嵐の後の終焉
ウィーナの傷の手当が終わった後、『クロムハード』のリーダーを除いた全員と『スケイル』全員の採寸を済ませた。
あとは店主の装備品製作の作業の工程に入るため、彼らはそれぞれの拠点に戻り、店内には店主とバイトの双子の三人だけになった。
「お前らは……」
二、三回咳払いした後で店主は二人に声をかける。
「バイトしなきゃならんくらい生活が厳しいってことだよな」
「え? えぇ、まぁ……」
「っていうか、このままだと苦しくなるってこと……」
ミール、ウィーナの返事を、答えを求める店主が遮り、彼女たちの答えを勝手に決めつける。
「いや、苦しいんだ。そうしとけ」
「まあ実際そうなんだけど……」
「店主、どうしたの? いきなりそんな質問して」
その二人に構わず話を続ける普段の店主に戻ったのか、独自の理論を振り回す。
「冒険者ってのは、想像するに肉体労働なわけだ。つまり健康状態を維持するための費用は削れない、だろ?」
「そりゃもちろん」
「テンシュ、またまともなこと言いだした」
一見失礼なことを言うミールだが、言ってることは正しいのだからしょうがない。
「つまりお前ら風呂に入れない日もあるということだ」
「「それはない」」
「ということで、今からお前ら、シャワー浴びて来い。セレナに普段から風呂を好きに使っていいって言われててな」
言うタイミングも唐突なら、その内容も唐突である。
「ごめんなさい。流石に何を言ってるのかよくわからない」
「営業時間にそんなことできませんよ。仕事に穴空けちゃうじゃない」
「よし、シャワーを浴びることも仕事とする。浴びなかったら日給の今日の分無しな」
「横暴じゃない! そんなの!」
「シャワー浴びてくれば普通に給与出るんだが何か問題あるのか?」
店主は不思議そうな目で双子を直視する。
「……覗かないでよっ?!」
「……こっちにゃ次の仕事がある。お前らのハダカは正直すごくどうでもいい」
言う方も言う方だが答える方も答える方である。
しかし風呂に入って損をする気持ちになる者はあまりいない。
しかも入らないと給料あげないとまで言う雇い主。
バイトってそういうもんじゃないでしょう? と疑問に思う二人だが、結局言われるがままに二階の風呂場に向かう。
「それにしてもテンシュホントになんなの? 昨日は頼りになると思ったら、今日はお姉ちゃんを蹴り飛ばすし。こんな時間にシャワー浴びろなんていきなり言い出すし、ますますよく分かんない」
「テンシュの世界ではそれが当たり前なのかなぁ。それに異性のハダカに興味がないって……。いやらしい目で見られたくはないから、まぁテンシュからあんな風に言われる方がまだ安心できるかなって思うけど……。仕事大好きってことなのかな」
「……あれ? お姉ちゃん、おでこにも足跡ついてるよ?」
間近でウィーナを見る妹が気付く。
「え? ほんと? まったくもうっ。正直気分悪かったけどねっ。戦闘中でもあんな蹴りもらったことないからさ。でも普段は気難しくてふざけてるテンシュでも、あんなふうに殊勝に何度も謝られたら流石にね……」
「ひょっとしてさぁ……」
何かに気付いたミールが、呆れながら愚痴をこぼすウィーナに話しかける。
「シャワー浴びろって言ってたの、その汚れ落としてほしいから……かな?」
「あ……」
言われてみれば、何度も謝る店主が一番数多くそんなウィーナを間近で見ている。
汚れがついているから洗ってきなさいと言う言い方では、悪いのはそっちだろうと文句の一つや二つも言いたくなる。
あんな言い方をされれば、いつもの店主のように見えるし恩着せがましくも感じない。
いわば店主なりの思いやりを込めた言い方とも言える。
「「わ、分かりにくい」」
二人は心底感じたことをつい口に出した。
※※※※※ ※※※※※ ※※※※※
「シャワー、終わりましたー」
「あ、今話しかけない方がいいみたい」
店主は作業部屋で素材の選別作業をしていた。
ただ素材を選ぶだけ。
気を散らすと差し障りがある加工や研磨などとは違う作業で、店主は二人の声に反応した。
「おーぅ、ごくろーさん。じゃまた店番頼むぞ」
二人の遠くからの声が聞こえたくらいである。
来店する者にも反応しないはずがない。
それでも店主は落ち着いた様子で作業をしていたということは、二人がシャワーを浴びている間は来客はなしと読み取れた。
「で、次の仕事、何か特別な用事はあります?」
聞かれた店主は作業の手を休み、しばらく考え込む。
突発的な用事は特にない。
してほしいことはいつもと同じ。
「特別な用事があるとすりゃ、『ホットライン』に、道具の成果の報告をしに来いって言う伝言くらいなんだが、今出てったばかりだしあまり意味ないか。店番のままだな。昼になったら昼飯の準備くらいか」
その店番とて、客が来ない。
「テンシュー、聞いていい?」
「面倒くさくて聞きたくないが、まだ申し訳なく思ってるから一応聞こう」
面倒くさいのはテンシュの性格だよと思いながら、ミールは一応聞いてみる。
でないとバイト料に影響が出るかもしれないと思ったからだ。
「さっきまでシャワー浴びて、んで間もなくお昼でしょ? 私達、仕事してなくない?」
今日ではないが、『ホットライン』の呼び出し、そしてその後にやってきた二チームの採寸は確かに仕事のうちだろう。
しかしバイトの仕事は、来客がなければ特に何もない。
ミールの心配は、ある意味深刻である。
「気にするな。気にしたら負けだ。それに言わなきゃ相手は気付かないままだったかもしれないって考えたことはなかったか?」
煙に巻くような言葉を返され、ミールはどう受け止めていいか困惑する。
「でもそれなりに仕事したからそんなに気にしなくてもいいんじゃない? ミール」
「それもそうだけど……」
「そろそろ昼だぞ。飯食うつもりがないなら作らなくていいが」
いつの間にやらそんな時間。
昼食の時間も何の変哲もなく淡々と進む。
昼休みも終えて午後の仕事。
店主は選別作業を終えて、いよいよ装備品づくりにかかる。
「テンシュ……テンシュは仕事についてどう思ってるのか聞きたくなったんですけど……」
「宝石加工なら趣味と特技。そしてストレス解消だな」
((ある意味羨ましすぎる!))
「さて……と。んじゃまた集中しなきゃならん作業に入るから声かけるなよ?」
「「はーい」」
双子が返事した直後に、何者かが店に突入してきた。
「テンシュッ! いるかっ!!」
「いねぇよ!」
「「ちょっとテンシュッ!!」
自動ドアが開くのももどかしいような勢いで入って来たのは『ホットライン』のメンバー。
いつものとぼけた店主の返事に双子のツッコミが入った。




