法具店アマミ 嵐の前 1
憧れの存在を失ったセレナは我を失う。
それでも落ち着きを取り戻し、私情を挟まずに巨塊討伐を改めて誓ったセレナは、巨塊討伐の現場の調査への協力を再開した。
当然『法具店アマミ』では、再びバイト、そして場合によっては警備役も必要になる。
「女三人寄ればかしましい、というけど、それ以前になぁ」
店主がぼやく。
買い物客ばかり来てほしいのだが、品物を見に来るだけの客、単なる来訪者、さらには散歩の途中で立ち寄る者と、多種多様。
とは言っても流石にこれは防御力過剰である。
「上級冒険者チーム二つから二人ずつの計四人って、警戒しすぎだろ。どこの大手の店だっつーの」
「いいじゃない。こっちは無報酬でいいんだし。それに……」
キューリアは自分達のチームからの依頼の結果待ちがあり、そのあとは『クロムハード』が順番待ちをしている。
その順番待ちを横から割り込む者はいないだろうが、リーダーのスウォードが店主に粗相をしたということで、メンバーはそのようなことがないよう警戒を兼ねて警備役を買っている。
しかし彼へのペナルティはすでに課せられているので、店主にはスウォード以外のメンバーには何の負い目もないと思っている。
だからこそ、アローとニードルの二人の奇妙な心遣いは、店主には理解しかねていた。
そして納得いかない現実がもう一つある。
「模擬戦の相手も悪くないかなーなんてね。後輩が出来ると楽しいって気持ちがようやく分かった」
「何回か手合わせしてるようだが、警備役不要になるくらい腕を上げてほしいんだがな」
いまだに斡旋所からの割り当てられる仕事の数は少ない。
間違いなく腕は上がっているはずだが、周りからの評価は意外と低い。
成長度ではなく現在の力量を見られるのだから、『風刃隊』の関係者からの目は贔屓がかっていて過大評価もされていると思われる。
「こ、これでも頑張ってるんですよぉ」
「生傷の数も減ってきてますしぃ」
「プロなら仕事を請け負って達成する。それだけが実績だろ?」
容赦ない店主の言葉の攻撃にしょげる双子。
収入を得る努力をするのは悪いことではないが、本来の目的にはなかなか近づけそうにない。
「そ、それでも最近は冒険者らしい仕事も増えてるんですよっ」
「男の方は、巨塊の洞窟の調査の仕事してるみたいですし」
「あぁ、最近冒険者達を集めて何やら調査のどうのこうのをしてるみたいね」
爆発事故がまた起きる心配はないのかと怪訝な顔をする店主。
「極端に近づかせるつもりはないらしいし、ただの調査なら問題なさそうなんだって」
「じゃあお前らも一緒に行けばよかったじゃねぇか」
「いや、だって……」
「ここだと、ほら、滅多に会えない先輩方と……」
「うれしいこと言ってくれるねぇ、アロー?」
「ふふ。ほんとに可愛い後輩達だこと」
店内の雰囲気が和んでいくが、それを店主は良しとしない。
「ここはお前らの逢引きの場所じゃねぇ。今日はもう閉店の時間だ。お前ら四人は先に帰れ」
「えー? 晩ご飯はー?」
「図々しいにもほどがある。あいつの厚意ってこともあるが、元々はこの貧乏新人のバイトの賄いのつもりだったんだぜ? それに最近は乱入者も少なくなってんだろ。お前らもお前らでお前らの仕事しろっつーんだよ! つか、大体その黒い女が起こした騒ぎからこうなってんじゃねぇか! お前らの模擬戦の世話は俺の範疇外で、双子が自分から動いて頭下げる立場だろうが!」
虫の居所が悪いのはしょっちゅうだ。
しかしここまでこじらせるのは珍しい。
こんな店主には逆らわない方が吉。
「ウィーナちゃん、ミールちゃん、模擬戦とかのことはこれからは直接連絡して決めようね。じゃまたあし……」
明日、と言おうとしたヒューラーは、店主がじろりと睨む視線を受けて止める。
「またね」と言い直し、同じ思いを持つ他の三人と共に退散した。
一気に静かになる店内。そして晩ご飯の時間になる。
「あの……テンシュさんの晩ご飯は……」
「別に気にしない」
店主が気にしなくても、二人には気になる自分達の分。
バイトの一日は閉店時間が過ぎても続く。
一食くらい抜いても店のスタッフの仕事なら何の問題もないが、いくらなんでも食事抜きでバイトを続けるのは流石に待遇は悪い。
「お前らの分なんか知るか。食いたきゃ勝手に上で食え」
相変わらずわかりにくい店主の反応である。
しかしこの日の店主の無双ぶりはまだ終わらなかった。
双子が食事を終え、まだ珍しくセレナが戻ってこず本日の収支を二人だけで計算している間も店主は作業部屋で仕事をし続けていた。
店主はその扉を突然開けて、カウンターで仕事をしている双子に近づくなり一方的に指示を出す。
「お前ら……いや、どっちか一人でいいや。最初のあの六人とこに行って伝えて来い。依頼の品物全員分できたってな」
冒険者達の名前もチームの名前も覚えていない店主だが、それだけで二人は理解した。
ようやく『ホットライン』六人の装備品が完成した。
が、それならば今朝から完成する見通しがついていてもおかしくはない。
にも拘らず、メンバーの二人、ヒューラーとキューリアに何も言わずに店から追い出すのは何という嫌味か。
その嫌味は残念ながら終わらない。
「よし、えーと、長い杖の方、行ってこい」
初対面が初対面なだけにミュールにはまだしこりが残っているようで、ミュールの緑の顔にやや青みがかる。
バイトや模擬戦などで何度も顔を合わせ、会話も数えきれないほどしてきたはずなのに、未だにそんな心境になるのは二人きりになったことがないせいか。
「わ、私が行ってきます!」
「却下。杖の長い方、行け」
かばう姉。即拒絶し有無を言わせない店主。
何を企んでいるのか読めない指示を、店主は全く変える気はない。
「い、いいよ、お姉ちゃん。私行くから……」
気が重そうにミールが立ち上がる。
出来れば一人きりで会いたくない相手、ということもあるが、追い出す形で拠点に帰らせた後で、また店に来い、と相手を馬鹿にするような伝言を持っていかなければならないのが心苦しい。
しかしこのバイトは、バイト料を得るのも大事だが、人脈が大分広がったメリットも大きい。
我慢、辛抱も必要な要素の冒険者稼業。それを鍛える修業の場。
そんな思い込みを持ちながら、『ホットライン』の連絡先と「明朝一番で装備品を取りに来い」という伝言を店主から受け取り教わり店を出た。




