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季節外れの転校生は、恐らく何かを隠している……

作者: たたた、たん。
掲載日:2017/01/01

息抜きなのに長くなってしまった……

 


 季節外れの転校生。

 それは、物語に、日常に、嵐を運ぶ予兆であり原因であり、嵐そのものである。


 彼等(季節外れの転校生)は、多くを語らない。彼等(季節外れの転校生)の性別、性格、容姿は様々であっても、皆等しく何らかの秘密を抱え、それは物語の根幹に繋がる爆弾とイコールの存在と結ばれているのだ。

 要は、彼等(季節外れの転校生)は、特異であり、正義であり、悪であり、陰謀であり、主人公であり、物語の主要人物になり得る特別な存在で。



 そんな季節外れの転校生が(弱者)のクラスにもやって来た。







 この世界には、影鬼(かげおに)というモノが存在し、それを知っているのは一部の人間のみである。影鬼は、負のエネルギーの集合体であり、また負のエネルギーを食べ成長するナニカであって、人類の文明が誕生して早数万年、影鬼の全容は未だに掴めていない。

 影鬼は、元は悪霊、悪魔等と呼ばれ、その名に表すように人に害を及ぼす。他の生物には害を与えたないのに何故か人だけに、物理的に精神的に殺そうと襲いかかってくるのだ。無論、人もやられっぱなしではいられない。目には目を歯には歯を、と有名なハンムラビ法典でだってやられたらやり返せ、と言っている。やられ続けたら死んでしまうのだから、それは必死で影鬼を倒した。


 そもそも、人類が大きな文明を造るに当たって度々登場する宗教的指導者とは影鬼を倒す者達であったと言われており、古来日本で有名な者と言えば卑弥呼であり、神武天皇である。彼らは神の子、現人神、陰陽師、巫女、霊媒師、エクソシスト、超能力者、化物、忌み子と呼ばれ時に崇め奉られ、忌み嫌われ、人と隔離して生きてきた。

 そして、現在、影鬼を滅する者達をエクトと呼び、巨大な組織を作るようになる。人口が多く、霊脈も多い日本では、潜在的にエクトになり得る人は全人口の五百人に一人と、他の国と比べ格段に多く、その組織の規模も大きいが影鬼の出現数も世界トップレベルとなっている。


 先に言ったが、影鬼とは負のエネルギーから生じる生き物、ないしは現象であり、本来の本能的感情とは違い明確な悪意からしか負のエネルギーは作り出されないため、人類の人口と影鬼の数は比例している。また、戦争等の負の連鎖はより多く強力な影鬼を造り、第二次世界大戦時は史上最強と言われたⅢ‐4レベルの鬼神という影鬼も登場し、祓うのに幾多のエクトが喪われた。


 では、世界を分断する大きな戦争がない今、影鬼の動向は弱まっているのか?


 その答えは、否。断じて、否である。



 人類は、この三次元空間とは別に、新たな空間を作り上げてしまった。インターネット空間である。インターネットに広がる概念的世界は今や世界を覆い尽くし、その虚空間が実空間を支配していると言っても過言ではない。そして、実体を持つ人はその虚空間に直接介入することは不可能。


 しかし、影鬼であれば?

 実体がないエネルギー体である影鬼であれば、垂直も平行も奥行きもないその虚空間に侵入することも、住み着く事も容易であり、案の定、彼等はその概念的世界を手に入れてしまった。そして、そこはまさに負のエネルギーの溜まり場。世界中の悪意がインターネットに流れ込み、そこを故郷とする影鬼も次々と登場し、その影鬼の数と強さは第二次世界大戦時を超え激増、今まさに彼等の絶頂期なのである。


 それに対して、エクトの絶対数は多くはない。日本のエクトの所属する組織は国家超上現象対策省であり、特別な資格が必要となるがエクトを養成する為に1930年からは学校法人まで作られている。その学校法人は全国に六ヶ所(2000年に二つ増えている)、宮城、新潟、東京×2、京都、福岡にあり、計二千人が学生及びエクト見習いとなっていて、それでも尚、人数は足りていない。


 そこで、国家超上現象対策省は一般的からのスカウトに力を入れるようになった。エクトになる才能は、主に血筋によって決まっており、現七つある名家は一つを除き数千の歴史を持っているのだが、たまに突然変異か、エクトの才能を持つ子が生まれる時がある。だが、歳をある程度とっていると力はあっても使いこなせなくなる為、スカウトされる人の殆どは十代の学生であり、これによって充分ではないが、エクトの数は着実に増加している。











 第一東京エクト養成高等学校。

 ここは都内と言うこともあって、生徒同士の競争も激しく、古参名家の上位が多くいる学校で(第二東京には、新興勢力の家が多い)、クラスはS~Dまである。無論、成績によってクラスが決められ、授業水準の格差や、生徒間での差別も日常化しているのだが、そこには、強者至上主義であるエクトの考えもあり改善される余地は見当たらない。


 他のクラスに比べて、生徒が少なく、取り巻く物は全て一級品。人数比により普通サイズより一回り大きいシックな木製の机は、寸分の狂いもなく均等に並べてあり、生徒は当然の如くその机にあった特別製の椅子に鎮座する。彼等は強者だ。Sクラスに相応しい溢れる自信とオーラ、そして実力を備えている。少々気は強いが、基本家柄のためか羽目は外さず、努力家の生徒は多く教師からも信頼されているのだ。


 だが、そんなクラスに一人だけ弱者が交じっていた。


 窓側の一番後ろ。どこの学校であっても生徒人気No.1であり、クジでもなければ仁義なき取り合いにまで生徒を凶暴化させる魅惑的席。本来なら、有無を言わさずクラスのトップカーストを誇る者達のみが取り合うことを許されるその席に、(弱者)は座っていた。


 異常である。

 あり得ない事である。

 おそ松女子なら、前歯を突き出しながら体をくねらせ「シェーーーッ!! 」と叫んでいるだろう(片方の靴下を半分脱ぐことは忘れてはならない)


 何故、弱者がそこに座っているのか?

 理由は単純。このクラスに限っては、この窓側一番後ろの席に需要はないのだ。寧ろ、嫌悪さえもされている。真面目で勉強熱心、そして同レベルの生徒に対しては仲間意識の強い彼等は、前の席を好んでおり、一人だけポツンと置いてある窓側一番後ろの席は、仲間外れであり、空気であり、存在がなく、座りたくない席なのだ。弱者は強者に従わなければならない。


 (弱者)としても自分が弱く、Sクラスにいることも殆ど家柄によるものだと自覚しているから強者達の中で一人居場所がない。また、仲間外れも妥当だと納得しているし、自ら孤独を選んでいた。


 何より(弱者)は、普通にその席を魅力的に感じている。もしかしたら彼が唯一、一般的な考え方を持っているのかもしれない。




 季節は6月。入学式から約二ヶ月経ち、中学からエスカレーター式で入学してきたから新しい顔もなく、変わったことは実技が多くなった事と成績争いが激しくなっただけ。

 Sクラスただ一人の弱者、三条碧(さんじょうみどり)は、今日も一人窓の外を眺める。


 学校をぐるりと囲んでいる桜は、すっかり緑の葉を生やし、どこからか来たそよ風がその葉をそよそよと揺らしている。クラスに居づらい碧にとって外を眺めることは現実逃避であり、家でも立場がなく疲れた心を癒す行為でもあった。

 彼は、今日も当然に変わらない日常を送るのだと呆然に信じていた。エクトと言う特殊な職業に就くと決まっていても、学校は小さな箱庭に変わりない。


 最近、碧に起こった変わった事と言えば、目の前に大きな背中が戻って来たこと。物理的に大きい訳ではない。その背中の見た目は、寧ろ碧よりも細く華奢で、その繊細な肩には濡羽色で艶やかな髪が覆っている。また、後ろ姿だけではなく彼女は美少女であった。氷の大和撫子。それが彼女の渾名(あだな)であり、彼女はSクラスでもトップ3に入る強者なのだ。


 碧と同じように、名家の出であり長女でなく家名を継ぐこともないが、他を圧倒して強い彼女に碧は密かに憧れを抱いていた。勿論、その事は人に話したはない。彼女に憧れているなんて、分不相応な事を言ったら鼻で嗤われてしまうからだ。


「……はあ」


 人に聞こえないよう小さく溜め息をつく。

 実技で駄目なのだから、せめて筆記では頑張ろうと毎日ノートを真っ黒にして勉強するもこのクラスでは中の下。これでは、もう自分に勝ち目など一つもない。


 自分の存在価値が限りなく無いに近いことを気付いた昨今、彼は特に落ち込んでいた。普段なら心癒される外の緑もカーリングのストーンのように心の上を滑り、とうとう心のやり場を見失う。

 そう言えば。


 彼はふと、視線を窓側の反対方向に寄越した。そこには、あるはずの無い机と椅子のセットが置いてある。

 それらは、一見碧を孤独から救う物にも見えたが、彼はそれに何の期待も示さない。


 ああ、また掃除のおばさん間違えたんだな。


 突然の机の出現は前にもあった事だった。それは、碧が中学生の時、実力的に下のクラスにスカウトされた生徒が転校してきたのだが間違えて、当時も孤独だった碧の隣に置かれたのだ。碧は胸踊らせた。新しくこのクラスに入ってくる生徒であれば、弱者である自分とも釣り合う、もしくは仲良くなれるのではないか、と。だが、現実とは残酷なものでその間違いは、担任がホームルームの為教室に訪れたことですぐに摘発された。「掃除婦が間違えたんだな」と無感動な担任の言葉は、浮き足だっていた碧の希望を打ち消し、今となっては転校生が来るかもしれない等と微塵も思わせなくしている。


 そもそも、今までろくに影鬼の存在も知らなかった一般生がSクラスに入れる訳がないのだ。殆どが下から二番目、良くて中級。


 また僕が片付けなきゃいけなくなるのかな。


 彼は、昔の記憶を思いだしうんざりとする。掃除婦の真似事は下っぱの弱者がしなければならない。


 彼は季節外れの転校生を全く信じていなかった。Sクラスの机は特別製であり間違えるはずもないことと、前の席の美少女が緊張で微かに震えていること。ましてや、彼女を今まで約一ヶ月間公欠させた張本人がやって来ることを。


 そして、季節外れの転校生が物語に、日常に、嵐を運ぶ予兆であり原因であり、嵐そのものである事を彼はまだ知らない。



 さて、季節外れの転校生と言われるとどんな人を思い浮かべるだろうか?ぶっ飛んだラノベであれば撲殺天使や、超能力者、悪魔に地球外生命体etc.ラブコメであれば、昔離れてしまった幼馴染、主人公がファンであった元アイドル、先日駅で一目惚れした初恋の美少女etc.と様々な想像が出来る。しかし、それは物語の中の話であり現実に来る転校であれば、そんな夢は見ないだろう。そこそこ顔が良くて、そこそこ性格が良いといいなぁとそんな位にしか思わないはすだ。


 碧もまた、隣の席が掃除婦の間違いでないと告げられた時、衝撃と期待の中で、そうは言っても、目の前にいる彼女程凄い人ではないだろうと予想していた。早々に強者がごろごろといてたまるものか。

 担任はいつも通り落ち着いた声で、だけど少し早口に季節外れの転校生を呼ぶ。季節外れの転校生の説明は受けていない。他のエクト養成学校から来たのか、それとも一般人からスカウトされたのか。聞くまでもなく前者に決まっている。そう、Sクラスの四人を除き全ての人が考えていた。




「はじめまして」




 (季節外れの転校生)がクラスに一歩踏み入れた瞬間、時間と空気が固まった。碧に至っては開いた口を塞ぐことも出来ない。


「一般からスカウトされました小林晴(こばやしはる)です。宜しくお願いします」


 ごく普通の自己紹介であり、恐ろしく異常な自己紹介でもある。元一般人がSクラスになんてあり得ない。このクラスでも気が強いとされ、普段なら真っ先に発言しそうな級長も流石にポカンと呆けている。今、その実力云々(うんぬん)に関心は向かないのだ。

 Sクラスに、ある意味非常識な生徒がいれば、皆の頭を埋め尽くすクエスチョンマークを取り除けたかもしれない。だが、しかし、上流階級の家で育ちの良い彼等は口に出来ないのだ。彼等は、閉口した。口を開く勇気さえも抱かない。


 と言っても、彼は季節外れの転校生。分かりやすく抱える爆弾を質問されたからと言ってそう易々と答えないだろう。その物語の根幹に繋がる秘密を教えては、成り立たない。


 何が成り立たないなんて聞かないで欲しい。


 (季節外れの転校生)は、特異であり、正義であり、悪であり、陰謀であり、主人公であり、物語の主要人物になり得る特別な存在なのだ。










「おはよう。小林君」


「おはよう」


 あれから一ヶ月。彼はクラスに馴染む気配を見せない。

 別に、彼の内面はそんなに変わっている訳ではないのだ。新参者らしく遠慮もあるし、マナーもある。未だに追い付かないエクトの知識も必死に取得しようと努力だってしていて、また、実技でもSクラスに満たない、いや恐らくDクラス並の力さえ出せなくても、泣き言言わず黙々とこなす。

 と、なると彼がSクラスに転入していたことがクラス全体の気掛かりとされたが、それについては「彼には大きな潜在能力がある」とぼやけた回答しか返ってこない。Sクラスの特に我が強い生徒は、本人に文句をぶつけていたりもしたが彼も「努力します」の一言しか言わないからその内、腫れ物扱いされるようになった。


 因みに、無視するのは無理である。何故なら、彼は存在感の固まりだからだ。


 碧と同じく小柄で細身、童顔でおばさまに可愛がられそうな顔立ち。毛先につれ蒼く染まる髪(・・・・・・)、右目の金細工のついたレトロな眼帯(・・)、左腕にぐるぐるに巻かれた包帯(・・)。そして、不意に出るおかしな言動。


 彼は、最高級に痛いのだ。



 自らを特別な存在と見なし、新たに創造した世界にその身を投じてしまう病気。思春期に発病されることから、厨二病と言われる青春の過ち。それは、本人に自覚症状がなくいため無意識に回りに歯痒さをばらまき、本人が病気から回復すると半分の確率で居たたまれなさで失踪させてしまう恐ろしいものだ。


 碧は、彼に会うまで厨二病は都市伝説と思っていた。


「三条、教えては欲しいんだけど」


「いいよ」


 だが、碧は彼が苦手でも嫌いでもなく、寧ろ好きだった。生まれてはじめて人に頼られる喜びを碧は知ってしまったのだ。質問の後、お礼と共に渡される小さなチョコはそのまま碧の存在価値のように感じ、食べずに缶に保管している。貯まれば貯まるほど、自分はここにいてもいいのだと言われた気になって嬉しかった。



「ありがと。お礼。……喜ぶんだな!下民!ふははははは!…………ごめん」


「大丈夫。もう、慣れたよ」


「助かるよ」



 彼のおかしな言動も発作と思えば気にならなかったし、彼もとても申し訳なさそうにするものだから、同情さえしてしまう。


 ともあれ、碧にとって重要なことは疎外感から解放されたことだった。強者の集まりに弱者が一人。それはひどく苦しい事だったが、彼という弱者が加わり一人ではなくなり、しかも彼は碧よりも弱い。碧は性格が悪い訳ではないが、それで気を良くしていた。

 彼とは、まだそこまで仲良くはない。最初は碧も彼の外見に怯えていたから。それでも、友人になるのは時間の問題だ。碧が話しかけられるのは彼だけで、彼も碧にしか話しかけない。


 彼なら僕の初めての友達になってくれるかも。


 そんな期待を持って、碧は彼を甲斐甲斐しくサポートし、他愛ない話題で話しかけた。



「あ、次の授業、実技だ。着替えに行かない?」


「うん」



 体操着に着替える為、彼等が向かうのは男子更衣室……ではなく男子トイレ。碧もある事情から今までずっとトイレの個室で着替えていたのだが、そんな事は言いにくく、着替えの時は別行動だった。前々回の実技の時、彼等はトイレでばったり出会したのだ。一瞬焦った碧ではあるが、彼が体操着を持ってばつの悪い顔をしているから、自分と同じなのだと悟った。



「小林君は、更衣室で着替えてるのかと思ってた」


「いや、ずっとトイレで着替えてた。今日は、いつも使ってたトイレが混んでたから。……ふっ、この俺様がトイレで着替えるなど本来なら有り得ぬことだがな!……」


「ああ、ここが一番空いてるしね」


「うん。今度から俺もここ使っていい?」


「勿論いいよ」


「俺様と同じ空気を吸えることを喜べ!!ふははははは!!!……ごめん」


 そうして、碧は彼との共通点をまた一つ発見し、少し嬉しくなった。



 この学校では、実技の中に体育も含まれており、またエクトとしても体力作りは大切で、授業前グラウンド10週しなければならないのだが、碧にとってこれは苦行だった。



「はぁはぁはぁ」



 一番最後に走り終え、男子としては薄い胸板を上下させる。中学生の頃はもっと遅く、後ろから二番目の生徒から半周以上も差を開けたが今はたった十メートル遅いくらい。乱れた息を整えられず、自分だけかと思えば回りの生徒も皆、汗を垂れ流し息を荒げている。


 そんな中、ただでさえ目立つ格好で一人涼しそうに息一つ乱していない彼は異様だ。確か、彼がゴールしたのは、ちょうど真ん中くらいの順位だ。大して速い訳でもないのに、彼は余裕そうに立っていて。碧には、それが不審に思えた。


 もしかしたら、もっと速く走れるのに力を出し惜しみしているのかもしれない。



 その後の実技の授業は、彼だけ外れてDクラスの生徒と行っている。彼が入学してから、急に実技の授業割りが変更になり、Dクラスとタイミングが被るようになったのだが、それはDクラスの生徒がSクラスの生徒の実力を見て切磋琢磨出来るように、と説明され、Sクラスの生徒は優越感から納得していた。


 まさか彼の為に、なんて思う人は一部を除き誰もいない。


 その日の授業は、二人一組を作らなければならなかったのだが、いつも通り碧には相手が見つからず級長の組にお邪魔させてもらった。あからさまではないが嫌そうな顔に申し訳ないと思いながら、心を殺して授業に取り組む。そして、やっぱり碧が足を引っ張ってしまうのだ。

 碧は、この二人一組の授業はグラウンド10周の苦行より辛くて、情けなく、嫌いだった。


 だが、授業後、落ち込んで下ばかり向き心のなかでぼやいていた碧はもういない。碧には彼がいる。自分の存在価値を作ってくれた(季節外れの転校生)がいる。

 Dクラスの授業は、いつも延長しているから終わるのを体育館の出入口で待った。迷惑だなんて考えないで、少ししつこい彼女のように彼をじっと待つ。



 まだか。まだか。僕は全然駄目だったけど小林君はどうだっただろう? 聞いてみようか? でも、もし上手くいっていなかったら聞かれるのは嫌だよね……



 今まで自己嫌悪にあてられていた時間が、彼との会話を考える時間に変わり碧は分かりやすくうかれていて。それは周囲にまるわかりだった。


「ねえ、ちょっと」


 後ろから碧を尋ねる声。

 碧は普段、自分に話しかけてくる人など彼以外いないから、そう言えばグラウンド10周の時力を抜いているのか聞いてみよう、などと考えて耳に入らない。例え、それが憧れの彼女の声であっても。



「ねえ、三条君」


「……え、えっ、細川さん!? あ、すいません。なんですか? 」


「いや、……あのね、小林晴のことなんだけど」


「小林君ですか? 彼、格好はあんなんでも悪い人じゃないですよ」



 彼へのフォローは咄嗟に出た。憧れの彼女が凄く緊張した顔で言うからだ。いくら憧れの彼女であっても彼のことは悪く言われたくない。そんな感情あってのことで、自分が彼女に口答えというか、牽制をすることは自分でも意外だった。



「……まあ、それはいいんだけど。小林晴には近づかない方がいいわよ」


「え、いや、でも」


「小林晴の性格なんてどうだっていいの。取り敢えず、言えるのは彼が危険人物であると言うことだけ」


「そ、そんなの格好だけです! 」


「はあ、呑気ね。あなたには分からないかもしれないけど、これは上では周囲の事実よ。なんだったら、あなたのお父様に聞いてみたら? だいたい、何故急に実技の時間割が変わったと思ってるの? 」


「それは、Dクラスのために……」


「違うわよ。全ては小林晴のため。だいたい一般のスカウトがこの東京校のSクラスに入れるわけないないじゃない。はっきり言っておくわ。小林晴は異常よ。見かけがじゃない。中身が、よ。見てくれで騙されちゃ駄目。……あれは、もしかしたら人間でさえもないかもしれない」


「それは、どういう」


「これは忠告と予言よ。小林晴と共にいると危険な目にあう。さっさと離れなさい」



 そうして、彼女は去っていく。ただ残された碧は、いまだ困惑して目線を右往左往に泳がすだけ。憧れの彼女に予想外な事を言われて驚いた。初めての友達(予定)が危険人物で異常と言われていた。

 彼女のことだ。意味の無いことも嘘も付きそうにはない。でも、彼がそんな人間でないと言われる程異常と言うのも納得出来ない。彼女の助言を受け入れるなら、もう彼を待たずに行くべきだったが、幸か不幸か、その困惑は彼の足を動かさなかった。



「三条、ごめん。待ってくれてたんだ。待たせた」



 気付けば彼は目の前にいて、黙り込んでいる碧を不思議そうに見ていた。



「いや、待ってないよ。……あの」


「そう言えば、鈴木と話してたな。なんか意外だった」


「鈴木って?」


「え、ああ、そうか。ごめん。鈴木じゃなくて細川。まだついつい間違えちゃうんだよな」


「? そう、なんだ。まあ、たまに話すこともあるよ。たまにね」



 全くの嘘だ。今まで話したことなんか、授業を除き一度もない。彼女の高い視線には(弱者)なんて、入るはずもなく、碧は話してみたかったけど恐れ多くてそんな事は出来なかった。



「ふーん、そうなんだ。まあ、三条も細川も偉い家っぽいし顔見知りなのかな」


「まあ、そんなとこ」



 これも、嘘。彼女は自慢の次女として世間にお披露目しても、妾の子で能無しの碧は恥さらしとされているから、紹介されたことなど一度もない。


 ポツポツと会話をしながら、男子トイレに向かう碧の頭はまだ混乱している。憧れの彼女の言葉であっても、彼は悪い人ではないように思える。それでも、彼女の目は真剣で。力を抜いているのか、という軽いはずだった質問も「異常」という言葉を聞いてからは、重大な物に思えて口が外れても言えなくなった。



 僕はどうすればいいんだろう。



 結局、碧のどっちつかずな態度は夏休み前日の実技試験まで続く事となる。












 その日は誰もが緊張した日だった。エクトになるにあたって大切な実技試験。Sクラスの生徒に至っては殺気を放っていて、それだけ試験の結果が彼らの未来とプライドと家名の為に重要なことであると物語っている。

 一年の年末試験は、本来なら実際の影鬼を相手する実戦方式であり、Sクラスでは一人ずつ行っていたものだ。



「ーーじゃあ、今年は五人グループでやるんですか?」


「ああ、今年からは全クラス共通五人グループで行うことになった。グループもこちらで決めてある」



 突然の変更。いや、試験の内容は対策等を作らせないため当日発表が常だったが、Sクラスの試験がグループ制になったのは恐らく史上初のことだ。


 碧は、右に向けなくなった。あの日、前に座る彼女の言葉が頭を過るからだ。全ては小林晴の為。確か、彼は試験の時だけSクラスで受ける事になっている。


 なんだかゾッとした。毎年試験のことで頭を悩ました碧は今やそれどころではない。心の癒しだった窓の外の緑もただ視界にうつるだけ。



「それじゃ、今から配られるプリントを見て行動してくれ。これでホームルームは終了」



 前から配られたプリントには、試験場所と試験時間とグループ割が書いてある。受け取る時にちらりと見えた彼女の顔はいつになく真剣な顔で。碧は、心のざわつきと共に嵐の襲来を予感した。



「あ、三条。グループ一緒だな……喜べ!!愚民!ふははは!! ……」


「……」


「三条? 」


「え、うん。そうだね……」


「ごめん。足引っ張ると思う」


「いや、それは僕もだし」


「あー、あとは細川と、坂上と阿部……後ろ二人は知らないけど最初に謝っとかないとかなぁ」


「僕もだよ」


「いやいや、三条はそんなに弱くないだろ。謙遜はなし。……そう、いくら俺様が強くても惚れるなよ!!はっはっは……」


「いや、本当に。僕と細川さんの実力は月とすっぽんくらい違うよ。まだ、一人の方が気楽だったのに……少し憂鬱だな」


「……なら、俺と細川だと月とピンポン球だな。お互いに頑張ろうな」


「うん」



 表面だけを見れば、出来ないなりに頑張る落ちこぼれだが、今の碧に試験なんて二の次だ。


 まさか。いや、そんなはず。だって、彼は別に。

 ただの厨二病の男の子じゃないか。異常だなんて、人間じゃないかもしれないなんて、そんなはず無い。


 一度は放棄したはずの問題で、信じられる筈もないのに、彼のための変更と聞くと急にしっくり来て、そんな気もしてくる。碧の心は、彼女の言葉に傾きかけていた。こじつけかもしれない、でも彼に都合の良い現実が(季節外れの転校生)の疑惑を増させるのだ。


 そして、碧のこの疑いは少し正しく少し外れていて。碧の憧れる彼女の言い分も正解ではないが、ほどほどに的を得ているものだった。それでも、本人達はそれを知らない。

 何故なら、(季節外れの転校生)の真実を知るものは、この世界(・・・・)には一人もいずに確かめようがないのだから。


 季節外れの転校生は、特異であり、正義であり、悪であり、陰謀であり、主人公であり、物語の主要人物になり得る特別な存在で。彼はトランプで言うジョーカーであり、誰もピエロの仮面の下の本性を見ない。

 きっと、この世界が誰かの作る物語ならば(季節外れの転校生)ほど魅力的な主人公はいないのだ。



 碧達のグループの試験は、一番最後だ。碧にとってはそれさえも疑いの種であり、何かあっても処理に困らないように一番最後にされているんじゃないかと思う。そして、碧は知らないことだがその考えは見事に当たっていた。


 予定の時間、プリントに書いてあった通り実技フィールド1教室の前に五人は辿り着いた。坂上と阿部の顔には不満がありありと滲んでいて二人こそこそと話している。細川はいつものようにすまし顔で、碧もいつものように所帯なさげにそわそわして、放送での試験官の入室合図を待っている。彼は、緊張した様子もなく明後日の方向を向いていた。

 四方白い壁で覆われた空間にカメラがいくつも並び、中には誰もいない。試験官は、カメラの向こうにいるようで、声はスピーカーから聞こえた。



『それでは、君達にはこれから現れる影鬼の虚像と戦ってもらう』


 本物の影鬼ではないからと言って手を抜くことはないように。傷にはならないが痛いからね。影鬼のクラスはⅠ‐2だ。五人協力して検討を祈る。


 それがこのグループ以外にかけられた言葉で、だが、彼のいるこのグループだけは違った。



『検討を祈る』



 呆気ないほど短い言葉で放送は切れ、五人の目の前に黒い影が出現した。少しずつ濃くなるそれは徐々に四足歩行の動物の形作っていく。



「動物? じゃあ、Ⅱクラスか? おい、例年試験に出るのはⅠクラスだって言ってたよな?」


「ああ、でも五人制になったからクラスを上げたのかもしれない。……どうする?」



 落ちこぼれ二人に足を引っ張られないよう、それでも圧倒的実力を誇る細川に遅れを取らぬよう前方で構えていた二人は想定外の強敵に怯む。



「でも、本物じゃないなら多少無理しても大丈夫だろ。作戦通り行くぞ」


「わかった」



 他三人になんの説明もなく行うと言い切った二人は、そんなことを悪びれもせずに前だけ向いていて。碧と彼は訝しげに彼らを見、細川は知らぬ存ぜぬと涼しい顔をしている。


 それから坂上と阿部が声をあげたのはすぐのことだった。


 目の前の黒い影は、どう考えても現実にいない動物の形をしているのだ。黒い影に、この世界とは違う定義の質量・体積が出来たとき、それは白いトラを現し、それだけでも学生が相手をするレベルをはるかに凌駕しているのに、その尻には尾が二つ付いている。



「げ、幻獣!? 嘘だろ。っ、すいません。きっと間違ってます。俺達に幻獣なんて?あ゛ぁっ」


「え」



 後ろの碧が、影鬼の実体をまだ掴めていないうちに前に立っていた阿部が真横に飛んでいった。壁にぶつかり、気を失ってるのを見ても坂上と碧は、動けずにそれを見ているだけ。意味の無い一文字が坂上の口からこぼれ、二人は恐怖で口と足が引きつり動けない。


 幻獣はⅡランクの上位に位置する影鬼だ。ライセンスを持ったエクトでも五人では倒せない。


 明らかにおかしい緊急事態。何故、試験官は止めない? 現れない? 坂上にはそんな単純な考えさえ思い付かずに、目の前にトラの足を見て、視界が横にぶれた。



「阿部君、坂上君!! せ、先生!!おかしいです。こんなの!!」



 また倒された同級生を目前に碧は必死にカメラに向かって助けを求める。次に視界に入ったのが外見のうるさい彼だったらしく、トラの狙いは完全に彼に定まっていた。弱者の碧には人を助けるなんて選択肢思いも付かず、頭には警報が鳴り続けていて、もしかして自分は死んでしまうのではないかとも思った。


 そんな中、彼が試験場から出ようとしたのは殆どが本能によるものだ。基本的に心優しい彼が人を置いて逃げるはずがない。直感で自分以外の二人(・・)が強いと知っていたから、だから弱者の自分は己の身を守る事に専念する。


 出口を目指す碧はこの時初めて後ろを振り返った。今まで、意識が前にしか向いていなかったのだ。



 彼女と目があった。



 碧が必死に逃げようとしているにも関わらず、彼女は全く焦りもせずに彼とトラの行く末をじっくり見守っていた。碧と目が合うと、彼女は何も言わず目線をまた元に戻す。まるで、お前も見ていけば? と言わんばかりのその仕草に、やっとそれ(・・)に気付き、碧は少し安心した。


 これは事故ではなく、彼のために故意に起こしたものだ。そうでなければ憧れの彼女がこんなに達観して動かないはずもないと思う。巻き込まれた自分と彼等二人は気の毒だが、学校がそれを許したのから何も言えない。


 碧は逃げ出したい足を止めて、震えながらも事の顛末を見守る事にした。そうでないと、割に合わない。


 碧は、もう彼の実力を疑っておらず、ただ世紀の瞬間を迎えた英雄を見るその他大勢の一人の如く彼を見つめた。


 そして、二人の視線の先には構えてもいずにただ突っ立っている彼がいる。初めて影鬼を見た、とばかりに驚いている姿は碧が気を取り直した時にはもういずに、今は何とも言えない様子で牙を剥き出しにして威嚇するトラと向き合っている。

 前足を床に擦り、姿勢を低くして今にも襲いかかろうとするトラに彼はどうするのか。碧が見た限り、彼はまだ強そうに見えない。

 緊張した碧に、前にいる彼の表情は見えない。



「俺、犬派なんだけど。まあ、この俺様は猫派だがな!ふははは!!」


 ん?


 幻聴が聞こえたような気がした。キョトンとする碧は、自分の耳を疑い、隣の彼女を見る。


 お?


 見たことのない彼女の顔だ。



「おい、にゃんこ。なんで尻尾が二本あるんだ? もしかしてへブッ!! 」



 あれ?

 また、幻聴が……


 トラが動いた。一瞬で彼の前に近づき、阿部と坂上同様に大きな腕に吹っ飛ばす。ただ、違うのは威力の大きさ。碧が息を飲む間もなく激突した壁は大きく抉れひび割れている。抵抗した様子もなく彼は壊れた瓦礫に埋もれた。


 瞬殺。


 (季節外れの転校生)がそんな弱い筈がない。季節外れの転校生は、日常に、嵐を運ぶ予兆であり原因であり、嵐そのもので。必然的に絶対的力が備わっているはずだ。



「えっ、どういうこと?」



 彼が瞬殺でやられるなんて。そんなの、あり得ない。

 だって、じゃあこの試験の意味は?


 彼女の驚愕を予想してまたもや、彼女の顔を覗くが次はしらけた顔になっていて。そこに、驚きはない。




 ここで物語を盛り上げるなら、碧を次のトラの標的にでもすればいい。碧の絶体絶命のピンチの時に復活なんて、まさに格好いい主人公だ。されども、彼はジョーカー(季節外れの転校生)。そんな物語的空気を読む真似をしない。



「なんだよ。話している最中に猫パンチなんて」



 何事もなかったように瓦礫の中から現れた彼は、不服そうな顔をしている。よく見れば制服はコンクリートの破片で白く汚れているものの怪我という怪我はなく、けろっとしていて。自分を飛ばした百発必殺の攻撃を猫パンチと可愛く言い換えていた。


 大丈夫?なんてありきたりな言葉は、出てこない。ただ、ただ、彼は特別だからと納得して、何故コンクリートをも砕く一撃で怪我をしていないんだ、なんて馬鹿らしいことも聞く気にはなれなかった。

 彼をすっ飛ばして、静かになっていたトラは起き上がった彼を見てまた恐ろしく鋭い牙を見せつける。ぐるるっと低く呻いてから、巨体でありながら子猫のようにしなやかにトラは動いた。


 先程と同じような体勢で飛び出したにも関わらず、トラは彼を騙すためにフェイントを入れる。トラも彼がけろりとしているのを見て、呑気にいられるほど阿呆ではない。碧には残像しか見えないそれも、彼の右左を行き来してから、一瞬消えてなくなり、後ろにいた碧の眼前にトラの尾が現れる。


 トラは、目にも見えない速さで上に飛び上がり、彼の背後にまわったのだ。


 彼には、そのトラの動きが見えないように微動だにせず(フェイントを入れている際にも無言で立っているだけだったが)、トラにとっても良い(まと)である。振り上がる前足に前と同じ攻撃だと錯覚しそうになるが、違う。


 何故だろうか。これは殺す為の攻撃だと碧には分かった。付きだした鋭い爪と威力と何かが、今までとレベルが違って恐ろしいと本能で悟ったのだ。これは、ヤバい、いくらなんでも彼は無事ではないだろう。ほぼ100%、これは何かの陰謀だと確信しても安否を疑ってしまう。

 碧の瞼の裏に彼がけろり頭から血を流して倒れている姿が映る。寧ろ、頭蓋骨が割れ脳漿が飛び出していないだけ碧の潜在意識に彼の不気味な強さが埋め込まれていると褒めるべきで、それはほぼ確実の未来予想図だった。



 彼でなければ。



 怖くて目を背けたかった。彼女を見て、本当に大丈夫なのか尋ねたかった。それでも、トラのたいそうな攻撃が、碧のちっぽけな動きより早かったのだ。



 音が響く。重い音だ。何か重量のある物がそれより遥かに大きな質量にぶつかる音。そう、それは重い鉄球が地面を叩くような。全生物を乗せる惑星に、人間の計りで作った鉄の球をぶつけるような意味の無い音。



 無論、彼がこの惑星のプレートだ。



 彼は頭を怪我することもなく、表情を変えることもなく、吹っ飛ばされることもなく、猛スピードでやってくる必殺に防御することもなく(・・・・・・・・・)、そこにいた。


 何にもなかったように、ただ立っている。

 その異常さが言葉で伝わるだろうか。


 慌てたトラは後ろに飛び上がり、威嚇を忘れ、茫然としている。



「よし、次はこっちから行くぞ。エンドはまだ使えないけど、触れるってことは物理的にやれるってことだし。にゃんこには悪いけど倒しちゃうからな」



 彼は、陽気にそう言って初めて直立不動を止め、左足を後ろに下げる。


 これでは、うさぎとライオンだ。いや、実際にいるのは人間とトラ。立場が逆転して、これではトラが遊び殺されてしまう。先の彼を見た人なら誰しもそう思った筈だ。

 そして、彼が姿勢を傾けたとき音沙汰の無かったスピーカーから焦ったような声が流れてきた。


『し、試験は終了だ。何もするな。動くな。わしの可愛いペットに攻撃するな。いいか。動くなよ。小林晴、もし一歩でも動いたら退学だから! 』


「分かりました」


 聞こえる声は開始を告げた試験官とは違い、まだ若い声だ。ペットとは、まさかあのトラのことだろうかと碧が静かに驚いても、彼は素直に従って元の直立に戻る。元々、あまり乗り気ではなかったらしい。


 すると、トラの体が段々と透けていき消えていく。トラはそれでも、彼から目を離さず、下半身が消えてなくなったとき裂けた口を動かし話した。



「少年、確かに君の強さは神ってるよ。まさか、私の渾身の一撃が効かないとは思わなんだ」



「はあ!? 」



 Ⅲクラスの影鬼が話すのは知識だけでは知っている。でも、今まで、うんともすんとも言わず、獣の声しかあげなかったから驚いて碧はすっとんきょうな声を出してしまった。



「お前、喋れるんか。あと、『神ってる』より『鬼がかってる』の方がいい。俺と同じ髪した二次元嫁がそう言ってたから」


「ん?……うぅ、そ、そうか。二次元嫁とは何ぞやと聞きたいところだがタイムオーバーだ。また、会おう少年」


「え、何? なんでまた、会うの? てか、お前影鬼じゃないの? 」


「さらばじゃ……」



 トラが消え取り残される彼と碧と彼女。一番最初に沈黙を破ったのは彼女で、次に気を失った(・・・・・)のは碧だった。予想だにしていなかった彼女からの攻撃に振り向くこともできず、手刀を食らった碧は廻った視界の中、受け身も取れず床に倒れた。薄い意識の中で彼が彼女に苦言しているのが聞こえる。



「おい、止めろよ。……野蛮な愚民め!!……」


「しょうがないじゃない。どうせ記憶を消すんだし。さっさと意識飛ばしてもらった方が楽だわ」


「それでも、三条は友達たがら。手荒には扱うなよ」


「友達?あなたに?」


「友達、じゃないかなと思ってたんだけど……違うんかな。この高貴な俺様に友人などおるものか!!ふははははは!!!……」



 そんな事ない。僕も君と友達になりたい。薄れていく意識の中、もし碧が話せる状態にあったらそう叫んでいた。この時、初めて碧は独りぼっちでないと知ったのだ。僕の友達。初めての友達。友達予定だと思っていたらとっくに友達だった友達(季節外れの転校生)


 (季節外れの転校生)は、特異であり、正義であり、悪であり、陰謀であり、主人公であり、物語の主要人物になり得る特別な存在でありながら、それ以上に碧の友達となった。



 彼女は、呆れた顔をしながら部屋を出ていく。


「あんたはここで待機だから」


「了解」




 (季節外れの転校生)はトランプで言うジョーカーであり、誰もピエロの仮面の下の本性を見ない。

 (季節外れの転校生)は、多くを語らない。(季節外の転校生)は何らかの重大な秘密を抱え、それは物語の根幹に繋がる爆弾とイコールの存在と結ばれているのだ。


 (季節外れの転校生)の真実を知るものは、この世界(・・・・)に誰もいない。




 それでも、いいと思った。

 季節外れの転校生は、恐らく何かを隠している……


 だから、なんだ。

 例え、彼が






「あーあ、誰にも言えないよな。まさか俺が異世界で勇者やってましたなんて。そんで、右目に魔眼、左腕に魔神が封印されていますなんて絶対に言えない」





 ……この世界(・・・・)にも、(季節外れの転校生)の真実を知るものが一人出来た。そして、消させる筈の記憶が消されずに、意図せず真実を知ってしまった(弱者)が様々な騒動に巻き込まれてしまうのは必然のことである。




「それでも、(季節外れの転校生)は友達だから」











  季節外れの転校生は、何かを隠している……完






「はあ!?小林晴が異世界の勇者?」

「そう、そうなんだ」

「あんた、馬鹿だったっけ?」

「ち、違うよぉ。晴君がそう言ってたんだもん!」

「晴君? ああ、友達(笑)だからか。まあ、取り敢えず目を覚ましなさい」

「いたぁ!!なんてビンタするのぉ!!」

「あら?左の頬を差し出してもいいのよ?」

「目には目を、歯には歯をよ!!もし、細川さんが男ならやり返してたからね!!」

「ハンムラビ法典ね。知ってる? これはね、やられたらやり返せって法じゃないのよ。使い方が間違ってる」

「え、そうなんだ……」

「残念な頭ね。そんなんたがら異世界の勇者(笑)なんて、お花畑なこと言い出すのよ」

「それは、本当なんだって!!だいたい細川さんだってそんなに性格悪いとは思わなかったよ」

「まあ、酷い。これだから万年落ちこぼれのボッチは。僻まれる立場って大変だわ」

「僕はもうボッチじゃないし。……実のところ友達が一人もいないの自分じゃん 」

「よし、左の頬を出せ」

「うわぁぁぁ!!ごめんなさい。ごめんなさい。地雷踏んでごめんなさい」

「{笑(怒)}」




本当は彼が主人公のチート小説でしたが、時間の都合上モブ視点短編に変えました。無理矢理0章から一章を詰め込んで書いてあるので、意味不明な所も多々あるかな、と(^o^)/

因みに細川さんは、公欠の間、彼の前で鈴木花子と名乗っていました。

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