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美女エルフの異世界道具屋で宝石職人してます   作者: 網野ホウ
巨塊討伐編 第一章:「天美法具店」店主、未知の世界と遭遇

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トラブルは続く 1

「……ということがあった。つまりお前と俺とでは年齢差が一日縮まった。生命力は一日分差をつけられた」


「また訳分かんない事言ってるし。作業で一旦中断が難しいとそうなるってことよね。どこかできっちり区切り作らないと」


 『法具店アマミ』で早朝のトラブルに遭遇。何とかやり過ごして新人の冒険者五人組に依頼の品を渡して仕事を一つこなした翌日のこと。

 店主の体験した日程だと、五人組に装備品を渡してから『天美法具店』に戻った日はその前日。

 一日経って、『法具店アマミ』から『天美法具店』に移動しようとした同時刻を迎える。

 店主は頭の中を整理しやすいようにこの日も自分の店にこもり、その翌朝に『法具店アマミ』にやって来て今に至る。


「まぁこの世界の鉱物宝石を手に入れられて、扉さえ起動出来りゃ『法具店アマミ』はどうでもいいんだよな」


「そういうこと言わないでくれる? テンシュの力は私にはとっても有り難いんだから。ホントに感謝してるのよ? それに……行方不明者の捜索のこともあるし」


 セレナの声がやや翳る。

 巨塊討伐のその後の情報がまだ全く入ってこないのだからセレナの気持ちが沈むのも無理はない。

 だがセレナも無事に戻って来てまだ半月になったかならないか。そんな短い期間の中で、本部ですらまだ詳しい状況を把握していないのだから、たとえ隊長代理の肩書を持っていた立場であっても組織全体からすれば末端の部類。重要な情報はまだ回ってはこない。


「あぁ、岩の撤去の事忘れてたな。それだけは持ってってもらわないと」


「わ、分かってるわよっ」


 店主に念を押された。

 店の開店前の仕事ばかりに気を取られてすっかり忘れていたセレナはやや焦った。

 やりたいことがある前に、やらなければならないこともある。

 それを望む相手がいればなおのこと。

 そんな道理なら長年冒険者という職に長らく就いてきたセレナだって弁えてはいるが、身の上に起きた想像を超える出来事の連続が失念させていた。

 普段通り振舞ってはいるが、焦燥の思いが常に心のどこかにくすぶっているのだろう。


「分かってるんならいいけどよ……。店はもう開いてんだろ?」


「まだだよ。当たり前でしょ?」


「まだぁ?! しかも当たり前って……。あの後何やってたんだよお前!」


 

 セレナの店の新装開店前の計画と予定は既に彼女に伝えている。

 その通りに商品を展示し、この店では昨日の五人組が退店した後に開店する予定だったが、予想外の来客の乱入の連続で店主のここでの仕事がほとんど手付かず。

 だから店主が自分で決めたとはいえ、仕事が山積みの状態。

 しかし何もしておらず、それでも平然としているセレナに、店主は驚いて目を見開き、呆れたような、そして怒りも混ざった顔をセレナに向けた。


「だって、店主に頼りっぱなしってわけじゃないけど、……頼りっぱなしかもしれないけど、そんな店主が不在のまま新しい店の開店日を迎えるわけにいかないでしょ? いくら接客より加工作業が店主の仕事のメインだったとしてもよ?」


 店内と客の様子が見えるように、作業場と店舗の間にガラス板の壁が作られている。

 だから逆に客が作業場の様子を見ることは出来るから、客との接点がないわけではない。

 それでも接客や会計の仕事はセレナが受け持つことになるのだが、それでも新装開店の初日は二人がいる日が相応しいとセレナは思っていた。


「……ったくお前は……めんどくせぇやつだな」


「だってせっかくのお披露目よ? それに今までと違っていろんなお客さんも来るだろうし」


「いろんな客?」


「そ、いろんな客」


 今までは熟練した上級冒険者達の客のみを対象にしてきた。

 せっかく新しい店になるのだから、これまでのそんな概念を取り払って、まさしく生まれ変わった店にしたい。

 その象徴が昨日喜んで退店した五人組。

 気にかかることはたくさんあるが、この店の経営から行方不明者捜索の活動も出来るかもしれない。

 自分の心を支える柱の一つになりそうな、そんな明るい門出である。


「ま、一日ぐれぇはいいけどよ」


 この日も店主はセレナの住居の居間で朝食をすませた。

 そして先に一階に降り、ようやく『法具店アマミ』での本格的な仕事をしようとしていた。

 ところが前日に続き、この日も店主はトラブルに見舞われた。

 知ったかぶりの客に絡まれたのである。


 「お、ここにも武器屋……防具まで揃ってんじゃねぇか。こんな田舎にも便利な店があったんだなオイ」


 女冒険者を三人引き連れたそのリーダーらしい男の客は、店内に展示されていたセレナが作った杖と剣を手にし、作業場に入る前の店主に近づいて行った。


「なぁ、あんたこの店の人かい? この杖のな、ほれ、宝石とかついてんだろ? そっくりそのまんまこの剣の柄にくっつけてほしいんだ」


 セレナは魔法攻撃に対する防御力を高める効果を狙って作ったつもりのようだが、やはり宝石同士の力関係は考慮に入れてないことが、店主には一目でわかる。

 その杖も改善する必要がある。なのに同じように、杖とは使用目的が違う剣につけると、その装飾品の効果はほとんど意味をなさなくなる。


「同じ飾り付けにした刀剣がほしいのか、それとも実用性が高い刀剣が欲しいのか、何のために必要なのかを聞かせてもらってからだな」


「俺の言うこと聞いてりゃいいんだよ。それでかなり切れ味が上がるはずなんだからよ」


 客はまるっきり見当違いのことを口にする。

 格好つけずに、ただそんな刀が欲しいと言えば店主はその依頼を何とか受けられたが、利いた風なその男の話は職人としては成功自体あり得ない依頼となった。


「あんたから見ればそうなんだろう。お前の世界の中ではな」


 店主にとってはもはやこの依頼は地雷案件。断る以外の返事はない。

 依頼客の男が自分の意見を押し通そうとするのは、連れの女冒険者達にいい恰好を見せようとしているだけ。店主にはそうとしか思えない。

 そんな店主の言葉が男の逆鱗に触れた。

 しかし店主は動じない。その客の言う通りに作ると、店の看板と自分の職人としての腕に泥が付く。


「そんなに文句を言うなら他の店に行くと良い。あんたの望み通りの道具を作ってくれると思うぜ? 俺はあんたからの依頼は受けられん。あんた、宝石のことで好き放題言ってるけどさ、見当違いの事ばっかり口にしてるんだよな。そんな見立てに基づいた依頼で、あんたの思い通りの品物が出来る訳がねぇ。まぁどう思おうと勝手だが、俺の仕事に口出しすんな」


 その男はいきり立つ。心の中は、自分に惚れている女の前で赤っ恥をかかせられたという思いでいっぱいなのだろう。


「店の者なら黙って客の要望聞きゃいいんだよ! とにかく俺の指示通りに作りゃ俺の言う通りに出来るんだよ!」


「あんたの言う通りにしたらこの素材すべてゴミになる。素材が全部号泣するぜ? 俺の力を発揮できねぇ、持ち主の役に立つことが出来ねぇって言いながらな。こいつは刀剣で、稀に防御の役に立つこともある。だが主な目的は何かを切ることだ。その目的を果たせねえ物は美術品とか飾り物。そんな物ぁ他で買ってくれ。俺は芸術家じゃないんでな」


 全身から怒りの感情を沸き立たせている男は、腰に帯刀している武器に手をかける。


「ちょっと、店の中でそれはやめなよ」

「店の人に迷惑だよ。ねぇ、やめよ?」

「他の店に行けばいいじゃない。あなたのこと信頼してるから、ね?」

 

「そういう訳にはいかねぇな。何でこの俺が、一介の道具屋の親父にそんなこと言われなきゃなんねぇんだ!」


 誰もが店主の身の危険を感じるが、店主の口からはとぼけた言葉しか出てこない。


「親父って言われる年になったかねぇ。一見若そうに見える俺より年上のやつなんざ、この世界にゃごろごろいるだろうに」


 一日分の疲れが溜まったような顔で立ち上がり、店の出口に向かう。

 リニューアルのついでに『天美法具店』のドアに合わせて作られた『法具店アマミ』の文字が刻まれてある自動ドアを開け、左右のドアの接触する上部を親指で触れる。

 そのドアを一旦閉じる。


「外でやろうってのか? いいぜ。ぶった切ってやる!」


「ちょっと、町中でならなおさらよ!」

「やめなって。そんなどうでもいい人なんか相手にしなくていいよ」

「もういいから他の店に行こうよ」


 連れの女三人から止められるがツカツカと店主の傍に近寄る。

 店主は「へぇ。ついてこれるなら俺の後についてきな」と言い放って外に出る。その後について行く男。しかし外に出ると店主の姿はどこにもない。


「……? どこに行った? どこに隠れた?! 逃げやがったか?!」


「え? 消えたの? ウソでしょ?」


 外の通りは待ちゆく者は数える程度。人ごみに紛れることが出来る賑やかさはないし、身を隠すところもない。


「魔力はゼロの人種だったよ? 魔法でどっかに飛んだりするってことはあり得ないよ」

「一瞬で立ち去る体力もない人だったよ? 普通の一般人だった。なんでいなくなるの?」


 四人の後を追ってセレナが慌てて店から出てきた。


「何かありました? うちの店の人が出て行った気配がしたんですが」


「あぁ?! 客に向かって言う態度じゃねぇから力づくで言うことを聞かせるつもりだったんだよ。そしたらいなくなっちまった。何者(なにもん)だありゃ?!」


 いまだに怒りが収まらない男は、その矛先をセレナに向ける。しかしセレナもそれに動じない。


「あぁ、あの人を怒らせたんですね? じゃあもうあなた方に道具は作るつもりはないようですからお引き取りください」


 セレナはにこやかに笑っているが、その内面に変化を起こす。

 それを感知したのか、連れの女の一人が男に耳打ちをする。


「ち、ちょっと。この店ヤバいよ。ホントに他のとこに行った方がいいよ」


「たかが道具屋に何ビビってんだ! ここはガツンと」


 その言葉を相手にしない男。しかし他の女もセレナの変化に気付き、体が震え始める。


「斡旋所の登録チームの、上位二十より軽く上に行く人だよこの人。何で道具屋やってんのか分かんないくらい強いよこの人ぉ!」


 男は連れの三人に懇願される。それでもセレナに盾突こうとする男。最後は女冒険者三人に引きずられて店の前から去っていく。


 その四人を見送った後、暗い表情でセレナは溜息をつく。


「二日連続の災難か……。テンシュさん、また来てくれるかな……?」


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いつも見て頂きましてありがとうございます。
新作小説始めました。


勇者じゃないと言われて追放されたので、帰り方が見つかるまで異世界でスローライフすることにした
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