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マジックマーケット

 マジックマーケット。

 世界ヵ国の魔法使いが年に一度だけある一点だけ目指して集まるイベント。

 魔法使いは必ずと言っていいほど最低一つの魔法を習得している。このイベントは毎年、研究した成果をお披露目すると同時に、開発した魔法をみんなに配布として本を売ったり、新しく手に入れた素材を売ったり、取引したりと交流を広める場として開催したのが始まりだった。


 マジックマーケットは聖域と呼ばれる、かつて邪神と言われた巨人が大陸を片手で叩き割ったり海を丸ごと飲み干すほどの圧倒的な胃袋・収入袋と世界に脅威を与えた存在。全世界の魔法使いによって倒され、聖域と呼ばれる大陸は魔法使いたちによって邪神を封じ込めた場所として崇められている。


 聖域の結界も含めて調査するためと全魔法使いがなにを研究しているのかを知ってもらおうと開いたのが始まりだった。

 今年で49回を迎えた今日、シクは初めて師匠なしのひとりでこの地に着いた。


 この聖域への定期便は週に一度しか出ておらず、昨日起きたゴーレムの紛争で定期便の船が落ちたこともあって、今年はめっきりと人が少ないように見えた。

 船は開催者たちが予備として呼んでおいた船に乗って、魔法使いたちはこの島に向かっているという。


 少年は、今年の魔法使いはどんな風なのかを目の当たりしたく、師匠がいないなかひとりで初めての魔法使いとしての感想としてこの地に踏み入れたのである。


「うわー人がいっぱいだー!」


 見渡す限り人、人。まるでお祭りのような隙間なく人が埋まっている。

 鎧などを武装した戦士や騎士、とんがり帽子をかぶった魔法使いや、フードを被った魔法士とあらゆる職業の人たちでにぎわっていた。


「迷子にならないでよ」


 腕輪が促す。


「しないよ、あれから何年たっているんだ、もうこれでも一人前さ」


 両手を腰に当てながらもう一人前だよっと腕輪に対してアピールする。一人芝居のように語る少年は、周りから少し距離を置かれる存在であった。


「それよりさ、興味ある本とか素材とか売っていたりするのかな~♪」


「そうだね、ガイドブックには、いろいろと載っていたけど、いざ来てみると、人が溢れてどこにあるのやらわからないだらけだ」


 ガイドブックと呼ばれるこの一帯を記したマップのようなもの。入場者に銅貨2枚で配布されている。

 マップにはいくつかのコーナーがあり、それぞれAブロック、Bブロックと4か所に分かれて配置されていた。


「お目当てはAブロックとCブロックだな」


 少年がそうウマを伝えると、「さあ、早く並びなくちゃね」と急がすように言った。


 マジックマーケットは早いもの順だ。先に並ぶほど買いやすく、後になるほど買いにくくなる。ましてやお目当てのものとなれば、それほど列が多く並び、在庫も数が限られているので、列の人数によっては店じまいとなってしまう。


 ガイドブックに従い、宙に浮かぶ旗を目印に足を進めていた。

 宙に浮かんでいる旗にはそれぞれA、B…とそこがそのエリアですと証明している。旗の下がブロックである。

 旗を目印にせっせと足を速めながら前進し、人混みを避けつつときには潜りながら目的である場所へ急ぐ。


「えーんえーん…」


 途中、他種族の坊やを見かけた。

 どうやら、迷子になってしまったようだ。


「どうする? お目当てはすぐそこだよ」


 腕輪に促される。

 目の前の子供に手を差し伸ばすべきかどうか、迷っていると寝起きのようなボサボサの腰まで長い黒髪。四角い額縁のメガネをはめた女性が坊やに覗き込むように声をかけた。

 背中に〈スタッフ〉という名前が書かれている。

 どうやら、あの子に任せておけばなんとかなるだろう。


「どうしたの、ぼく?」

「うえ~ん、だいちゃんと離れちゃったのー」

「だいちゃん? わかった、わたしと一緒に探しましょう」


 手をつなぎ、女性はその子と一緒にだいちゃんという人を求めて歩き出した。

 それを見届けつつ列に並び、待ち続ける少年。すっと安堵をしながら、前に並ぶ列を見て、ため息が出た。


「シク、どうやら難しいそうだね」


 少年に対して腕輪が答えました。

 シクは悩みながらとりあえずは、買えるかどうかわからないのでこのまま並ぶと提案し、そのまま待機しました。


 40分後、前の列が終わり、ようやく店主と顔を間近で見渡せるようになりました。

「いらっしゃい、あと3つが最後なの、悪いけど、後ろの人の分も残しておきたいから1個づつでお願いできませんか」

 やさしそうなお姉さんだった。

 狐の耳を頭部から突き出るかのように生え、瞳は緑色、太陽に光を反射しつつ輝きを放つ銀色の髪、白いマントに身を隠すようにパイプ椅子に座っていた。

「別にいいですよ。いくらですか?」

「そうね、銀貨1枚ね」

「はい、銀貨1枚」

 胸ポケットにしまっておいた革袋からお金を取り出し、手のひらに銀貨1枚を乗せ、素材と交換する形で片方は銀貨、片方は荷物を受け取った。

「ありがとうね」

 お姉さんにあいさつを交わし、静かにその場から離れた。


「いい人だったね」

「そうだね、やさしそうだった」


 購入した荷物を確認し、服の中へとしまい込む。

 服は魔法とレアな素材の一品で、一定数量まで内ポケットからつながる異次元で補完することができる。

 師匠から譲り受けた大切な装備のひとつである。


「すみませーん、この子を知っている人いらっしゃいませんかー?」


 先ほどのスタッフだ。どうやら、連れている迷子の知り合いがまだ見つかっていないようだ。人混みが多いから仕方がないが、魔法かなにかで調べることはできないのやら。


「すみません、どうかしましたか?」


 知っていたが、あえて知らないふりをしつつスタッフの声と足を止めた。

 スタッフの方は「この子の知り合いですか?」と、問われ、違うと慌てて手を左右に振った。

「そうですか…」

 落ち込むスタッフにシクは「どうして魔法で捜索しないのですか?」と尋ねた。

 すると、スタッフは意外なことを口にした。


「わたし、魔法が一切使えないのです」

 思わず「え」と声が出しそうになった。マジックマーケットというぐらいだ、魔法使いかそれに相応とした職業が来る場所、それが魔法が使えない。ましてや、その道具もお持ちではない様子。

「なら、道具やスタッフさんの知り合いとか尋ねることもできたのでは?」

「実は――私、スタッフじゃないのです」

「えーーー!!」

 背中にはスタッフという文字が描かれている服を着ている。

 それがスタッフではない。赤の他人のようだ。

「スタッフって書いてありますよ」

「え!? どういう…あーー!!」

 驚き、背中のことを指摘したらさらに驚く形で服を脱いだ。大手の場で脱ぐとは大胆な人だと思った。


「もう、なんなのよ!」

 と、スタッフという文字部分を強引にも引きはがした。ワッペンのようでどうやら、知り合いにいたずら目的でつけられたようだった。

「あ、ありがとうございます」

「いえ、誤解されたままじゃなかっただけよかったですね」

 と少し悪気がある気がしながら、言った。

「渡し、ミカヅキと言います。今日は、病欠でこれなくなった友達の代わりにアイテムを探してきたのです。そしたら、アイテムは売り切れ、スタッフと間違われ、あげくに迷子を探すはめに……うゥゥ…今日は災難です」

 急に泣き出してしまった。

 惨めな自分に恥じたのか涙目を浮かべながら、自分を呪うようにつぶやき始めた。場所が場所なだけに、迷子と一緒に壁際まで移動し、途中でジュースを買って二人に分けて与えた。


「すみません、なにかも…」

「まあ、そんなこともありますよ」

 一応、慰めたつもりで言ったのだが、彼女にとっては逆効果だった。

「うぅぅ…いつもどうして…こんなに…」

 涙声で自分を呪うかのように再度呟き始めた。

 御経のような呪文が飛び交い、慌てて彼女を慰めの言葉を吐く。

「友達の代わりに買いに来て、しかも困っている人を助けるなんて、なかなかできない事ですよ。ぼくだって勇気がないとそこまで進んでできませんから」

「そ、そうですかー…」

 涙声ですっかりと声が沈んでしまっている。

 けど、少しだけ元気が出たのか、「そうですね、たしかに…わたし、元気が出てきました」と立ち上がった。

 ジュースを一気に飲み干すと、彼女は「もう一度、探してみます。アイテムもきっと誰かが持っているかもしれないし、再度販売するかもしれない。それに、この子の知り合いもきっと必死で探しているはず」だと、そう口にしようとしたとき、遠くからこの子の名前と思しき声で誰かが呼びかけた。

 すると、迷子は嬉しそうに、「だいちゃん!」と声を張り、「ちのるちゃん!」と人混みの中から飛び出してきた。


 どうやら、大混雑の列に迷い込み、離れ離れになってしまったようだ。

「だいちゃん!」

「ちのるちゃん!」

 お互い、ようやく出会えたのか感激し、抱き合っていた。

 くるくると輪を回るように回転し、お互い出会えたことに喜びを感じていた。

「あ、ありがとうございました」

 だいちゃんという緑色の髪をした女の子がこちらに気づき、お礼を言った。青いワンピースの姿で背中からは二枚の羽を左右に生やしている。

「ほら、ちのるちゃんも!」

「あ、ありがとうなのだ」

 もう手を放さなようにっと手を結び、大混雑する人混みの中へと消えていった。

 それを見送ったミカヅキとシクは、二人残されたが、元気を取り戻したミカヅキは、「では、私もなんだかお世話になったようなので、これらかの縁も重ねて、お礼はぜひ、次の時で」

 と、手を振って人混みの中へと消えていった。


 残されたシクは、ジュースを飲み、ゴミ箱に放り捨て、Cブロックへ向かった。

「なんかー、時間かかちゃったね」

「別に、気にするほど時間はかかっていないよ」

 シクはそう答えると、腕輪は不思議そうに尋ねた。

「笑っちゃって、嬉しかったんだね」

 赤を赤くし、腕輪に軽くしっぺを切った。


 Cブロックはやはり人が溢れていた。

 けど、時間帯もあってかAやBと比べれば人の数は若干少なく見える。

「ああ、もう閉店のお店が出てるよー」

 まばらだけどもう幾つかのお店が閉まっていた。

 『完売』という看板を立ててお店を占める人たちがいる。

 『完売』したお店には用がないものだったので、とくに慌てることはなかった。お目当てのものは、不思議と人が集まっていない壁際の端だった。


「今日、だれもこない」

 涙をこぼしながら、本をじっと見つめながら、周囲を見渡す。

 だれも自分の本に手を取ろうとする人はおらず、みな見ぬふりをするかのように通り過ぎ去っていく。

「はぁ、これじゃお師匠様に顔を出せない…」

 落ち込んでいると、一人の魔法使いがやってきた。

「これください」

 と、手に取って本を一冊、彼女に見せた。

「え、これを買ってくれるのですか?」

 彼女の問いにシクは頷いた。

 彼女は涙を右腕で拭き、「銀貨2枚です」と答えた。

 シクは革袋から銀貨を取り出して、彼女に手渡した。

「はい、ありがとうございました」

 とかすかに涙声を残してはいたが、はじめて最初のお客さんだったこともあって心で感動していた。

「ところで、あなたの本、とても興味があります」

 シクはそう答えた。

 感想の意味を込めて、本をめくりながらそう口にしていった。

 すると、彼女は嬉しそうに笑った。初めて買ってくれた人から感想を言われたのは初めてのことだった。

 彼女は嬉しくて、ただ言葉にできなかったけど、笑って見せた。

 普段は笑うことなんてできず、他の弟子たちから「弱虫」とバカにされていたが、本にする才能は人一倍高く、師匠からも高く評価されていたこともあってか、今まで研究した魔法を含めて本にすることにしたのだった。


 けど、彼女の本を購入しようと思う人はいなかった。

 弟子たちの回しで彼女を妨害したのだ。「如何わしい本を売っている」、「弱虫になる魔法だ」、「銀貨10枚と高く粘ってくる卑しい子だ」と、真っ赤なデマを流され、だれも買いに来てくれなかったのだ。


 しかも、師匠とあることを約束していたこともあって、なおさら売れずに帰ることはできないでいた。

 師匠と「本一冊でも売れなかったら、私はここを止めます」と、他の弟子たちにそう告げるよう強要され、そう言ったのだが、師匠はそれを受け止め「残念だ」と嘆き悲しんだという。


 彼女はへばらず本を売れることを祈っていた。

 そして、終了1時間前に、ようやく売れたのだ。

 デマなど信じず、興味を持ったという理由だけで買ってくれたのだ。


 そのことを師匠や他の弟子たちに自慢できる一手を手に入れたのだ。


「どうかしましたか?」

 本を必死で読みながら、感想の言葉を探しつつしゃべっていた最中、彼女は急に泣いていました。過去のことを思い出したのか、デマを気にしていたのか、彼女の心は落ち込んでいました。

「わたし、ようやく本売れたんだなーって感動しまして」

「まあ、最初はそういうものですよ、売れなかったときの悲しみは自信も失いますからね」

 とシクは言った。

 そうですねと彼女は頷くかのように涙を拭きながらそう答えた。

「ぼくは、この本をもっと広めたいと思う。できたらあと2冊欲しいんだけど、いいかな?」

 そう尋ねると、彼女は「本当ですか!」と言ったが、本とは言え一人に複数売ってはならないという規定があるのを思い出しました。

 彼女は迷いました。

 もし、規定を破って売れれば、これだけ売れたんだと自慢ができます。けど、会場のスタッフや関係者にバレれば、もう本を売ることもここに出入りも禁止されてしまいます。そうなれば、本を作って売ることも、唯一の才能も無駄にしてしまいます。

 規定を守って、売らなければ、本は一冊売れただけとなります。そうしたら、自慢としての力は低いですが、売れたという事実は報告ができます。けど、大量の在庫を抱えたままお店を占めることになるため、一冊というキーワードだけでは弱く、きっと来年はマジックマーケットに入場許可は下りないでしょう。


 彼女は迷いました、迷った後結果を出しました。

「ひとりにつき1冊だけって規定があるのです。ごめんなさい、その気持ちだけは受け取っておくわ」

 と、これで良かったのかと思いながらシクに言った。

「そうですか、では、デマに負けないでください。あなたの本は素晴らしいです。みんなわかってくれるはずです!」

 そう告げ、そのお店から立ち去っていった。


 彼女はうつむきになり、これで良かったのかと自分の心に問いかけました。

 答えはすぐに出ました。

(規定を破って売っても、私は嬉しくない。みんなにできれば見てほしい。ただ、そう思っているんだ)

 と、シクが立ち去って45分後、とうとうお店が一斉に終う時間となりました。チャイムが鳴り響き、片付ける時間が近づいてきました。


「ああ、もう終わりね」

 残念そうにお店をたたもうとしたとき、大勢の人が押し寄せてきました。職業は違えど、みんな慌ててこちらに走ってきます。

 他のお店はもう『完売』ばかりで開いているお店はありませんでした。

「おー、ここなら売っているぞ!」

「すみません、一冊売ってもらえませんか?」

「時間はあるじゃろう。なあ、売ってくれまいか」

「おい、押すな! 列を守れよ!」

 と、列を守らず、お店に押し掛けます。

 一人で対応できず、困っていると、そこに三人の救世主が現れました。

 一人は大柄の男性で鎧をびっしりと隙間なく装備した騎士、樹の箒に紅いマントにローブを着た長身の男性の魔法使い、ポニーテールの金髪をした女性、姿は騎士と比べて軽装でしたが、高らかに大剣を片腕で天井に上げ、「いまから、隊列を補給する!」と、混雑するお客さんをうまく整頓するかのように、まとめていくではないか。


 あたふたしていたはずの列はすっかりと一列に並ばされ、一人ずつ売っていく。丁重に丁寧にあいさつを忘れず、一冊ずつちゃんと手にもって手渡していく。

 彼女のお店を後にした、お客さんは次から次へと口にした。


「なんじゃ、金貨2枚とか聞いておったが、銀貨2枚とは…いやはや、デマに踊ろされたわ」

「銀貨2枚とはいえ、高い買い物のした割りに本の中身は図書館一部屋分だ。しかも中身はわかりやすく丁寧で、初心者でも納得できる文体だ!」

「あの子で作ったとは思えない、これはウチのギルドに入るよう申し入れるチャンスかもしれない!」

「それにしても、あくどいデマを流した連中が憎たらしいな」

「ああ、ガイドブックも偽物を使わされたらしいからな」


 どうやら、多くの客はデマに惑わされた様子だ。

 彼女の本を手にした人たちは次から次へと感想を告げていく。

 読みますよ、丁寧で、しかも三カ国で翻訳されている。

 ページ数は少なく、立体化ホログラムするよう魔法で描かれているだけあってページ数もそう長くはない。

 安い買い物をしたと、終わりかけの時間帯で、一番列を伸ばし、最高だったと皆々口々にしていた。

 彼女の名が正式に知られるようになったのは師匠から旅立って2年後のことだった。


「いい買い物したねー。あの子、なんだか似ていたよね、シクのかの――」

「その話はやめてくれないか!」

「あ、ごめん」

 謝った。このことは禁句だったと腕輪は反省した。

 シクが魔法使いになるきっかけとなったのはシクの彼女に関係がある。そして、腕輪と知り合ったのもこれがキッカケ。

「……」

「……」

 沈黙が流れる。

 重たい空気のさなか、口を開いたのはシクだった。

「あの子の本、とても重要なカギとなったよ」

 最後に購入した本だ。彼女の書き方は非常にためになる。ましてや、人に教える技術は人一倍に上手なのかもしれないと評価するほどに。

「ねえ、あの子を仲間に加えたら、きっと…」

「――あの子は、あの子の人生がある。ぼくたちの判断であの子を連れていくのは失礼だ」

 やっぱりと腕輪は確信した。

 仲間を毛嫌い、相棒と親しみ、腕輪だけ唯一放そうとしない。

 シクの心は、昔に囚われたままだ。師匠が言っていた通りだ、シクはまだ解放されていない。あの時代に取り残されたままだ。



 聖域を出たとき、定期便の前で人混みができていた。

 どうやら、暴動が起きたらしいとのことだ。

「通してください!」

 騎士たちが集まってくる。鎮圧するためにある場所へ一斉に集合をかけている。

「うるさーい! こうなったのも全部、お前らのせいじゃ! あれも買えんかった! これも買えんかった! こうしてはるばるやってきたのになにひとつ持ち帰れず、なに一人で寂しく帰れると思っておるんだ!!!」

 どうやら、一人の老人がせっかく遠出したのに何も買えなかったことに怒りをぶちまけていたようだ。

 しかも、召喚魔法を使って、聖域を今にも踏みつぶそうと進行している最中だった。

「また、来年くればいいでしょ!」

 と別の人が言った。騎士でも関係者も出ない赤の他人が。逆効果。

「来年って……そうきやすく来れるわけじゃないだろうがァ!! 戯けがァ!!」

 怒りは静まらない様子で、召喚を重ねて召喚をする。

「いでよ、聖域を粉砕してしまえ!! ゴーレム召喚!!」

 二重の魔法陣から生み出される人型の巨人。大きさは民家2階建てほどの大きさだ。周りの大地を吸収し、形となって構成していく。

 心臓部に赤く光る宝石を宿しながら、大地から吸った岩や土などを皮膚として張り付けていく。

「船なんて、落としてしまえ!! ゴーレムども!!」

 老人は次から次へとゴーレムを召喚していく。

 皆いっせい、つばを飲み込みながら、老人が召喚を止める手を待って見届けている。

 呼び出したゴーレムの数はざっと4体。どれも大きさは一緒だが、心臓部である宝石の色は違っていた。

「騎士ども、前へ、一体でも神聖な聖域や船に近づけるな!! これは、戦争だ! 戦だ! 我らが立ち向かわず誰が勝機を得るか!! 全員抜刀! 我ら白銀騎士団隊長シークレット! 我が先陣切る! 皆は私と副部隊長のロミオについていけ!!」


 オオオォォォーー!!


 と一斉に進軍開始した。

 騎士とゴーレムの戦争が目の前で開始する。


「では、私たちも加勢ね」

「ええ、ぼくたちができることをしなくては」

「恥じゃな、〈魔法とは自由〉、〈発想は自由〉、〈知識は自由〉と、かの大魔導士が言っていた」

「言葉通り、一人の欲望のためにすべての魔法使いを敵にした」


 魔法使いも武器を取り出し、構える。

「敵はゴーレムの心臓部を破壊すること! それ以外はいくらダメージを与えても倒せない! いくぞ、みんな!!」

「オオオォォォォーーー!!」


 魔法使いたちも高鳴る。

 ゴーレムを相手にした戦争が始まってしまった。


 それを干渉するかのように戦いに賛同しない者たちも少なからずいた。

「やれやれ、これじゃ戦争だよ。つか、なんだよこの絵面」

 金髪のモヒカンが呆れていた。

「これはもう、ストレス発散ですね」

 白髪の老人が腰を掛けながらそう口にする。

「みんな、疲れていたのね。まあ、あの老人、さんざん迷惑をかけたからね。報いだわ」

 紫色のローブに身を包んだ赤髪の女性が口につけた煙管を外し、煙を吐いた。

「さて、我らはただ定期便を守るだけ、後は攻撃隊に任せておけばいい」

 空になにかを描くかのように杖を鮮やかに振るう魔法使いたち。

 青い結界が定期便を卵型に包み込み、ゴーレムの一撃であろうとびくともしない。


「ねえ、これ、どうしようっか」

 腕輪のため息をつくかのような反応に、シクは「逃げようか」と囁いた。

 ローブに隠していた一冊の魔法本を取り出した。魔法本はシクが手にした途端、光の粒子となって、姿かたちを変える。

 本だったものがカードとなって姿を変えた。

 周りが見ていない隙をついて、魔法を唱えた。

 カードは光り輝き、シクと腕輪を連れて、どこか遠くの島へと移転した。そこは、まだ人が少ない静かな森に包まれていた。

「今度は、静かすぎる場所だね」

「まあ、この魔法の移動先は自動だからな」

 カードを再び本に変え、ローブにしまい込んで、森の中へと消えていった。

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