表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
美女エルフの異世界道具屋で宝石職人してます   作者: 網野ホウ
巨塊討伐編 第一章:「天美法具店」店主、未知の世界と遭遇

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/292

店主とエルフは互いの世界を知る 12 セレナの思い込みと先走り

「それにしても、だ」


「何? テンシュさん」


 店主がセレナの店での初めての依頼の仕事を終え背伸びをする。


「タイムパラドックスって知ってるか?」


「タイム……何?」


 いくら言語の通訳の術がかかっていても、それにはその意味まで互いに通じるような万能さはない。

 セレナの胸のつかえを取り除くようなことを口にした後、店主はしばらく何やら考え込んで、再度口を開く。


「移動した先の時間ってのは、自分の世界と同じ時間帯なわけだ。けど戻る時には時間差が生じる。分かるよな?」


「私が六時に店主の世界に移動して、一時間過ごして戻る。そして私が自分の店に戻るとまだ六時。でもテンシュさんは七時の時刻を体験してる。そこに時間差が生まれてるってことよね?」


店主の話をセレナはすぐに理解でき、店主の気重そうな表情はやや和らいだ。


「そう。そこで、例えばセレナは戻った直後に俺の世界に忘れ物をしたことを思い出す。すぐに取りに戻らなきゃまずい。で、また俺の世界に戻ろうとした」


 セレナは、店主が何を言いたいのかを理解し両手を叩く。


「それが十分後だとする。六時十分にテンシュさんの世界に移動したら、七時までテンシュさんの世界に滞在してた私がいて……私が二人いることになる……」


「想像するとちょっと怖いんだよな。自分の世界で行方不明扱いされずに済むのは有り難いが、だからといって気ままにこっちとそっちを移動してるとそんな矛盾が出てくる」


「テンシュさんにのんびりこっちで過ごしてもらいたいと思っても、その後テンシュさんが自分の世界に戻ったら、のんびりした分の期間はこっちに来るのはまずいってことよね」


 相手の世界に一年滞在したら、自分の世界戻ってからは一年そっちに行くことは出来ない。

 そんなときに用事があるとしたら、相手にこっちの世界へ来てもらうしかない。


「そう考えると、長期滞在するより日をまたぐ前に戻る方が効率はいいってことかしら。最長でも二十四時間……。うん、一日に一回、毎日来てくれる方が助かるかな。まぁ日をまたぎそうになったら追い返すのが意識づけしやすいよね。それと品物の値段とテンシュさんへの報酬のことなんだけど」


 店主が最初に手掛けた仕事の評価はセレナよりも上。

 つまり品質が上がるということだ。当然その価値も上がり、値も上げる意味はあるし意義もある。

 それによって収入は上がるが店主の功労があってこそ。しかしこの世界での貨幣では無意味に近い店主への報酬をどうするか。セレナに名案が浮かばない。


「前にも言ったろ? そっちにとっちゃ価値がないものでも俺にとっちゃ宝物。そこら辺に落ちてる石ころでも構わねぇってな。俺への報酬にこの世界の金銭は必要ねぇよ。ということで十分なんだが、俺の仕事に難癖付けたりする奴が出てくるかもしれねぇよな。だからそこんとこは俺の仕事面で好きなようにやらせてもらう。それでどうだ?」


 おそらく出入り禁止にしたりするということだろう。

 それは店主じゃなくても、これまでの店の主であるセレナに対しても同様の差配をするということだ。


「じゃああとは……お店の名前変えようか。テンシュさんの力、とても頼りになるから」


 セレナからの称賛は、意外にも店主は受け流す。

 それよりも、どれだけこの店が続いたかは分からないが、客もそれなりについているのなら名前を変えることには同意はしなかった。それほど改名の件は店主にとっては大事なことらしかった。


「だって今までは私一人きりだったから私の好きなように出来たけど、これからは違うもの。テンシュさんだって一年や二年で終わる気はないでしょ?」


 石ばかりではなく、道具作りのためのこの世界で採取できる素材は店主にとって魅力的だったし、自分への仕事の報酬もその魅力ある石。それにこの世界ではその力を存分に発揮し、心行くまで集中して宝石の加工や道具作りに専念できる環境となれば、そんな機会は簡単には手放したくはない。

 自分の世界では、自分のその特別な力を発揮したくても大っぴらに出来ない事情がある。

 セレナの言う通り。それどころか宝石職人として腕を振るうことが出来る限り、ここに通い詰めるつもりだった。


「この店にとっても私にとってもテンシュさんは手放したくない人材だしその力は貴重だもの。テンシュさんが手がけた道具があんなに好評だったし。当然テンシュさんをないがしろにするつもりはないわよ?」


 これまでのセレナは単独で店をやってきた。

 これからはこの店の特色も変わる。

 イメージチェンジをするなら名前から変えるのは当たり前のこと。

 そんな説明を受け、それも一理あるか、と店主は納得する。


「『法具店アマミ』ってのはどうかしら?」

「ちょっと待て。この店の中のどこに法具があるってんだ」

「……法具って、何?」

「ぅおいっ!」


 ここにきて店主は、セレナという人物は具体的ににどんな奴かを知らないままだったことに気が付いた。


「先走り過ぎたか……。失敗したな……。こんな天然な奴だったとは思わなかった……。向こうから辞書とか持ってきた方がいいのかな……」


 店主から出た「天然……ってどういう意味?」と聞き返したセレナに店主はさらに気が重くなった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつも見て頂きましてありがとうございます。
新作小説始めました。


勇者じゃないと言われて追放されたので、帰り方が見つかるまで異世界でスローライフすることにした
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ