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ああっ!? なにすんのよ女神様っ!?


ワーグナー作曲のワルキューレの騎行という曲を知っているだろうか。

その荘厳なクラシック曲が脳内に流れていた。


なぜならば、俺達は飛行竜(ワイバーン)に乗って戦場へ向かっているからである。

こういうとき流れるBGMといえば、これしかあるまい。


しかし、この乗り心地たるや。

飛行竜は翼を羽ばたかせて飛ぶのではなく、横に広げた状態で風に浮いているのだ。

動きは非常にスムーズであり、新幹線の如く安定している。

空を飛んでいるというにもかかわらず、怖さがない。

すげーよ、ものすごい乗り物だよこれ。

竜の大きさは路線バスくらいのサイズだが、人が乗れる背中はスクータータイプのバイク程度だ。

大人が2人乗ったら、もうそれ以上乗ることは出来ない。


もともと俺が調達しようとしていた竜ってのは、二足歩行で走るタイプの一般的な竜だ。

こちらは外車くらいの価格で買える代物で、この世界ではそれなりに普及しているもの。

しかし飛行竜ってのは一般人に手の届くものじゃない。

当然初めて乗るし、憧れの存在だった。


「すっげー!」


俺の前にちょこんと座っている陸が、歓声を上げた。

子供の声が入ると、遊園地のアトラクションみたいなノリになってしまうな。

これは出陣である。

今からモンスター討伐に向かうのだ。

猫耳の美少女を救い出す聖戦だ!


しかし戦力としてはどうなのか。

いや、もともと俺と陸の二人だけで乗り込むつもりだったわけだけど。

それにしたって、総勢4人って。

王の初陣に付いて来るお供が一人だけって少なすぎない?


王であるニャンコちゃんの護衛としてついてきたのは、とても強そうには見えない女性だった。

耳長族のおっとりした癒し系お姉さんというか。

正直な感想をそのまま言えば、ああっ女神様っのベルダンディーみたいな。


耳長族のお姉さんが大好きな陸は、ずっとデレデレしている。

小さな子どもは大人と違って、ニヤニヤしてても可愛いからずるい。


小さな男の子が大人の女性を大好きなのは、微笑ましく扱われることが多い。

大人の男性が小さな女の子を大好きなのは、非常に好ましくないことが多い。


俺が日本でいたいけな少女に向かって陸のような顔をしていたら、通報されてしまうだろう。

まったくおかしな世の中だ、日本は。

日本最高主義の俺が、唯一この異世界の方が素晴らしいと考えるのはこの点に尽きるね。


この世界では、俺が見た目にはロリロリの女の子にハァハァしても全く問題ない!

全然、少しも、これっぽっちも、な~~んにも問題ない!


陸があのお姉さんにハァハァするのと同じくらい問題ない、のだが。

ちょっと問題あるくらい興奮しているぞ……。


「うぇひひひ、う、美しい……め、女神だぁ……踏んでください」


性的に興奮する2才児のビジュアルは、異質すぎて恐怖すら覚えた。

実の息子でなければ、通報してると思う。

だめだこりゃ、もし俺が幼女に興奮してるのがこいつと同じくらいヤバいなら逮捕していいよ。

やっぱり日本の法律は正しかったのかもしれない。


「陸、気持ち悪いからやめろ。嫌われるぞ」


俺のセリフを聞いた陸は、正気に戻ったのかびくんとなって背を伸ばす。

おとなしく前を向いて、深呼吸を始めた。


俺も背筋を伸ばして、深呼吸をする。

陸とは全く違う理由だ。

敵のアジトが見えてきたからだ。

モンスターにありがちな、壊れた家屋の寄せ集めである。

主に木と石で出来ており、よく崩れないものだと感心する。


「陸、あそこに捕らえられてるんだよな?」

「少なくとも、攫って行った奴らがあそこにいるのは確実なんだ」


さっきまで変態としかいいようがない顔をしていたとは思えないほど、冷静だった。


「オッケー、今までよく耐えたな」

「絶対、取り戻す」

「いい男になったな」


ちょっと早すぎるんだがな。


「あれが敵のアジトで間違いないか」


ニャンコちゃんが凛々しい声で叫ぶ。


「間違いなーい」


陸が応答した。


「よし、砲撃せよ」


え? 砲撃?

当然だが、飛行竜に大砲などが搭載されているわけではない。

どうやって砲撃など行うというのだろうか。


訝りながらニャンコちゃんを見ていると、後ろに座っているベルダンディー(まだ名前を知らない)が手をかざした。

詠唱呪文スペルを唱え始める彼女。


紡いでいる呪文を日本語に訳すとこんな感じ。


「砲撃! 砲撃! 何者も為す術もなくただ地べたを這いずるしかない圧倒的な火力の砲撃!」


……虫も殺せないような聖女がにこやかに、賛美歌でも歌うように。

逆に怖いです。


術者の背後から、大量の光が発生し、そこから無尽蔵に生まれてくる(くろがね)の砲弾。

ボーリングの球ほどもある大きさが無数に飛んでいく。


あ、圧倒的じゃないか我軍は!

戦力に不安があった俺、杞憂!


その結果は破壊とすら呼べないほどだった。

もはやさっきまでアジトと呼んでいたものは鉄の玉に埋もれたガラクタに過ぎない。

大きな物音すら立てず、まるでぷちっと潰すようにアジトは壊滅した。

中に生き物が居たら軒並み潰れているだろう……


「って、人質が中に居たらどうするんだよっ!?」


あっけに取られていたが、ようやく言うことができた。

これを言うのは遅すぎた気がするぞ。


「なにすんだー!?」


悲鳴をあげる陸。


「あ」


偉大なる王はなんと、舌をぺろっと出して頭をこつんと殴った。

かわいい。

かわいいけど。

さすがの俺でも、それで許したりしねえよ!?


「「あ、じゃねえ~よ!」」


俺たち親子は天を仰いで絶叫した。



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