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しあわせなじかん

作者: あかひな

モヤモヤしたので書いただけ

事故は不運であって不幸ではない。

何故なら私には元から持ち合わせていた幸せなど無かったのだから。


私の人生は常に他人のためにあった。

誰かを応援して元気になってもらうこと。誰かの成功を祈ること。誰かの為に尽力すること。そうして誰かが幸せになって、その幸せを眺めてるのが私の全てだった。


特に私の大好きなあの人を陰ながら支えてる雰囲気になれるのが好きだった。今思えばただの錯覚に過ぎないのというのに、おこがましいにもほどがある。


そうそう。私が幸せと感じていたものなんて錯覚。私が自分で手に入れたものでもない。ただ他人の幸せと自分を重ね合わせた幻想に過ぎない。


だから……不幸な事故で足と声を失って、皆の元を離れることになった時だって、少し残念だなぁとは思ったし寂しかったけど、不幸だと思うことはなかった。誰かを恨むこともなかった。



後悔してないと言えば嘘になるけど……今いる病院の生活だってそれほど悪くはない。歩けないのは不自由だし、声が出せないのは不不便だけど、不自由さには耐えればいいし、不便さには慣れればいい。暇な時間は増えたけど、それだって良い機会だと思って新しい趣味でも始めればいい。


元々自分の幸せなんて考えてなかった。だからいくらマイナスになろうが関係ない。辛いことに変わりはないけど我慢できる。辛いだけなら……そう、単なる苦痛だけならいくらでも耐えられるのだ。


ただ、時々どうしてもやり切れなくなる。


例えば……私のお見舞いに昔の同期が来た時だ。



顔なじみの彼らは私のベッドの横で楽しげに談笑する。私のいない間に職場であった面白いことや大変だったことを本当に楽しそうに語り合う。私の大好きだったあの人を中心に、取り巻きたちが見せびらかすように語り合う。


もちろん私を元気づけるための行為だと言うのは分かってる。

けれど……私はその度に胸を鷲掴みにされるような思いに駆られるのだ。


楽しい空間。私が元気だった頃に加わっていたのと何ら変わらない楽しい空間が私の行けない場所で今も続いている。それが嫌というほど理解させられる。

今の私はそこまで歩いていくことができない。声を出しで加わることすらできない。


そして私なんかが居なくても……あの場所には何の問題もないということを痛感させられる。

大好きなあの人は私なんかがいなくても他の人と楽しそうにやっている。

分かっていた当たり前の事実が、分かっていたからこそ更に私の心を締め付ける。


いっそのこと話してくれなければいいのに、見舞いになんか来なければいいのに。ちらつかせられる幸せが嫌だ。楽しげに話す彼らが嫌だ。


なんでそんな顔をしてるの。なんで私に話すの。

私は何もできないんだよ。私は黙って聞いてるだけなの。

なんで来るの。なんで帰らないの。なんでまた来るの。なんでまた話を聞かせるの。

なんで。なんで。なんで。なんで。なんで。なんで。


なんで……私はニコニコしながら聞いてるの?



吐き気がする。


私のわざとらしい笑顔も、彼らの楽しげなやり取りも、自分を取り巻く環境全てに反吐がでる。

聞いてるだけで顔が青ざめてゆき、悪寒が走り、鳥肌が立ち、気分が悪くなる



猛毒だ。手に入れられない幸せは毒だ。


ただの不運なら良かった。不幸ならまだマシだった。

全てを失うよりも、死ぬよりも、幸せを間近で見せつけられることが遥かに辛い。


自分で目と耳をくり抜いてしまえば、全て終わらせてしまえば楽になれるのに、臆病な私にはそんな勇気を出すことすらできない。

私のためを思って来てくれる彼らに止めろと言うことすらできない。




ああ……今週もそろそろ見舞いの時間。


そろそろ病室のドアが開いて私の大好きな人たちがやってくる。


今日は何人だろう。もう飽きても良い頃なのに律儀な人たちだ。


まぁ何人だろうが関係ない。彼らは幸せという毒を手土産に、私を嬲りにやってくるのだ。


時計の針がカチャリと定刻を指し示す。

ここから先、私の病室は牢獄と化し、幸福に満ち溢れた拷問が始まる。



カツン、カツンと廊下に足音が響いた。




さぁ、しあわせなじかんの始まりだ。





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