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美女エルフの異世界道具屋で宝石職人してます   作者: 網野ホウ
法王依頼編 第七章 製作開始

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作るのは碁盤と碁石 3

 夕食を終えた後『風刃隊』はそれぞれ、店主の仕事ぶりに思うところを胸に刻みつつ拠点に帰る。


 そんな、見た者の胸を打つ仕事をしているとは思ってもみない本人は、セレナも床に就いたあとも作業を続けていた。


 直方体の薄い茶色の宝石に足が四本出来ている。

 店主はその箱型の宝石が三つあるうちの二つ目の足作りに取り掛かっている。

 不眠不休で続ける仕事は能率が悪くなるどころか、健康にも害を及ぼす。

 しかし精神が肉体を凌駕することもある。

 今の店主がまさしくそれである。


 しかも作業も慣れてきた。

 作業自体はお手の物だが、見本となる物は初めて目にするこの世界の植物。加工する物は、店主の世界には存在しない性質を持つ宝石。

 一個目は慎重に取り組んだ作業も、集中力が高まり要領も得た店主には、二個目の作業は一個目と比べてペースが上がる。


 足の一つ一つの見本は樹木の幹。その木の皮の特徴を掴んで彫刻していく。

 当然同じ位置での凹凸は出せない。

 それを言い訳とするわけではないのだが、見本となる物は植物でしかも生きている。生きている物ならば個体が違えば相違点も必ず出てくる。

 その見本は生きている。その生きている表現も出すために、足の一つ一つの細かい部分には違いを出す。その違いは、宝石が持つ力関係により彫りやすさに従って形作ることで表すことにする。同じにすると却って不自然に思えることもある。


 法王から依頼を受けた日から二日目の朝六時。

 セレナも店主に付き合っていたら店の経営が成り立たない。

 普段通りの生活サイクルの彼女は、店にいるときはいつもの時間に就寝。そしていつもの時間に起床する。

 二十年以上も前に店主から買ってもらったぬいぐるみは、セレナが定期的に洗っていることと日に当たらない場所に置いてあるため、買ったばかりの頃と見劣りはしない。

 ベッドに沿って囲っているカーテンは相変わらず。私室を持ちたいという要望は持っていないようだ。

 そして無防備にも、店主の寝床はそのカーテンのすぐ外側である。

 その店主の布団は、昨夜使われた形跡がない。


「また作業場で転寝かしら? よく体が持つものねぇ……。まぁ冒険者業もそんなに変わりはしないか」


 独り言を言いながら階段を下りる。その足が途中で止まる。


「ずっと……続いてたの……?」

 セレナは息を飲む。


 いくら冒険者業でも、一日を越えて気を張り詰めさせることはかなり難しく、かなり危険な状況。

 昨日の日中の集中力がまだ途切れていなかったことは、二個目の完成間近の作業の進行具合を見ればわかる。

 誰かに手伝ってもらえると早く仕事が終わる類の作業ではない。


「ちょっ……」


 店主の仕事を止めようとしたセレナ。

 健康上あまりに問題がありすぎる。

 しかしその言葉の方を止める。

 請け負った仕事の期間が、ひょっとしたら一日も無駄に出来ない短さかもしれない。

 その依頼人は法王からのもの。そしてその動機はこの国に活気を取り戻すため。

 だからといって、店主が無理をし過ぎて動けなくなる事態に陥ったら最悪である。


 このまま見守り続けていても埒が明かない。

 まずは唯一外と行き来できる店の出入り口を開けることが先か。

 顔を洗う時間くらいは猶予はあるか。食事を用意、あるいは休息の準備もしてあげなきゃまずいが、店主が倒れた時に助けを呼びやすくすることを優先する。


 朝の空気を店内に取り込む。

 店主の世界との行き来する機能はまだ健在。だがその機能を使わなくなって随分経つ。


 あの時は、こんなにテンシュにこんなに気を遣うことは考えてなかったな。

 付き合うには面倒くさい相手かもしれないけど、職人としては見習いたいところはたくさんあるし、……何より助けてもらったし。あの子たちの言う通り、ホントに出会えて良かった。


 そんなことを思っているセレナの背後でドスンと音がした。


「え?」


 出入り口で振り向いてカウンターの方を見るが薄暗くてよく分からない。

 急いで駆け寄ると店主が椅子から落ち、床の上で仰向けになっている。


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いつも見て頂きましてありがとうございます。
新作小説始めました。


勇者じゃないと言われて追放されたので、帰り方が見つかるまで異世界でスローライフすることにした
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