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プロローグ:現実世界サイド

天美(あまみ)法具店』。


 全国各地、頭を悩ませている問題の一つに人口減少がある。

 この法具店がある田舎町でも、井戸端会議が始まると必ず触れる話題がそれ。

 それでもこの商店街では、昼前や夕方の食品店の前、休日になると本屋やおもちゃ屋では賑わいを見せている。

 神具や仏具を中心に取り扱うこの店も、その通り沿いにある。

 ところが店の看板と入り口はそこにはない。


 その商店街の通りには路地との十字路がいくつかあって、その一か所の角にその法具店はある。

 路地とは言え、住宅地から商店街に向かう近道にもなっているので、意外と人通りは多い。

 その路地に面した自動ドアがその店の入り口。そのドアには店の名前が彫られている。店の出入り口の横には一階の天井近くまでの高さがあるショーウィンドウ。

 この店の看板はその上部に取り付けられている。


 先代までは宗教を問わず、人が多く集まる建物や催事場の内装も手掛けていたが、その息子である今の店主に代が変わってからは、装備品など、身につける小物を中心に扱うことが多くなった。

 というのも、今の店主の前職は、宝石貴金属販売店での加工技術職人。

 父親である先代から、その技術を生かしながらでもいいからこの店を引き継いでもらいたいと熱望された。

 代も変われば経営方針も変わる。石を使う小物はすべて店主の手作りのオーダーメイド。

 当然依頼を受け付けてから作り始めるのだが、時々駆け込みの客も来る。

 目立たない所に看板をつけている店にそんな来客が現れるのは、それだけ商店街の店との交流が盛んであることと、二百年以上店主の一族で経営し続けてきた結果得られた信頼のおかげだろう。

 そんな客にも対応できるよう店内の展示品も過不足がないように、依頼の仕事の合間を見ながらそれらの補充するための製作も手掛けている。


 だがこの店は、いや、この店主には、同業者にはない大きな違いが存在する。


 店主は、宝石に触れるだけでその性質や石の持っている力を判定できる能力を持っていた。だから天然か人工かも触らずとも分かるし、銘や形、色に惑わされずに判別することもできる。

 だから宝石だろうが河原の石だろうが、区別はするが差別はしない。

 しかし超能力などを信じるような空想家ではない。

 その力を披露したり自慢することは全くないのだが、その力を店主に説明させればきっと、「勘が鋭いだけ」としか言わないだろう。どちらかというと、目に見えるものなら信じることが出来る現実主義者である。

 とは言え、誰もが持っている力ではないことも分かっていた。

 だが科学的にその能力の存在を証明できるわけもない。

 であるからこれはあくまでも勘、と店主は大して気にもしないようになった。

 この仕事を引き継いだ後ももちろんその勘を使って宝石の加工の仕事は続けているが、そればかりではこの業務を全うすることは出来ない。

 店主としての経営の仕方について勉強しなければならなかったし、この店で扱う品物の素材は石ばかりではなく、それ以外の素材について勉強する必要も出てきた。

 そんな店主の体質なのだろうが、石ほどではないが使用される素材の力も次第に感じ取れるようになっていった。


 ある日この店の前に、たくさんの宝石と共に女性が突然落ちてきた。

 振動が伴う音のあまりの大きさに驚いて様子を見に来た店主に、その女性はセレナと名乗った。


「なんだこりゃ? あ、あんた、大丈夫か……って、でかっ!」


 散らばってる宝石の中で一番大きい物が、ちょうどショーウィンドウを隠すように、その前に置かれるように存在していた。


 その女性は宝石と共に別の世界から来たという。続けて彼女は自分の事を、人間ではなくエルフと言う種族であると名乗ったのだ。


 まともな人がいきなりそんな話を聞かされても、言われるがままに信じるはずもない。

 しかしその周りの宝石を店主が見て、この世界に存在するような物ではないと判別する。

 当然法具店の物ではないし、ましてや商店街や通行人の所有物ではない。一番大きい宝石は力技では動かせない。

 店主もまともに聞きはしなかったが、この数々の宝石の存在と、店主の協力もあってこそだったがドアに仕掛けと細工を施して自由に往復が出来るその先の世界を見た店主は信じざるを得なくなった。


『法具店アマミ』


 店主がセレナの世界で彼女に無理やりやらされた店の名前。店主がその世界に転移した時がその店での彼の勤務時間となる。


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いつも見て頂きましてありがとうございます。
新作小説始めました。


勇者じゃないと言われて追放されたので、帰り方が見つかるまで異世界でスローライフすることにした
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