嵐の副産物 5
ならず者と呼んでも差し支えない、『法具店アマミ』で狼藉を働いた冒険者チームが連行されたのは昨日。
そんな昨日と打って変わって穏やかないつもの日常。
ただ一つだけ違うのは、バイトを続行しているウィーナとミールの双子姉妹の姿勢。
何か吹っ切れたような、やる気満々の目つきをしている。
しかしそのやる気は空回り。
何せこの日の来客は三人だけ。
知り合い同士らしいノーム族の女性二人。午後にやってきたのは店主の半分くらいの身長の、全身を黒い毛で覆われたホビット族の男性。
双子は愛想よく応対する。結局その二組の客は何も買わずに店を出る。
店主と三人きり。その時間が長い。
退屈しのぎに店主に話しかけるが、作業に夢中の店主は無反応。何事も起きず、閉店時間の間際にセレナが帰って来る。
「お、今日も頑張ったね。ご苦労さま。じゃあ今日も晩ご飯食べてってね。テンシュはすぐおいで。でないと黙って帰っちゃうんだから、ほんとにもお」
仕事に集中している時は何を言っても無駄。
それを既に分かっているセレナは、そう言うと紙に同じようなことを書き、それを作業部屋のドアに店主に向けて貼る。
最後の一貼りは両手の手のひらでドアを叩くように力を入れた。
当然音が響く。
店主は、仕事に邪魔が入って迷惑そうな顔をドアに向ける。
真っ先にその張り紙の文章が目に入る。その向こうには、背を向けて二階に上がろうとしているセレナ。
張り紙を無視して帰ろうものなら、こっちの世界に押しかけかねない予感。
店主はあきらめ顔で切りいいところまで作業を続け、観念したように二階に上がった。
「ん? 双子はどこいった?」
フロアのほぼ全部が見渡せる二階。
セレナと一緒に先に二階に上がってたはずの、ウィーナとミールの姿がない。
「多分私のベッドじゃないかな?」
セレナは夕食の準備をしながら答える。
いくら気心が知れた間柄といえ、プライベートまでは覗き込む趣味はない。
店主はベッドの方に目をやると、カーテンは仕切られているがもぞもぞと何かが動いてる気配を中から感じた。
「ぬいぐるみが目当てか。ま、バイトの時間は終わったからいいけどよ」
メリハリをつけることは仕事にも気持ちを入れることに繋がる。
バイトでもそう。
二人のバイトの時間は、今日は終わり。
あとは何をしようが自由なのだが、同性とはいえ他人のベッドに上がり込むのはいかがなものか。
「いいのいいの。いっつもお世話になってるからねー。でもそろそろできるから配膳の手伝いしてくれるー?」
セレナの呼びかけに、ベッドのカーテンから二人が顔を出す。
「「はーい」」
ぴょこんとベッドから降りた二人は、セレナと一緒に食事の準備。
ぬいぐるみに触りたいという私情を今まで抑え込んでいたせいか、二人は幸せそうな顔をしている。
しかし物足りなさそうな思いも口に出る。
「お姉ちゃん」
「何? ミール」
「……こーゆーの、欲しいな。ふかふかだよ、これ」
「きちんと生活費稼げるようになるまでの辛抱だよ」
夕食がテーブルの上に次々と並べられていき、夕食の用意が整った。
「ところでセレナさんは、どんなお仕事してきたんです?」
「調査ってどんなこと?」
「聞きたい?」
「「聞きたいっ!」」
双子の返事からワンテンポ遅れた店主の言葉。
「すごくどうでもいい」
やっぱり普段と変わらなかった。
「聞きたいのは私達なんですっ」
「どうでもいいならご飯に夢中になっててくださいっ」
イーだっ!
ミールはそんな顔を店主に向ける。
「二人は巨塊討伐失敗の話は知ってるわよね?」
「犠牲者が出たとか何とかですよね?」
「まだ見つからない人がいるって話でしたよね」
「うん、私もその犠牲者っていうか行方不明者の一人で、無事に生還できたんだけど」
「そんな話聞いたような気がする」
「テンシュが連れて来てくれたとか」
「ほう、初耳だな」
最後の一言は、どさくさに紛れた店主の言葉。
「「「テンシュ、そういうのはもういいから」」」
巨塊の体の一部の謎の爆発によって行方不明者が出た。その者達は生死問わず発見されてきている。
まず爆発とは何なのか、なぜ一度に行方不明者が発見されないのか。発見された者達の中には、死が間近とおもわれるほどの衰弱を見せる者もいる。
それらの調査を、調査員自身に被害が及ばない箇所からの調査を行っているところで、セレナはその手伝いをしていた。




