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美女エルフの異世界道具屋で宝石職人してます   作者: 網野ホウ
巨塊討伐編 第四章:遅れてきた者

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休店直下 4

「なぁに人気どりしてんだよぉ。とっとと家に帰れっつってんだろうがよお!」


 ワイアットにせがまれて、店主は久しぶりに『法具店アマミ』に来た。

 店の中は、洞窟の調査の途中で意識不明に陥ったセレナ達を心配する冒険者達で溢れかえっていた。

 ワイアットに指示を出し店内を何とかしようとしている時に、店主面をしているホビット族の嫌われ者、ギスモに腹を殴られ、店主はうずくまった。

 そしてその店主に向かって子の一言である。


「いい加減にしやがれ! ギスモ! 誰もオメェのことなんざ店主扱いしてねぇし信頼もしてねぇよ!」


「ヘナチョコな魔力なしのエルフが何ほざいてもそれこそ誰も聞く耳持たねぇよ。この店は俺とセレナのもんだからな」


 ギースは店主に近寄らせまいと店主の前に立ちはだかる。しかしその後ろから店主が声をかけた。


「おい、そこの背の高いの。お前、邪魔だ。そいつが見えねぇ。それといい加減離れろよお前ら」


「え? いや、だってこいつ……。つか、名前覚えろよ……」


 身を挺して店主を守っているギースは言葉を失い、怒りが削げた。

 ウィーナとミールが静かに店主から離れる。ギースもその場からゆっくりと身を引くと、店主はギスモと睨み合う形になる。店主の額の汗は流れ落ちるが拭いもしない。


 ワイアットが周りの者達から尋ねられ、尻餅をつきながらギスモを睨む男の説明している。

 店主の事を知る者はほぼいないが、リバーバがワイアットの助け舟を出した。

 二人の話を聞いた者達は、ギスモよりは頼りになりそうな印象を持つ。

 その店主はしばらくギスモを睨み続けていたが、身を引いたギースにそのまま視線を移す。


「な、何だよ。俺、何か悪いことしたか? あ、他のショーケースも動かせってことか? 分かったよ」


 ワイアットはギースの行動に釣られ、ミュールもその作業に加わった。ショーケースの近くにいた者達はその二人の行動に反応し手助けをする。

 周囲の者達が店主の意向通りに動くものだから、ギスモはそれが不快でならない。

 その二人の間に、今度はウィーナとミールが間に入る。


「ちょっと、いい加減にしなよ!」

「あんたがいない方がみんな落ち着いて行動起こせるのが分からないの?!」


「ハン! 故郷で居所失って追い出された双子はここでも用はねぇんだよ! テメェらもとっとと失せろ!」


 ギスモの傍若無人な言葉には誰も耳を貸さないが、二人はその言葉に顔を歪ませる。

 店主はこの三人のやり取りが始まると、今度はギースとワイアットを睨んだ。


「あ、ショーケースの移動ね。分かったよ」


 ギースは投げやりな返事をして、『風刃隊』の男三人は作業の続きを再開して終わらせた。

 六つのショーケースがすべて壁際に寄せられると、いくらかフロアの広さに余裕が生まれる。

 見通しも幾分か良くなったためか、店主に駆け寄る者が一人、また一人と増えていく。

 『ホットライン』と『クロムハード』も店主がいることにようやく気付いた。


「テンシュさん! 今まで何やってたのよ! それよりセレナが!」


 急に狭い店内を走り出して悲壮感を漂わせながら店主に近寄ったキューリアを追い、ブレイドも店主の存在に気付いて駆け寄った。


「あぁ。分かってるよ、ギース」

「ギースは俺だってば……。その人はキューリアさんとブレイドさんだろ……」


 口を尖らせるギースに構わず、痛みを堪えながらゆっくりと立ち上がる店主は、ブレイドから差し出された椅子に腰かける。

 店主がそのブレイドに何の言葉もないのは、まだ痛みに顔を歪ませていたから。

 しかし店主はもうギスモのことはまったく気にしてはいなかった。


「勝手に椅子使ってんじゃねぇよ! どいつもこいつも人の言うこと聞かねぇ奴らだなぁオイ!」


「誰もお前を店主なんて認めてねぇんだよ!」


「大体の予想はつく。現場から引き離してここに連れてくりゃ万事解決なはずだ」


 ギスモの難癖も、まるで店主の耳には入っていないかのように、店主はセレナ達の救護活動計画の案を出す。

 ギスモは、店主の態度が気に食わない。

 再び店主に拳の一撃を追加しようと近づくが、店主の周りには店主の知らない冒険者達も取り囲んでいる。

 ホビット族特有の小柄な体格なので、普通なら通れない隙間を縫って移動することもできる。

 しかし流石の素早さをもってしても、目標が大勢に囲まれていたら思うように近づけない。

 ギスモは店主に忌々しく思いながら歯噛みをするのみである。


「けどウィリックもそうだったよね」


 キューリアがセレナの身を案じる。

 セレナに彼を慕う思いがまだ残っているなら、ここで頭を寄せ集まっている者達の思いとは裏腹に、ウィリックの元に行こうとする気持ちもあるかもしれない。

 体力と生命力的には、それらが尽きるまではまだ時間の余裕があるかもしれないが、その前に気持ちが折れないとも限らない。

 どのみち一刻を争う事態である。


「急げば間に合うって感じじゃねぇか? 売られていなきゃ倉庫に道具も揃っているはず」

「開けたり中見せたりするわきゃねぇだろうがバァカ! なんで店主の俺を蔑ろにする連中に見せなきゃなんねぇんだよ!」


 店主を中心とした人の輪の外にいるギスモが大声で喚く。


 新たに鍵を取り付け、彼ではないと開けられない仕組みにしたらしい。

 だが店主はいつもの涼しげな顔で聞き流す。


「なら……二時間以内で救出作業を完了させるしかねぇな。取り組むメンバーはまず俺」


 店主の世界の時間が経過する店外に、自身がなるべく出ないようにしている店主自らが真っ先に出ると言う。その事実を知っているいつもの常連三チームのメンバーは驚く。


「テンシュさん……店から出ちゃまずいって話じゃなかったの?」


 その言葉にイライラする表情を隠さない店主。

 ワイアットの独断で連れて来られたとはいえ、セレナの救援のために店主はここにやってきた。

 それはここにいる者誰もが望むこと。

 その計画に後ろ向きの発言は、救援の意思と矛盾する。

 いくらかは時間の余裕はあるとは思われるが、そのことに構っているヒマまではない。


「道具を使えないんじゃ、一人でも頭数増やさねえと助けらんねぇって話だよ。それと……」


「流石にそう言われて黙ってられねぇよ。こっちの世界の者達が尽力しないで、別世界の人間が体を張るってどう考えたって筋がおかしい」


 ブレイドが店主を遮る。


「んじゃ帰っていいか? 俺がここにいることに反対するなら来るつもりはねぇよ」


 そういうわけではない、とブレイドは否定する。

 言いたいことを伝えるために話を続けようとするが、店主はそれも無視。


「……それに恐らく、お前らが出ると被害がでかくなる。俺の考える人選だと二次被害はゼロで済む。お前らはどうしたいんだ? 自分の命を犠牲にしてまで被害者を救うってんなら考え直すが、お前らが救出に向かうとセレナ達を助けられない上に被害広がることになるぞ」


 店主には誰も状況を説明していない。それでも結果を言い切る店主。

 店主のことを知らない冒険者達は当然彼のことを怪しむ。


「因みに他には誰を選ぶんです?」

「ワイアット、ギース、ミュール、それとそこで粋がっている小男だ」


 だがそれにも気にも留めず、ライヤーからの質問に答えると、店内が静まり返る。

 よりにもよって、冒険者になってまだ間もないと言っていい弱小チーム。そして口先だけの店主面をしている男。この四人だけである。


「な……なんで俺らが選ばれるわけ? 俺より大先輩で雲の上の存在ってたくさんいるっしょ!」

「テ……テンシュ。あんたにゃ分からんだろうが、依頼受注中以外の上位二十のチームみんなここにいるんだぜ? その下の四十チームのいくつかもいるし、外にもいるんだぜ? そんな人達を差し置いて俺らが選ばれるって……納得できる理由、あるんだろうな?」

「自分達がいなくなっても差し障りはないって言う理由なら笑えるんですが……笑いをとるタイミングじゃありませんからね?」


 誰よりも先に『風刃隊』の男性陣から一斉に抗議を受ける店主。小男と呼ばれたギスモは口をあんぐりと空けている。

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いつも見て頂きましてありがとうございます。
新作小説始めました。


勇者じゃないと言われて追放されたので、帰り方が見つかるまで異世界でスローライフすることにした
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