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美女エルフの異世界道具屋で宝石職人してます   作者: 網野ホウ
巨塊討伐編 第一章:「天美法具店」店主、未知の世界と遭遇

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『天美法具店』の店主が異世界で職人として 1

 セレナとの話し合いは一応結論が出て、そうと決まれば早速行動を起こさねばならない、とセレナの店に向かう。

 本腰を入れるからには、店のレイアウトも考える必要がある。

 しかし移動するためには、昼休みももうじき終わるため、午後の業務の準備をしている従業員がいる店舗に行かなければならない。


「いろいろ聞かれるよな……。それより手順とか見られたらまずいし……」


 来るときはよくバレなかったものだ、と想像して冷や汗が出る思い。

 だが今は、とにかく何とか人払いをしないと異世界との往復を見られてしまう。


「誰もいなくなる時間まで待っててもいいけど」


 確かに戻る時間と次にここに来る時間を気にしなくていいのならいつまで滞在しても構わない。

 けれども六時間も何もせずに、ここに一人でいなければならないということになる。

 いくら店主でも流石にそれは気の毒に思う。


「……しょうがねぇな。他人にはあまり入ってもらいたくねぇんだが……って、こうなった責任の半分はお前にもあるけどしゃーねぇ。俺の住むとこの書斎にでもいて本でも読んでろ。そっちと共通のネタとかがあるかもしれねぇしな」


 店舗に入る手前の横にある階段は、店主の住まいである二階に行く通路の一つ。

 誰とも会わずに上がり、二階の一室に案内する。


「ここになら誰も来ない。だが念のため鍵かけとけ。会議が六時過ぎに始まる。その前のわずかな時間にそっちに行くぞ。ノックするからそん時に鍵を開けろ」


 術が効いてない場所だがつい口から言葉が出てしまう。

 セレナもセレナで、その意味を知らないまま何となく頷く。

 こうしてセレナを書斎に一人きりにして、店主は従業員達と合流する。

 質問攻めにあったのは言うまでもない。

 説明はあとでする。

 その一辺倒でその場は切り抜けて、午後の業務を何とかこなした。

 セレナが来たこと以外は何の変哲もないいつも通りの午後。


「じゃ、九条さんたちは先に事務室に行っててください。もうちょっとしたら私も行きますので」


「分かりました。大道君、行くわよ。……社長、あの方の説明、きちんとしていただきますからね?」


 言い訳は既に思いついている。とにかくここを無人にすることが何よりも優先すべきこと。

 廊下から二人の姿が見えなくなることを確認して、足音を立てずにすぐにセレナを迎えに行く。


「セレナ、いるだろ? なるべく音立てずに急げ」


 ノックした後ドア越しに、なるべく響かないように声をかける。

 通訳の術をかけたのだろう。静かにドアが開いてセレナが顔を出した。

 思いの外明るい表情は、退屈しのぎの本を見つけたせいか。

 何の問題もなく店のドアに到着し、二人は無事にセレナの世界に移動出来た。

 のだが。


「ん? セレナは……」


「あ、テンシュさん、この時間に移動するのか。そっか。時間差が起きたんだね。心配したよ」


 一緒に『天美法具店』の扉を潜ったはずのセレナは店のカウンターに座っていて、テンシュの顔を見るなりパッと明るい表情になる。


「あぁ、セレナと一緒に移動したからか。セレナがうちに来た時間は昼で俺は夕方。だから俺はこの時間帯にやってきたってわけか。……なんか、待たせてばかりで済まなかったな」


 二人にとってはちょっとした発見である。

 が、そればかりに気を向けてもいられない。


「早速だが、これから一緒にやると決めた以上、商品ばかりじゃなく陳列とかもこっちと同じようにする。ウチの店を見て違いとか分かったろ? どうせ別世界の話だ。マネしたって非難する奴はいないさ」


 商売人としての心得はないセレナは店主に一任することにした。

 必要な品揃えならセレナの分野となるが、店主の店の中にある物の中でこの世界で見たことのない物もある。


「確かに店の中にソファとか置いてたら、店の中の居心地が良くなるかもしれない。そこまで考えられなかったからなー」


「まずはショーケースの手配だ。この時間、まだその手の業者は仕事してるのか?」


 そのショーケースはこの世界にはない。

 店主は大雑把で落書きのような設計図を描き、正確な寸法と素材をそれに書き入れる。


「ないならガラスで何かを作る業者に頼めるか? 窓を作る職人がいるくらいだ。材料さえ用意出来りゃあとは組み立てる専門家に任せられりゃ問題ないんじゃないか?」


「テンシュさんは作れないの?」


「こんな大掛かりなのはちょっとな。中に照明とかつけるとなると電気の配線も必要になる」


「電気?」


 電気による照明も存在していなかった。

 夜間の照明は魔力によるもの。

 意外と自分の世界にない物があることに、店主は奇妙な関心を覚える。

 が、それに手間取ってる暇はない。

 店の中の設備は、セレナ一人に任せても問題ない仕事。

 品物の改良作業と同時進行していき、少しでも店の営業の新装開店の時期を早めたい。



「心当たりがあるお店に頼んでみる。私も実際に見たし、この設計図できちんとした物頼めると思う」


「数も覚えてるな? 六台だ。それとソファはうちよりも少なくしよう。武器何かは試しに素振りとかさせたりするんだろ? 狭苦しくするとそんなことができる広さがなくなっちまうからな」


 売り場に設置する必要な物はそれくらい。

 あとは作業場と売り場の境目を、カウンターと作業場のようにガラスの壁で仕切りたい。


「せっかくの品物に粉をまき散らして見栄えが悪くなるようでは困るからな」


 加工の専門家がこれからここで仕事をする。

 セレナの作業ではあまり出てこない細かい粉塵が、今後は量産されるはずである。


「分かった。それも頼んでおく」


「あとは品物全てを撤去して掃除。全部品質を高められるからな。作業場の机とかはそのまま使えそうだ。俺がいなくてもセレナ一人で開店まで出来ることってばそれくらいだな。あとはこっちの店の前の岩の撤去はどうなった?」


「ごめん。それを移動する先が確保できなくて。それに、ずっとこの場所でお店するつもりはないかなって思ってたし」


 セレナはここでようやく魔物の話を店主にすることが出来た。

 そして話は本命の、ウィリック捜索の話に移る。


「同じ悲しい思いをする人が増えてほしくないし、災害はもちろん止めなきゃいけないし。けど、ウィリック……お兄ちゃんを早く助けてあげたいって気持ちが一番強いかな」


 話が進むにつれ、セレナの顔に沈痛な表情が強まっていく。


「なら、この店の手伝いは、俺の贖罪かもしれねぇな」


「贖罪?」


 贖罪とは何のことかとセレナは店主に訊ねるが、そのことについては店主は口を噤んだ。

 店主は店主で、何か事情を抱えていることを察知したセレナは、それ以上詳しく聞く事はしなかった。

 逆に、店主から「余計な用件を俺に持ち込むな」と釘を刺された。


「どういうこと? 余計な用件って」


「自分の立場分かってねぇな? 本命の用件は聞いたが、だからと言ってそいつに特別な思い入れが出てきたわけじゃねぇからな?」


 その時外から、店内からカーテンがかけられている透明なドアを強く叩く音が響いた。


「セレナ! 帰って来たって噂で聞いて大急ぎでやって来た! いるんだろ?! セレナ!」


 その音と同時に大声が店内に響く。

 その声からしてその人物は客ではなくセレナに会いに来たようで、セレナは目を合わせた店主に促されカーテンを開けた。

 まだ鍵をかけられていないドアが開けられて一人の人物が入ってきた。

 最初の客のように、人の体型をしているが、顔と手足はまるで鷹。

 前身には軽金属製と見られる防具。しかし背面はむき出しになっていて、鳥類の毛のようなもので覆われ、しかも鷹のような翼までついている。


「いろんな種類がいるもんだな」


 近くにいるセレナにも聞こえない小声で店主は呟いた。


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いつも見て頂きましてありがとうございます。
新作小説始めました。


勇者じゃないと言われて追放されたので、帰り方が見つかるまで異世界でスローライフすることにした
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