魔法使いの陰謀3
“鳥を慕う者ミカヅキ”は当初、弱小ギルドと小柄で子供のような体格しかいないことから、他の討伐ギルドから嫌われていた。
種族によっては身長や年齢がわからないものもいた。
ドワーフやハーフフッド、ホビット、人獣あたりだろう。
人間やエルフはいなかった。
いたとしてもまだ成長しきっていない子供がいたほどだ。
そのギルドマスターであるミカギは、人獣で地図の国ソーニャの出世でもあったことから、この国を守るという名目で活動を大きくしていった。
このギルドの特徴は小柄が多いことから、ダクトやトンネル、地下水と子供が通れるほどの大きさしかない道を軽々と通り抜けることから、“小さな妖精さん”と呼ばれていた。
接近戦に向いたメンバーは少なく、接近戦で出向く時は他者のギルドと協力していた。小柄を武器に捜索や採取などこなしてはギルドを大きくしていく。
それと同時に、接近戦ではなく遠距離からのメイン火力が増えていった。
ギルドは大きくなり、国が誕生して数年ほどで、中規模にまで発展していったのだが、ギルドマスターの突然の病死を境に、ギルドは小さくなっていった。
メンバーは散り散りになり、残ったメンバーは古株だけとなった。
ミカギが残した魔道書も古株のメンバーたちに伝えてあったのかある場所へ寄付していた。魔道書を力を封じ、空に地図を描くという芸術品を残して、この世界から去っていたことを伝え、伝説となった。
「吾輩が去ったのは、ミカギが死ぬ2か月前だ。吾輩がちょうど、魔法学校を卒業し、魔法大学に入学したあたりだった。「ミカギが死んだっ」て知らせが届いたとき、驚いたものだ」
ギルドに向かうも、電車は大雨の影響で動くことはできず、魔法で箒に乗って移動しようにも大荒れの天気に押され、飛ぶことはできなかった。
馬車を借りて大急ぎで走ったが、間に合ったときには葬式が済んだ後だった。
「ミカギ! どうしてだ! 吾輩、大学に進んだんだ。ミカギが成し遂げなかった大学の進学を果たしたのだ。その報告を前にして、なぜ死んだのだ!? それに、魔道書をどうする!? お前がいなければあの魔道書をどうにかできるものはいないのだぞ!!」
魔道書はミカギからさんざん聞かされていた。
この世界をひっくり返す恐ろしい魔法が書かれている本だと。
ミカギは封印したいと言っていたが、封印するほどの魔力が足りないと言っていたこともあって実行されることはなかった。
大学受験のためにギルドを一旦抜ける必要があった。
ギルドは社会人と同じ会社で、学校と大学を一つに合わせることはできない法律があったためギルドを抜けたのだ。
ようやく入学を果たしたのに、結果がこれだ。
ミカギの遺体に嘆き悲しんでいたとき、声を掛けられたのだ。
小柄のぽっちゃりとした体系、茶色のボサボサ頭をした人間だった。年齢はまだ若く、言葉はまだはっきりとしていなかった。
「これ、ミカギから」
託されたのは一冊のノート。
そこに書かれていたのは、ミカギが死んだのは病死ではなく殺されたというウマが書かれていた。その内容は、魔道書を封じるためだけに利用されて死んだミカギが最後に書き残したものだった。
(ミカギ…―――!!)
悔しい気持ちを飲み込み、部屋に戻ってからベッドの上でそのノートをめくり、その真実を噛みしめた。
そして、現在。
当時の悔しさが心に響く。まだ幼いこともあってか、まだ大人でも師匠という大先生出なかった時代、ゼロはミカギを殺されたのを知り、その犯人を捜していたのかもしれない。けれど、その名前は一切なく、この話は一旦区切りをつけた。
「魔道書はある男の手によって奪われた、いまこの国で管理されている魔道書は本来なら、存在してはいけない本の切れ端。その男の手によって殺され、切れ端をこの国が好きだったミカギを反するかのように宣戦布告したのだ」
それが、先日の事件ということだ。
「大学卒業後、吾輩の師匠の弟子となって、修行したのち、この国に戻ってきた。ミカギとの約束を果たすため、この国の学校の先生として就職したのだ。そのとき、問題児だったカレンを引き取り、今に至るわけだ」
「問題児って…失礼ですね。私はこれでもはっきりとしていて嘘をつく子が嫌いだっただけです」
「そう言って、言い訳をする男の子に幻覚魔法で脅かすのはどうかと思うぞ」
「それだったら、師匠だって、嫌いな先生を幻影獣を家に押し掛けて、追い出したそうじゃないですか。あれは新聞の一面に乗りましたよね。まさか、あれが師匠の仕業とは思えなかったけど…」
「師匠となってから、つくづく思う。才能さえなければお前を弟子にすることなんてなかった」
「あーひどいですよ~」
二人の仲は良好のようだ。
学校で知り合ったようだ。先生と生徒の関係。それが二人で暮らすようになったのは何かきっかけがあるようだが、その辺は詳しく知らない方がいいだろう。
「さて、本題に戻そう。吾輩は学校へ仕事している間、その魔導書の行方をずっと探していたのだ。“鳥を慕う者ミカヅキ”と協力して。それでようやく知ったのは、ある手紙を受け取ったことからだ」
その手紙というのは、「シク、君の師匠から手渡されたものだ。吾輩の師匠と呼ぶその人物はシクがいう師匠本人のことだ。師匠は大学時代で先輩だった。人とは異なる行動をしてよく問題児だと言われていたが、吾輩は知っていた。人とは異なる行動をとるが、その行動は決して間違った方向ではなかったことだ」
ゼロは続けた。
「人は、必ず目標となる場所を幾つかの道を作る。例えば、目的地であるGへ行くためには、電車、馬車、歩き、船、飛行船といくつかのルートがある。そのいずれかを選択して目的地に向かう。師匠も同じだった。ただ、見えているルートはかなりの量だった。他の人は決して思いつかない方法で実践し、成功させていた。周りからは変人呼ばわりされていた。吾輩の目標にもなった人物だ」
師匠が褒められているようでうれしい気持ちになった。
「そんな師匠からもらった手紙は、こう書かれていた『我が弟子が、いずれキミのとこ(ゼロ)に向かっているだろう。しばらくの間だけ言い、見てくれないかその実力を。ゼロを鍛えたときとは比べ物にならないほどの才能の持ち主だ。』とつくづく、どんな人物なのかと気になったのだが、見てみれば、まだ子供だった。『シクによろしく言ってくれ。それと、魔道書のありかが分かった。そのありかを知る前に“鳥を慕う者ミカヅキ”を調べた方がいい。ミカギが死んだのもそのギルドが関係していりと我の情報だ。ふたりじゃ厳しいはずだ、シク――我が弟子がきっと協力してくれるはずだ』とね」
師匠が期待している。ぼくを――シクは胸の中でなにか熱くなっていくのを感じた。
「そうして、門で見張ってもらって、カレンが連れてきてもらったわけだ。だが、相手に先行されてしまった」
と言っていた。
ゼロは言いたいことを言えたのか、大きくため息を吐き、大きく息を吸った後、こう告げた。
「“鳥を慕う者ミカヅキ”ギルドを捕まえる。場所は知っているが、敵の数は多いうえ、吾輩たちでどうにかできるかは作戦次第だ。シク、カレン、お前たちの才能の発揮次第で戦況が大きく変わる。これは、真犯人を突き止める一歩なのだ」
ゼロの口ぶりに圧巻され、カレンは「そこまで信頼してくれているんですね!! 一生ついていきますよ、師匠!」とゼロの背中をたたいた。
ゼロはジト目で「お前の言葉は信用できない」と皮肉っていた。
二人の背を見つめながら腕輪はシクに尋ねた。
「懐かしんでいるのかい?」
「そうでも……そうかもしれないな」
かつて師匠とともに歩いた背中に似ている。
親友だった彼と師匠の背中を見て、ぼくは二人に追いつきたいと必死でもがいていた。ある事件をきっかけに、親友を失い、師匠はぼくに言葉をかけてくれた。
「これは誰のせいでも君のせいでも、わたし自身のせいでもない。これは不幸な事故だったんだ。誰にでも止められない忌まわしい事件だ」
師匠はああいってくれたけど、心底は悔しがっていた。自分にもなにか出来たのかもしれないと。弟子二人を持ち、師匠の友から羨ましがれるほどだった。そんな弟子一人を死なせてしまい、師匠はより一層弟子であるぼく(シク)を気遣ってくれたのだ。
師匠のもとを卒業後、それぞれ違う方向へと旅に出た。
師匠は旅好きで、同じ場所に居座ることは最低三日までと決めていた。師匠がいると聞いた国や町に行っても出会えたことは一度もなく、師匠はあの薬が実る蒼い森以降、出会うことも手紙をもらったこともなかった。
こうして二人の背中を見るのはなんだか懐かしくて悲しい気持ちになってしまった。
「相棒、ぼくはまだ旅を続けるよ。師匠と会うまで親友を取り戻すまで旅を続ける……」
少し間を開けてから相棒は言いました。
「ぼくも応援するよ。シクがずっと僕と一緒に旅をしてくれるのを。だって、シクと一緒に旅ができて、ぼくは幸せだ。ぼくを拾ってくれるまで、ずっと一人だった。シクは、ぼくに声をかけてくれて、こうしていろんな国や人、文化を見れてすごく楽しんだ。だから、旅を辞めるなんて言わないでほしいと心の底から祈っていた」
腕輪に手で滑らかになでる。
「大丈夫。ぼくは旅を辞めない。旅を辞めるときは師匠と親友と出会えてから決まることだ。その間は、ずっと旅を続ける。それに、師匠と歩いたように旅は苦しくて辛いものだと知っているし、国の事情や人の心とかいろんな面で知ることができる。ぼくは、それが楽しくてこうして、旅を続けていられるんだ」
腕輪が笑ったかのように見えた。……気のせいなのかもしれない。けど、腕輪は決して表情も姿も腕輪という形のまま。笑ったとか怒ったとか感情を見せるときは口ぶりから察するだけ。だけど、このとき、腕輪が笑っていると見えてしまった。
「シク、君にはさっそくやってもらいたいことがある」
ゼロが固い口調でこう告げた。
「君の目的を壊してしまうかもしれないが、学生として学校に転入してもらえないか?」
「え、どういうことですか」
「師匠は、学校に犯人がいると睨んでいる。現に大方の調査は住んでいるが、敵が厄介でね、師匠と一緒とはいえ、別行動が多くて捉えることができないの」
その言葉の先を察した。
「だから、転校生としてカリンさんと調査してほしいと」
「その通りだ」
学校に転入するということは三日間の滞在は無理な話となってしまう。三日間という記述は師匠の元から学んだこと、正確に実行することはないのだが、「外に出られない以上、この国を敵に回して出ることもできるよ!」と腕輪はゼロたちに聞こえない程度で言った。
それができたとしても、国一つを滅ぼすのは無茶しすぎだ。ましてや、旅人ランキング10に入る国を塵にしたくはない。
三日間という期間は絶対だ。
相棒はそう言っているのだろう。
「……やはり、そのルールは破れないのだな。わかった。手続きは済ませる。三日間だけでいい。一時的に“学校を移動するために授業するという”理由で手続きしよう。そうすれば、親の都合で授業に遅れをとることは無くなると周りは思ってくれるだろう」
「情報操作はお任せ! 師匠と私の力があれば、今日中にこの国の意識を刷り込ませますよ!」
ゼロとカレンは、絶対にという条件を突き出した。
明日か明後日からで決着を済まさなくてはこの国から抜け出せないし、犯人というレッテルを張られたまま、国を出たら面倒なことになる。
それに、この国をつぶしてしまえば、国だけでなく他の旅人や魔法使い、ギルドに目を向けられてしまう。
そうなれば、もう旅どころの話じゃない。
少し考えてから、腕輪の忠告を無視したつもりじゃないが、期間限定で行動するという条件を呑んだ。
「それでいい。犯人は学校の関係者だとすでにつかんでいるが特定にはなっていない。相手も魔法使いだ、身のこなしは十分だろう。吾輩はできないが、カレンなら犯人を特定できる魔法が使える。カレンの唯一の才能だ」
「師匠! そんな言い方って……」
あんまりだーとカレンさんは言っていた。
ゼロはすぐに訂正し、こう言い加えた。
「才能は人を変える。カレンはその才能を持ちながらも他人に危害を加えることもしない。ましてやいいことに使っている。吾輩は、今まで何百人という才能を持った人たちを見てきた。けれどどれもすぐに才能を使って悪いことに使う人がたくさんいた。吾輩、苦痛だった。だけど、カレンを見つけて、初めて自分のためじゃなくて人のために使っているのを見て思ったのだ」
ゼロはシクの耳に近づき囁くように言った。
「吾輩は、カレンを弟子として引き取ることにした。彼女の生い立ちは非常に危なかった。けれど、それでも吾輩になにかと文句をつけるのだが、カレンは一言も嫌がらずずっと吾輩についてきてくれる。きっと、犯人もすぐに見つかるだろう」
そう言って、ゼロはシクから一歩退け、ある方向へ指をさした。
国の中央にある大きな白い鉄塔のような建物がある。
その建物を囲むかのようにそびえたつ建物がいくつか立っていた。青い屋根、窓には装飾が施され、大きめの窓にはガラスという風や物を防いでくれる透明の壁さえもないが、心地よい風が拭くたびに、窓から顔をのぞかせる人々の表情は明るかった。
「ここが、シクが転入手続きをする学校だ。通称、国魔術育成学校。国の代表者が自ら教師となって、生徒たちに教える学校だ。吾輩は、この国の種族の代表として先生をやっている。吾輩は今から、シクの教師としてカレンとは異なるが生徒として扱う」
ゼロの傍らで、腕輪が「気取っちゃって……」と口をこぼした。ゼロは聞こえているぞと口にしてから、転入届ということで、衣服や教材などある程度はゼロが用意してくれる。
カレンは学校の案内として中を見学してくれた。
今日中に見て覚えというのだ。
学校に入ると中は授業中のようで一クラス十数人という男女を含めたクラスで構成されていた。衣服はみんな同じ、帽子はかぶっていなかったけど、学校が支給されているマントやローブは絶対だとこの学校の校長が仕切っているらしく、何人かの生徒は不満げな様子だとカレンが言っていた。
「ここが、訓練場だよ」
一時間足らずで全部見終えた先で、カレンが案内してくれたのは体育館と呼ばれる岩場、魔法の訓練を行う施設内の部屋だった。
三メートルほどの高さほどあり、天井は魔法陣が重なるかのように描かれていた。
「毎日、ここで訓練するんだよ。一人前の魔法使いになるためにね」
そう言って、カレンはシクの隣の席に座り、自動販売機で買ったジュースを手渡してくれた。おごりだよっとカレンは乾杯と言って、口につけた。
何人かの生徒が魔法とかで予習している。
この施設内では、どんな魔法でも壊れることはないという。それも、ゼロが提案した魔法式によって、魔法は建物や人といった個体物に触れると効力を失う魔法が掛けられているのだという。
壁や天井に書かれている魔法陣が起動しているのだろう。
二重に重なられていると思っていた魔法陣は間近で見ると、何十層にも分けて書かれていることが分かった。念入りには念をゼロは同じ魔法を何回にも分けて書いたのだ。その結果、魔法をかけた強化魔法や攻撃魔法でも建物を貫通したり破壊したりできないようにしてあるらしい。
「ここで何度か予習することになる。私が何度も通っているところだ」
「そういえば、カレンさんは水魔法が得意なんですよね、あのとき蛇の魔法は水でしたよね」
カレンに尋ねると苦い表情を浮かべながら天井を見上げた。
「わたしね、本当は水魔法が苦手なの。けど、炎魔法は人に危害を加えることが多くて、幼いころは何度か火事になりかねたり、火傷を負わせてしまったりといろんな人に迷惑をかけたの。あるとき、ここで炎の火力を押さえる訓練をしているとき、師匠が言ってきたの」
「炎の火力が強いれていて、なおかつ加減は難しいと見た。吾輩、炎の力が強い輩は何千人とみてきたのだが、ここまで強いのは初めて見た。けれど、お前は不満そうに思っている。人に対して危害加えることを嫌っているのだ。だから、吾輩から提案させてもらうとしたら、水魔法を覚えてみたらどうだろうか?」
炎魔法を対となる水魔法。
炎魔法が得意な人は水魔法を覚えるのは苦手だという。その逆もそうだ。この人は何を言っているだろうなっと思っていたが、その日から師匠は水魔法を訓練するように促し実際に修行しようと話しを持ち出してから顧問として見るようになった。
炎魔法の火力が抑えられないのなら、水魔法で加減すればいいと。そうして修行が始まったのだ。
最初は無茶ぶりを言う師匠に「コイツ…」と悔しさと憎しみさを思いながら必死で修行した。
実を結んだのはそれから数か月たった事件でのことだった。
嘘を言う友を懲らしめたのだ。
炎ではなく水魔法で。とっさとはいえ、うまく使えたことに驚き腰を抜かしそうになった。師匠が魔法で浮かせてもらい、弱腰という難を逃れた。
師匠が「お前ならうまくやれると信じていた。吾輩は、お前がほしい、お前がいいというのなら、吾輩の弟子にならないか?」と聞いてきたのだ。
少し待ってもらってから、「考えさせてください」と言って、数日のうちに答えを出した。
晴れて師匠の弟子となって、先生の生徒として学ぶことができるようになった。
あの日から、炎魔法よりも水魔法に力を注ぐようになって、炎魔法でも火力の加減ができるようになったという。