ログ15 『ゴブリン殲滅作戦(急)』
動作は最小、最も効率的に、流れるように動き、四方を見ているゴブリン四体の脇を抜け真ん中に入る。
そして、一番近くのゴブリンの背中に立つ。
見た目、そして、ドローンのスキャンの結果、こいつらの構造は人のそれとほぼ同じだった。
つまり、人間に通じる技はこいつらにも通じるということ。
狙いは頸動脈。両腕を回し、一気に締め上げる。
身長差によって若干のやり辛さはあったが、ゴブリンは悲鳴すら上げる暇もなく気絶した。
だらんとした身体をゆっくり地面に置き、隣へ移動。
素早く、音もなく締め上げ、残り三体も気付かせることなく意識を奪った。
勿論、生かしておくつもりはさらさらないので、四体目の首絞めはそのまま首折りに移行する。
もうこの場で多少の音がしても気付く存在はいないからな。
他のゴブリンの始末も手早く終え南側に移動。腰のアサルトライフルを取り出しながら、うつ伏せになる。
既にサイレンサーは取り付け済み。
贅沢をいえばレールガン形式が欲しいところだが、あれは電力を確保するためにどうしても余計な装備が必要になる。
サイ技術を使えばその問題も解決できるのでサムライドレスには標準装備なのだが、生存が優先される戦士には薬莢式の方がなにかと都合がいいらしい。
まあ、現状でも弾丸の都合上オーバーキル気味なのだから、いいっちゃいいんだが……サイ能力を使ってくる相手となると心もとないからなら。
大型ゴブリンに爆裂貫通金属噴流弾が通じなかったことが脳裏にかすめてしまうのは戦士としての習性だろうな。
常に最悪に対しての備えを欲するというか。
もっとも、現状確認できている大型は王らしき奴一体なので、これから行うことが上手くいけば過剰な懸念だろう。
いや、可能性だけを考えれば、これで全てが終わるかもしれない。
そんなことを思い、いや、願いながら、
「アルテミス起動」
射撃アシストシステムオンをオンにした。
的は杖持ちゴブリン。
ドローンを南側上空に飛ばし、どれからどう身体を動かせば効率的に奴らを撃ち抜けるか計算させる。
時間にして数秒。
結果が表示さると同時に俺は引き金を引いた。
ブレインリーパーの生体装甲は例え小型であっても通常の銃弾では貫通できないほど強固。
そんな相手を前提にした弾丸が頭部に突き刺さる。
頭どころか肩回りまで吹き飛び、骨や肉が周囲に突き刺さったのか周りのゴブリン達が転げ回った。
杖持ちは大体真ん中にいるので実にやりやすい。
ん? 一匹致命傷だったのか動かなくなったな。やはり大型以外は弱いな。
なんて思いながら、身体の方が止まることなく次々と杖持ちを爆散させていく。
南側は警備が厚く数は多い。だが、杖持ちの数に限っていれば百分の一以下だ。
そして、どこからか攻撃されているのかわからない奴らは阿鼻叫喚となりながら、強力な防御手段の下に集まり出す。
まだ攻撃を受けていない杖持ちへ。
やっぱりこいつらの頭は良くないな。まさかそんなに思った通りに動いてくれるとは思わなかった。
数を減らした杖持ちは自分の持ち回り以上のゴブリンに頼られ困惑の表情を浮かべている。
「早くしないと次死ぬのはお前だぞ?」
なんてつぶやきながら、そいつを殺しておく。
仲間の爆散を離れた場所で目撃した杖持ち達が次々と巨大な障壁を作り出す。
五・六十匹をカバーできるほど巨大なドームだったが、視覚的に遮られるほど黒いオーラじゃないので奴らの表情がよく見える。
守られているゴブリン達は恐怖におののき、杖持ちは無理をして障壁を張ってるのか苦悶の表情を浮かべていた。
俺にも経験があるが、扱えるサイパワーには個人個人限界がある。当然、それ以上を出そうとすればなんかしらの返しがあるというわけだ。そもそもサイ現象を使うだけで意志の力が消費される。
脳の疲労以外の科学的に証明し切れてないそれを失い切ると抗いようのない意識の消失が起きる。
ウリスが気絶してから翌日の朝まで目が覚めなかったみたいな。
どんな時でも起きるそれを、様々なサイ現象を扱える杖持ち達が知らないはずはない。
待っていれば障壁はそう遠くない時間でなくなるだろう。
とはいえ、奴らとしてはそれで十分だと考えているのだろう。
外の騒ぎを聞きつけたのか、巣の方が騒がしくなり始める。
発射音はサイレンサーで極力消せても、EPM弾の爆発は流石に無理だからな。
とはいえ、救援に行かせる気なんてさらさらないが。
「起爆」
俺の命令に応え、岩山の各所に設置したスティック爆弾が次々と爆発した。
おおっ! これはなかなか……あ~揺れる~
頂上にいる俺は強い衝撃と振動に襲われてしまう。
が、それを自分の身体能力と強化服のアシストで相殺しつつ、驚いて障壁を解いた迂闊な杖持ちを撃ち抜いていく。
ちなみにこれが合図となって北側ではウリスの攻撃が開始されている。
凄まじい音を立てて壁面が崩れる岩山を呆然と見上げるゴブリン達は、いっぺんに大量の矢を撃てる彼女からすればよい的だろう。
実際、脳内ディスプレイでそちらを確認してみると、脳天を貫かれて次々と倒れている姿が確認できた。
威力の割にはウリスのサイパワーは感じられないが、使っているとしたら隠ぺいの技術が凄いということか?
彼女に対して集中しているってわけでもないしな。
そんなことを思いながら杖持ち達を観察していると、ほとんどの障壁が消え始めていた。
予測通り維持時間が短いのか、巣の崩落で集中が乱されたのか。
まあ、どちらであっても、そんな好機を見逃す戦士はいない。
トリガーを引き続け、全ての杖持ちが死ぬと共に振動が収まった。
舞い上がった土煙が段々と晴れ、露わになる岩山の惨状に残った杖以外のゴブリン達は悲鳴を上げる。
スティック爆弾をサイ現象で強化せずに使ったので、正直足りるかどうか心配だったが強化服の計算は完ぺきだったようだ。
直接爆発で潰したところもあれば、間接的に崩落させたところもあり岩山の出入り口は完全に塞がっていた。
「さてと」
ピーステイクを腰に戻し、代わりに狩斬丸を抜く。
ゴブリン達が同胞を救わんとこちらへ殺到するのと同時に山頂から飛び降りた。
既に麓まで到着していたゴブリン一体の上に降り、そのまま刃を振り下ろす。
科学的に極限まで高められた切れ味と、俺自身に叩き込まれた技が組み合わさった一撃。
それに落下の力も加われば、なんの抵抗もなくゴブリンを真っ二つにする。
吹き上がる血飛沫を避けつつ、次に近付いてきた一体を脇から肩を切り上げ、更に近い奴の首を飛ばす。
ステルスは止めていないので、三匹共なにが起きたかわからず絶命しただろう。
後のゴブリン達は前の奴らが勝手に死んだように見えたのか、ギャアギャア騒ぎながら足を止める。
それをアシストドローンで確認しつつ、別方向から迫るゴブリン達の群れに突入し辻斬ってく。
奴らからしたら警戒せざるを得ない状況を作り出し、ゴブリン達が岩山に到達するのを僅かでも遅らせている。
もっとも岩山を一周する頃には叫びながら死体を越える奴らが現れ始めた。
これ以上となるとサイパワーを使う必要が出てくるな。だが、この時点で見付かるのはあまりよくない。
外にいた奴らは千匹以上いたので超常の力や科学兵装を使っても近接では抑えきるのも限界がある。
やがて何匹かが妨害を潜り抜けて岩山へと昇ってしまう。
まあ、そろそろいいか。
穴があった場所に辿り着いたゴブリン達だったが、その途端に苦しみ、悶え、泡を吹いて倒れる。
爆弾とは別に設置した奴がこれ。
対ブレインリーパー用スティックガス兵器『リーパーダイ1064』だ。
ブレインリーパーとの戦争では、化学兵器禁止条約などありもしない。
だからそれはもう強力な化学兵器が次々と作られ、小指程度の一本で千体の生体兵器を殺せるものを兵士に標準装備させられていた。
勿論、奴らは宇宙から来た連中だ。しっかりと対策をした奴らには効きはしないが、地上侵攻に使われるような現地生産の奴らには結構有効だった。
そしてそいつらの大きさは丁度ゴブリン達と同じぐらい。
今まで戦ったことがない連中だから通用するかどうかが懸念事項だったが……どうやら無用の心配だったようだ。
もっとも、完全には効き切っているとはいいがたいようだがな。
今倒れた奴なんて倒れちゃいるが生体反応はなかなか途切れない。
下手したら耐えきってしまいそうなしぶとさだ。
まあ、そういう懸念もあったから手持ちの全てを使ってオーバーキルを狙っていたんだがな。
結果として最大効果を維持するように岩山を崩落させたのは良い判断だった。
加えて俺が真っ先に杖持ちを倒したのは、化学兵器が効き切る前に逃げ道を作られないようにするためだ。
崩れた岩山を退かされたり、大気を操作されてガスを抜かれるのも困るし、場合によっては治療などのサイ現象も使ってくる可能性ある。
俺も治癒力を増幅させることができるし、仲間の中にはそれ自体に特化したサイ能力持ちもいた。
だとすれば様々なサイを使える奴らが治癒できないということもないだろう。
なんにせよ。これで中の奴らは全滅だ。
岩山内から探知できる生体反応が次々と途絶えていく。
ただ一つを除いて。
俺はため息一つ吐き、それが出るであろう穴の前に移動する。
ブレインリーパーでも中位種以上には全く効かなかったし、下位種の中にも効果が薄い個体もいた。
「まあ、お前ぐらいは生きているのは想定内だよ」
連鎖的に塞いだ最も大きな出入り口。それが再び爆発でもしたかのように吹き飛び、外で騒いでいる何体かのゴブリンを巻き込み殺す。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
俺より大きい仮定ゴブリン王が現れ、空気を震わすほどの咆哮を放つ。
「さあ、殲滅の締めと行こうか!」




