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美女エルフの異世界道具屋で宝石職人してます   作者: 網野ホウ
巨塊討伐編 第一章:「天美法具店」店主、未知の世界と遭遇

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初めての常連客と初めてのトラブル 2 店主、素材と品物の解説 ~改良作業をしながら~

 『法具店アマミ』の内装を変え、新装開店の準備をすべて終えた店主とセレナ。

 あとは新装前の店と同じ時間に開店するはずだった。


 そこに、いかにも貧乏暮らしの冒険者達といった風貌の五人組が店に押しかけるようにやってきた。

 なりふり構わず店主とセレナに泣きつき、開店準備の手伝いの給金代わりとし、それに加えて鉱物か何かを料金代わりと言う条件で、要望する装備の注文を受け付けてもらうことが出来た。

 しかし店主は、彼らがどこから来た何者なのか、素性を一切知らないままその仕事を引き受けたわけだが、セレナはそれを心配する。


「帰してよかったの? 成り行き上、店への収入は全くないと思うけど、テンシュさんにも報酬がないかもしれないよ?」


 セレナの心配ももっともであるが、欲しい装備品が完成するまで彼らを店の中で待たせても退屈させるだけ。

 別に退屈させない配慮をしたわけではない。作業中気が散るような行動をとってもらいたくないだけだった。


「このままここにこないなら、注文受けた品物は普通の商品に出来るだろ。俺のこの労働の対価は、どこぞの山から持ってきた鉱物でも十分事足りる。多分外れはないだろうしな。けどあいつらにそこまで伝える義理もねぇし、俺の事情を教えてやる理由もねぇ」


 依頼の五人組はおろか、セレナですらその家庭環境などを店主は知ろうとしない。

 逆に店主のこれまでの人生を語るつもりもないし、余計な事情を漏らすつもりもない。


「二十四時間じゃなきゃ日をまたいで滞在しても問題ないだろ。あの背の高い男の防具を作るにはちょっと時間はかかるが、最初の客のことを考えれば他の四人は八時間もかからないかもな」


 店主自身がそれを望み、それでも毎日来てもらえるのなら、セレナには店主を早く帰す理由もない。

 公表はしていなかったが、今日にした新装開店日は先に延ばすことにした。

 となると、この日のセレナは特に仕事はない。

 自分の作った品物にダメ出しを出した店主が、おそらく休み時間なしのぶっ続けで仕事に取り掛かる。

 自分に足りないものは何か、自分が参考に出来るやり方はあるか。

 そんなことを考えながら、セレナもそんな店主の仕事を見て学ぶことにした。


「そばにいる気か? じゃあ手伝ってもらおうか」


「え? でも足を引っ張るのは申し訳ない気がする」


「仕事の出来に左右されない程度なら問題なかろ? なぁに、ただ分解するだけさ」


「分解……するの?」


 丹精込めて作った品をまたばらして作り直す。

 店主の力によって自分の世界に帰還していなければ、あるいは客からの店主の評価を目の当たりにしなければ、そんな作業は到底手伝う気は起きなかっただろう。

 小さな驚きの声を上げるが、物作りの腕は店主の方が上であることを認めたセレナは、店主の言われるがままにその作業に取り掛かる。


「ただし分解した素材はそうと分かるように置いとけよ? 素材の方向を変えるだけで効果が変わる場合だってあるからな」


「そんなことあり得るの?!」


「分解したパーツの宝石が持つ力はな、前後左右上下全部均等って訳じゃない。物質的に均等な重さや形状だったとしてもな。おい、その宝石の留め金も外せよ? そいつも力持ってたりするから」


「え?! まさか?! 大地からいろんな力を得た宝石にも影響出るの?!」


 その後も続く店主の解説はセレナが聞いたことがない話ばかり。

 一々驚くセレナに店主は次第にうんざりし始める。


「驚くのはもういいから言われたことしろよ」


 素材などの解説も、それに釣られてする気も失せていった。その分仕事に集中が高まっていく。

 店主にはセレナの作った武器や防具は、その物自体にさらに効果を上乗せさせるつもりで装飾品をつけているように見えた。

 決して意味のないことではないし、作り手であるセレナの意図も何となく見えてくる。だがそれらの相互関係までは考えていなかったことも見えてくる。

 例えば五大元素や四大元素の水の力を持つ素材と火の力を持つ素材を一緒にしても互いにその効果を打ち消してしまう。

 そんな無駄な装飾の仕方が多い。


「せっかくあいつらは自分の特性を活かして選んだってのに選ばれた物は期待するほどでもない。だから改良が必要なんだが……。あいつらにその特性の自覚があるかどうかは別として」


「特性を活かす? どういうこと?」


「例えば爬虫類亜人の女の子……でいいよな? 長い杖を選んだ方は回復、短い杖は攻撃の効果を希望した。補助もあったが、偶然か故意かは分からないが、より良質な力やその効果を持たせることが出来る。逆だったら効果は薄いか物自体の寿命が短くなってた」


 店主の独り言にオウム返しで聞くセレナに、さっきまでのセレナに向けられた面倒くさそうな気持ちはどこへやら。武器防具を欲しがった彼らが選んだ物と、選んだ彼らの感性の所感を語り始めた。


「杖の先、なんで細くなってるか分かるか?」


「そういうもんでしょ? 柔らかい物には物理的に刺したりするためとか?」


 しかしセレナは店主の話の中身に首をかしげる。

 そもそもそういう物であるという固定観念を持っているせいだろう。

 魔術専用の物に物理効果を期待する答えに、店主は頭痛を抑えるように頭に手を当てる。


「あのなぁ、……物が持つ力を見ることが出来るっつったろ? その物ってのは、目に見える物体なんだよ。長い杖を持つ者は、普段はどう扱ってる?」


 店主の話は自分の能力の話からいきなり杖の話に戻る。問われたセレナはちょっと考えて。


「持ち上げてる人はあまり見ないわね。普通の杖として使うことが多いかな」


「普通の杖はどのようにして使う?」


「それは……歩く時の補助みたいな?」


 店主の世界での杖の使い方も同じである。杖でなくても、傘をそのように扱う人も多い。

 それは店主の用意していた答え通り。


「その時の細い杖の先は?」


「地面を突いたり離れたり、よね。それがどうかした?」


「……だからさっきの俺の能力の話になるんだよ。目に見える物体が持つ力を見ることが出来るようになったって言ったろ?」


「つまり杖ってこと……よね」

「その先だよ」


 その先と言われても、とセレナは頭をひねる。

 その先にあるのは空気、もしくは地面である。


「……まさか地面にも……?」


 店主は作業を続けながらセレナの言葉に黙って頷く。

 セレナの目が次第に大きくなっていく。そして口は次第に力が抜けていくように、だらしなく開いていく。


「大地の力も……見えちゃうわけ?! テンシュさん……すごすぎる……」


「俺のことよりも今は杖の話だろうよ!」


 店主の手は止まらない。しかしセレナは驚いてばかりな上に話もすぐに横道に逸れる。

 セレナが持っている力は相当なもの。

 店主には常にその力は見えてはいるし、セレナは冒険者達から尊敬されるような存在というのも納得はできるが、店主には残念ながらその外見だけなら、やや残念なエルフにしか見えない。


 大地は多くの命を支えている。いろんな植物は生えるし、その中や上に数えきれないほどの命が存在している。

 そして重力もある。

 そんな物をしょっちゅうその細い先で突く杖。

 接触するたびにその力を吸収する能力を持たせる。

 そしてそんな数多くの命を支える力を吸収した杖が一番効果を発揮しやすい種類は、やはり命や健康を維持する力。いわゆる回復能力が高い術である。


「じゃあ杖の先を太くしたら、もっとたくさんの力を吸い取れるってことよね」


「出来なくはないが、杖自体が壊れるぞ? 海や川にタオルを入れたら、その水全部吸い取れるか?」


 一気に多くの力を吸い取り、一気に多くの力を吐き出させる。

 そんな機能でも問題ないだろうが過ぎたるは及ばざるがごとし。杖の疲弊が激しくなり、杖としての機能、杖自体長く持たない。


「じゃあ短い杖はどうなの?」


「攻撃用とか言ってたよな。魔法攻撃ってことだが、弱点を突く切り札にはなるだろうがおそらく主戦力にはならない。補助の魔力も加えてほしいという要求からそれが分かる」


 セレナは店主の観察眼につくづく感心する。

 彼女も専業の冒険者として活躍する際に誰かと一緒に行動を起こすことは数多くあったが、ちょっとした観察で多くの情報を分析できる能力も、彼ほど持っていた仲間や同業者はいなかった。


「杖の長さイコール魔力の貯蓄量と見ていい。その量を増加させられるのが装飾部分。となると、少ない量で効果が十分な攻撃魔法って何だろうって考えた。でその結論として、おそらく水とおんなじだと思う」


「まぁ間違っちゃいないけど」


「正しいレクチャーは機会があったら頼むぜ。で、ホース……管を通して水を出すその出口が、細ければ細いほど威力を発揮する。ホースってもんがあったらそんな悪ふざけやったことはないか?」


 水道の蛇口にホースをつなげそのホースの先を潰すと、蛇口から出る水の勢いよりもホースの先の水の勢いが強くなる。

 杖を使う魔力と魔術も似たような現象ではないかと店主は考えた。

 セレナによるとあながち間違いではないという返事。

 数は少ないとはいえいくつか短い杖はある。爬虫類亜人の片方が選んだのは、その中で一番太い杖。


「同じ種類の杖の中で、効果は一番高くなるんじゃねぇかな」


 店主の世界での杖は、そんな力の吸引などはあり得ない話。

 店主にしか感じられない力が実際に活用できるこの世界だからこそ。

 彼らが店の中に入ってとったわずかな時間内での行動を見て下した店主の判定と推測だった。


 そして二人は自分の欲しい道具には見る目があると言えなくもない。

 しかもそれが当てはまるのは二人だけではない。


「小男のやつは、二本の武器、両手斧を選んだ。防具ばかりじゃなくその下に着てる服もボロボロだったからちらっと見えたが」


「何が?」


 店主が見たその服の下に隠れていた隆々とした筋肉は、間違いなく人間のものではない。

 高品質の鎧をつけても意味があるかどうか不明とも思われたその筋肉の鎧は、その外を覆っている防具の貧相さをものともしないようにも見えた。


「だから防具よりも武器ってのは理屈に合う。しかも両手武器ってのがいいチョイスだなってな」


 元々防御力が高そうなその体つきは、逆に重い武器を振り回す力でもある。

 そしてそいつが選んだ武器は、存分に振り回しても地面にぶつけることはない小柄な物。

 しかもその武器に耐久力を上げてほしいという希望をあげた。


「自分の特性を自分で診断して、その特性を活かせる武器ってことだ。もっともあの男がそこまで計算していたかどうかは別だがな」


 セレナはなるほどと感心する。


「で、人間っぽいあいつは幅が広い刀剣に鍔を別の物と交換するっつってたな。幅が広いから飛び道具を防ぐことも出来るんじゃないか? 小男並みに体に特性がありゃ別の物を選んだんだろうが、防具の新調を選べば武器は今までと同じ物を使うことになる。それじゃ攻撃力が心もとない。そして攻撃力に特化した武器を選べは、怪我をするリスクと釣り合わない。両立できそうな物を選んだんだろうな」


「じゃあ最後に残った長身のエルフ君は?」


「あいつもエルフだったのか?!」


 セレナと同じ金髪で、セレナと同じくらいかやや高い身長。

 それだけで同種族と断定するほど短慮ではないが、何となく二人は似ているような気はしたが、持っている力がセレナとは似ても似つかないように思え、それ故にエルフとは思っていなかった。

 別の一族だろうとセレナは言うが、店主は別にそこまで深く考える気はなかった。

 素っ気ない反応をして、おそらく、と言葉をつづけた。


「背が高い分目立つし標的になりやすいんじゃないか? チームの囮役になって、敵の隙を他の四人で突く。そのために全身を覆う防具を欲しがったんだろう。こっちでもあれだろ? 大きいサイズの物は見つけづらかったりするんじゃないか?」


 セレナの反応は店主の期待通り。

 自分もそんな役目をしたこともあり、その時は自分に合わない装備をしたこともあったという体験談を店主に聞かせた。

 だが店主はセレナの話をすぐに止める。


「持ってた武器……腰に帯剣してたよな。ちらっと見えただけだがそれなりの状態……劣化がひどいとは思えなかった。武器よりも見た目がひどい防具を替えたがったのはそのためだろ」


「それと弓矢も扱うみたいだったわね。背中に装備してた」


 店主はそれを聞いて、へぇ、と一言だけ驚く。

 防具と似た色彩で目立たなかったため、店主の目に入らなかったようだった。

 彼らが装備を新調したいと思ってからどれほど経ったのだろう。

 それから今までの間、互いにどんな装備がいいか議論し、夢を語り合い続けてたのだろう。

 しかし現実は夢からかけ離れていき、新調どころではなくなっていったに違いない。

 だが、だからこそ店主に選ばされた時、それぞれ互いに相談することなく時間をかけずに自分の欲しい物を決めることが出来たのだろう。


 欲しい物を選び、決める。

 そこに至るまでにはその人物の背景が必ずある。

 だがその背景のことまで考えると、その物作りをする際に余計なことまで抱え込む場合がある。

 それは店主の世界でもそうだった。

 だから物を作る時には注文する者の希望に耳を傾け、物作りにそれを取り入れる。

 その事に集中するのみ。


 セレナに話を聞かせながらも、会話をしながらも、目と手先は彼らの欲しい物に集中する。


 セレナが作った各部品の長所を生かす。

 その欠点には、店主が感じる素材の力を理論的に生かし、時には人には説明することが出来ない店主の直感を中心に対処していく。

 リバーバからの注文の時と同じように、時間がかかる溶接の作業はセレナの魔法によって瞬時に完了させる。

 しかし店主の作業、特に宝石の加工は時間がかかった。

 武器や道具から装飾部分を取り外した跡のくぼみに合わせて、別の宝石を取り出してへき開面に合わせて割って削って形を整える。

 セレナは、時間と労力を省くために自分の魔法で形作ることを提案する。しかし店主はそれを却下。


「前にも言ったが、石が持つ力の配置は均等じゃない。ドアを作る時にも説明したが、どんな道具を作るかによって適した素材かどうかを見なきゃならんし、その素材の中でどこを使用するか見極める必要もある。そんな魔法をかけて、力の配置が変化する可能性だってゼロじゃない。だが時間がかかる点に目をつぶれば、素材の石に入り込んでいる力の位置を読み取りながら手作業で進めていくのが最善の手段だ」


 引き受けた以上依頼人に後悔はさせるつもりもない。

 店主はそう言うと、また石に向かい、割って削って形を整えていく。

 店主の口数も減っていき、セレナも次第に何も言えなくなっていく。

 そして店内中に、店主の作業する音だけが鳴り響く。

 店主の額から汗がにじみ出し、流れ、滴る。

 リバーバの時の仕事は、ただ改良していくだけだった。だからここまで労力を費やす必要もなかったが、今回は依頼人の要望を聞き入れた。聞き入れた以上製作者としてそれに応えなければならない。


 セレナが想像し、店主が立てた予定よりも長い時間を費やしながら、一個ずつその作業は完了していく。

 休憩や食事の心配をするが、数々の素材に向けられた店主の集中する姿を見ると、並の冒険者とは比較にならないほど数多くの修羅場を潜り抜けた経験を持つ彼女ですら、その気迫の前では何も口出しが出来なかった。

 彼女が出来ることと言えば、水分補給のための飲料水とタオルを傍に用意することだけ。

 しかし店主はそれに目もくれず、宝石、鉱物、金属を彼らが選んだ品に合わせて象られていった。


挿絵(By みてみん)


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いつも見て頂きましてありがとうございます。
新作小説始めました。


勇者じゃないと言われて追放されたので、帰り方が見つかるまで異世界でスローライフすることにした
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