常連客二組目との出会いもトラブルでした 2
『法具店アマミ』に駆けつけた、蝙蝠の羽を背中の防具からはみ出させた女戦士は息を整えてゆっくりと中に入る。
「「いらっしゃいませ」」
二人の女性の声が同時にかかるが、彼女はそれにお構いなしに店内を見回しながら歩を進める。
それは買い物客が目ぼしい物を探すというよりも、まるで何かの罠を仕掛けられ、それを警戒しながら進んでいくかのよう。
彼女の見慣れた店内はそこにはない。鋭い眼光を店内くまなく行き渡らせながらゆっくりとカウンターに向かって足を運ぶ。
そしてたどり着いたカウンターの前。彼女には女性と言うより女の子に見える爬虫類の獣人族の双子の姉妹がそこで笑顔を向けているが、その客の行動を見続けたためかその表情はぎこちない。もちろん彼女は初めて見る人物である。
客を迎え入れる挨拶をする店内にいる人物は、必ずしも店員とは限らない。
女戦士はさらに警戒心を強めた。
険しい顔を向けられたカウンターの獣人二人の笑顔はもはや笑顔と呼べず、言葉一つも発しない来客に体が震え始めた。
そのカウンターと売り場の二面とガラスの壁で仕切られている作業場は、仕切り以外は見慣れた光景だが、こちらの様子を伺うことなく机に向かって集中して作業している男には見覚えはない。
目新しい品物はこの男が手掛けた物だろうとは考えるが、目に入るこの三人とセレナとの関係は不明のまま。
その女性は、気持ちを落ち着かせるように少し乱れた髪の毛を手櫛で整える。一見獣と人かエルフの混ざった獣人族か獣妖族に見える彼女。その頭髪からやや上方向の斜めに突き出て現れた耳の一部が彼女の種族を物語る。尖った耳はエルフ種の象徴である。
店内にはセレナの気配すらない。すでにこの町を後にしたのか、それとも予期せぬ事故に巻き込まれたか。
最悪、目の前にいる三人によって害されたか。
しかしセレナは冒険者たちの中でも屈指の実力者。比べてこの三人のどこに彼女を抑える力を持っているか。そう考えるとそれも有り得ない。
だがもしそうならこの者達を一刀のもとに斬り捨てねばなるまい。誰かにとって大切な存在を、町の中に潜みながらこの先何人亡き者とするかわからないからだ。
黒い羽を持つエルフは静かに声を出す。
「お前らは何者だ? ここで何をしている。返答次第では只ではすまんぞ?」
「えっと、どちら様でしょう?」
「あ、あの……ご用件は……?」
カウンターの二人は震えを抑えながら答える。しかし男は作業を止めない。それどころか作業に集中しているのか声が聞こえていないようだ。
今まで目の前にあるカウンターを挟んで店主のセレナと幾度もいろんなやり取りを重ねて来たばかりか、カウンターの奥の階段を上がり、セレナの住まいでくつろいだこともある彼女。
彼女は双子の獣人族からセレナとの関係を尋ねられるが、逆に二人に聞き返す。
「私の問いに答えろ! この店の主に何をした?! いや、元々ここはお前達の店じゃないだろう!」
「お前ら、下手なこと口にすんじゃねぇ」
突然作業場から声がかかる。
男はいつの間にか作業を止め、カウンター側の扉からゆっくりと出てきた。
彼女は自分に適う男ではないと確信する。
何の変哲もない一般人だ。しかし彼には妙な迫力を感じる。
「あんたが俺達を知らねぇように、俺もあんたの事は知らねぇよ。この二人はどうだかは知らねぇがな」
双子はそろって首を横に振る。
「ご覧の通り、この二人もあんたの事を知らねぇ。つまり俺らにとっちゃあんたはここの初めての客だ。なのに前からここの事を知っているような大きな顔をされたって、こっちはこっちの仕事をするだけだ。あんたが何を思って確認したかは分からねぇが、俺にだってそれなりの誇りと品質のへの確信もある。文句があるなら他に行きな。そうすりゃ互いに気分は悪くはならねぇはずだ」
「フン……前の店の主はどこだ?」
黒い翼の女は三人に殺気を向けながら腰の剣と思われる柄に手をかける。
いくら冒険者としてはまだ未熟とは言え、自身が持つあらゆる力はその彼女の足元にも及ばないことくらいは分かる。
それでもバイトで留守番を預けられた双子はこの来訪者の前から引くわけにはいかない。
傍らに置いてあった自分の杖をそれぞれ構える。
双子の仲間全員揃っても用心棒にもなりはしない。ましてや二人だけでは敵うはずのない相手。しかし最低限その男の命を守ろうと、怯えながらも必死な面持ちで立ち向かおうとする。
一触即発。
しかし二人が持つ杖を見るとその女から突然その殺気が消え、構えも解く。視線は二人の杖に釘付けになり、驚きの顔を見せた。




