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カッパの川流し


カッパのアジトに向かう道中。

ふよふよと飛んでいる陸が前を指差して、声を上げた。


「あ、水だよ、水」


川の水に光が差して、きらめいていた。

穏やかな川だが、水の量はなかなかのものだ。

水は貴重だからここで飲んでおこう。


蛇口を捻ればすぐに水が出てくる日本は、素晴らしいところだ。

異世界に戻ってくると、日本の良さが改めて分かるね。

そして都会っ子の俺が、こっちの水を飲んで腹を壊さないか心配だ。

前世の身体なら問題なかっただろうが。


「しっ、いますよ、奴らが」


ペディが口の前に両手の人差し指でバッテンをつくって言う。

声を出すなというジェスチャーだが、ちょっと間抜けだ。

人差し指一本で、シ~ってやる日本の方が格好いいと思う。


どうやらカッパはこの川で水を汲んでいるようだ。

ちなみにカッパというのは俺が名付けた奴らの呼称であり、頭に皿があるわけじゃない。

きゅうりが好きかどうかもわからない。

泳ぎは得意ではないだろうな。

こっちの世界じゃ人間も泳げない。

水の中を動けるなんてのは、水棲系の種族だけだ。


木陰に隠れて遠くから様子を伺う。

カッパめ、生意気にも水瓶を使って水を汲んでいる。


「あの水瓶はうちの村のですよっ」


小さな声で静かに怒りを表すペディ。

感情を抑えていても、尻尾は逆立つようだ。


俺達は水瓶を頭に乗せて運ぶカッパを尾行した。

アジトらしきものは川から下に降りていったところにあった。

ボロくて大きな屋敷に入っていく。

人間の作った家の部品を組み合わせただけの建物だ。


「ここがアジトか、よっしゃ乗り込もう」


意気揚々とアホなことをいう息子。

本当に転生してるのか?


「お前はガキんちょか?」

「僕はパパの子供ですが……」


キョトンとしてやがる。

なんて可愛い顔してんだ、俺の顔にそっくり。

そんなことはいい。


「そうじゃなくてよ、なんで正々堂々と戦わなきゃいけないんだっつの。計略を立てるんだよ」


全くわからないという顔のままの陸。

ペディも何のことやらという顔をしている。

無理もないのか。


この世界では大規模な戦争というものは起きたことがなかった。

モンスターという共通の敵がいるので、人間同士は争うことを避けてきたのだ。

ここでいう人間とは人間種だけではなく広い意味での人間、つまり言葉を使える種族を指す。

カッパ達も何らかのコミニュケーションはとっていると思われるが、奴らはモンスターだ。


「例えばだよ、お宝を取り戻した後ならあのアジトごと燃やしちゃってもいいだろ」


火計は基本中の基本だ。

三国志でもよく出てくる。


「こわっ」


ペディは恐ろしいものを見るように青ざめていた。

陸はまるで考えたことがなかったとばかりに、ほへ~っと関心している。

俺はお子ちゃま共は無視することにした。


「さて問題はどうやって、村の財宝を取り戻すか、だ」


お宝を奪う方法……。

となるとやっぱルパン……。

ルパンが上手いこと盗み出したシーンを思い出す。

――ピンときた。

俺は作戦が実現できるか、確認するための質問をする。


「ペディ、土の精霊操って、地面の下にトンネル掘れるか?」

「へっ? やったことはないですけど、多分出来ますね」


ビンゴだ。俺はパチンと指を鳴らした。


「いや~、大成功だな」

「こんな上手くいくとは……」


俺とペディは、地面の下を通って奪われた金品を全て取り返していた。

次元のように目に手を当てて、バカ笑いしたいところだが。


「奴らは一匹残らず殺す。そうだな?」

「そ、そうです」


ペディの覚悟を確認したところで、改めて策を弄する。

盗み出された事を気づかれる前に倒してしまわないとな。


火では時間がかかり、逃げられてしまう。

反撃される恐れもある。

火計はないな。


爆発させるのが一番だが、爆薬はないし、それほど強い魔法は使えない。

これも無しか。


俺はふと振り返って、強力な武器を見つける。


「ははは、あるじゃないか」

「何が?」


陸は眉をしかめた。

なかなか2歳でこんな表情はしないだろうな。


「あそこの川の折れ曲がっている部分、あそこをドカンと吹っ飛ばしたらどうなる?」


それはさっきカッパが水を汲んでいた川だ。

アジトの上を流れている、水の量が多い川。


「やってみるよ、詠唱呪文スペル教えて」


俺たちは財宝を安全な場所に避難させ、川まで戻る。

陸を抱っこして、耳元に爆破系の呪文を伝えた。


「出でよ! 土爪トウチャオ!」


3×3 E○ES(サザ○アイズ)に出てくる獣魔だ。

呼び出すことで、大きな岩でも打ち砕く。

そのイメージ通り、陸の右手から発せられた衝撃により川の側面はごっそりと削られた。


もの凄い轟音を立てて、川は削られた部分から瓦解した。

大量の水の流れに耐えきれなくなった壁は崩壊し、波が谷へと落ちていく。

さながらダムの放流のように。


強い濁流は奴らを生きたまま、アジトと共に押し流していった。

これほどの強さの波を受ければ、何の抵抗もできない。


カッパの川流れならぬ、カッパの川流しといったところか。

そんなことを、悠然と見下ろして思った。




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