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魔法使いの陰謀4

 そういう経緯で関係性を持ったそうです。

 カレンは懐かしむというよりも感謝しているといった風に捉えました。


「カレンさん、ひとつ質問が――」

「カレン!」


 ベンチに座るカレンとシクに近づく輩が三人いました。一人は女、二人は男でした。服装からしてカレンと同じこの学校の制服をしていました。


「ギシン、アーヌ、セラ」


 三人は名を呼ばれ頷きました。

 一人の男が言いました。


「見ない顔だな、見学か」

「はい、明日から数日の間だけこの学校でお世話になる予定のシクと申します」


 シクはベンチから立ち上がって丁寧に言い、お辞儀をしました。

 カレンは止めようとしたのか一旦立ち上がりました。しかし、一人の男が鋭くにらみつけ、カレンは無言で座りました。


「数日……はぁん、なるほどね」


 なにかに納得したかのように一人で相槌を打つ男。


「まさか、犯人はシクじゃないのかな? このタイミングで学校に転入、しかも数日という短い期間。まるで逃亡までの資金と時間を稼ぐかのようなタイミングだな。都合がよすぎじゃないか? なぁ、みんな」


 後ろの男と女は頷きました。


「――それは違う! 私の先生がシクの力を見て、この学校で学んでみないかと誘ったんだ。決して犯人説とか逃亡説とか関係ないし、それにシクは親の都合で数日間だけこの国に来ただけなんだ」


 男は聞き返しました。


「なら、その証拠はどこにあるんだい? まさか先生が知っているとか? 違うね、その親というのも怪しい。そもそもこの国に来た時点で、今日から一か月前までの間に息子を連れた家族が来たという連絡は一切なかった。ましてや、このタイミングで入学手続きとはおかしな話だ」


 後ろにいた男が言いました。

 男はこの国の守る門番の父がいることをカレンは言いました。

 その兵士の男はこの国に入る際に疑っていた兵士の息子が彼なのだと付け加えました。


「――確かにおかしな話だ。ぼくは、ある理由でこの国にいる。だけど、犯人とか関係はない。ただ、ぼくはその犯人を捜す理由があるということだ」


 シクは男に目と鼻の先に近づき開き直った感じに言いました。

 男は一汗をかきますが、シクの言葉を前に、反感の言葉に戸惑ってしまいます。


「……なら、俺と勝負しろ!」


 指をシクに向けながら男は続けました。


「俺に納得して見せろ! この学校に入るんだ、それくらいの魔法が使えるということだ。ましてや、俺と後ろの二人と戦って勝てたらお前の言うことは信じる。どちらかが“まけた”といったほうが負けとなる。ここだと魔法が外に響かないし、大暴れすることができる。勝負を挑むか!?」


 男は挑発している。

 明らかに負ける気はない。ましてや、犯人かもしれない相手を負かすことができれば、瞬く間にヒーローとして輝くことができると。男は一勝負に出たのだった。

 この挑戦状に、カレンは「ダメ、入る前に問題を起こしたくない!」とそっと囁きますが、腕輪は逆のことを言いました。


「やっちゃえ!!」

「そうだね」


 相棒と同意見だと、シクは頷きました。


「一対一正々堂々と戦おう。ルールは簡単、お互いどちらかが“まいった”と言ったら終了だ。魔法は自由だが、相手に死を与える魔法や破壊する行為に発展する魔法など使用するのは禁止だ!」


 シクは再度、頷きました。男の意見に反対することもなく引き受けたことに、男は若干気味悪がられました。シクの堂々とした自身にあふれているような感じが納得いかない気持ちなのか男は舌打ちをしました。シクに対する反抗の表われなのかもしれません。


「……このことは師匠に伝えておく。問題事は大きくしたくはない」

「ごめん、カレンさん」

「……いまさらだが、呼び捨てでいいよ。勝負するのなら、勝って見せてくれ!」

 呆れるかのように手を顎に当て、ため息を吐きました。

 カレンはあの三人を知っていました。


 カレンが押し負けてしまうほど相手が一人の男。勝負を振ってきた相手がその男でした。男はカレンと同じある師匠の弟子だと自称していました。

 それが誰なのかセフティーのためか魔法で探ることはできませんでしたが、師匠が言う限り、相手は同類なのかもしれないと。つまり侮ってはいけない相手なのだということなのです。


「まずは俺が最初だ。アーヌ・レッシュだ。魔道具学科の一年生。成績はB」


 茶色い髪、トゲトゲでウニのような無数の針を思わせる髪型をしていました。痩せ方で腰ポケットには何か道具をひそめさせているのか一回り大きく膨らませていました。


「シクです。父(師匠)とともに国を旅しています。名前はシク。今日から数日の間だけ、お世話になる予定です」


 自己紹介をし、シクはリュックサックを下ろし、中から手提げバックを取り出しました。茶色く色を褪せたそのカバンは年季が入っていました。

 手提げかばんにリュックサックから瓶を何本かいれています。


「準備はできたかよ?」

「はい、お待たせして申し訳ございません」


 リュックサックをカレンに預け、勝負の場へ足を進めました。

 先ほどまで静かだった訓練所は噂を聞いたのか、何人かの生徒たちが観客席から眺めています。興味津々に二人の決闘に目を輝かせていました。


「シクも同じ道具使いか」

「そうですね、ただ、違うのは職業柄といったところでしょうか」


 お互いに装備しているのは道具。道具を母体に魔法を発動するタイプ。商業柄かシクは薬師で薬を用いた魔法、アーヌは小道具を使った魔法といったタイプでしょうか。勝負前に、アーヌはポケットに手を突っ込み、なにかを握っているのが見えました。

 それが何なのか勝負が始まってすぐにわかりました。


(喰らえ! 必殺“爆胡椒ばくこしょう!”)


 粉末のようなものがシクの周りに巻かれました。

 つかんだものは“爆胡椒”と呼ばれる薬の粉末の一種です。


「もらった!」


 袖の中に隠していた紙を取り出し、炎の魔法でその紙を燃やしました。炎の力は弱く、いつ消えてもおかしくはないほど小さい火でしたが、足を止め紙に火をつけていました。

 紙に引火次第、粉末が舞う嵐の中へと投げ入れます。

 すると粉に引火しました。みるみる赤く熱を発し、施設が壊れてしまうかもしれないほどの爆音と爆発を発し、壁や天井に書かれた魔法陣によって破壊力はすぐに止みます。


「どうだ! 必殺必中の味は!!」


 アーヌは嬉しそうにガッツポーズをとりました。

 過熱した室内は一層に熱くなっており、水や氷といった魔法で湿度や温度を下げている生徒たちがいました。爆発の影響とはいえ、施設内の魔法陣は立派です。生徒たちに危害を与えない具合で消し飛んでしまったのです。


 魔法で身近に受けたのはシクぐらいでした。

 アーヌは自信も爆発に巻き込まれないように事前に対策は立てていました。一般的に配布されている生徒の服は魔法に対するダメージを受けても破れたり燃えたりしないように耐性がなされています。

 ですが、あまりにも強く高度な魔法には耐えられないので、アーヌ特性の耐火・爆耐を自身に覆うほどの量のクリーム状に変え、塗っていたのでした。


 その影響で、アーヌは髪が多少先っぽが燃えただけで済みました。


「あーあーせっかくセットしたのに……」


 髪の毛をつまみながら少し悲しそうでした。

 けれど、目の前の結果がアーヌにとってうれしい気持ちが溢れていました。


「シク!!」


 カレンは叫びました。

 あの爆炎では到底防ぎきれません。ましてやアーヌでさえ耐性を身に着けているほどです。あれだけの火力を防ぎきれることは可能性としては低い方でした。

 絶望的な状況です。


「大丈夫大丈夫」


 相棒はカレンに言いました。相棒はカレンとシク、ゼロにしか聞こえません。相棒が大丈夫だというのなら、大丈夫なのでしょう。

 アーヌが勝ったという表情を浮かべ、観客席に促していたとき、シクの反撃が襲いました。


 一本の柱がアーヌの左腕を貫通させたのです。

 それはアーヌにとって致命的なミスにつながりました。


「イってェー!! なんだよこれ、いや、これ知っている。……まさか――!?」


 熱帯のなか、煙とともに姿を現したのはシクでした。服は燃えた形跡もなく、あとがたもなく平然としているシクがいました。


「どういうことなの?」

「そうか……そういうことか!」


 セラとギシンは気づいたようです。アーヌもいち早く気づいていました。

 投げられた柱が何だったのかはアーヌだけ気づきました。


(爆胡椒の塊。しかも、凝縮されるほど石のように堅い!)


 抜けることは容易と力を入れて抜きます。

 ところが、つかんだところだけポッキリと折れてしまいます。残りはアーヌの腕の中で残りました。


「同僚者がいて助かったよ。けどね、爆胡椒の秘密を知らなかったようだね」


 シクはうわべ面を浮かべ、しずかに言いました。

 爆胡椒の秘密。

 それは、爆炎粉と胡椒の実から作られるものだ。胡椒は市場や商人でも扱うほど広く一般的に復旧されている調味料だ。

 それに加えて爆炎粉は、科学で作られた一種の攻撃目的とした爆発物。爆炎粉は名前の通り、爆弾の塊で火がついたものが近くにあるだけで瞬時に発火してしまう。危なっかしい粉末だ。


 普通では手に入ることはないが、ある薬草と薬草を組み合わせるだけで簡単にできてしまうのが爆炎粉の欠点である。いまどきの魔法学でも作り方は載せてあるほど簡単に作れてしまう。

 ただ、素材が手に入りにくく、作ったとしても教材通りに爆発することはない。アーヌは爆発するように工夫を繰り返したようだが、欠点まで知らなかったようだ。


 本来、爆炎粉はかんしゃく玉のように丸めて使うもの。それを粉末の状態で相手に投げつける行為は自ら欠点を知らずに使っている者の証なのだ。

 爆炎粉は水系の魔法が苦手なのだ。普通の水でもダメなのだ。爆炎粉は水に使うと圧縮され、小さくなってしまう。


 一度でも水を吸った爆炎粉はたとえ渇いたとしても火をつけても発火することは無くなる。対策もしていなかったためにシクは、その欠点をいち早く見分け、広範囲に水魔法を張った。


 水創成魔法“水蒸気のまゆ”。

 増水薬、加熱玉、魔力の結晶を使って作られた魔法。


 増水薬は、水を自動的に増やす液体生物。主に湿原地で見かける生物であり人間にとって天敵にもなる相手。冒険者のなかにはスライムの亜種と言われている。

 加熱玉は、炎の海で取れるもので、常に加熱続け、触れた者を容赦なく灰にしてしまうほどの熱を浴びている。

 採取は手順通りでしか手に入らず、魔法の小瓶でなければ持ち運びはできない。常に二酸化炭素を吐いており、酸素を取り入れないと消えてしまう。

 魔力の結晶は魔力が結晶化したもので、薬同士を混ぜる際に使用する。


 そうして作られたのが水蒸気。

 蒸し暑いのはそのせいだ。

 爆発したものの、威力は全くなく、水蒸気の餌食となった爆炎粉の塊によってダメージは受けることなく、無効に成功した。


 こんな方法で防いだ人はせいぜい、ギシンという男だけだろう。ギシンはずっと睨みつけていた。シクの平気な様子に表情変えずにその正体を見極めていたのだ。


「どうしてだ……ッグ、まだだ、まだ、終わっていない」


 アーヌは再び傷ついた腕を押さえつけながら、爆炎粉を投げようとするが、うまく立ち回りができない。立ち止って、爆炎粉を取り出そうとすると、再び爆炎粉の塊となった柱がアーヌの右足に貫いた。


「あ……アグ……」


 火傷するかのような熱い痛みが右足に伝わってくる。足を引きずりながら傷ついた腕を庇いながら移動しようとする。その根性は認めるほど。


「まだ……負けない。負けていない! 負けていない!!」


 ギシンがアーヌの肩に手を取った。


「もうよせ! この勝負はおアーヌの負けだ」

「しかし、俺はまだッ――!!」

「その痛みのまま戦えるのか?」

「…………」

「だったら、後は俺達に任せろ。お前の痛みは俺の痛みだからな」


 ギシンはアーヌの負けだと宣言すると、アーヌを連れて、保健室へ連れて行った。周りはざわつくが、一人の女によって、すぐに場は収まった。


「しずかに! ギシンが戻ってくる前にわたしと勝負よ! 私の名はセラ。魔法学二年生。成績はA」


 金色のロングヘア、青い瞳。――の生徒。アーヌとは違う別の個性を持った魔法使いだ。手提げカバンに入れた瓶の数はあまり数えるほど入れられない。

 補給の提案を持ち掛けるシクだったが、セラは拒否した。


「補給はギシンが戻るまで許可ができないわ。勝負はこのまま続行よ!」


 補給ができないまま次の試合が始まった。

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