表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
美女エルフの異世界道具屋で宝石職人してます   作者: 網野ホウ
巨塊討伐編 第一章:「天美法具店」店主、未知の世界と遭遇

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/292

店主とエルフは互いの世界を知る 11 店主の能力の延長

 セレナは、店を再開して最初にやってきた冒険者チーム『スケイル』から改めて仕事を依頼された。

 彼らが退店して後しばらくして、店主はようやく作業の手を止めた。


「ふうぅ……。……あ~、セレナさんよ。作業中に話しかけてくんじゃねぇよ。気が散るだろ。手がけている品物の目的に、素材をどう生かすか計算しながら仕事してんだよ。その計算が止まっちまったら、道具全体にも悪い影響が出ちまう。道具や素材をゴミにしちまいかねねぇんだよ。素材に対してあまりに失礼な話だと思わんか?」


「依頼客から注文が追加してきたらその都度それに応えないといけないでしょ? その話を聞かずに物を作っていったら、依頼人の意にそぐわないものが出来ちゃうわよ」


 セレナの反論はもっともである。

 場合によってはその場その場で要望が変化することもある。依頼を引き受けた以上、客が満足する品物を作り上げなければならない。その結果次第では店の評判の変わるし使用者の生死も左右される。

 しかし店主はそれを鼻で笑い飛ばす。


「確かに使用者に見合った道具を作るのがベストだろうよ。その使用者はどんな能力を持ってるか、どんな力を持ってるか。すべて把握出来りゃ、どんな種類の何が欲しいか以外の話は聞く必要はねぇよ。使用者に必要な力を持つ物を作る。使用者に見合った物を作る。かっこ良さとかで生き残れるほど甘くない世界なんじゃねぇの? 聞く必要がある要望か、ただの我儘か。それさえ分別つけりゃそいつは満足する結果を得ることが出来るだろうよ。出来ないのは分不相応の結果を求めてるだけのこった」


「使用者が持つ能力って……そんなの……。あ……テンシュ、まさか……」


「あぁ。俺には分かるよ。パッと見てすべてが分かるわけじゃねぇが、時間をかけりゃ見損じはない。そのうちそれを使う人物がどんな体質か、どんな力があるかとか分かるようになってな。あとはその力を放出させたり発揮させたりするためにどんな組み合わせがいいかとかだな」


 セレナは言葉を失った。

 いくら魔法や魔術が頻繁に使われるこの世界でも、物ばかりじゃなくこの世界の住民達が持つ力まで見分けられる、そんな能力を持つ人物はいやしない。

 けれど、この店主はそれを当たり前のように正確に出来ると言う。


「お前はこの店の手伝いをしてくれって言うんだろ? ならまずお前と俺が作る物に差をつけないと意味がねぇ。その結果は……聞くまでもない、と思ってるが」


「え、えっと……」


 セレナが店主に手伝ってほしいと思っていることは巨塊一連の件。

 むしろ店も手伝ってもらえるならそのついでに、という程度のつもりだった。

 しかし物作りの腕は店主の圧勝。

 たった今帰った客は、自分よりも店主の腕を求めた。

 店主が思っているセレナの要望と、実際のセレナが望むことに食い違いはある。

 しかし店主の思い込みには、セレナに利点がないわけではない。むしろ大きな恩恵を受けるのは目に見えている。

 おまけに、巨塊の一連の件を頼んでみても、爆発事故の現場の洞窟はその付近ごと封鎖されていた。

 討伐計画が中止された以上討伐部隊に採用されたセレナの今の立場や肩書はすべて消え、どんなに腕が立とうが同業や後輩たちから尊ばれようが、結局のところ一冒険者であり、道具屋の主でしかない。

 そんな人物に国指定の立ち入り禁止区域内を自由に入り込める権利もなく、むしろ法の違反者になりかねない。


 おそらく生涯最大の危機を迎えているであろう憧れの存在を助けることも出来ない。

 行方不明となった数多くの仲間や部下を見つける手段もない。

 冒険者として生計を立てている傍ら、自分が作る物で客を満足させることが出来ず、自ら動いて店を開くも、販売するために品物を作るその腕も差をつけられた。

 無力感に打ちひしがれるセレナ。


「何落ち込んでんだ? この店一緒にやってほしいって話だったんじゃなかったか?」


 そんなセレナに、店主の気の抜けた声がかけられた。

 一瞬、店主の言うことを理解できないセレナは驚いた顔を彼に向けた。


「俺の店とここ、普通に考えりゃ両立させるのは難しいが、時間が経過しないってのは大きいし倉庫にゃ魅力ある素材がたくさんあったから腕の振るい甲斐がありそうだ。で、あの客からは何か意見はなかったか? 効果が同じだったってんなら俺がここにいる意味はねぇんだけどさ」


 いつの間にかセレナは勘違いをしていた。

 双剣の改良はセレナと店主が作る物に差があるかどうかの確認をしたのであって、製作者としての腕の優劣を決める競争などではなかった。


「え……えぇ。そ、そうね。そうだ、さっきのお客さんから預かったの。もう片方も糸がついた武器と同じ性能にしてくれって。それで……」


「ほう。んじゃさっさと終わらせよう。こないだと同じくらいの時間で完成するだろ。接着の方は頼むぜ? 俺に出来ないことだって山ほどあるんだ。そんくらいはてつだってもらわんと」


 依頼の期限を伝える前に店主は仕事に取り掛かる。

 その前の店主の話には、彼女はいくらか救われた思いがした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつも見て頂きましてありがとうございます。
新作小説始めました。


勇者じゃないと言われて追放されたので、帰り方が見つかるまで異世界でスローライフすることにした
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ