう一機のドローンから探索しているゴブリン達がこちらに戻っていることを知らせてきたからだ。

 ここまでの重傷だと、直ぐには完治しない。

 その上、治療中の痛みから患者を守るために、ナノマシンは自動的に意識を失わせ続ける。

 しばらくはどうしたって無防備になってしまう彼をひとまず隠せる場所まで運び、そして……殲滅だ。



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