店主とエルフは互いの世界を知る 8 店主、異世界道具屋を視察する
「ふーん……。ここがあんたの店か。道具屋っつーか、武器とか防具、その関係を扱う店なんだな。見たことのない石も使われてる。なかなかいい物じゃないか。けど……」
店主は指先を伸ばし、品物の一部に触れて滑らせる。
「埃がひどいな。なんでこんなに汚ぇんだ?」
店主が店内を見て回る間に、セレナは通訳の術をかけ終えた。
「えっと、魔物の討伐に参加してて……」
「しばらく留守にしてたってことか。俺の店とほぼ同じ広さだな。二階とかあるっぽいが」
店主はともかくセレナも、店内の空気がどんよりと重く感じた。
一か月はまるっきり空気の入れ替えもしていないせいか。
しかし。
「しかし……何だろうな、この品物。ダメダメじゃねぇか。店の手伝いってのはこれらの改修か? まさか掃除手伝ってっつんじゃねえよな?」
「そんなわけないですよ。それより今いい物って言ってたけど、改修が必要なの? これ全部私が作ったんですけど、どういうこと?」
店の掃除ならここでバイト募集の張り紙でも張れば済むことだ。わざわざ異世界に行ってまで手伝ってくれなど言うはずもない。
セレナがこっちに来て欲しかった理由は、店主にしかない力で店主にしか出来ないことをしてもらいたかったから。
それが、まさかいきなり店の品物全てにダメ出しをされるとは思わず、経営者、製作者としてのプライドがやや傷ついた。
「へぇ、全部自家製造か。大したもんだ。ウチと同じだな。けど多分全部作り直しが必要かもな。俺の目にはそう見える。もっとも俺の店で売るにはこのままでもいいけどさ。ただし刃物を除いてな」
店内ががらん洞なら、普通乗用車が四台は入りそうな広さ。
壁沿いにほとんど隙間なく並べられた武器と防具。その店内の真ん中に奥に向かって台が置かれ、その上には装飾品が並べられている。
目が届く物すべてを見渡した店主はそんなことを言う。
いい物だけど手直しが必要なのはどういうことか。
「あぁ、いい物ってのは素材のことだ。見たことがある物もあるが、ほとんどは初めて見る素材だな。この店での手伝いの報酬はその素材……主に石や宝石とさせてもらおうか。そっちから見て格安だろうが粗悪品だろうがな」
「報酬の件は置いといて、えっと、お店の手伝いまでしてくれるのなら有り難いけど……」
「せっかくの素材が勿体ねぇ。直そうにも体力が持たねぇな。一時間も出来るかどうか。その間に手直しできる物もなさそうだし……。そうだ、在庫はあるのか?」
「あ、うん。隣の建物なんだけど言語疎通の術かかってないから、会話は術をかけ終わるまで待っててね。時間はかからないけど」
倉庫に招き入れたセレナは術をかけた後、店主はその中に足を踏み入れた。
「へぇ、店の間取りばかりじゃなく倉庫は隣の建物ってのも同じかよ。やりやすいってばやりやすいな」
在庫は法具店の物とは流石に違う。
流石にどこにどんなものが置いてあるかは、セレナの案内なしには分からない。
しかし、店内もそうだが倉庫の中の品物も、それらの珍しい力には強い関心を持つ。
「売り物にならなくても欲しいと思う物はある。けど手に入った後の価値って特にないから……やっぱ報酬は材料の方がいいな。こっちで作ったら高く売れそうな物もありそうだし」
何かを思いついたのか、セレナの説明を聞きながら店主は品物を物色する。
一組の双剣を手にしセレナから詳しい説明を聞いた。
すぐには売り物にはしない予定であることを聞くとニヤリと笑い、今度はセレナの作業場への案内を求めた。
何をするつもりなのか不審顔をするセレナ。その後についていく店主は、その顔を無理やり抑え込み、勤めて真面目な表情をする。
作業場は店舗の奥にあるカウンターの隣。カウンターとはガラスの壁で区切られている。
作業中に出てくる粉塵対策なのだろうが、なぜか店舗とは、またぐことが出来るくらいの低さの柵のみでしか仕切られていない。
作業中でも来客を見ることができ、すぐに接客できる工夫なのだろうが、店舗にその埃が簡単に舞い飛ぶ。
清潔感はもう少し何とかできないのかと店主はやや呆れた。
「まぁこっちは会社みたいな体裁になってるからな。セレナは一人きりか」
「うん。だから案内してもらったシャワー室とか他の部屋は一階にはないね。私の住まいは二階と三階」
「そこまで同じかよ。まぁ深くは知る必要はないから聞く気はないけどさ。さて……これからすることを説明しとこうか」
店主の説明によると、自分が作る物とセレナが作った物の違いを知ってもらおうという狙いで、同じ形、同じ装飾の二つの品物を選んだとのこと。
二本一組の双剣だが、それに違いが現れると使用者に不都合が出てくる。
「魔物退治とか言ってたよな? ってことはそういう仕事をしょっちゅう請け負う職業もあるはずだよな?」
「うん。私は今は兼業だけど、冒険者とか傭兵とか……」
「加えて魔法も存在する世界だろ? ますますゲームじみてきたな。まぁそんな俺の感想はおいといて、だ」
同じものが二つ一組の道具は、バランスが重要になってくる。
見た目が同じでも中身が違えば、熟練者であればあるほど放置できない問題になる。
「命がけの仕事なんだろ? そんな仕事をしてる人達にこれから俺が手掛ける物を預けるのは申し訳ないが、事情を知らない者達ならその違いを正確に体感できるんじゃないかと思ってな。あんたに使ってもらってもいいが、どうしても意識するだろうからその違いを正確に感じられるかどうかは怪しいからな」
もちろん無料の試供品として使ってもらう。違いを感じるかどうか、その違いはどんなものなのか、使ってもらった後で意見を聞かせてもらうため。
セレナは、どの品物を作るにしても常にベストを尽くしてきた。
それでもすべて改良する必要があると言い切った店主には、流石に文句を言いたい。
だが店主はそれを証明しようとしている。
店主から改良の必要がある理由を説明してもらっても、それを実感できるかどうかも怪しい。
けれどもその店主の案なら、使用者の感想を聞くことになるから説明がなくとも納得は出来る。
セレナは店主からの案を受け、店主はその意思を確認した後双剣の片方の改修作業に取り掛かった。
「でも、私の場合は時間の経過は問題なかったけど、だからといってそっちも時間の影響がないとは言い切れないと思うんですが……」
「今日の仕事は終わりだからな。後は俺の休む時間に影響がない限り、ここで一仕事するのも悪くない。なんせ俺の店でもこんなに腕を存分に奮えることはなかったから貴重な体験だしな」
素材を検め、片方の双剣の装飾の石と同じ色の素材を選び、同じ形に切ったり削ったりする。
しかし剣の柄に接着させる作業は、店主の作業では時間がかかる。
そこは流石にセレナが手伝った。
接着の術は素材が持つ力に影響を及ぼさない。
二時間も経たずに区別がつかない双剣一組が出来上がる。
「どっちがどっちか分からなくなるから、俺が作った方の柄に派手な色の糸でも絡ませるか。それで区別はつくだろ。後は結果を御覧じろってとこだ」
結果が分かり次第すぐに来るように念を押す店主。
もっとも前回の宝石岩の撤去とは違い、今回は店の経営者、そして商品の製作者としての互いのプライドがかかっている。
報告が遅れるなんてことはないはず。
二人は互いにそのことを確認した後、店主は自分の店に戻っていった。




